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虫の居所の悪い日もある。

絵を描く才能やセンスのあるなし、上手い下手は誰にでも平等に備わっているものではないけれど、”きっちり絵を仕上げる“ということは誰にでもできる。


迷い線だらけの下書きをきれいに清書する、消ゴムをちゃんとかける、なるべくはみ出さないように丁寧に塗る、絵の具や色えんぴつでつぶれた主線は描き起こす――

こういったことを心がけるだけで、仕上がった絵は1ランクも2ランクもアップするのである。


それはデジタルでも同じことで、なぐり描きレベルの線画をセピアやピンクで乗算かけてガウスでぼかしてなんとなく薄い色をエアブラシで乗せて(淡い、ではない。薄い、のである)味のある絵っぽい雰囲気を出してみたり、すっかすかの線画にバケツ塗りしてごりごりテクスチャをはっつけてオーバーレイかけまくってそれっぽいおしゃれっぽい感じにまとめてみたところで、所詮は“それっぽい”止まりなのである。


それで「すっげー!上手すぎる!」な絵を描く人はちゃんと描かせたらきっともっと上手くて、ラフに描いても完成しているだけの”何か“を持っているのに違いない(血の涙を流しながら)。


文章を書く上でも似たようなことは言えるのだろう。こむるも、きちんと文章の仕上げられる人間になりたいものである(全然なれていない、反省)。



 泣いて寝てを繰り返し、次の日は一日侍女さんたちに心配されながら毛布をかぶって過ごし、夜はアルスにくっついてお腹にぐりぐりと頭をこすりつけ、休まず工房に行こうかというところまで浮上して翌朝。



 工房に一歩足を踏み入れたとたん、クレア様教のお姉さんがたに、拉致されるように部屋の隅に連れていかれた。


「サキちゃん! クレア様が、クレア様が……!」


「クレア様、おとといからずっと悲しんでらっしゃるの、アルスさんにふ――振られ、たって……」


 そこには、身も捩れんばかりに嘆き悲しむお姉さんがた。


「最近アルスさんがパーティーを組んでる女の子が相手だって、嘘に決まってるわよね」


 ぴくりとサキの肩が動いた。


「きっとアルスさん、騙されてるのよ」


 冒険者のお姉さんが息巻いている。


「わたし、その子ギルドで見たことあるけど、ちょっとかわいいだけでクレア様とは比べものにもならなかったわ。それに、あの子ったら何人もきれいげな男のひとを取り巻きみたいにぞろぞろ引き連れて、はしたないったら――」


 そうだそうだと、冒険者をしているほかのお姉さんたちが声をそろえる。


「アルスさんの目を、わたしたちで覚まさせてあげないと!」


 考えてみれば、おととい工房を出るときにお姉さんがたに呼び止められたのがケチのつき始めだった、――のかもしれない。

 おかげで()()()()()()にクレアがべたべた引っ付こうとする場面に遭遇するし、子供との約束なんて自分の魅力でどうとでもなると言わんばかりに舐めた態度をとられるし。


「もちろん、サキちゃんも協力してくれるわよね! ほらアルスさん、サキちゃんの説得なら聞いてくれると思うし」


「サキちゃんだって、アルスさんにはクレア様のほうがお似合いだっておも――」


 サキから滲み出る重々しい雰囲気に、お姉さんがたは眉をひそめる。


「……サキちゃん?」


「わたしの前であのお姉さんの話題を口にしないで」


 その瞬間、工房の壁際にいくつも山になって置かれていた石が全て、まるで遮光瓶のような透き通った茶色に染まる。


「ひっ!?」


「きゃあっ!」


「なに、なんなの!?」


 石に魔力を込める作業をしていたアルバイトのお兄さんやお姉さんたちは悲鳴をあげ、クレア様教のお姉さんがたは、一瞬解放されたサキの魔力に気圧され後ずさった。


「絶対に、口にしないで」


 据わった目でお姉さんがたを見つめ、無表情に繰り返す。

 今勇者のお姉さんに関することなんて聞きたくない。


「サ……サキちゃん――?」


 ――ああそうか、きっとクレア様教のお姉さんたちがサキとアルスを引き離そうとしたりするから、“あんなの”を呼び寄せてしまったのだ、つまり、おとといのことはお姉さんたちが悪い、お姉さんたちがサキを呼び止めなければ、少なくともアルスと楽しく過ごすはずの日に、あんなひどい話を聞かされることはなかったはずだ、だから、結局はお姉さんたちの信仰するクレアが悪い――


「ねえ、お姉さんたち」


「な、なに――」


「どうして、いつもわたしが協力するのが当たり前みたいに思ってるの?」


「――え、だって……」


 お姉さんがたは質問の意味がわからない、とばかりに首をかしげた。……ああ、いらいらする。


「どうして、クレア様がアルスを好きなんだからアルスもクレア様が()()()()()()()だなんて決めつけるの?」


「だ、だって、クレア様は……」


「クレア様はあんなに素敵なお方なんだからそれが当たり前って? ――ふざけないで」


「サキちゃん、どうしたの――なんか今日、ちょっと、こわいよ」


 誰のせいだと思っているんだと、キッとにらみつける。


 頭では完全にこじつけの八つ当たりだと理解してはいるのだが、日頃クレアへの賛美を聞かされ、隙あらばアルスとの仲を取り持つようにほのめかしてくるお姉さんがたに、けっこうストレスがたまっていたのかもしれない。


「アルスは、お姉さんたちが好き勝手できるクレア様のためのアクセサリーじゃないの。勘違いしないでちょうだい」


 普段のサキからは考えられないような剣幕に、お姉さんがたは唖然と目を見開いている。


「そもそも、お姉さんたちが大好きな素晴らしいクレア様は、一から十までお膳立てしてもらわないと好きな人ひとりどうにもならないくらいに情けない人なの?」


 お姉さんがたは何かに気づいたようにはっと息を飲んだ。


「ああ、なんてこと……わたしたち、クレア様をお支えするつもりが、逆にクレア様を小さな存在にしていたというの――?」


「そんな、だってわたしたち、クレア様のために」


「でも――」


 ため息をひとつついて、サキは苦悩するお姉さんがたを尻目に奥の部屋に向かった。


 ――まあ、たとえここからクレアが奮起したとしても、アルスを渡すわけがあるはずもないのだけど。






 奥では職人のおじさんたちが呆れ顔で迎えてくれた。


「おいおい、サキ坊。こっちにおいてある石まで魔石になっちまったぞ」


 見ると、試作用に置いてある、魔石用の石たちがきらきらと琥珀色の輝きを放っていた。けっこうな純度である。


「あー……ごめんなさい、ちょっと、“感情の抑制に失敗”しちゃったの」


「感情の抑制って……ずいぶん難しい言葉を知ってんだなあ、嬢ちゃんは」


 定位置に腰かけ、今日の予定を確認する。といっても、ここ最近はもっぱらダンス用のブレスレットを作るか、すでにお買い上げされたブレスレットに、複数同じものがある場で発動させるときには、お互い干渉しあって出力を抑える機能を付け加える作業ばかりなのだが。


 ブレスレットをお買い上げしていったお客さんたちに連絡を取って持ってきてもらい、あるいはこちらからお屋敷に出向き(これは主に職人頭のおじさんが担当)としているうちに、話を聞き付けたほかのお客さんのがちらほら自分から持ってきてくれるようになって、だいぶ作業が捗るようになった。


「どうせあれだろ、あの連中――なんつったっけ、クレアとかいう冒険者の……」


 ぱき、と音を立ててサキが作っていた魔石が真っ黒に見えるほど濃い琥珀色に変化した。


「その名前、今日は聞きたくないの」


「お、おう……すまねぇな……」


 ひきつった顔でおじさんたちは何事かと目配せし合い、サキは失敗した魔石を脇に置き、改めて魔力を凝縮し始める。


「あ、あーその、なんだ。この調子ならブレスレットの調整も次の夜会に間に合いそうで何よりだよな」


 とりあえず話題を変えようと、サキの向かいに座るおじさんが焦ったように切り出した。これ幸いと他のおじさんたちもその話題に乗っかる。


「そ、そうだよな! 王城で開かれるってのにうちの商品で粗相を起こすわけにもいかねえしな!」


「そうそう、なんたって勇者様のおひろめ――」


 ぴしぴしっとサキの手の中の魔石が黒く染まり、針山のように六角柱の結晶が伸びた。


「……今日はなんか調子が悪いわ」


 眉根に思いっきりしわをよせ、サキはぽつりと呟く。


「ま、まあそんな日もあるだろうさ――」


 サキはできあがってしまった超高純度のふたつの魔石を“収納”した。いろいろと怨念が渦巻いていそうな石ではあるが、相当な値が付くのには違いない。家に帰ったら神さまからもらった宝箱にしまっておこうと思った。

 宝箱を魔法で“収納”するときに一応中を詳しく確認したら、山のような金貨や宝石の下からお高そうな魔石がごろごろ出てきたのだ。それと一緒にしておくのがよさそうだ。


 勇者の召喚を止めたいという、いわばわがままをきいてもらうためにいろいろ無理してもらっていることだし、今度宝箱ごとナタンに渡していいように使ってもらうのがいいかもしれない。


(今晩ナタンとアルスに相談してみよう)


「あ、また黒くなっちゃった」


 下手すると家一軒買ってお釣りが来そうなくらいの魔石を、ぽんぽん作っては失敗したと無造作に収納魔法でしまっていくサキにおじさんたちは恐れおののき、触らぬ神に祟りなしと首をすくめるのだった。

ブラック幼女降臨




チヂミ……っぽいもの……?


昔、これを弁当に入れないと娘に泣かれていた。実は、本物のチヂミがどんなものなのかよく知らない。



材料:

・ニンジン 3分の1本

・ニラ 半束

・小麦粉 半カップくらい

・水

・塩 ひとつまみ

・サラダ油(なくても可)

・ゴマ油




作り方:


・ニンジンは細切り~千切りに、ニラはニンジンとだいたい長さをそろえてざく切り。


・小麦粉、塩をボウルに入れ、水を加えて天ぷらの衣くらいのゆるさに溶く。


・野菜を入れて混ぜ合わせる。


・中~弱火で熱して油をひいたフライパンに生地を薄めに流し入れ、端が乾いてぱりっとなったらひっくり返し、野菜に火が通ったら小さじ1~大さじ1程度のゴマ油をフライパンの底に流し入れ揚げ焼きの要領で両面かりっとさせる。


・餃子のたれ、ぽん酢などをかけて食べる。




メモ:


・食べやすい大きさにキッチンばさみや包丁などで切って出すのもよい。


・お弁当に入れるときは、2~3センチ巾に切ってたれを少々かけたものをくるくる巻いて、かわいげなピックを刺して止めるなどすればちょっとおされに……所詮はニラか。


・しょうゆ、ゴマ油、糸唐辛子や輪切り唐辛子、ゴマなどを適当にあわせるとなんかチヂミっぽい(とこむるが勝手に思っている)。




このしょぼいチヂミをバージョンアップさせる方法:


・玉ねぎの薄切りを加える。


・豚肉の薄切りを加える。


・生地に卵やふくらし粉を加える。


・小麦粉なんてしょぼいことを言わずにお好み焼き粉に卵と水を入れて作る。


・むしろちゃんとチヂミのもとを買って袋の作り方通りに作れよっていう。

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