EP 5
ステージ裏の絶対防衛戦! ジャミング・スライム強襲
「……馬鹿な。ルナミス帝国の全トラフィックを遮断したはずだぞ。なぜ、あの村の配信が帝国のメインストリームに流れている!?」
帝都・内務省の地下情報統括局。
冷徹な内務卿オルウェルは、壁一面のモニターをジャックするように表示された『ポポロ村ゲリラ配信』の映像を見て、モノクルにヒビが入るほど顔を歪めた。
「ほ、報告します! 奴ら、地下帝国ドンガンの『裏魔導回線』を経由して、ルナミスのサーバーに直接ハッキングを仕掛けています! 接続元が偽装されており、遮断できません!」
「……ドワーフの旧式回線を逆用したか。ゴルド商会のあの猫耳め、やりおる」
オルウェルはギリッと奥歯を噛み締めた。
このままでは「危険な反社村」というフェイクニュースが、極上のエンタメによって完全に上書きされてしまう。
「軍は動かせない。大義名分がない上、あの騎士道バカは『配信を止めるだけの出兵』など拒否するからな。……ならば、事故に見せかけるまでだ」
オルウェルは法執行ペンを叩きつけ、極秘の指令コードを入力した。
「天魔窟の深層から捕獲した『魔導妨害スライム』の群れを、ポポロ村の通信塔へ差し向けろ。……物理攻撃が一切効かない流体魔獣だ。あの村の料理人やウサギがいくら暴力を振るおうが、配信の電波ごと飲み込んでくれるわ」
◇ ◇ ◇
一方、ポポロ村・特設ライブステージ。
「ああっ!? ちょっと待って! 配信のビットレートが急激に落ちてる! 魔導波長にすっごいノイズが乗ってるよぉ!」
カメラとミキサーを担当していたキュララが、機材の異常に気付いて叫んだ。
「なんやて!? キュルリンはん、回線抜かれたんか!?」
「違うのじゃニャングル! 森の奥から、強力な電波妨害を放つ魔力の塊が、大量にこっちへ向かってきているのじゃ!」
キュルリンが指差した先。
夜の森の木々をなぎ倒しながら、半透明で巨大なゼリー状の魔獣——『ジャミング・スライム』の群れが、津波のようにステージ(通信塔)へと押し寄せていた。
「ヒィィッ! なにあれ気持ち悪いぃ!」
ステージ衣装(※新しいジャージ)に着替えたリーザが悲鳴を上げる。
「……チッ。オルウェルのクソメガネめ、小賢しいマネを」
リアンが舌打ちをして、腕を組んだ。
「奴ら、打撃も斬撃も全て吸収する流体だ。キャルルの蹴りも、俺の銃口剣の通常弾も通じねぇ。おまけに電波妨害を放ってるから、近づきすぎれば配信の機材が完全にイカれるぞ」
「そんなぁ……! じゃあ、どうすればいいの!?」
ルチアナが頭を抱える。
しかし、リアンは全く動じていなかった。ニヤリと笑い、ステージの脇で待機していた「裏方」たちに視線を向けたのだ。
「言っただろ。俺は今日、裏方だ。……おい、お前らの出番だぞ。物理が効かねぇなら、物理以外の『力』で焼き尽くせ」
「任せてください!! 正義の出番ですね!!」
リアンの声に応え、真っ先に飛び出したのは『紅蓮の戦乙女』ダイヤ・カギタだった。
彼女はクリムゾンアーマーをガチャガチャと鳴らしながら、魔法ポーチから巨大な筒状の兵器——『FGM148(対戦車ミサイル)』と、大量の『C4爆弾』を取り出した。
「スライムは物理攻撃を吸収しますが、極限の『熱量』と『爆風(衝撃波)』には耐えられないはずです! ……ただリアンさん! この爆薬とミサイルの弾薬費、後で絶対経費で落としてくださいね! 今月の食費がかかってるんです!!」
「わかったわかった、ルナキンの朝定食1ヶ月分奢ってやるから、さっさとぶっ放せ!」
「交渉成立です!! 行きますよぉぉ!!」
ダイヤのユニークスキル【ウェポンズマスター】が発動。最適解の起爆タイミングを計算し尽くした彼女は、迫り来るスライムの群れの中心へ向けて、ミサイルとC4を一斉に解き放った。
『バーニング・オーラ・エクスプロージョン!!』
ドゴォォォォォォォォォンッッ!!!
ポポロ村の夜空を焦がすような大爆発。物理的な弾丸ではなく、数千度の熱風と真空の衝撃波が、前衛のスライムたちを一瞬にして蒸発させる。
「おいおいおい! 俺様の出番を取るんじゃねぇぞ、人間の小娘!」
爆風の中から、巨大な両手斧を構えた竜人族・イグニスが空へと飛び上がった。
「見ろ! 配信のカメラ回ってんだろ!? 一億人の大観衆よ、俺様の極上の炎に酔いな!!」
見栄っ張りの竜戦士は、この防衛戦すらも自分のプロモーションだと勘違いして(あるいは理解した上で)ハイテンションだった。
彼は両手斧に限界まで炎と闘気を纏わせ、上空からスライムの群れに向かって急降下する。
『イグニス・ブレイク・大火炎!!』
ゴォォォォォォォッ!!
イグニスが着地した瞬間、竜人族特有の規格外の灼熱ブレスと闘気が嵐のように吹き荒れ、残っていたジャミング・スライムたちを跡形もなく灰へと変えていった。
「うおおおおっ! スライムが全滅したのじゃ!」
キュルリンが歓声を上げる。
「……ふぅ。これで電波妨害は完全にクリアだな」
リアンが満足げに頷く。
「ああっ! 大変でござる!! スライムの酸で、通信塔のメインケーブルが焼き切れてしまったでござるぅぅ!!」
中二病のギグワーカー・良樹が、切断された太いケーブルを抱えて半泣きになっていた。これでは電波妨害が消えても、映像をルナミスに送れない。
「「ええええっ!?」」
絶体絶命のトラブル。しかし、良樹の背後に控えていた巨大なジオ・リザード(始祖竜クロノ)が、やれやれとため息をついた。
「……騒ぐな、我が主よ。ただの断線だろう」
ロード(クロノ)の口元から、目に見えない『時間操作の極小ブレス』がフッと吐き出された。
シュルルルルッ……!
焼き切れたはずのケーブルの時間が『数分前』に巻き戻り、何事もなかったかのようにピタリと元通りに修復されたのだ。
「おおお! さすがは拙者の相棒、ロードでござる! 奇跡の自己修復機能!!」
「……だから、我は始祖竜だと何度言えば……まぁいい。さっさと始めろ」
疲れた顔で伏せるロード。
「……よし! 通信回復! ビットレート、100%で安定してます!」
キュララがカメラのレンズを、ステージの中央へと向けた。
邪魔者は全て消え去った。
最高の照明(炎の余韻)と、完璧な音響。
リアンは、マイクの前に立つ小さな背中に向かって、静かに声をかけた。
「舞台は整ったぜ。……さぁ、歌え。お前の歌で、一億人の目を覚まさせてこい」
極貧アイドル・リーザは、ギュッとマイクを握りしめ、かつてないほど真っ直ぐな瞳でカメラ(世界)を見据えたのである。




