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EP 11

「飲む太陽芋あまざけの誘惑と、哀しき神々の皿洗い」

カジノ・ポポロの狂騒から一夜明け、定休日を迎えたポポロ屋の厨房。

寸胴鍋からは、コトコトと優しい音が鳴り、とてつもなく甘く芳醇な香りが店内に漂っていた。

「くんくん……。なにこれぇ、リアン君。すっごく甘くていい匂い!」

キャルルが鼻をヒクヒクさせながら、鍋の中を覗き込んだ。

そこには、黄金色に輝くトロトロの液体が煮込まれている。

「『飲む太陽芋』だ」

リアンは木べらで鍋の底をゆっくりと混ぜながら答えた。

「ポポロ村の特産品である太陽芋を蒸して潰し、米麹こめこうじと合わせて発酵させた。砂糖は一切使ってないが、麹の力で芋の自然な甘みが限界まで引き出されてる。美味いぞ、飲んでみろ」

リアンはお玉ですくい、小さな湯呑みに注いで二人に渡した。

「わぁ〜! どれどれぇ……ふーふー」

ルナが湯呑みに息を吹きかけ、冷ましてから一口飲む。

「……んん〜っ! 美味しいぃ! お芋の甘さが口の中でとろけますぅ!」

「本当! すごく甘くてあったかい……! これなら何杯でもいけちゃいます!」

キャルルも目を輝かせて湯呑みを空にした。

麹の優しい甘さと太陽芋のコクが、疲れ切った胃腸を優しく包み込んでくれる、まさに飲む点滴だ。

しかし、その「健全なティータイム」を黙って見過ごすような連中ではないのが、この店の常連(ダメ神)たちである。

「ちょっとリアン〜! 私には? 私には無いの!?」

「そうよリアン君! 私もう限界! 喉がカラカラよぉ!」

カウンターの奥から、昼間からすっかり出来上がっている芋ジャージの創造神・ルチアナと、過労でやさぐれた不死鳥・フレアが空のジョッキをバンバンと叩いて要求してきた。

「お前らには、健全な甘酒は百年早い」

リアンは呆れたように息を吐き、カウンターの下から度数の高い『特製・芋酒』のボトルを取り出した。

「酒飲みには、こいつだ。飲む太陽芋に、芋酒を『2:1』の黄金比で割る……」

トクトクトク。

トロトロの甘い液体に、キリッとした芋酒が混ざり合い、大人の香りが立ち昇る。

「はいよ。特製・太陽芋カクテルだ」

「ひゃっほう!」

「待ってましたぁ!」

ルチアナとフレアはひったくるようにグラスを受け取り、一気に喉に流し込んだ。

「……あらぁ〜! イケるわぁ、これ! 芋酒のキツさが麹の甘さで消えて、無限に飲めちゃう!」

「美味しいぃ〜! 甘いのにしっかり酔えるなんて、最高じゃないの!」

二柱の女神はすっかり骨抜きになり、カウンターに突っ伏してだらしない笑顔を浮かべた。

「さらに、だ」

リアンはニヤリと笑い、今度は冷たく冷やした**『ロックバイソンのミルク』**を取り出した。

「こいつを加えれば、『特製・飲む太陽芋のミルク割り』が完成だ。まろやかさが段違いになる」

グラスの中で、黄金色の芋酒と純白のミルクが美しいグラデーションを描く。

それを一口飲んだキャルルとルナの頬が、ポッと桜色に染まった。

「あま〜い! ミルクのコクが合わさって、すっごく美味しいい!」

「ふわぁ〜……甘くて飲みやすいから、つい飲みすぎちゃって……ルナ、酔っちゃいますぅ♡」

ルナがとろんとした目で微笑み、キャルルもウサギの耳をだらんと下げて幸せそうにため息をついた。

店内は、甘い匂いと幸福な空気で満たされている。

◇ ◇ ◇

一方、その幸福な空間から一枚のドアを隔てた店の裏口(洗い場)。

そこには、極寒の現実ペナルティと戦う男たちの姿があった。

「よし、お前ら」

勝手口のドアがガチャリと開き、リアンが冷酷な目で洗い場を見下ろした。

「俺たちはこれから新作の試飲会(という名の宴会)をやる。お前らは油汚れ一つ残さないように、皿洗いをきっちりしとけよ。サボったら夕飯はキャベツの芯だけだ」

バタンッ!

無情にもドアが閉められ、洗い場には冷たい風が吹き抜けた。

「……ぐぬぬぬっ!!」

ピンクのエプロン姿でゴム手袋をはめたインテリヤクザ邪神・デュアダロスが、泡だらけの皿を握りしめてワナワナと震えた。

「ワシは……ワシは世界を二分した邪神だぞ……! なんでこんなところで、小僧の宴会のBGM代わりに皿を洗わなきゃならんのだ……ッ!!」

「文句言ってねぇで手ぇ動かせよ、オッサン。俺様なんか……」

その隣で、ダメージデニムにタンクトップ姿の狼王フェンリルが、ボロボロと涙を流しながらジョッキを磨いていた。

「は、鼻が……ルナの嬢ちゃんに突っ込まれた『和からし』のせいで、鼻の粘膜がまだ痛いんだが……! ツーンとして涙が止まらねぇ……ヒック……」

「お前ら、手が止まってるぞ! リアンに殺されたいのか!」

さらにその横では、一番の下っ端(竜人族のイグニス)が、必死にスポンジを泡立てながら二柱の神を急かしていた。

邪神、狼王、そして竜人。

最強クラスの男たちが、ポポロ屋の裏手で肩を並べて皿洗いに精を出す。

店内から聞こえる女神たちの楽しそうな笑い声が、彼らの心をさらに抉るのであった。

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