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EP 5

「カチコミ失敗と、極上スープの誘惑」

「二度と俺の料理を食わせんぞ」

リアンのその一言は、世界を滅ぼす魔法よりも絶大な威力を発揮した。

「い、いや、リアンよ……。我はまだ何もしていないぞ。ただの不慮の事故だ」

さっきまで黄金のブレスを吐きかけていた竜王デュークが、スッと構えを解き、冷や汗を流しながら両手を上げた。

豚骨ラーメンの探求者である彼にとって、リアンの店を「出禁」になることなど、死よりも恐ろしい罰である。

一方、いきなり水を差されたインテリヤクザ邪神デュアダロスは、トカレフを構えたまま眉間に皺を寄せた。

「あぁん? 何だ、この優男は? 極道のワシに向かって……」

凄もうとしたデュアダロスだったが、その言葉は最後まで続かなかった。

ピクッ、ピクッ。

彼の整った鼻腔が、微かに漂ってきた『暴力的なまでの旨味の香り』を捉えたのだ。

「……ん? 何だ、この匂いは……?」

デュアダロスの視線が、リアンの背後にある厨房の寸胴鍋へと吸い寄せられる。

「これか?」

リアンは静かに鍋の蓋を開けた。

フワァァァァァ……ッ!!

立ち昇る湯気と共に、店内に極上の香りが爆発した。

それは、今朝からじっくりと弱火で煮込まれていた**『ロックバイソンのすね肉と、ポポロ村産・朝採れ野菜の極上ポトフ風スープ』**だった。

透き通った黄金色のスープの表面には、バイソンから溶け出した甘い脂がキラキラと輝き、大ぶりのキャベツと太陽芋がホロホロに崩れかけている。

「……ッ!!」

デュアダロスの瞳孔がガン開きになった。

長年、薄暗い地下ダンジョンで、フレアが適当に買ってくる「冷めたコンビニ弁当」や「乾き物」しか食べてこなかった邪神。しかも最近はそれすら途絶え、完全な空腹状態である。

そんな彼の胃袋に、この「暴力的なまでに優しく、温かい手作りの香り」は、あまりにも効きすぎた。

ギュルルルルルルルルゥゥゥゥゥゥ!!

邪神の腹から、地鳴りのような、情けない空腹の音が鳴り響いた。

「そ、それを……それを食わせろ!」

デュアダロスはトカレフを持つ手を震わせ、よだれを飲み込みながら叫んだ。

「ワシは……ワシはずっと何にも食べてねぇんだ! テレビのグルメ番組を見ては、ずっと腹を空かせてたんじゃ!!」

極道の威厳もクソもない、ただの「腹ペコのおっさん」の悲痛な叫びだった。

しかし、リアンは冷たい視線を崩さない。

彼は寸胴鍋の火を弱め、お玉で黄金のスープをゆっくりとかき混ぜながら、デュアダロスを見据えた。

「……食わせろ?」

リアンの声のトーンが、さらに一段低くなる。

「随分と上からの頼みだな。……ウチは炊き出し会場じゃねぇんだよ」

「な、何だと……!?」

「客として俺の飯が食いたきゃ、その物騒なオモチャ(トカレフ)をしまえ。そして、そこのカウンターに座って『ご注文をお願いします』と丁寧に言え。……金は持ってるんだろうな?」

「ぐぬぬぬ……!!」

デュアダロスはギリギリと歯を食いしばった。

インテリヤクザとしてのプライドが「そんな屈辱的な真似ができるか!」と叫んでいる。

しかし、目の前でコトコトと煮込まれるバイソンの肉塊と、黄金のスープの匂いが、「頼むから座って注文してくれ!」と胃袋から全会一致の可決を下していた。

「……チッ」

数秒の葛藤の末。

デュアダロスは、忌々しそうに舌打ちをすると、トカレフを懐にしまった。

そして、アルマーニのスーツの裾をバサッと翻し、カウンターの丸椅子に(少し遠慮がちに)ちょこんと座った。

「……お、ご注文をお願いしやす……。その、スープ……くだせぇ」

「よろしい」

リアンはニヤリと口角を上げ、深皿に熱々の極上スープをたっぷりと注いだ。

「お待ちどう。……それと、これはサービスだ」

コトッ。

スープの横に添えられたのは、こんがりと焼き目のついた『羽付きの焼きチーズ』と、グラスに注がれた『重厚な赤ワイン』だった。

「……!!」

デュアダロスが息を呑む。

それは彼が地下ダンジョンでずっと夢見ていた、ハードボイルドな理想のメニューそのものだった。

「さぁ、冷めないうちに食え。……ただし、ツケは利かないからな」

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