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仁義の死闘 ~Mafia War~  作者: レイ・R・チャールズ
ベトナム帰還兵 死闘編
10/44

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「皆さん、このたび大統領選挙に立候補いたしました、オリバー・クルードです」

「オリバー知事です。オリバー候補に清き一票を」

 ここオクラホマ州に、大物政治家オリバー・クルードが選挙活動に来ていた。

 以前から次期大統領候補と周囲からの期待も大きく、最も大統領に近いと有力視されている。

 

 地元後援会の有力者との会食でのこと。

「先生、どうぞこちらをお納め下さい」

 イタリアンマフィア会長、トーマス・スカレッタがオリバーに資金を納める。

「いやぁ、いつもすまんね」

「ところで、先生、今年こそは……の件、どうでしょうか」

「いや、今年は経済政策もあるし、支持率を取っておきたいんだ」

「それでは、尚更アメリカ大統領になっていただきませんと」

 トーマスが言うと

「アハハハ。しかし、大統領の椅子というのは、どうも居心地が良いらしくてね。なかなかどいてくれないんだよ。ワハハハハ!」

 快活に笑い、ふと小声で問いかけてくる。

「そんなことより、君の方こそ、そろそろアメリカ裏社会に君臨してはどうかと思うがね」

「私がですか?」

 思ってもみないことを言われ、トーマスは非常に驚いた。

「そうだよ。切った張ったの世界を牛耳るには、このあたりで方向転換してみては…」

「…と言いますと?」

 世の中、きれいごとだけでは済まないもの。政治家などその最たるものだ。かくいう私とて、君という後援者がいるから、大物政治家などと名乗っていられるんだ。君とてファミリーの会長と呼ばれてはいても、裏社会だけでは日の当たる機会は得られん。清濁あわせ持つ者が生き残れるのだ。

「例えば、政治家に立候補するとか。あんたならどの州でも当選間違いなしだよ…そう思わんかね、トニー君」

 トーマスの隣に控えていた、トニー・ヴェセルティは突然話をふられて返事に窮する。

「いえ、私はそういった学は、全くありせんので…」

 心もとない返事に、オリバーは苦笑いだ。

「なんだ、君がそんなじゃ困るな。君達、もう少し時局というものを理解せんといかんな」

 そう言うと、タバコを取り出し、ゆっくりと煙をはく。

「実はな、警察が君達に目をつけていてな……わしの力で抑えられるか…心配なんだよ」

 

 その夜、ホテルで開かれた後援会パーティーは大盛況だった。

 司会者が興奮気味にスピーチする。

「オリバー先生もトーマス会長も、今やアメリカ合衆国を支える人物になっておられます。そして、オリバー先生はリンカーン大統領のように歴代大統領になられようとしています」

「バカ野郎! 暗殺されるみたいに言うな!」

 ヤジが飛ばされ、会場がどっと沸く。

「トニーさん、ようこそお越しいただきました。本当に身に余る光栄でございます」

 そっとトニーのグラスに酒を注ぐのは、ホテルのオーナーだ。

「スカレッタファミリーの要は、あなただ。よろしくお願いします」

 そう言うと、乾杯、とグラスをかかげ美味そうに酒を飲む。

 トニーも乾杯、とグラスをかかげる。

「はい、命に代えてでも」

 

 

「これを見てくれないか」

 トーマスが娘婿のフランクリン・ベイトマンに設計図を見せる。

 今夜は結婚式以来、久しぶりに娘夫婦を招いて夕食を食べたのだ。

「これは、病院ですか……ベイトマン病院?!」

 フランクリンは何気に見ていたが、建物の名称を見て驚いてしまった。

 トーマスは満足そうにタバコを吸っている。

「そうだ。土地は事務所の近くだ。私達が君の力になろうじゃないか」

 フランクリンはただ驚くばかりだが、妻ジューンは嬉しそうだった。

 

 その夜遅く、バーでフランクリンとマイケル・レオーネが飲んでいた。

 マイケルは常にトーマスの秘書のように側で控えている男で、見た目のエリートサラリーマン風からは想像できないがマフィアの幹部だ。

「しかし、驚きましたね、病院の件」

 設計図を見てから、頭の中はそのことでいっぱいだと(つぶや)く。

「あぁ、あれには訳があるんです。会長はあなたが大学で微妙な立場になっている、と知りましてね。本来なら、この春助教授になるはずだった…と」

「ジューンが話したんですか?」

「いえ、違います。会長は初めから医者であるあなたのことを、ずいぶん気にかけていたんですよ」

 マイケルが一口飲み、フランクリンは思案する。

「…そうでしたか」

「大学はどうですか?」

 マイケルの問いかけに、苦笑いを浮かべる。

「確かに、ジューンとの結婚で先輩や教授達の私を見る目が変わりましたよ。病院でも、私を辞めさせないとマフィア関係の患者が増える、と言った教授がいたらしいです」

「ひどいですね…」

「ずいぶんと物分かりがいいんですね。大学病院という世界は、他者を引きずり下ろすのが当然なんです。でも、一般の会社だって同じですよね。普段はお人好しのパパが、会社では他者を押しのけようとするんだ」

 今現在の自分の状況を思い返すと、グイッと酒を飲む。そして、言葉を続ける。

「組織に組み込まれた人間てのは、手段を選ばない暴力ですよ。人間って、恐ろしい生き物ですね」

 

 バーを出て組の車に乗ろうとした瞬間

「危ないっ!」

 突然前から車がバックしてきて、危うく二人は()かれそうになった。

「てめえっ!」

 運転席の組員が怒鳴り、二人もその車を振り返る。

「! ジーナちゃん!」

 後部座席に乗っていた女が、トーマス会長の次女ジーナに似ていたのだ。

 車はすぐ停止すると、前方に走り去ってしまう。

「あれはジーナちゃんじゃないか…長いこと家に帰ってないと聞いたが…」

「おい! 追え!」

 マイケルがすぐさま組員に指示を出し、その車を追いかける。

 まもなく車は駐車場に止まり、ディスコクラブに数名の男女が入っていった。

 マイケルとフランクリンも入っていく。

 薄暗い照明と大音量の音楽が響く店内は、踊る若い男女でいっぱいだ。しかし、よく見るとボックス席や壁際に倒れこんでいる者がいる。店内は独特の匂いが充満していた。

「これは…大麻ですね。ベトナムから来た覚醒剤だ」

 フランクリンが鼻を腕で抑えながら話す。

 ジーナを探していると、ボックス席に5人の男女がだらーんともたれかかっているのを見つけた。皆目が(うつ)ろだ。その中にジーナがいた。隣の若者が吸った大麻を、貰って吸っている。

 マイケルとフランクリンは近寄って声をかける。

「お嬢さん、帰りますよ」

「ジーナちゃん、お母さん達が心配してますよ」

 どこかぼんやりした様子だったが、ジーナの目は二人を認識した。

 ところが、プイッと顔を背ける。

「さぁ、帰りましょう」

 マイケルが手を伸ばすが、腕を振り払い抵抗する。

「いやー!」

「こらぁ! お前なに勝手に俺の女に手出してんだ!」

 ボックス席のジャンキーと化した男が、マイケルに殴りかかってくる。難なくかわすと、腹にパンチを当てる。男はあっけなく床に倒れて動けない。

「なんだ! てめえ!」

 仲間のジャンキーも殴りかかってきたが、腕をつかんで勢いのままボックス席から放り出した。騒ぎに驚いた店員が警察に通報しようとしたが、素早く電話を取り上げ投げ捨てる。その隙に、フランクリンはジーナを抱きかかえるようにして外へ連れ出した。

 

 ジーナを近くのホテルに連れてきたのは、すでに深夜だった。

 とりあえずシャワーを浴びてもらい、その間にマイケルは姐さんに電話を入れる。

「あんた、お母ちゃんに言うたんやろ」

 電話を終えると、ジーナがバスローブ姿で立っていた。どうやらちゃんと立てるぐらいには薬が抜けたようだ。

「すぐに、姐さんが来られます」

 マイケルが部屋から出て行こうとすると、ジーナが呼び止める。

「待って! うち、あんたに聞きたい事があるんや」

「なんですか?」

「……あんた…お父ちゃんの命令で、ミチ殺したんやろ」

 ジーナの言葉は明瞭で、じっと見つめる目は真剣だった。だが、マイケルは感情を押し隠すことに慣れていた。

「お嬢さん……いきなり何を言い出すんですか」

 ため息をつくと、少し苦笑いする。

 そんなマイケルの態度に、ジーナは納得できず食い下がる。

「前にあんた…ミチは故郷に帰った…言うてたけど、やっぱり殺したんやろ!」

「変なこと言わないでください!」

 さっさと出て行こうとするマイケルの前に、ジーナが立ちはだかる。

「待って!」

 いきなりバスローブを脱ぎ捨てると、裸のまま抱きついてきた。

「マイケルさん、うちのこと抱いて……」

 マイケルは驚いたが、まったく相手にする気にもなれず、冷静に引き剥がす。

「お嬢さん、なに言ってるんですか」

「うちのこと抱いてくれへんのなら、警察にミチのことバラす」

 本当はジーナにとって大事なのはマイケルだった。マイケルの気を引くために、舎弟のミチと付き合ったが、そんなことしてもマイケルは自分を見てくれない。どうすればいいのか…

「いいですよ。バラしなさい。でも、一度くらいお母さん達のこと考えて、まともな姿を見せてあげなさい」

 真っ当な言葉は、ある意味冷たい言葉だった。

「うちはまともや…あんたのこと好きやから抱いてって言うてるのに、なんで悪いんよ!」

 なおも抱きついてくるジーナを引き離し、振りほどく。

「お嬢さん、あんたおかしいよ!」

 そう言い捨てて部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

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