ヘイダール伯爵の帰還 26
新年おめでとうございます。
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惑星ガンダルフのプレセル大陸の中央に位置する山脈で、アルネ・ユウキはさてどうしたものかと困っているのがヘイダール伯爵には感じられた。
ここに来る間に惑星ガンダルフの現在の状況についてアルネ・ユウキから話を聞いていた。
ソラン公国の機動兵器や母艦を攻撃するとしても、彼らを破壊し尽しては後々面倒なことになる。
今現在リドス連邦王国とガンダルフのプレセル大陸の諸国連盟はソラン公国との和平会談をしていると言うのだ。
ソラン公国がこの山脈に密かに基地を作ろうとしていることは阻止しなければならないが、やり過ぎると和平会談に影響がでるかもしれないと、アルネは考えているようだった。
また、強力な攻撃魔法を使って機動兵器や母艦を攻撃すると、近くにいる竜たちにも影響が出る。
ここは双方にあまり損害が出ないようにするには、転移魔法を使うのがいいのではないかとヘイダールは考えた。
アルネ・ユウキも同じ結論に達したようだった。
機動兵器と母艦をとりあえず、どこか遠くへ転移させてしまうのだ。
これなら少なくとも竜の方にはほとんど影響がない。
転移魔法は普通の魔法使いには難しい魔法だということはヘイダール伯爵でもわかった。
それほど転移魔法は多くの魔力を必要とするものだった。
しかし、普通の魔法使いにとっては大変だとしても、ガンダルフの五大魔法使いの一人エルレーンのエリンことアルネ・ユウキにとってはそれほどのことはない。
但し、機動兵器や母艦は惑星上の別の場所へ転移した場合、その場所を攻撃するかもしれない。
なので、その両方をもっと遠くの、宇宙空間へ転移した方が良い。
ソラン公国の艦も機動兵器も、宇宙空間で存在できるように作られているはずだった。
ソラン公国だけではなく、プレセル大陸の諸国が宇宙への技術を開発して20年になるとアルネはヘイダール伯爵とレギオンに言った。
最初は惑星ガンダルフを周回する小さな人工衛星だったが、やがてガンダルフの衛星に都市を作るまでになったと言う。
ソラン公国はそうした宇宙へ出た人々が立てた国で、母艦やその機動兵器は宇宙空間でも動けるはずだった。
そもそもソラン公国が惑星ガンダルフを周回する衛星都市の集まりでもあるのだと言う。
そしてこの紛争が起きた原因について、アルネはレギオンとヘイダール伯爵に掻い摘んで話をした。
初めは衛星都市を打ち上げたプレセル大陸の国が衛星都市を統治していた。
それが衛星都市に住む人々が自分達の手で政治をしようとしたのだ。
それには母国の統治があまりにも衛星に住む人々に対して差別的なものになって行った所為だった。
それを是正しようとして衛星都市に住む人々が政治を自分たちでしようとし始めたのがソラン公国の始まりである。
ひとまず気を落ち着けるようにアルネ・ユウキは目を閉じた。
転移魔法の邪魔をしないように、ヘイダール伯爵は竜の方に注意を向けていた。
そして、アルネはリドス連邦王国の艦隊司令部にTPで連絡を入れた。
リドス連邦王国の艦隊司令部は恒星トゥーラーンの第4惑星と第5惑星の間にある宇宙都市に置いている。
そこに艦隊の基地があるのだ。
(私はリドス連邦王国の第十一王女アルネ・ユウキです)
リドス連邦王国の艦隊司令部は突然のTP通信に驚いた。
艦隊からの普通の通信は超高速通信装置を使い、TP通信を使うのは滅多になかったからだ。
それに遠くからTPを使うにはそれだけ強い力が必要だった。
それが可能なのはリドス連邦王国の王族か一艦隊の提督クラスの強力な魔法使いだった。
TPは本来特殊能力の一つで魔法ではない。
しかし魔法でTPを使う事もできる。
ただそれには強力な魔法使いとそれを可能とする呪文がいる。
(これは第十一王女殿下、どうしましたか?)
(惑星ガンダルフでソラン公国の宇宙艦と機動兵器が竜たちを攻撃しています。そのため、そちらへソラン公国の宇宙艦と機動兵器を転移させたいのだけれど、そちらで対応できるかしら)
(え?少々お待ちください。艦隊司令官に……)
その途中でTPが途絶え、別の者に替わった。
(アルネ・ユウキ王女殿下ですかな?)
(あら、艦隊司令長官、実は……)
艦隊司令長官に現在の状況を告げると、
(ソラン公国の艦と機動兵器を送るので、そちらで確保拘束してほしいのです……)
と、アルネ・ユウキは頼んだ。
アルネ・ユウキはすぐに返事が来るとは思っていないようだった。
実はリドス連邦王国が宇宙艦を持ち、しかもワープ航行の技術を持っている事は秘密事項になっているのだ。
現在の惑星ガンダルフのプレセル大陸側ではリドス連邦王国は科学も扱うが、昔風の魔法を使うことのできる古い国と言うことになっている。
アルネ・ユウキがソラン公国の宇宙艦と機動兵器を宇宙空間に転送すると、少なくとも転送された連中にはリドス連邦王国の宇宙技術がどれほどかがわかってしまうことになる。
それが、今後惑星ガンダルフの状況にどのように影響するのかわからない。
もっともそれが困るのなら、集団記憶喪失という手もある。
どちらを選ぶのかは、リドス連邦王国の艦隊司令長官に任すことにした。
(その連中は宇宙空間に転移しても大丈夫なのですかな?)
(大丈夫なはずよ。ソラン公国の艦や機動兵器は少なくとも宇宙で使えるよう作られているはずだから。ただ、ワープはできないけれども……)
(了解した。こちらで、確保しましょう)
(では、よろしく……)
落ち着いた反応のリドスの艦隊司令長官に安堵して、TPの通信が終わると深呼吸をして目を開き、アルネ・ユウキはソラン公国の母艦を見た。
(向こうと連絡が付いたから、これから送るわ…)
(向こうとは?)
と、竜たちのリーダーが聞いた。
(あの連中を送る先のこと、……)
突然、山脈の上空に浮遊していたソラン公国の母艦が消えた。
次に、山脈で竜たちを攻撃している機動兵器が消えた。
(ん?敵はどこへ行ったのだ?)
と、竜たちのリーダーが聞いた。
(宇宙空間へ飛ばしたのよ。これで、大丈夫だわ。後は、卵がどれだけ守られたかね)
そこへプレセル大陸の諸国連盟の宇宙艦が現れた。
ソラン公国の宇宙艦を探知してやって来たのだろう。
困ったことにまだ、竜たちが山脈にいる。
彼らを見つけられたら、困ったことになる。
(またソラン公国の艦か?)
(違うわ。あれはプレセルの諸国連盟の宇宙艦よ)
今来たと言うことは、先ほどソラン公国の宇宙艦がいたのに突然消えたことを見られたかもしれなかった。
形はソラン公国の宇宙艦と同型に見えるが、艦体にそれぞれの国を識別可能な国旗を模した絵図が染め抜かれている。
(困ったわね。あの連中をまさかソラン公国の艦と同じ場所に送ることはできないし……)
アルネ・ユウキは山の峰に降りていた。
空中に浮かんでいるところを見られるのはまずいと思ったのだ。
それはヘイダール伯爵とレギオンも同じでアルネ・ユウキの傍らに降りていた。
竜たちは一頭また一頭と慎重にヘイダールとレギオンが転移させていた。
竜たちの行き先はリドス連邦王国の王城の中である。
彼らが安全にいられる所は他に思いつかなかった。
プレセル大陸の諸国連盟の艦は竜を攻撃したりはしなかった。
暫く、辺りを浮遊して調査しているようだったが、やがて去って行った。
(あの艦を行かせてしまってよかったのか?)
(竜たちを見られたけれど、攻撃はしないようだったから……)
(しかし、竜のことを知られて大丈夫なのか?)
(そうね。もうここには彼らは戻すわけにはいかないわね)
プレセル大陸諸国では希少動物について捕獲や殺傷を禁じている国際条約があるが、残念ながらそこに竜の名はない。
惑星ガンダルフにおいても他のジル星団の惑星と同じように、竜というのは伝説の生物で有り、かつては生息していたが現代は生息の確認がなされていない生物だった。
その生息地が発見されてしまったのだ。
すぐに捕獲にやってくることはないとしても、いずれやって来るだろうことは十分考えられる。
従って竜たちをどこかへ移住させなければならない。
これはガンダルフの五大魔法使いにとっても難題だった。




