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ふたご銀河の物語(改訂版)  作者: 日向 沙理阿
10/72

ダルシア帝国の継承者 10

 ヘイダール要塞から少し離れた宇宙空間に、ジャンプ・ゲートから艦隊が続々と現れた。

 要塞からは突然艦隊が現れた様に見えたが、その数と種類が尋常ではなかった。




「未確認の艦隊が多数が現れ、ヘイダール要塞に接近中です。その数、十数万隻の模様……」

と、司令室から悲鳴のような連絡が来た。


「どこの艦隊か?」

と、ディポックは落ち着いて聞いた。


「ええと、な、ナンヴァルですか?ナンヴァル連邦と言っています」



 とうとう来たか、とバルザスは思った。

 タリアは驚いた様子で、バルザスを見た。



「そんな、ナンヴァル連邦がどうして……」

と言うと、下を向いてしまった。


「すみません司令官。そのナンヴァル連邦艦隊からですが、向こうは宇宙都市ハガロンから来た、惑星連盟の議長を乗せていると言っています」


「何ですっって?ナンヴァルのマグ・デレン・シャが来たの?」

「タリア、そのマグ・デレン・シャというのは、一体何者ですか?」

「宇宙都市ハガロンにある惑星連盟の議長です。ナンヴァル連邦の宇宙都市ハガロンの全権大使です」



 そこでタリアは宇宙都市ハガロンについてディポックと他の者に説明した。

 ジル星団では宇宙文明に至った種族は宇宙都市ハガロンに全権大使を送り、惑星連盟を構成していた。星団内でもめ事が起きた時の処理がその役目であった。



 ディポック司令官は会議を中止して、他の者たちと共に司令室へ急いで戻った。



 司令室の大スクリーンには様々な形の見たことのない艦が、さらにどこかから続々と現れてくるのが見えていた。

 その数はおよそ、二十万隻にも及ぼうとしていた。


 まだ相手がヘイダール要塞を攻撃してきているわけではないものの、ディポックはどうしたものかとバルザスを見た。


「恐れていたことが、起きたようです」

と、バルザスは言った。



 ヘイダール要塞の一番近くにはタレス連邦とゼノン帝国の艦隊がいた。それに加えて、リドス連邦の艦艇も少しいる。

 そこにナンヴァル連邦の艦隊が加わった。

 そして、その背後に続々と、様々な形の艦隊がゲート・アウトしてきていた。

 残念ながらゲート・アウトを探知する装置はヘイダール要塞にはなかった。



「そ、その通信があまりに多く混乱していて、どうやって、どこから来たものやら、よくわかりません」

と、あまりの通信の数の多さに通信員が驚いていた。


「それで、要塞近くに現れた艦艇の数はどのくらいになるんだ?」

と、ディポックはともかく聞いた。


「ちょっと、お待ちください。……」



 ひとりタリアは、ショックを隠せなかった。


 ナンヴァル連邦と言えば、ジル星団でもかなり理知的な種族として有名だった。

 ゼノンとは違い、正義を重んじる種族だった。

 その艦隊もダルシア帝国の艦隊に次ぐ強さを誇っていると、タリアは他の種族から聞いたことがある。



「司令官。艦艇の数は、全部でおよそ二十万隻以上にもなります……」

と、探知装置に張り付いている士官が言った。



 ヒューッと口笛を吹いたのは、ダズ・アルグ提督だった。

 ヘイダール要塞は、銀河帝国との戦争時には最大十万隻の艦艇に囲まれたことがある。

 いや、この要塞が銀河帝国の所有だった時には、新世紀共和国の艦隊がもっと多く押し寄せた時があったかもしれない。

 しかし、その倍近い数は想像を超えていた。

 ただ、銀河帝国との戦争の時には本国から援軍を期待できた。それなのに今の要塞には援軍を送ってくれるような味方はいないのだ。



「司令官、ナンヴァル連邦艦隊司令官より通信です。要塞司令官と話したいそうです」

「わかった」

と、ディポックは言った。








 これよりジル星団の宇宙ハガロンにおける標準時間で、数日前のこと。


 宇宙都市ハガロンは、ちょうどジル星団の中ほどに位置していた。

 今のハガロンが建設されたのは、一万年の昔だった。以来、何度かの修復や再建設を経て現在に至る。

 中立都市ハガロンにはジル星団の宇宙文明にある諸国が大使を送り、惑星連盟を構成していた。

 惑星連盟はジル星団で起きた政治や経済の紛争の処理に当たるためにあり、その議長はダルシア帝国大使とナンヴァル連邦大使が交代で務めるのが習慣だった。

 ジル星団の紛争というのは、ほとんどがゼノン帝国がらみのものであった。そのゼノン帝国を抑えることができるのが、ダルシア帝国とナンヴァル連邦であったからである。



 ゼノン帝国が宇宙文明に至ったのは今から数十万年の昔になる。

 ゼノン人の性格は戦闘的で支配欲が強く、しかも須らく強欲であった。その上、肉食のゼノン人はまだ宇宙文明に至っていない他種族の者達を狩るなどして、食べたりしていた。

 それはかつての傍若無人なダルシア人を彷彿とさせるものだった。

 ゼノン人は自分たちをダルシア人に準えて、その所業を正当化していた。


 だが、すでにダルシア人はかつての傍若無人な所業は自ら禁じていた。そこで、ダルシアとゼノンが対立することになり、戦いが始まった。

 ダルシア帝国とゼノン帝国ではどう考えてもダルシアの方が文明は高く、ゼノンは常に劣勢だった。それでも、彼らはダルシアと戦うのを止めなかった。

 戦いはしたものの、ダルシア人はゼノンを滅ぼすまではしなかった。


 その戦いが納まったのは、惑星ガンダルフの五大魔法使いが仲裁に入ったからだと言われている。とはいうもののダルシアとゼノンとの戦いは長い歳月続いたのだ。

 その間、ダルシアも次第に弱体化して行った。

 ダルシアがゼノンに敗北したのではなかった。すでにダルシアの文明が一つの終わりを迎えていたのだ。それ以上の文明の発達発展が見込めなくなってきていたからだった。

 その後もゼノン人の悪行はなかなか収まらなかった。それを矯めるために作られたのが宇宙空間に作られた人工要塞兼都市、つまり宇宙都市だった。

 その始まりはゼノン帝国から他の諸国を守る為に作られた要塞だった。それを守るのはダルシア帝国の艦隊とナンヴァル連邦の艦隊だった。

 後に、ジル星団で宇宙文明の新しい国が増えていくと共に、その艦隊を送る国が増え、やがては要塞と言うよりも宇宙都市となり、交易を含めてジル星団の中枢位置を占めるようになった。

 それに伴って宇宙都市の場所もジル星団の中ほどに移動していた。

 この要塞兼宇宙都市は過去に幾度もゼノン帝国によって攻撃され破壊された。一番新しく作られたのが一万年前のことだった。

 それが宇宙都市ハガロンである。


 その頃になるとは要塞と言うよりも交易をするための中立の宇宙都市の機能の方が主になっていた。

 ゼノン帝国も当初の戦闘性と支配欲が多少とも薄れ、ジル星団内での交易も増えてきていた。

 交易が増えると共に宇宙都市ハガロンには諸国の政府がその代表として大使を置くようになって行った。

 そこで、ダルシア帝国は軍事だけでなく、星団内での政治や経済も含めた問題を解決する組織を設立した。それが、惑星連盟である。

 惑星連盟の盟主にはダルシア帝国がなった。

 何と言っても、ジル星団ではダルシア帝国が最大にして最強の勢力だったからだ。

 その際、惑星連盟として多くのジル星団の諸国の意見をまとめるために、盟主の下に評議会を作る事になった。その評議会の議長としてはダルシア帝国の大使とナンヴァル連邦の大使が交代で務めることになった。

 この件について、当初ゼノン帝国は自国にも議長となる権利を主張したが、ダルシア帝国がそれを却下した。紛争の当事国に常に位置していたゼノン帝国が紛争を治める調停をすることはできないと判断したのだ。

 ゼノン帝国は不服に思ったが、ダルシア帝国には彼らでさえ逆らう事は出来なかった。




 それから一万年ほどの時が過ぎて行った。

 だが、その一万年は決して平らかではなかった。

 ゼノン帝国によるジル星団の諸国への余計な干渉は常に行われていた。それに対応するためのダルシア帝国やナンヴァル連邦の動きも活発だった。

 ただ、そんなゼノン帝国であっても、ロル星団へ手出しをすることはなかった。



 ナンヴァル連邦の大使であり惑星連盟の議長であるマグ・デレン・シャは、宇宙都市ハガロンのダルシア帝国のコア大使の部屋を訪れていた。

 いつもは、宇宙服を着たままのダルシア帝国の大使だったが、今日は違っていた。宇宙服を着用していないのである。

 もともとダルシア帝国の母星である恒星アーローンの第五惑星は硫化水素が主な大気成分だったので、ダルシアのコア大使は酸素を主成分とする宇宙都市ハガロンでは宇宙服を着用していた。

 それが、あろうことか大使は今、宇宙服を着用せずに、ただ、その身を寝台に横たえていた。しかもその姿はマグ・デレン・シャの母星に伝わるダルシア人の形態とは似ても似つかぬものだった。

 これはいったいどうしたことか、とマグ・デレン・シャは驚いていた。


 ナンヴァル連邦の首都星マクヴァーンに古くから伝わるダルシア人の形態は、二本の腕と二本の足、足や手の指は三本で非常に鋭い爪を持っていた。顔の部分は顎が長く、歯は牙のように尖っていて、目は大きい。顔の中央にある鼻はあまり高くなく、目立たなかった。そして、身の丈3レーデル(1レーデルは大木の高さ)はあり、なによりも特徴として背に翼を持ち、太い尻尾があった。それは古くからの伝説にある竜、ドラゴンの姿に似ていた。

 けれども時代が下がるに連れて、ダルシア人はしだいに小型化して行ったと言われている。

 しかし、目の前にいるダルシア人であるはずのコア大使は人類型の種族の形態であった。


 もちろん、日頃からダルシア人としては背が低いので、大使が気にしていたことは知っていた。だが、これほどまでに伝説とは違う形態であろうとは、考えたこともなかった。コアが決して宇宙服を脱がなかったのは、この所為だったのだと、マグ・デレン・シャは思った。




「おどろかせて、すまない。マグ・デレン。だが、私は本来のダルシア人の肉体的な形質を受け継いでいないのだ」

と、コア大使は言った。


「いえ、本物のダルシア人を見るのは、初めてです。確かに言い伝えとはかなり違いますが、だからと言って、あなたがニセモノとは思っておりません」

と、マグ・デレン・シャは言った。



 ナンヴァル連邦でも、生物学において遺伝子を扱う部門があり、さまざまな種族の遺伝子を解析している。従ってコア大使の肉体が伝説とは異なっていることを知っても、長い間に肉体遺伝子が変化したのか、それとも途中において他の形質を受け入れたのかという問題があるにしても、祖先の形態から変化していることでもって、ダルシア人でないとは言えないとマグ・デレン・シャはわかっていた。


 ナンヴァル人は酸素呼吸系の種族でありその姿かたちは人類型に近いが、うろこ状の緑色の皮膚を持つ事から、かつてはダルシア人のような非人類型種族であったと考えられている。中にはダルシア人から分かれたと考える者たちも多くいた。そのような神話伝説が伝えられてもいる。

 実際科学の発達によって、ナンヴァル人の遺伝子にダルシア人のもつ特徴的な遺伝子があるということが発見されると、高度な文明を持つダルシア人の系統だということが喜びを持って受けいれられたのだった。竜型種族であっても人類型種族に酷似しているナンヴァル人は、もともと非人類型種族であるダルシア人から分かれた種族であると現在では本国で信じられている。



「すでに純粋のダルシア人の遺伝子を伝える肉体は三千年前に滅びている。私は、姿かたちは本来のダルシア人とは違うが、中身、つまり魂は純粋のダルシア人なのだ」

と、コア大使は言った。


 ジル星団の各文明においては、本来種族はその肉体の形態だけではなく、魂においても一つの種族としてのまとまりを持っているものと考えられている。ダルシア人の肉体にはダルシア人の魂が宿り、ナンヴァル人にはナンヴァル人の魂が宿るのが普通である。もちろん、例外はあるが、他の種族もしかりである。



 マグ・デレン・シャは、

「ですが、どうしてこのようなことに?」

と、聞いた。



 噂に聞いていたナンヴァル連邦にも伝えられていないダルシアの秘密とは、このことだったのかと心の中で思っていた。



「残念ながら今その話をする時間はない。いずれこのことについては、ガンダルフの魔法使いに会う機会があったら聞くといいだろう。彼らはその理由を知っている」



 ガンダルフの魔法使い、マグ・デレン・シャにとっては懐かしい響きのある名だった。

 ナンヴァル人の寿命はダルシア人ほどではないが、五百年ほどはある。

 マグ・デレン・シャは二百年ほど前に、恒星トゥーローンの第三惑星ガンダルフの魔法使いに遭ったことがある。だが、ガンダルフ人の寿命は長くておよそ百年ほどなので、その魔法使いはすでに亡くなっているだろう。それに他の国々と同様にガンダルフ自体の魔法が衰退していると聞いている。

 今、あのガンダルフに魔法使いがいるだろうか?リドス連邦王国がガンダルフに移住してきてから、魔法はどうなったのだろうか?それよりも、なぜガンダルフの魔法使いが、ダルシア人のことを知っているのだろうか、と彼女は思った。


 ガンダルフの魔法使いは寿命そのものについてはダルシア人やナンヴァル人よりも短い。普通の人間型種族と同じなのだ。

 ただし、強力な魔法使いの一部に限り、特別な契約魔法を使うことができる。それを使って、ガンダルフの創成からの記憶を保っているとナンヴァルに伝わる伝承にある。

 それが事実かどうかわからないが、あのマグ・デレン・シャの知っている魔法使いは、かなり古い時代の記憶があったことを覚えている。


 この魔法使いというのが、宇宙航行の盛んなジル星団では特殊能力者、いやそれ以上の力を持つものとして存在していた。

 その基本は特殊能力の一つである念力を使いこなすことにあると、マグ・デレン・シャの知り合いの魔法使いは話していた。呪文で念力を様々に変化させるのである。



「それで、私をここへ呼ばれた理由というのは、このことを私に話すためなのでしょうか?」

と、マグ・デレン・シャは気を取り直して聞いた。


「いいや、それは違う。マグ・デレン・シャ、私はもうこの世での生を終えるつもりだ。そのことを伝えたかった」



 マグ・デレン・シャは我が耳を疑った。



「それは、つまり、死ぬということでしょうか?」

「簡単に言えばそういうことになる。だが、死とは、この三次元の存在をやめ、他の次元の存在に移行するということだ」

と、コア大使はまるで近所に出かけるような口調で言った。



 ダルシア帝国のダルシア人においては、死というものは、この三次元から四次元以降の世界へ移行することなのだ。とは言っても死は死である。簡単に口にできるものではない。

 何しろ、四次元以降の世界に一旦移行してしまうと、下位にある三次元の世界と交渉することはかなり難しくなるのだ。次元がひとつ違うだけで、見る事も聴くことも触れることもできなくなるのが普通だった。特に上位の次元から下位の次元は見えても、特殊な能力の持ち主を別にして逆はそうではない。

 だから、死というものを永遠の別れと表現したりするのだ。下位の次元にいる存在にとって上位の次元の存在は、存在しないのと同じなのだ。


 だが、その存在そのものは決して消滅するわけではない。

 物理の法則であるエネルギー不滅の法則は、霊や魂の世界でも通用しているのだ。そのことをダルシア人は知っていた。もちろんジル星団の古い種族は、ダルシア人程ではないが、ある程度それを理解していた。

 ただ惑星連盟の多くの国々、ゼノン帝国や新しく宇宙航行技術を修得したタレス連邦のような国では、まだそのようなことは明らかにはされていない。

 従ってこの三次元宇宙においてコアが亡くなったら、ジル星団の最古の文明の一つでもあるダルシア帝国のダルシア人という種族が、一人もいないことになる。それは肉体を持ったダルシア人がいなくなるということに過ぎないともいえるが、そう簡単なことではなかった。

 それはこのジル星団のダルシア帝国が滅びることを意味し、ジル星団に計り知れない損失をもたらすことになる。それをマグ・デレン・シャは心配しているのだ。そのことにコア大使が気づいていないはずはない。



「では、ダルシア帝国は滅びるということでしょうか?コア大使のほかにダルシア人はいないということでしたが……」

と、マグ・デレン・シャは言った。


「ダルシア帝国はもう滅びるだろう。古いダルシアの時代は終ったということだ。だが、それは私が死ぬからではない。もちろん、肉体を持たないダルシア人はまだ残っている。しかし、彼らもやがてダルシアに見切りをつけて他の文明に生まれることになるだろう。

 すでに多くのダルシア人は他の星に生まれている。現に私の目の前に居るマグ・デレン、君もかつてはダルシア人だった。それがナンヴァル人として存在している。死とは消滅することではないのだ」



 死して後、再び生まれ変わる。そうした考え方はジル星団では当然と考える文明が多い。

 だが、それが種族を超えてまで行われるという、その真実をその過程を明確に答えることができる文明はまだダルシア文明しかないだろう、とマグ・デレン・シャは考えていた。

 ナンヴァル連邦ですら、まだ曖昧なところがある。解明しきっていないのだ。



「確かに、わがナンヴァルでもそう言われています。死とは、魂が体から離れて、別の次元の存在になることだと。実際にこの世を去った指導者たちの姿を見ることができるものもいます。僅かですが……。他の種族に生まれようとするものもいるということを聞いたこともあります。しかし、今この時期にコア大使がいなくなることは、惑星連盟にとって、いえ、ジル星団にとって非常に不幸なことになるのではないでしょうか?」



 マグ・デレン・シャの憂いは、このジル星団の惑星連盟のことにある。

 惑星連盟の下にあるジル星団は、ナンヴァル連邦とダルシア帝国の両国の武力で秩序が保たれているようなものなのだ。



「いや、惑星連盟の、そしてジル星団の将来に備えてことをなすのは今しかない。タレス連邦で、とうとう特殊能力者収容法という大統領令が出された。タリア・トンブンが今、タレス連邦の能力者を助けようと必死で動いている。この時に私が動かなければならないのだ」



 タリア・トンブンはタレス連邦出身の能力者であるが、タレス連邦から宇宙都市ハガロンに亡命して、ダルシア帝国に移籍したのだ。それから現在までコア大使の秘書のようなことをしていた。しかし、その実体は、タレス連邦での能力者を他の惑星政府に逃亡させる仕事をしていた。


 他所の惑星政府のこととは言え、タレス連邦については、惑星連盟の各国政府でも噂になっていた。

 これまで、タレス連邦の特殊能力者は少数ではあるが、毎年他の惑星政府に亡命を続けていた。本国では差別や迫害を受けるという理由のためだった。その数は年々増えていたのだが、大統領令が出たということは、ついに公に差別が始まったということになる。



「何と、タレス連邦ではそこまで事態が進んでしまったのですか?」

と、マグ・デレン・シャは驚いて言った。


「そうだ。私はタリア・トンブンを助けなければならない。それはこのハガロンにいてはできないのだ」

「しかし、タレス連邦の能力者の件は、惑星連盟が干渉することではありますまい」



 ふたご銀河のジル星団の国々が加盟する惑星連盟は、個々の政府の内政に干渉することを厳に戒めていた。ダルシア帝国もナンヴァル連邦もそれを守ってきた立場なのである。だからこそ、コア大使もタレス連邦の能力者たちが他の惑星政府に亡命することを極秘裏に援助してきたのだ。



「いや、それは違う。今となっては、内政干渉だからと何もせずに済ませることができなくなってしまった。彼ら、タレス連邦の能力者はわれらダルシアとは縁の深い者たちなのだ。このまま何もせずにいるわけにはいかない。ダルシア帝国としてなら、何もできないが、ただし私がダルシア人でなくなったら……」

と、コア大使は言った。


「と仰いますと?」

「この問題はタレス連邦だけの問題ではない。他の政府も関係がある。ダルシア帝国とも深いつながりのある問題なのだ。だから、私は行かねばならない。あとのことは君に任せたい……」



 コア大使の言葉にマグ・デレン・シャは、突然のことに理解できず、ただ戸惑うのだった。いったい何が起きようとしているのだろうか?



 ふたご銀河のジル星団にある宇宙都市ハガロンは、惑星連盟の本拠地として宇宙空間に建設された都市だった。そこで少なくともここ一万年の間、ジル星団の平和と秩序を守ってきたのが惑星連盟である。

 惑星連盟の評議会の議長の座は創設時から、ジル星団にあるダルシア帝国とナンヴァル連邦が担っていた。どちらも高度な文明を誇っており、あの暴虐なゼノン帝国を抑える武力を持っているのはジル星団では他には無いというのが他の国々の一致した見解だった。


 だが、今、ダルシア帝国のコア大使は衰弱した身体を寝台に横たえているように見えた。

 ダルシア人の寿命は個人によって少し違いがあるが、少なくとも三千年は優に超えていた。コアはもう二千歳を超えた年で、まだ寿命とは言えないが、実はダルシアに特有の差し迫った状況があった。

 ダルシア帝国は滅びようとしていたのだ。ダルシア帝国が滅びるのは戦に破れるからではない。単にダルシア人がいなくなるからなのだ。コア大使は肉体を持ったあるいはダルシア人の遺伝子を持った最後のダルシア人だった。コア大使の他にはダルシア人と呼ばれるものは公式にはもういなかった。


 このことは他に漏れないように固く守られてきた秘密だった。

 惑星連盟のもう一つの議長国であるナンヴァル連邦にも知らされてはいなかった。ただマグ・デレン・シャだけには、コア大使は個人的に打ち明けていた。

 マグ・デレン・シャは、ダルシア帝国の最後の一人が亡くなった時に、何が起きるか、それを憂えているのだ。他の惑星連盟の諸国、特にゼノン帝国はダルシア帝国の知識や技術を得るために艦隊をダルシアに派遣するだろう。

 なぜなら、ゼノン帝国はナンヴァル連邦と同じく、そのはるかな昔、ダルシア帝国から別れた人々が作った国だと信じているからだ。その日頃の振る舞いや考え方からして、もしダルシア帝国が滅びたならば、その残された知識や技術を自分たちが受け継ぐのが当然だと考える者たちだった。

 彼らは非常に好戦的な支配意欲の強い種族で、ダルシア本国に艦隊を派遣するだけではなく、公式にダルシア帝国の継承権を要求する可能性もある。


 だが、それを言うなら、同じくダルシア人を祖とする他の惑星政府も同じことをするかもしれない。その中にナンヴァル連邦も入っている。

 ジル星団の五大古代文明といわれている中に、ダルシア人から別れたという伝説のある国がある。ナンヴァル連邦の他には、ザガ連盟やホルンバルド連合政府があった。不思議なことに、彼らは祖先と言われているダルシア人の姿かたちをあまり伝えていなかった。その形態の一部に僅かに名残はあっても、ほとんど人類種としての形態を取っていた。


 しかし、これらの国々はかつての母国の継承権を要求するなどという厚顔なことはしないだろう、とマグ・デレン・シャは思っていた。本国から別れて新しい国を建てたということを誇りとしているからである。

 ただ、ゼノン帝国はそうした考え方をしないことは誰の目にも明らかだった。彼らは貪欲で、恥を知らない。そして何としても惑星連盟を自分たちが支配したいと思っているのだ。


 もちろん、コア大使がいなくてもダルシア帝国は簡単に他所の国の手に落ちることはないだろう。

 ダルシア帝国本国は、コア大使が不在でも自動的に防御システムが作動するように構築してある。ダルシア帝国の艦隊はジル星団でも最強と言われている。それはダルシア人が存在しようとしまいと変わらないことだった。

 だが、もし、万が一ゼノン帝国の艦隊か、その同盟艦隊がダルシア帝国の艦隊を破って、ダルシア帝国の知識と技術を手にしたとき、惑星連盟はどうなるだろうか、とマグ・デレン・シャは考えざるをえなかった。



 かつてジル星団に最初の宇宙要塞を建設したとき、ダルシア帝国の艦隊はジル星団一を誇っていた。あれからどれだけの歳月が経ったのだろうか、とマグ・デレン・シャは思った。おそらく数十万年になるだろう。

 そして宇宙都市となったハガロンに惑星連盟を創設したときには、まだそのことは変わらなかった。

 けれどもゼノン帝国がその間何もしないでいるわけがない。ダルシア帝国打倒のために、日夜研鑽を重ねていることは他の惑星連盟の諸国も知っていることだ。

 それでも数十万年とは言え、その年月だけでダルシア帝国を超える科学技術を持つことは果たして可能だろうか。

 それはダルシア帝国にも言えることだ。ダルシア帝国にしっかりとした人物がいれば何の問題も起きないはずだった。けれども、今ダルシア帝国の最後の一人がいなくなろうとしている。


 コア大使が亡くなってしまったら、ダルシア帝国だけではなく、惑星連盟そのものがやがて崩壊することになり、かつてのようなゼノン帝国の跳梁を許すようになるだろう。

 それはジル星団の何百億という人々がゼノン帝国による暴虐だけではなく、他の星団や銀河からの侵攻という事態に苦しまねばならなくなるのだ。

 これまでの平和な時代から、そうした戦乱の時代に移行せざるを得なくなるだろう。

 それに対処するために、コア大使は以前から動いていた。そのことに気が付いている人々はまだ少なく、ダルシア以外では、ナンヴァル連邦等の古い文明の一握りの人々や、他銀河から移住してきた新しい勢力であるリドス連邦王国の人々がいるだけだった。ゼノン帝国の連中ですらまだそれを知らない。

 ゼノン帝国の者たちは、自分達の勢力を拡大することしか考えてはいなかった。新しい敵が出現することさえ、気が付いていない段階にある。


 コアはまだこの世という次元に留まっていれば、やがて自身の限界が来ることを知っていた。

 年を取れば動きも鈍くなり、視野も狭くなる。本当はもっと自由に動ける存在でいた方が、コアにとってもダルシアとっても、惑星連盟にとっても有益なのだ。

 死とはコアにとって、それはまるで蛹が成虫になるようなものだった。コアはこの三次元の存在である肉体を脱ぎ捨て、高次元の存在となることを選んだのだ。



「だから、今必要なことだけを話す。心して私の話を聴いてくれ……」

と、コアは自分が亡くなった後、何をすればいいかを話始めた。



 それはマグ・デレン・シャにとっても、考えたこともないことだった。



「マグ・デレン・シャ、後のことは君に頼むしかない。今話したことを頼む……」

と、コア大使は最後の言葉を残して、この世の殻を脱ぎ捨てた。



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