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マスカブレード  作者: 黒野健一
第四章 終夏/救われた者/救われぬ者
64/120

64D哀E

剣之上市、某交差点。

仕事帰りの集団が近くの繁華街へ、疲れや悩みを吹き飛ばしてくれる酒とくだらない世間話を求めて歩いている。


「うっ……うっ……」


そんな者達と無関係な男は、集団の後をゆっくり歩いていた。

交差点の歩行者用の青信号が点滅し始めた。


「おっ……おっ……」

男はそれを見ると焦らされたが、ここの信号は点滅する時間が長いことを思い出し、

そのままゆっくりと歩こうとす「プップッッッウーーーー!!」


「……おっ!?」


男はその爆音に思わず、反射的に体が動いて一気に横断歩道を渡った。

背後の信号機は青い光がまだ点滅していた。


「…………」


音を出した車をその男が睨む。

するとその車高の低い車に乗る男女は大騒ぎしていた。


「にらんでる……プッ……もう、淳やん!!かわいそー」

「へへへっ!ちんたらしてっからだよォ!!」


点滅していた青い光は消え、真っ赤な光が男の顔を照らす。


「ちょっ、まだにらんでる……キモッ」

「どーせなにもしてこねーよ」


車道の信号が青に変わり、男女を乗せる車が走りだす。

ハンドルを握る男が、あの滑稽でマヌケな奴の情けない後ろ姿を見ようと、バックミラーに目をやると

そこにはすでに、あの男の姿は無かった。


「へっ、ほらみろ、文句ひとつ言えない小心者の……」

男がもう一度助手席の女と、笑いものにしようとする。

だがそれを遮るようにガシャン!!という音と共に、車体が揺れる。

車の屋根に何か重たいモノが落ちてきたようだ。


「な、なんだ?」

男がブレーキを踏む。


「あがっ……!!」

隣の女がそんな声を発した。

急なブレーキだったため、男は女が顔でもぶつけたのだろうと思ったが、振り返ると。




「あがっ……ががっ……あががっ!」

「お、おい……は?」


女は胸元が開いたドレスのような服を着ていたが、そこから乳房が露失していた。

乳房は屋根の上から貫通してきた、獣の角のように堅いのに触手のようにうねるモノが巻き付かれた。

そして女の胴体から、その乳房を強引に奪い取る。

胸部をもぎ取られた女はショックで、そのまま息絶え、吹き出した血で助手席側のフロントガラスが真っ赤に染まった。


「ひっィいいいい!?」

突如の事で、何が起きたか理解はできないが、男は恐怖を表す声を上げていた。


「よよ、よう、ジャマすすんぜぜぜ?」

「は?……は?」


車のドアが奇妙な仮面を被る男によって強引に開けられると、ショック死した女の亡骸を外に放り出し、助手席に乗り込む。

男の腹部からは、二本の管のようなものが生えており、女の胸部をもぎ取ったのはそれだった。

屋根を貫通した管に巻き付いた両乳房を仮面の男は受け取ると、シュルル!!と引き伸ばした巻きメジャーが縮むような音をたてながら、腹部にて元の長さに戻った。


「いい乳した女だよな、羨ましいぜ~?で、よ?お前この女が何カップか知ってっか?か?」

「なっ……何を……!?」


「乳のサイズだろうがよォ!!」


怯える男の顔面に、もぎ取った乳房を押し付ける。

顔を引きつらせ、涙を流す男にもう一度問いかける。


「何カップだ?ホラ、少し中身が出ちゃってるが本物は目の前にあるぞ?答えろ」


「いっ……い……」

「……あ?」

「Eぃいいいいっ!!」


体を縮こまらせ、彼の一生のうち初めて出すような情けない声で泣き叫ぶ。


「E?……いや、Dだな。これは、ここに来るまで何人か女を『喰って』来たからわかる……こいつは……Dだ」

「ひぃいいいいいいっ!!!」


男はドアを開け、道路へ飛び出す。

真っ暗な車道を、腰が抜けたため手と膝で、車から、現実から、悪魔から逃げ出す。


「おい……」

「ひいいいッ!!」


赤ん坊みたいにハイハイで逃げる男に追いつくことなど容易い。

髪を掴んで無理やり立たせると、背後から、仮面の男の手が背を貫いて右胸から手の甲を動かす。

男の着ていたシャツの片方だけが赤く染まり、膨らみ、それが上下に揺れている。


「ぐっ!?がああああああ!!」

「ほらぁああ!!よく見ろォ!これがEだ!そして……」


もう片方の腕で、男の左側を貫く。

心臓や肋骨すらも通り過ぎて、男の胸が右側よりやや小さく膨らむ。


「これがDだぁああああ!!」


仮面の男は両手を引き抜くと、両胸を貫かれた彼はそのまま車道の端で動かなくなる。

そして悪魔じみた所業を行った男は真っ赤な血で潤った両手を掲げながら、満足そうな表情で叫ぶ。


「俺、俺は?俺だぁあああああッ!!」




「……了解、そっちに行きます」

日が沈んだため、今日のところは地下に戻ることにした月村詩朗達。

そんな彼らの元に、黄鐘から連絡が来た。


繁華街の方で先ほど出現した魔刃が再び出現したという。


先に出撃した日野と付いていった数人の部隊がそれと戦闘を行っていたが、被害の拡大を抑えられていないようだ。

今から黄鐘、根吹の二人が部隊を連れていくがそれに加えて詩朗も。


「大規模な戦闘が考えられるそうだ、青井さん灰城くんをお願いします」

「……ああ、うん。詩朗くんこそ気を付けて」


二人と別れ、詩朗は大きなギターケースを担いで走る。


青井がついているとはいえ、常に命を狙われている灰城句代をできるだけ危険に晒したくはない。

だからといって、街の住人たちも放っておくわけにはいけない。


「とっとと倒してすぐ帰る」


夜に響くサイレンの音や、人々のざわめきに彼が近づいていく……




「さてと、詩朗くんもいないし早く基地に帰ろうか灰城く……」

「…………ッ!」


詩朗を見送った青井凛子が灰城を連れて帰ろうと、彼の方へ振り返ると。

彼の右半身が突如燃え上がった。













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