表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マスカブレード  作者: 黒野健一
第四章 終夏/救われた者/救われぬ者
62/120

62無自覚の変貌

「え……はい、了解です」


部隊の隊長、黄鐘から連絡を受けた詩朗は、魔刃に追われる灰城句代に、自分が受けた報告と同じ内容を話す。


「つい先ほど魔刃が出没したようだ、襲われたのは女性……下半身の損壊が激しいそうだが」

「……うーん、ヤツの仲間ということも考えられますけど、少なくとも僕が襲われた魔刃とは違うと思いますよ」


灰城句代の記憶にある追跡者は、激しい損壊を与えるような、そんな無駄なことはしない。

家族を焼き殺した放火魔もおそらく魔刃であるだろうが、焼けこげた家の跡地から発見された家族外の遺体がそれだろう。

だから追跡者と放火魔はおそらくなんらかの関係があったはずだ。

何か、灰城句代は自分自身も知らないなんらかの理由で命を狙われていると主張する。

放火魔と追跡者が無関係ではなく、組織的なものならば、その何らかの理由を達成するために

いつまでも句代を追いつめていくだろう。


「魔刃……人を超越した怪物」


なぜそんな化け物が必要以上に自分を狙う……?

句代は思い当たる節を必死に探し続ける。


「うっ……」


記憶を漁り続けているうちに、再び、あの地獄の光景が脳裏に浮かんでくる。


「無理はしなくていい、手がかりがなくとも向こうからやってくる、それを向かい撃つのが作戦ですから」

「……ええ、そうでしたね」


無力な句代にできるのは囮になることだけ。

自らそれを望んだというのに、空腹をいっぱいにしたせいか忘れていた。


「…………」


できればこの手で奴らの命を奪いたい。

それが句代の本音であるが、そのための力を彼は持ち合わせていない。

灰城句代はただの非力な少年である。


「僕の家族の仇をお願いします……」

「ああ、必ず俺がその魔刃達を引き裂いてやりますよ」


「…………」


青井凛子は意気込んでいる詩朗を見つめながら何かを思った。

それは危機感のような、大事なものが今壊れたかのような。




食事を済ました一行のうち、夕河は地下に戻り、青井と詩朗が灰城句代についていた。


「灰城くんは、その……ご両親を失ってからどうやって生きてきたの?」

「親戚のところにやっかいになってたんですけど……アイツらの存在に気付いてからは、巻き込まれないように一人で……」


行く先もなく、ただ街を一日中彷徨っていたのだろうか。


灰城は今思えば、なるべく人と関わることを避けていたつもりなのに、赤木霧香を危険な事に巻き込んでしまったことを悔やんでいる。

とはいえ、あの少女がいなければ、今こうして対魔刃部隊の存在を知ることもなかったわけであるが。


「できるだけ人が少なくて、それでいて怪しまれないような場所……どこでしょう?」


今、囮として動いている灰城は自分が狙われやすい場所を考えている。

この前の襲撃は、街の人気のない路地であったが、結局人の多い場所に逃げてしまった。

あの時はそれ以上被害を起こそうとは相手は思っていなかったが、今度もそうなるとは限らない。


敵は家族を皆殺しにした凶悪な化け物だ。

なるべく人のいない場所……


「そうだ、お墓……僕が両親の墓参りを装えば怪しまれもしないし、人も多くはいないはずです」

「……わかった、俺と青井さんが隠れながら灰城君を守る」


「…………」

「青井さん?」


詩朗は何か心に引っかかっているような青井の表情を見て心配している。

青井の方は詩朗の声に反応して「ああ、必ず守る」とだけ口にした。




……時刻は夕方過ぎ。

場所は剣之上市のとある霊園。


お供えの花を持った灰城の後には二人の影が夕焼けによって作られている。


「詩朗くん、復讐の魔刃出して」

「……青井さん?まさか奴らの気配が?」


敵を向かい撃つのに万全を期そうと、言われたままに仮面と剣を出す。

だがそんな詩朗の手から、復讐の魔刃であるその仮面が青井によって奪い取られる。


「アンタねぇ!詩朗くんの精神がどうなってもいいの!?」

「いや、俺のせいかよォ?アイツがあの機械の剣を使わずに俺を被ったのはアイツの判断だろうが」


こんな状況で、青井は復讐の魔刃に対してお説教を始めた。

先ほど、灰城句代に対して復讐を果たすとを約束したのが彼女はどうにも許せなかった。


復讐……月村詩朗に力を貸す彼の名に冠されているように、魔刃は自分の性質の通りに使用者を歪め最終的に肉体を乗っ取る。

復讐の魔刃本人はそのつもりは無いと言い張るが、それを組織は信用しないだろう。

青井凛子……元は空白の魔刃は特殊なケースと根吹という信頼される人物からの推薦により組織に信頼されているが、それはかなり異例なことだ。


このまま精神を蝕む続ければ、もう月村詩朗という人間は元の人間とは言えなくなるだろう。

肉体が奪われなくとも、心はすでに本来の彼とは変わってきているはずだ。


復讐の魔刃だって、いつでも肉体が奪える状態になれば、組織から処分されるというリスクを負っている。


「いい、もう二度とSaverシステム無しで仮面の装着はしないで!」

「青井さん……」


少女の望みとはいえ、彼女の体を自分の物へと変化させたことに負い目を感じている。

青井凛子は、望まぬ変化が彼に起こることを恐怖している。


「……わかりました、でも俺は……」

目の前で笑顔が奪われるような、そんな事が起きたのなら、ためらわずこの力を使う。


そう言いかけたその時、霊園を囲む樹木の一つが揺れた音を詩朗達は察知した。


「父さん、母さん……永」

墓の前で手を合わせていた句代の方へ、音を出した主は一直線に突っ込んでいく。


「危ない!」


仮面を被り、そして光り輝く剣を持って句代と彼を狙う者の間に入る。

詩朗はただ突っ込んでくるその者を剣で力ずくで跳ねのけた。


「……ッ」


同じく仮面を被り、黒い長髪をなびかせるその者は、跳ね飛ばされた勢いを利用し、また霊園の樹木の上に立つと句代と詩朗を睨むように観察し、姿をくらます。


「逃げたか……ク……」


自分は今、敵を仕留められなかったことを真っ先に考えた。

詩朗はその思考が、青井の言っていた魔刃の精神汚染の影響だと気づき、言葉を言い切らず飲み込んだ。


「大丈夫?灰城くん」

「はい……でももう襲ってこないかもしれないですね」


身を心配する声をかけた青井に句代はそう答えた。

護衛につく、魔刃使いがいると知れば、奴らも迂闊には手を出せない。


「すまない……せっかく危険な目に会ってまで囮をしてくれたのに、取り逃がしてしまった」

「僕が勝手にやってることですから、それに奴らは理由はわかりませんが、必ず僕を殺したいはずです。きっと近いうちにもう一度襲撃してくるはず」


そのために自分は囮を続ける。

だからもう一度協力して欲しい、と青井と詩朗に言う。

二人は承諾したが、復讐の魔刃は内心どうにいも違和感のようなものを感じていた。


本来、復讐心に惹かれる彼が、なぜか灰城句代という人間に興味を抱けていない。

自分の命を賭けてまで、復讐を果たそうとしているのに……だ。


「なぜだ……?こいつは……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ