担任
山下先生と説明された人は、机で何かの資料を読んでいた。
「山下先生、おはようございます。」
僕が挨拶すると、顔を上げ、こちらを見た。
「ん? 綾小路か、そうか、今日から復学だったな。
体の方はどうだ?」
「体は問題無いのですが、記憶の方がちょっと…」
「一応話は聞いてはいたが…そうか。
授業の方はどうする? 無理そうならしばらく別の部屋で空いてる先生に対応して貰うことも可能だが…」
「いえ、人や学校のことを覚えてないだけで、勉強や一般常識については問題無いので大丈夫です。」
「勉強に問題が無いってのは不幸中の幸いか、だが人間関係を忘れているとなると、う~ん…」
「大丈夫です。それに先ど遥さんとも約束しましたし。」
「あいつか、確かに仲良かったし、色々聞くのも良いかもしれんな。
よし、とりあえず教室行くか、もし無理だったら言えよ?」
「はい。」
「…しかし、記憶が無いからなのか、ずいぶん話すようになったな。
前は、物静かと言うか、おどおどしていてあまり話さなかったからなぁ~」
「そうなんですか?」
「ああ、まあ何にせよ、今の方が話しやすいし、良いんじゃないか?
もし記憶が戻ったとしても、出来ればこのまま頑張って欲しい。」
「戻った時にどうなるかは分かりませんが、その時に考えたいと思います。」
「そうか、じゃあ行くぞ。」
「はい。」
廊下を山下先生の後に続いて歩いていく。
ふと、思い出したように山下先生が訪ねてきた。
「そうだ、綾小路、記憶障害の件は伏せておいた方が良いか?」
これは本来デリケートな問題なことだ、少し悩む…ただ、性格が違うのを記憶障害のせいにってのも悪くない理由かもしれない。
それに、いちいち説明するよりは先生から行って貰えれば楽だし、そうして貰おう。
「いえ、話していただいた方が、色々と説明が省けますし、面倒事も防げるかと思います。」
「そうかもしれないな、確かに話していてアレ? と思うことが有るし、最初にそうだと言っておけば相手も納得するか…わかった、説明する方向で進めるぞ。」
「はい、お願いします。」
こうして記憶障害として説明してもらうことが決まったのだった。




