三 [1/4]
それから数ヶ月、無転は自分のつくり出す別世界の整理をしていた。
今までほとんど何も考えずに人や物を飛ばしてきた。いらないものを出し、世界の仕組みを知る必要がある。
特に別世界の中で暮らしている人間達をどうにかしなくてはいけない。
ティアを何度も別世界に飛ばし、交渉させ、外に出たい人間達は出してやった。ティアの翼のある姿は、こういう時に便利で、全ての人が彼女を神と信じ、すんなりということを聞いてくれる。
ただ、人と全く変わらない姿をした無転が、ティアの従者と取られるのが、少し悔しかったが……。
それでも、世界を自由に行ったり来たりできる無転は、ティアを手伝い、自分の創り出す世界を見て回った。
彼のつくる世界は、意外なほどに元々いた世界に似ている。雲の浮かんだ空があるし、塩辛い海もある。
昼と夜も二十四時間で移り変わり、太陽があれば、月や星もある。星の配置は違うものの、天の川があり、一晩の間に星が動いていくのも変わらない。
陸地はまばらだが、無転が飛ばしたもの以外の陸地もある。
見たことのない動植物もあったが、「犬に似た生き物」といったように、そのすべてが元の世界のものと似通っていた。
大きく違うのは、大気中に元の世界よりも濃い天力があることと、世界が三重に重なっている事だろう。正確には三重に重なった世界と、一つの独立した世界があったのだ。
無転はその世界を自由に行き来できるが、ティアを含め他の人々はできないらしい。
彼が許可すると言えば、天力を持つ者なら移動できるが、それ以外のものや人は天力使いが持ち運ばない限り無理だ。
三重に重なった世界の一番上の層に全ての人が住み、その下の層には動物がいなかった。
ただ、陸や植物は重なった三つの世界で似通っていて、家がある。おそらくとしか言えないが、この世界に物を飛ばすと、一番上の層にそれが現れ、動物以外の物が他の二層にコピーされる。
そして、それ以外ははほとんど三重の世界が干渉することはないということらしい。
ティアは三重の世界の一番上の層を「表」、二番目を「裏」、三番目を「影」と呼んだ。