二 [3/4]
その瞬間ソティスの巨体が吹っ飛んだ。大きな放物線を描き、五メートルほど先に落ちる。空中で体勢を整えたので、怪我はなさそうだ。
「この子は守護の神様。玉苑だよ。ソティスとはとっても仲がいいの。けんかをするほど仲が良いってやつ?」
「守護って……。守るどころか攻撃してたけど」
華伝が玉苑に言う。
「攻撃が最大の防御だ。それに、俺は人を弾くのが得意なんだよな」
どうやら、さきほどソティスの頭をどついた巨大な力も、その応用のようだ。
「――ただし、守ると誓えば必ず守る」
「カッコつけちゃだめだよ。一番若いくせに」
ぬっとわいて出たように、長身の男が玉苑の後ろに立った。
その腕の中には七歳位の女の子。
男は袍を着、女の子は色鮮やかな着物を何枚も重ね着している。さながら東岸にあるどこかの国を牛耳る貴族の兄妹のようだ。
「あたしは読呼。この子は楽遊。よろしくね」
女の子の方が言う。男のほうはぼんやりとあらぬほうを見ているが、読呼を抱える腕にだけはちゃんと力が入っていた。
あちこちが巻いたり、はねたりした癖のある黒髪が、ぼんやりとした様子とあいすぎている。
「読心天女って知ってる?」
ティアが尋ねた。
「小さいときに聞いた事ある」
華伝が答える。
「その人だよ。読心天女――魂の女神、読呼」
「平たく言えば心の神様だからね。人の心を読んだり、操ったり――」
実は、ティアは読呼じきじきに人の心を操る方法を教えられ、それを用いて無転を協力する方へ誘導したのだが、彼がそれを知ることは永遠にないだろう。
「楽遊はゆとりの神だよ」
読呼は自分を抱える、力の神の次に背の高い青年を見上げて、うれしそうに紹介した。
「大して重要そうじゃない神だ」
いつの間にか守護の神の隣にもどってきていた力の神――ソティスが言う。
「それ、ひどいよ。遊くんに謝って」
読呼が、手にもっていた扇子でソティスの頭を叩く。ちゃんと届くように楽遊が抱えている読呼を頭の上まで持ち上げていた。慣れたものだ。
ぼんやりしているように見えても、自分の周りで起こっていることは全てわかっているらしい。