序章 東京の神保町で ◎死んだと思ったら、子供の頃に書いた物語の登場人物になっていました! 悪い結果になるのを回避します!
現代日本から異世界トリップした極普通の会社員35歳女性の物語。
子供の頃に描いた戦記物の物語になぜか転生してしまった岩倉多香子(35歳)は、主人公男性二名が活躍する戦争物語のわき役である元令嬢召使になっていた。物語では主人公二人は悲劇的な結末を迎える。それを回避するために彼女は奔走することを決意しますが…
序章 東京の神保町で
8月のお盆を前にして、私は、東京の神保町にある、小さな出版社に向かっていた。やっとのことで地下鉄の階段を上り、ビルの谷間にある出口から空を見上げると、青空が覗く。私は勤務中だからと急いで歩道を進み、ビルの3階にあるというその出版社の事務所へと向かった。
出版社はオレンジ出版社といった。私は、この出版社で祖母の自叙伝を自費出版する予定にしていた。家に祖母が自分のことを書き記したノートを残していて、それを見つけた私が、親戚に祖母のことを書いて贈ろうと、数冊だけでも書籍の形にしてくれるこの出版社を見つけたのだ。今日は、出版社から連絡があって、その校了前のデータを急遽取りに行かなきゃいけなくなったのだ。ネットのやりとりでも可能だったけれど、担当の編集者から直接がいいと言われたからしかたなかった。
歩きながら辺りを見つめる。神保町に漂うまとまりのない雑多な感じが私にはとても心地よかった。ところどころに古本屋があるのもいい、その中でお気に入りの古本探しができるなら、もっと時間を取って、のんびり散策したいと思ってしまう。けれど、今は勤務中に寄り道をしているのだ。私は足を速める。
私は小さなビルが建ち並んでいる一角に、出版社が入る白いビルを発見した。見上げると一見出版社に思えない。私のような、無才な素人の作品を自費出版してくれるところなんて、こういう小さなところだからなんだろうと思う。
私はビルの中に入ってエレベーターに乗った。そして3階へと向かう。次第に緊張してくる。メールだけのやりとりだった推敲も、直接会って話したら、どんな感じに言われるのだろうかと不安になる。
3階でエレベーターを降りると、前にあるドアを私はノックした。
「すみません。打ち合わせで来た岩倉です。」
私は緊張しながら挨拶をする。中から「はーい」と明るい声が聞こえる。私は恐る恐る中に入った。4,5人ほどパソコンに向かっている人がいた。そのうち、後ろに髪をお団子状にまとめた女性が威勢の良い動作で私の方を見た。
「岩倉様。お待ちしていました。もう準備できています。そちらのテーブルでお話ししましょう。」
彼女は明るい笑顔を私に見せた。
そして、パソコンの画面を二人で見ながら、最終的な打ち合わせをした。表紙や本の形、そしてレイアウトなど。細かい打ち合わせだ。
「最終的なチェックは岩倉さんにお願いしたいので、全部のデータを入れたSDカードを渡しておきますね。」
彼女はパソコンの側面からSDカードを取り出した。
「メールで送るにはちょっとデータ量が多いから、直接渡す方がいいでしょ」
珍しい紫色のSDカードを私に渡しながら、彼女はそう言った。
「家でもう一度中身を確認します。訂正があったら、メールの連絡でいいですか」
「ええ。締め切りは9月末まででお願いしますね。印刷業者に連絡しないといけないから」
「分かりました」
話は30分もかからなかった。私はSDカードをバッグの奥に入れて、立ち上がった。
「それでは、ご連絡お待ちしています。」
「お手数おかけしました。ありがとうございました。」
私は事務的な挨拶を終えると、事務所を出た。なんだか呆気なかった。でも、そんなものだと納得していた。
外は暑い季節だった。私はビルを出る。暗い屋内から一気に明るい外へと変わる。アスファルトが太陽光を照り返してまぶしい。すぐ電車に乗るからと日傘や日焼け止めをしなかった自分を後悔する。早く職場に戻らなくてはと歩みを速めて駅に向かおうとした。
「すみません」
突然後ろから声がかかった。私は何だろうと振り返る。
「データあるでしょう」
何のデータのことだろうと不思議に思う。私は声の主を見た。知らない男だった。
「何ですか」
私は鞄をぎゅっと脇に押さえつけて、いぶかしげに尋ねた。
「SDカードがあるでしょう。下さい」
男が強く言い放つ。
「え、何のこと」
私は眉をひそめて尋ねた。全く意味が分からなかった。見ず知らずの男からなんでそんなことを言われないといけないだろうか。私は人違いだろうと思い込んだ。そして身を引こうとすると、男がぐっと近づいてきた。よく見ると、男は腰あたりから、キラリと光る物を出した。
「きゃー」
私は反射的に悲鳴を上げた。男が突然包丁を振り上げたのだ。
その瞬間、あまりの速さに私は一体何が起こったのか分からなかった。本能的に恐怖で体が凍り付いた。男が包丁を振り回すのを必死に鞄で振り払い、逃げようとするので精一杯だった。
手足を必死に動かしていると首のあたりから生温かいものが流れてきた。どうしたのだろう。私は襲われているのだろうか。私は目の前が真っ暗になった。
この作品は全13章で完結する小説です。
約1~2週に1回のペースで各章の1~3話入れる形で更新する予定にしています。
作者としたら、ファンタジー初挑戦の小説です。まだまだ初心者の私ですが、皆様に楽しんでいただけると幸いです。よろしくお願いします。
※2026年10月5日に最初に投稿した際、1章ごとに1か月に1度投稿する予定と書きましたが、変更しました。




