第2話 琉依と従者
部屋に戻り泊まりの用意をすると琉依はいつも通り窓から外の木に移る。琉依の部屋は3階にある。しかし、正面から出れば兄達に捕まる可能性が高い。口でも実践でも喧嘩で負ける気はしないが、関わるのが面倒臭い。
名前すら覚えてない兄5人を思い出しながら、ため息をつく。そして慣れた手つきで木から降りた。
そして迷わず裏門から家を出て、最寄駅へと向かった。
電車から新幹線に乗り換えて、1時間ほどかけて首都へと向かう。自由席に座りぼんやりとしていると、隣に人がやってきた。
「お嬢、隣いいか?」
「零か」
声をかけてきた青年は天笠零。元神代家お抱えの暗部にいた。神代を潰そうとしている琉依に彼と彼の父親はついた。それは神代への裏切りに当たる。しかしこの親子手際が良いようで、サクッと面倒事は自分達で片付けていた。今は裏切りではなく、当主争いは琉依についてる体で平然と暗部で立ち回っている。零は琉依の自称従者だ。
何の用だと、遠慮なく隣に座った零を見ると、カラッとした笑顔を見せる。
「お嬢が気にしてた奴だけどさ、バレないように外国に逃しといたぜ? 墓守に聞きに行ってたんだろ?」
「そうか、私のせいで処分されてないのなら安心したよ」
「そう思ってさ、いやぁ苦労したぜ」
周りに人がいない事をきちんと確認しながらも零は小声で言う。琉唯も慣れたようで、窓から流れる外の景色を見ながら隣に座る零に尋ねた。
「何が望み?」
「そりゃ、主人からの惜しみない感謝とか?」
揶揄うような口調に、本当に本心は読めないなと零をチラリと見ながら琉依は思う。付き合いも長くなってきたが、どこか飄々としている零の本心がわからない。それは琉依が人としての感情が希薄だからか、零が隠すのが上手だからか、あるいわどちらもか時折琉依は考える。しかし、考えてもわからないものに琉依は時間を使わない。すぐに切り替える。
どちらにしろ、零は使える。そして理由はわからないが零は琉依を買っている。決して裏切ることのない自分の次に使いやすい駒だ。
「おー、お嬢また考え事か?」
零の声で琉依は思考の海から現実に戻ってきた。
「ごめん、何?」
「いやぁ、褒めてほしいなぁって」
笑いながら零は期待に満ちた目で見てくる。しかし、褒めると言うものを琉依はイマイチ理解していない。
「ありがとう、感謝してるよ?」
首を傾げながらとりあえず感謝を伝えた。自分でもチグハグは感謝だと思った。しかし、他の方法を琉依は思いつかなかった。その様子だけで零は察したのか楽しそうに笑った。
「お嬢の背負ってるモノの大きさはわかってるけどさ、もう少し肩の力抜きなよ」
零はそう言って琉依のおでこに軽くデコピンをする。全く痛くなく、琉依は反応に困った。
「別に私は神代を壊す歯車であり、装置だ。そんなものは必要ない」
「でも、その先は? 壊した後、お嬢はどうするんだ」
「それは……」
答えられなかった。それは琉依自身が自覚していることだったからだ。神代を潰すことが琉依の生きる理由で存在価値だ。それが終わった琉依に価値はあるのか? しかし、まだ先の未来の事に頭を使うのは馬鹿げている。それなら、当主選考が始まる前から、邪魔だと殺そうとしてくる3馬鹿ーー次男、三男、四男への対策や暗殺計画の情報収集をしていた方が有意義だ。
昨日も、三男が雇った暗殺者を返り討ちにしたことを思い出す。
♢♢♢♢
数日前に三男が暗殺者に依頼を入れた情報を手に入れた。その結構日だったことを目覚めて思い出す。普通にしていても返り討ちにする自信はある。しかし、面倒だ。どこで待ち伏せする予定かも既にわかっていた為、琉依は途中までは普段通りに帰り、見張が離れた瞬間に方向を変えた。
そして待ち伏せしている暗殺者の後ろに回る。
「予定だとそろそろ来るはずだが……」
「誰が?」
琉依は後ろから声をかけながら回し蹴りをお見舞いする。そして男が地面に激突すると、上から抑える。そして、胸元に銃を持ってるのを発見して鼻で笑う。
「もしもし、冴木さん? 銃刀法違反の人いるから、今朝行った場所に来て」
そしてスマホを取り出し、馴染みの警察に連絡する。
警察の1/3は神代とどっぷりだ。そして1/3は神代と琉依どちらを敵に回したいかで琉依の味方についている。残りの1/3が脅しもなく真っ当に警察の仕事をこなしている。
少し待つと冴木がやってきた。犯人を受け渡す。
「本当に夜明のおかげで、成績よくなったわ」
笑いながら話す中年の警察官である冴木を感情のない目で見つめる。
「あっ、そう。ならあとはよろしく」
そして家路に向かう。犯人がどうなろうと琉依には知ったことじゃなかった。
♢♢♢♢
昨日の事を思い出していると零が笑いながら声をかけてきた。
「お嬢はまだ先が長いんだから、その後のことも考えろよ、俺も親父もお嬢の幸せを祈ってるんだぜ」
そう言って零はウィンクをする。そして立ち上がった。
「まあ、無理強いはしないけどな。主人に苦言を呈すのは従者失格だしよ」
「そうか?」
「俺の中ではな、あんたは俺が仕えるに足るって思った初めての人間だ、上手く俺を使えよ?」
そういうと、零は去っていった。次の駅で降りるのだろう。
1人になった琉依は考える。先のことを、幸せとはなんだと。
殺し合うことが定められている家で生まれて幸せなど手に入れて良いわけがない。自分の体には人殺しの血が流れているのだから。しかし、思う。
神代家に存在がバレていない双子の兄を。琉依達を取り上げた医師が死んだと偽って父親の手に渡したと後から聞いた自分の片割れを。
会うことはできないが、片割れが幸せに普通の生活が送れるならそれが自分の幸せなのではないかと。
狂っている家に生まれた狂っている自分には普通の生活も人並みの幸せもどちらも不要で、手に入れられないものなのだから。
気づくと、長く考え事をしていたようだと琉依は思った。ちょうど車内放送が終点に着くと告げる。琉依は座席の上の荷物棚から自分の荷物をとる。空いてる隣の席に置き、駅に着くのを待つ。
もうすぐ自分が唯一人間になれる、安心できる場所に着く。琉依は無意識に口角を緩ませていた。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、火曜日21時更新予定です。
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