第1話 琉依と墓守
夕食は兄弟揃って食べる事になっている。少女は食堂に行くと既に次男から五男まで全員来ていた。長男は首都の会社に就職しており、この家に住んでいない。
椅子に座る。そしてそれぞれが食事に手をつける。少女はスープを一口飲む。いつも通りにどれかの兄に毒を仕込まれている。もうなれた毒入りの食事にも飽き飽きしていた。
ちらりと兄達を見ると、次男がニヤニヤとこちらを見ている。
「効かないのわかってるのに、よく飽きないね」
思わず口から言葉がこぼれる。
「なんだと!?」
三馬鹿が怒り出す。しかし、五男は何が起きているか理解すらしていない。
「怒るなら、代わりに私の食事食べれば?」
少女がそう言うと三馬鹿は黙り込む。この3人ーー次男、三男、四男は毎食少女の食事に毒が盛られている事を知っている。順番に毒を盛っているからだ。しかし、少女に毒は効かない。産まれてすぐに毒を盛られたことで逆に毒に対する耐性がついている。
これが少女の食事の日常だった。
♢♢♢♢
暗い通路を少女が歩いている。茶色がかった黒髪が、少女が歩くたびに揺れている。通路は石造りでかなり昔から存在している様子が窺える。
しばらくすると開けた空間に出る。少女は迷わずに空間の先にある1つの部屋に向かう。
「琉乃いる?」
「あっ、琉依さん。どうしましたか?」
部屋の中で文字の練習をしていた少女ーー琉乃が不思議そうに首を傾げて立ち上がる。
「墓守に聞きたいことがあって」
部屋に入った少女ーー夜明琉依は長い髪を耳にかけて琉乃に向き直る。墓守と呼ばれた琉乃は気にした様子がない。開いていたノートを閉じて琉依をみる。
「なんですか? 私に答えられるかなぁ?」
不安そうな琉乃に琉依は笑う。大丈夫だよと表情が告げていた。その顔に琉乃は張り詰めていた息を吐く。そして姿勢を正した。そして琉依に頭を下げる。
「墓守が神代の一族の問いに答えましょう、何をお望みで」
「……私にそんなに畏まらなくてもいいよ、琉乃」
琉依はそう呟いた後、琉乃が顔を上げるまで言葉を紡ぐ。それを知っている琉乃は顔を上げた。それを確認して、琉依は口を開く。
「最近、ここの死体畑に新しいのきた?」
「いいえ、最後にここに送られてきたのは半年ほど前です」
琉依の問いに琉乃は驚く事もなく答える。
この空間は、神代家の地下にある。神代家とはこの辺りで昔から権力を持つ一族だ。大きな会社を経営しており、この街を古くから支えている。しかし、昔から邪魔者を秘密裏に排除する裏の顔を持っていた。
そしてこの場所、琉依は死体畑と呼んでいるが、ここは秘密裏に処理した人物を捨てる墓場だ。
ここの管理を任された琉乃は戸籍がない。前任の女を一族のものが孕ませて、産ませた子だ。その為、名前すらなくただ死体の処理を永遠にやらされていた。偶然この場所を発見した琉依が、彼女に琉乃という名と勉学を教えた。
それでもこの場所から出すことは出来ない。それをする為には神代を潰すか、次期当主になるしか道はない。
琉依は夜明の姓を名乗っているが、神代家の末の娘だ。次期当主になる資格がある。しかし、琉依は神代家との関わりから切りたく、叔父の協力を得て、戸籍から神代夜から夜明琉依に変えている。
何があっても神代の当主にはなりたくない。だから琉乃を救い出すには神代を潰すしかない。
「そう、それならいいや。それじゃ、私は今から従兄弟の家に行ってくるから、また戻ってくるのは日曜日になると思う。大丈夫だと思うけど何かあったら教えてね」
琉依はそういうと琉乃に笑いかける。今日は金曜日。明日から2日は学校が休みだ。琉依は神代家が嫌いだ。だから、休日は遠くにある従兄弟の家に避難している。従兄弟の家ーー高邑家は神代家の事を詳しく知らない。しかし、琉依の事を実の娘のように受け入れてくれる。だから、琉依は高邑家でだけは、人間でいれた。
「わかりました。私はもらったドリルを頑張ります。また日曜日の夜に」
ニコリと笑顔の琉乃に琉依も笑顔を返した。そして、琉依は部屋を出る。微かな悪臭を感じながら、広場のようになっている場所を見渡す。
この土の下に大量の死体が埋まっている。行方不明者として片付けられた歴代の神代家に逆らった人達だ。
私は何があってもここには埋葬されない。琉依はそう思った。この中には神代の当主になれなかった者達も埋まっている。
神代の当主選考は単純だ。当主が6人の子を作る。そして、1番下の子が高校を卒業したら6人で殺し合いを行い、生き残った者が次期当主になるのだ。神代の姓を名乗る者は全て人殺しの血を引いていると琉依は考えていた。自分から堂々と神代の姓を名乗る兄と呼ばれる人達の気がしれない。
琉依はそう思いながら広場を通り過ぎて、石造りの廊下を歩く。この死体畑に入る方法は3つ。死体として隠し部屋から地下に落とされるか、生きて秘密の通路を通るかの二択だ。
1つは神代家の外につながっているがほとんど使われていない。墓守は外に出ると言う思考にならないようにこの世界しか知らないように育てられているからだ。
「本当にこの家は狂っている」
それを自覚しながらも琉依がその身を神代家に置いている理由はただ一つ、自分が神代を潰す為の装置だからだ。神代を潰したい叔父達に物心がついた時からそう言い聞かされていた。洗脳と言っても差し支えない。
しかし、琉依は生まれながらに狂っていた。だからそれを受け入れた。神代を潰す。それだけが琉依の生きる理由だ。その為の歯車であり、装置である自分には感情なんていらない。
そう思っていた。伯母である高邑家に出会うまでは。自分より年上の2人のいとこ。そして温かい高邑の両親。あまりにも自分を人間扱いしてくれたこの家だけでは私は人間になれる。琉依はそう思った。
優しさの欠片も、琉唯を人間とも思ってない家族とは違う。
高邑家の人々はいつでも家に来て良いよと琉依に笑いかけてくれた。その言葉に甘えて、休日はどれだけお金がかかろうと通っていた。
お金は叔父を通して株で資産運用をしている為、困らない。しかしそんな普通ではない事を高邑家には隠している。高邑家は家のお金で通ってると思っているのだ。しかし、琉依は汚い金を使いたくなかった。
秘密の通路から隠し部屋に出る。そして、扉の向こうに気配がない事を確かめて、隠し扉から廊下に出た。そして、出かける為に自分の部屋へと琉依は戻った。
これから2日間人間になる為に、出かける準備を始めるのだ。
今日も最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
次回は、火曜日21時更新予定です。
続きが気になりましたら、ブックマークで応援していただけると非常に励みになります! ぜひ、よろしくお願いします!




