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清酒

1553年  6月 信濃国 花岡城 武田信之

 

 藤吉郎に任せていた清酒の製造が軌道に乗り始めたのでそろそろ売り出すことも考えていた。

「 直親、一度府中に向かう藤吉郎から清酒を5樽程持って来てくれぬか。 」

その日の内に荷物の準備を済ませ府中に向かった。父と側近衆で南信濃攻めの策を練っていたそうだが我らに会ってくれる事となった。父に呼ばれ評定の間に向かうとそこには頭を使いすぎ疲れ切っている男達が俺が持ってきた樽の中身に微かな期待を持ち見つめていた。

「 御屋形様、それに皆様方私から労いの品にございまする。直親、皆様方に漆の器と酒を振る舞いなさい。 」直親は、先ほど台所から借りてきた漆の器と酒をふるまった。

家臣たちは、初めてみる澄み切った酒に驚きながらも疲れたからだに一気に流し込んだ。しかし、武田晴信ただ一人だけこの酒の特異性に気づいていた。

「三郎、この酒お主が製造したのか?もっと量は、作れるのか?お主何処まで世が見えておるのだ。」

信之の真意は、こうだった。最初は、この清酒を高値で売り荒稼ぎする。大きくなればなるほど情報は、漏れやすくなるが米所の美濃を抑えさえすればすべて自領で賄うことができるので安く大量生産を行おうと考えていた。それを聞いた父上は、頷いていたが家臣たちは驚いていた。

「 三郎流石だ、三条を呼べ相談したき儀があると。三郎下がってよいぞ、後収入は、お主の懐にしまっておくが良いが武田家臣に売る時は、少し引いてくれぬか儂も気に入った。 」

「畏まりました。」そう言ってその場を辞した。

 

 この後武田家によって朝廷に清酒は、献上されることとなりさらには諏訪の巫女の口伝えで武田の酒は日の本を席巻した。

信之の懐には、多額の銭が入ることなりさらには父の悲願である甲州金の回収にも一役買った。

 藤吉郎も清酒の製造を他の者に任せ城下の開発に力を入れていた。もちろん他家からも草の者が紛れ込んできたが流石は、横目衆隠し通すことが出来ていた。


「 殿、武田家領国から孤児や武家の徒食者達を集めて参りました。 」

「 小山田殿が桜城に移り、岡谷は儂に与えられるそうだ。先に住んでいた者を尊重しつつ開発いたせ。そこでだ、お主に岡谷の城代を任せたい、内藤昌秀。」





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