69. 上級ダンジョンは簡単でない その1
「さてと、行くから」
上級ダンジョン。
ついにメイはその入り口に立った。
願いを叶えて貰い、現実世界の家族の元へ帰るために。
「(さて、どんなイベントが用意されているのかな。少しワクワクするから)」
メイはこの世界のダンジョンの特徴をすでに把握していた。初心者ダンジョン、初級ダンジョン、中級ダンジョンとこなし、上級ダンジョンにジャンケンゲームがあることも知った。それに加えて上級ダンジョンの情報提供掲示板を見れば誰でも分かることだ。
モンスターを倒しながら迷宮を探索し、階層ボスを倒して突破する。そういうありきたりな設定では無く、各階ごとにイベントが設定されていて、それをクリアすることで次の階に進める仕組みになっている。
イベント内容は力試しという意味での戦いの比率が多いが、知恵や勇気や技術を試されるタイプのものもそれなりにある。メイが初級ダンジョンで経験した倉庫番は後者のタイプだろう。
「なるほど、そうきたか」
ダンジョン一階に降り立ったメイ一行を待ち受けていたのは、某有名ゲームのミニゲームとして有名な『リアルすごろく』だった。入口付近に『何が出るかな』と歌いたくなる程度の大きさのサイコロが置かれている。
『すごろくチャレンジ。順番にサイコロを振って、一人でもゴールマスに到着すればクリア!ゴールにはぴったりじゃないと止まれないぞ。一度はじめたらギブアップできないから注意してね』
ルールは至ってシンプル。問題はすごろくの距離とマスの内容だ。
「ここから見た感じ、全部で60マスくらいだぞ」
「分かるの?」
「大体の広さを把握するのは得意だぞ」
罠作りの経験で得られた能力だ。罠を設置するには地形や誘導のしやすさなどを考えて位置と深さと幅を考える必要がある。そのため、その場所の広さや特徴を把握する能力が自然と鍛えられていた。
「もちろん、地下とかワープがあったら別だぞ」
「そうだね。すごろくに近づいてマスの内容を確認出来るみたいだから、行ってみるから」
全てのマスが公開されており、内容を確認した上で挑戦して問題無いようだ。
「先に進む、下がる、一回休み、スタートに戻るは定番として、モンスターと戦う、体力回復、能力禁止、特殊アイテム取得……案外普通の内容かな。でも死亡の可能性があるのが上級っぽいね」
例えば、能力が禁止された上でモンスターマスを踏んだら死亡する可能性が大だ。これまでのダンジョンでは油断せずに対処すれば大怪我をすることはあっても命を落とす可能性は低かった。だがこのすごろくは明らかに死ぬであろう選択肢が含まれていた。
「う~ん……運ゲーはきっついから……ん?」
どうやって攻略しようか悩みながらマスの内容を確認していたメイだったが、終盤にとんでもないマスを見つけてしまった。
「よし、帰るから」
メイ、上級ダンジョン攻略断念!
これからもセーラ達と一緒に異世界で楽しく過ごすのであった。
完。
「そうですね、帰りましょう」
「遊ぶぞー」
「ママー美味しいもの食べたい」
「あれ?」
そうは言ってもセーラ達は挑戦を勧めてくるものだとメイは考えていたが、予想外の反応が返って来たので訝しむ。
何故ならメイが見つけたマスには『無残、触手地獄に捕まってしまった』と書かれていたからだ。
絶対にメグが嫌がらせしたのだろうと思い込み、戻って苦情を言うつもりでもあった。
「私が言うのもなんだけど、みんなどうしたの?」
「あのマスはありえないです」
セーラが指さしたマスは触手地獄と書かれたマスだった。
「どういうこと?」
「だって『一週間の間メイに触れられなくなる』ですよ。そんなの耐えられるわけないじゃないですか!」
「え?」
メイは改めてセーラが指さすマスを確認するが、そこにはやはり触手地獄と書かれていた。
「もしかして、人によって違う?トモエは?」
「『落とし穴に触手を仕掛けられなくなる』だぞ」
「良いじゃん!」
「いーやーだーぞー」
メイとしてはとても安心できる罠なのだが、触手落とし穴はトモエの最も得意とする技であり、失われると戦略が狭まってしまうため悩ましいところだ。
「ソルテは?」
「『ニトロ薬を所持できなくなる』だってさーありえないよねー」
「なんだ『†たまこ†が正式な名前になる』じゃないんだ」
「ソルティーユだもん!ママのいじわる!」
ソルティーユがニトロ薬を持たなかったらただのダメ人間だ。制御が難しいとはいえ、高威力の爆発は捨てがたい。
「なるほど、それぞれが嫌がるペナルティが課せられるってことか」
三人ともメイの触手まみれを見てみたいが、それと引き換えに背負うリスクが高すぎるため、挑戦する意欲が失せていた。
「(精神的には即死だけど、ゲーム的にはそうじゃない。とはいえ、本当にこんなに『重い』ペナルティがあるゲームをやらせようっていうの?)」
精神即死ペナルティだけではなく運次第では本当に即死する可能性があるのだ。いくら上級とはいえ、完全に運否天賦に任せてギブアップすら許されないなどという設定が本当にありえるのだろうか。
メイはスタート地点に戻り、もう一度ルールを確認する。
『すごろくチャレンジ。順番にサイコロを振って、一人でもゴールマスに到着すればクリア!ゴールにはぴったりじゃないと止まれないぞ。一度はじめたらギブアップ出来ないから注意してね』
周囲を確認しても、これ以上のルールは書かれていない。
「(もしかして……でも想定外だったらとんでもないことになるから)」
突破口を思い付いたが、それが誤りであった場合は運頼りでこのすごろくを突破しなければならない。簡単には決断できず、勇気が必要だ。
「(まともに攻略しないための知恵と、それに委ねる勇気が試されてるのかな)」
メイはセーラ達を呼び、作戦を説明する。
「それなら大丈夫そうですね」
「さっすがメイだぞ」
「ママすごーい」
脳死のようにメイの考えを信じようとするセーラ達を見て頭が痛くなるメイだったが、反対されないのならそれはそれで都合が良い。
「よし、それじゃあ挑戦するってことで」
メイ一行のすごろく挑戦が決まった。
決まったが、最大の山場は初手であり、それが成功するかどうかだけの話である。スタート地点に立ったメイは大きなサイコロを両手で抱え、放り投げる。サイコロはコロコロと地面を転がり、二の面を上にして止まろうとする。
瞬間、くるりとサイコロが不自然に回転して六に変わった。
メイが力を使ってサイコロの目を強引に変更したのだ。
「よし、何も起きない!」
イカサマ行為で失格だの反則だのとのアナウンスは特に無く、問題なく六マス進むことが出来た。
メイの想像通り、このすごろくは知恵と勇気が試されるゲームだったのだ。もちろん単純に運で突破しても問題は無い。運もまたその人の力であると判断されるからだ。
「楽勝楽勝」
メイが少し悩んだだけで挑戦を決断出来たのは、仮にこの手段が防がれたとしても力で強引にすごろくを突破しようと考えていたからだ。神の理すらも凌駕する力を持っているからこそ可能な力業だ。ゆえに安心して自分の策を実行できたのだ。
「ふふん、セーラ達のサイコロだけ不幸な目にしよっかなぁ」
『ひいっ!?』
「ちゃーんと私の言うこと聞いてくれる?」
『(コクコク)』
「ほんとかなー?」
『(ガクガクブルブル)』
などとセーラ達を揶揄いながら、第一層クリアである。
――――――――
二層はジーマノイド含む十人の中から人間を当てるゲーム。これは実に簡単だった。
「落とし穴に落ちたくなければ答えるんだぞ」
トモエの脅しにより全員がゲロったからだ。それでも落とそうとする鬼畜トモエに十人が激怒するシーンもあったが簡単に突破。
三層はジーマノイドとの卓球勝負。最初は普通に勝負してみたが誰一人として敵わず一点すら入らない。未経験者が勝てる相手では無かった。ゆえに能力を使って強引に点を決めて勝利。
「うん、知ってた」
と哀愁漂うジーマノイドの後ろ姿を見てトモエが追撃で落とし穴に落とした。鬼畜すぎる。
四層は料理勝負。
料理の味や質は関係なく、数ある料理の中からチームの代表者が作った料理を当てれば勝利。メイの力を使って強引に突破するのが難しく、上級ダンジョンに入ってはじめて苦戦を予感させた。
「誰が作っても地獄だと思う」
トモエが作れば触手関係で見るに堪えない料理が並びそう。セーラやソルティーユが作れば間違いなく怪しい何かが盛られている。力をどう活用しても被害を受けることなく突破する方法が思いつかない。
しかし、解決案は案外簡単なことだった。
「そうか、私が作れば良いんだ」
メイには頼れる変態、セーラがいるのだ。どれだけ巧妙に似せた料理を作ろうとも、メイ本人が作った料理を彼女が見間違えるはずがない。一口齧って食べかけにでもしてやれば、より確実だろう。
「メイの料理メイの料理メイの料理メイの料理メイの食べかけメイの食べかけメイの食べかけメイの食べかけぐへへへ」
計算通り、セーラはメイが作った料理に駆け寄って平らげ、皿を舐め続けている。気持ち悪いが勝利は勝利。セーラをぶん殴りながらメイ一行は次の層へ向かう。
第五層はジーマノイドとのガチバトル。相手はメイ一行と同じ四人で勝ち抜き戦。メイの力とジーマノイドとの力と力のぶつかり合いが繰り広げられるかと思いきや、先鋒のトモエが触手地獄を繰り出して相手は即座に敗北宣言。不満のトモエは女性ジーマノイドだけを狙って罰ゲームと称して彼女達を落とし穴に落とす鬼畜っぷり。
人相手であればトモエの触手落とし穴で簡単に突破してしまうのであった。




