68. 仲間達の考えがどうにも分からない
「メイちゃあああああん行っちゃやだあああああああ!」
「ずっとここに居てよおおおおおお!」
「おいこら、触るな、撫でるな、脱がすな!この変態どもが!」
挨拶周りの最後はセーラの実家だ。気は進まないが、お世話になったからと勇気を出して訪れた結果がこれである。
「どうして帰っちゃうの!?」
「家族の元に帰りたいんで」
「なんだ。これからはここに住むと言うことか」
「勝手に家族扱いするな!」
「もう、照れなくて良いのよ。それじゃあお着替えしましょうね」
「照れてないし、家族でも無いから。というか、家族だとしてもいきなり脱がせてくるのは頭おかしいから」
相変わらずセーラの両親はメイに関してだけ何処かぶっ飛んでおり、色々な意味での恐怖を感じざるを得ない。
「お世話になりました。じゃそういうことで」
「あ、ちょっ」
「雑!」
「これ以上ふざけたら本気で行くよ?」
『ごめんなさい』
メイの雰囲気から本気であることを悟ったセーラ両親は、ようやく態度を改めた。
「でも寂しいのは本当よ」
「そうだな。せっかくセーラとも仲良くなれたのに」
「私は寂しくないから」
「そこは『そうですね、私も寂しいです。やっぱり帰らないで皆さんと一緒に暮らします』って言う所では?」
「こいつら本気でこの世界から追い出した方が良いと思うんだけど」
会話の端々にメイを諦めない気持ちがダダ洩れである。
「その重すぎる愛情はセーラに与えてあげて下さい」
「これ以上セーラに愛情注いだら、破裂しちゃいそうでな」
「どんだけ甘やかしてるの!?」
だからこそ、彼女の厄介な性格が矯正されないまま育ってしまったのだろう。日本であれば将来が心配なところだが、優しさしかないこの世界であれば問題なく生きて行ける。そう思ったメイはこれ以上考えるのを止めた。
「数日だけお世話になります」
「数日と言わずもっと」
「ただし、場合によっては速攻お暇させて頂きますのでご注意を」
「しょぼーん」
彼らはある意味ウェザーと同じ匂いがする。自分が欲しいものを手に入れるためには洗脳すら厭わない、そんな匂いが。クギを指しつつも、お風呂やトイレや寝ている時など、全力で注意しなければならないだろう。
「(なんかもう帰りたくなってきた)」
家族家族と連呼するセーラ両親を見ていたら胸焼けがし、実の家族の元へ帰りたいという気持ちがより強まるメイであった。
――――――――
「それじゃあ、みんなの気持ちを聞かせて貰おうかな」
セーラの家に来たのは、セーラ両親に別れの挨拶を告げるためだけでは無い。じっくりと腰を据えられる場所で、メイが上級ダンジョンに挑戦することについて仲間達の考えをしっかりと聞いておきたかったのだ。なし崩し的に一緒についてくる雰囲気ではあるが、ダンジョンクリア後のことについてどう考えているのか、今のうちに聞いておきたい。クリア後にこうしてゆっくり話をする時間があるとも限らないのだから。
そのためのパジャマパーティー。セーラ両親も突撃してこようとしているが、部屋の入り口に力で結界を張って防いでいる。
「まずはセーラから。そもそもセーラが上級ダンジョンクリアした時ってどうなるの?」
「わたくしの場合は願いを叶えてもらった後にも、こちらの世界に残る形になります」
「願いが叶うだけってことか。ということはソルテも同じ?」
「多分そうかなー」
セーラとソルティーユは元々この世界出身であるため、ダンジョンで死亡したり完全制覇した場合は変わらずこの世界に居続けることになる。
「それじゃあセーラとソルテはどこまでやるの?願い叶えちゃって良いの?」
どんな願い事でも叶えて貰える。破格の報酬なのだから、叶えるのが難しい心からの願いを叶えてもらうべきである。それが無いにも関わらず上級ダンジョンをクリアしてしまったら勿体ない。
「わたくしは願いがございます」
セーラは願いがあるとはっきりと宣言した。
「私はまだ無いけど、ギリギリまでママと一緒に遊びたいから着いていくー」
ソルティーユはまだ願いが無いが、だからといって上級ダンジョン挑戦パーティーから外されるのは嫌であり、引き返せなくなるその時まで一緒に居たいと言う。
「分かった。それじゃあトモエは?」
トモエはメイと同じく召喚組だ。上級ダンジョンをクリアすると願いが叶った後に元の世界に戻される。この住み心地の良い世界にまだ居たいと望むのならば、まだクリアすべきではない。
「Meも願いは決まってるぞ。メイが戻るならこの世界に残る意味が無いし、一緒にクリアするぞ」
「う゛っ……」
トモエの想いが重い。ギャグでは無く、本気でそう感じるのだ。もちろん、嬉しくもあるが。
「そうだ、それも聞かないと。みんな私がここに残るように強引に止めるのかと思ったけど、普通に協力してくれる雰囲気だよね。ダンジョン挑戦時に突然裏切るとか止めて欲しいから」
彼女達であればそのくらいのことは平気でやりそうだ。ゆえに、この場でメイとの別れについての彼女達の考えを聞いておきたかったのだ。
「もちろん寂しいです。ですが、わたくしはメイの意見を尊重したいと考えております」
「嘘くさい」
「メイが帰りたいって言うなら助けるのが友達だぞ」
「嘘くさい」
「ママに幸せになってもらうのが私の幸せだから」
「超嘘くさい」
三人は上辺だけのありきたりな言葉を並べる。不信感しか得られない。
「もうみんな本音で話してよー!安心してダンジョンに挑戦できないから!」
上級ダンジョンはこれまでにないくらい難易度が高いはずだ。己の力を鍛えられたとはいえ、いつ裏切られるかびくびくしながら挑戦して突破出来るとは思えない。メイは『安心』が欲しいのだ。
「本音ですよ。わたくしはメイが望むことを手助けしたいのです。この世界で私に手を差し伸べてくれて、たくさんの楽しいことを教えてくれたメイに、心から感謝しているのです。メイとのお別れはとても悲しいですが、メイの望みが叶うのならばそれが一番です」
「じゃあモンスターと戦う時に、エンドレス回復止めてくれる?」
「メイとのお別れはとても悲しいですが、メイの望みが叶うのならばそれが一番です」
「おいコラ」
まともなことを言ってるようで、結局いつもの流れであった。
「メイの本音も聞きたいぞ」
「え?」
「私もママの気持ちが知りたーい」
メイの視点では自分が快適にダンジョンをクリアするための情報収集でしか無かったかもしれない。だがセーラ達にとってはそうではない。これはメイとの『別れ』についての話であり、セーラ達だけが話をするのは変な話だ。本音を話すのならば全員で。本心を中々表現してくれないメイが口火を切ってこそ、話をしやすくなるものだ。
「…………やだ」
『ええー』
「そこは照れながらも言う場面だぞ」
だがあろうことか、メイは拒否した。これでは仲間達の気持ちなど聞き出せない。
「トモエの胸にこっそり忍ばせてる録音機器を排除したら考えなくも無いから」
「ばれてたぞ」
「そしてそれを囮にして不自然に私の方を向いているあのぬいぐるみに仕込まれている隠しカメラもぶち壊して、ソルテが作った自白剤をこっそり入れた私の目の前の飲み物をトモエが飲んでくれたら考えなくもない」
「わーん、なんで気付くの―」
「あんたらの性根、ほんとどうしようもないから」
結局のところ、このメンバーで真面目なお話など出来ないのである。
「もういいや、邪魔するだけじゃなくて私の願いを自分の願いで打ち消したり、向こうに戻った私を無理やりこっちに転移させて帰れなくさせるとかやめてよね」
「その手がありましたか!」
「さも今気づいたかのような顔してるけど、毎晩あんたらがこのこと話をしてるの、こちとら大分前から把握してるんじゃああああああああ!」
『ごめんなさーーーーい!』
そうなのだ。
メイが寝入った後、セーラ達はこっそりと集合し、どうやってメイをこの世界に引き留めておくかの会議を毎晩実施していたのだ。メイは寝ている間に自分が不埒な扱いをされているのではと不安に思い、この世界に来てから各所にこっそりと監視カメラを設置していた。その中に、会議の内容がばっちりと録画されていたのだ。
「もし私が戻るのを邪魔したら、本気でブチ切れるから。あんたら私のこと優しいだの底抜けにお人好しだの言うけど、断言するから。この世界ごとマジでぶち壊してやるって」
またまたそんなこと言って、結局お優しいメイは仕方ないなぁなんて言いながら付き合ってくれるんでしょ。
などと言えるような雰囲気は無く、今回ばかりは本気でメイが激怒していることが良く分かった。メイにとって家族は特別なものであり、その家族との関係を邪魔しようものなら他人が不幸になろうが死のうが関係ないと本気で考えられる人物だ。
『ひいいいいい!』
異世界組はここにきて、ようやく自分達が本気でメイとの別れについて考えなければならないのだと理解させられた。その後、メイ抜きで本気の話し合いが行われることになり、結果、メイの邪魔をしないから一緒についていくと宣誓したのである。なお、メグに協力してもらい、神の力を借りた契約をしてまで、である。




