63. 決して卑怯ではない
「はっはー、やりましたデース」
「よく分かったね」
メイは自らが仕掛けられた罠を看破されたが、この相手であればそのくらいはあり得ると思っていたからか、大きく動揺することなく対応する。だが会場内の観客は別だ。動揺して何が起きたのかと大騒ぎ。
「なかなか良い作戦デーシたが、私には通用しまセーンよ」
「参考までに、なんで分かったか聞いても良い?」
「それは秘密デース」
「……そっか」
時間が経っても全く興奮冷めやらぬ観客たちとは裏腹に冷静なプレイヤー達。
『すりかえた?』
『でもそんなことやっているようには見えなかったぜ』
『もしかしてあの子、いかさまのプロ?』
『手品師とか』
『でもあれ見破る方もすごすぎだろ』
『結局いつもの流れになっちまったな』
『どうやって勝てば良いんだよ!』
相手には見破られはしたものの、多くの人を驚かせることが出来て大満足のメイであった。
だがいつまでも愉悦に浸っている暇は無い。状況は悪く、ジーマノイドの作戦通りに事が運ばれている。更に何らかの策を打たなければ敗北一直線だ。
「(どうして分かったのかな。ジョーカーを引いたときみたいに自慢げに説明してくれたら良かったのに)」
だが説明しなかったということもヒントになる。
「(真っ当な方法では無いから説明できなかったとか。よし、見破った方法を探ってみるから)」
いつまでも考え込むわけにはいかず、ゲームは次のターンへと進行する。
『ドロー!』
引いたカードは『赤 (グー)』
メイの手札は『赤 (グー)』『緑 (チョキ)』『青 (パー)』『伏せカード』
先ほどの手札からは緑が一枚減っている。つまりメイはジョーカーを緑に偽装していたのだ。
「(考えられるのは五つ。まずはカードにICチップのようなものが内蔵されていて相手のサングラスに全て表示されている。でもこれなら最初に私が指摘した時点でサングラスを外さないのはおかしいから)」
このイカサマを仕掛けたとなるとジーマノイドの圧勝は決まっている。相手と本気で戦いたいならばこのイカサマはやりすぎだ。仮に、見破れなかった方が悪い、という意図があるのならば最初にメイが指摘した時点で相手の要望は満たしており、そのままこのイカサマで圧勝する意味がない。
「(二つ目はこのマシンに仕掛けが為されている可能性。でもそれは絶対にありえないって言ってたっけ)」
カードが台座に吸い込まれた後、メイの手札に応じて自動的にジーマノイドの手札が変更されるようなイカサマであれば、これまたやりすぎだ。この点に関しては事前にメグからあり得ないと聞いていた為、メイは最初に確認していなかった。
「(三つ目は透視のたぐい。でもこれは私がガードしているから不可能だから)」
カードの裏面は、白く色づけしたメイの力で覆い透視を防止している。神の理を凌駕するメイの力を上回る程の透視能力を目の前のジーマノイドが保持しているとも考えにくい。
「(四つ目は私の一挙一動を分析してカードの内容を見破っていること。これは無くはないけど怪しいから)」
メイがジョーカーを引いた時のように、価値の高いものを扱う時の僅かな動きの違いを察知してカードの内容を予測する。実際にジョーカーを見破られたとはいえ、そのような超人染みた技巧を本当に相手が持っているのだろうか。
「(そして最有力なのが五つ目。私のカードが何らかの方法で覗かれている可能性だから)」
メイの手札を裏側から透視することが出来ないのなら、表側から見れば良い。このイカサマの可能性が最も高いとメイは考えた。
「(少し揺さぶってみようかな)」
メイは手札を全て裏側にして台に置き、一歩下がる。
「どうしたのデースか?」
「ちょっと体をほぐそうかなって。一度リラックスした方が新しいアイデアが出るって聞いたことあるから」
メイは手足を大きく伸ばし、軽い柔軟体操をはじめる。長い間集中して考えっぱなしになると同じ思考から抜け出せずにドツボにはまることがある。一度思考をリセットすることはとても大事なことだ。
「なるほど、それは良い案デースね。私もやりまショーウ」
メイの真似をするジーマノイド。傍から見れば緊張感が和らぐ瞬間のはずだが、このやりとりですら何らかの裏があるのではないかと会場は疑いの眼差しで二人を観察している。
「よし、それじゃあ考え直すから」
柔軟を終えたメイは再度台に近づき、カードを手に取る。裏返しのまま数回シャッフルして再度手札を見る。しばらく考えた後、メイは一枚の『青 (パー)』カードを手に取り台に伏せる。追って、ジーマノイドも一枚を選択して台に置く。
だが、このタイミングではまだセットはしていない。セットポジションから少しずれたところに置いたのだ。
メイは伏せたカードを手に取り、再度その色を確認する。すると、『青 (パー)』だったはずのカードの色が『赤 (グー)』へと変化する。そしてそのまま同じカードを伏せて今度はセットポジションにセットする。
これは先ほどメイが仕掛けた罠と同じ方法を使った技だ。
メイはゲーム開始前に、『黒 (ジョーカー)』を『緑 (チョキ)』の力で覆い、『緑 (チョキ)』一枚を『黒 (ジョーカー)』の力で覆ったのだ。つまり『黒 (ジョーカー)』を引いたあのターンでは、実際は『緑 (チョキ)』を引いており、今もなお台の隅に置かれているのは『緑 (チョキ)』のカードである。そして、手札にあった『緑 (チョキ)』の力を解除し、『黒 (ジョーカー)』に戻してセットした。
ジョーカーを使ったブラフをするために、黒と緑の色を入れ替えたのだ。
今度はその力を相手のイカサマを暴くために活用する。
最初に『青 (パー)』をセットしたため、相手は『緑 (チョキ)』をセットするはずだ。あるいは『緑 (チョキ)』を持っていなければ『青 (パー)』で引き分け狙いだ。そして本当にメイの手札が見られているのであれば、『青 (パー)』を『赤 (グー)』に変えたことにより相手は『青 (パー)』に変更するはずだ。相手から見たら、一度伏せたカードを再度セットしなおしただけにしか見えないのに、だ。
結果、相手はメイの想像通りにカードを入れ替え、メイはこのターンの勝負に敗北した。
『ああ……やっぱりいつも通りの展開か』
『あいつに勝つ人は出てこないのかな』
『可哀想だけど、勝負はもう決まったわね』
まだ一勝一敗の五分であるにも関わらず、会場内はすでにメイの負けが決まったかのような雰囲気に包まれる。
『メイー!これからですよ!』
『そうだぞ!まだ同点だぞ!』
『ママー!これからだよー!』
仲間達の声援に、軽く右手を挙げて応えるメイ。
「はっはー、まだ闘志は消えてないようデースね」
「当たり前だから」
先ほどのメイの行動で、最初に伏せた時点で本当のカードの色が見破られていなかったこと、そしてカードをセット後に相手の手札が自動で変わるようなイカサマではないことが分かった。もしこれらのイカサマを使っていたのならば、メイが二度目に伏せた後にカードを変更する必要が無いからだ。
手段は分からないが、十中八九メイの手札はどこからか覗かれている。メイの斜め後ろ、観客席でメイの手札が見える辺りにスパイが座っていて、情報をジーマノイドに伝えているのかもしれない。
そうと分かれば罠をしかけるだけだ。これまではカードを伏せる前に力を解除して本当の色が覗けるようになっていた。それならば今度は伏せるまで偽の色で騙すだけだ。
結果、次の勝負にメイは勝利した。
「なんということデース!」
ここにきてようやく素の感情を見せたジーマノイド。相手の手札が見えるという圧倒的に有利な状況にも関わらず黒星をつけられたことに驚きを見せる。
『うっそだろ。あの子勝っちゃったよ』
『ついに二勝目をもぎとった!』
『これもしかするとこのまま勝つんじゃね?』
『すげえええええ』
静まっていた会場が、再度爆発的な歓声に包まれる。
『きゃーー!メイ素敵ですーー!』
『それでこそメイだぞーー!』
『わーい!』
セーラ達も当然大興奮だ。
「(このまま押し通す!)」
メイは再度同じ罠を仕掛け、トドメの三勝目を狙いに行く。
「そう簡単には負けまセーン」
だがメイは油断してしまった。相手は百戦錬磨の相手。イカサマを破られただけでそのまま対処もせずに負けるような存在ではない。
「はっはー、追いついたデース」
「しまった!」
メイが罠を仕掛けていることを予測されてしまったのだ。メイが油断しなければ、ジーマノイドが対処して来る可能性に気付けたかもしれないが後の祭り。メイは自分のミスであることを認めて最終戦に気持ちを切り替える。
この勝負、序盤は本気の読み合いを行い、中盤はイカサマの騙し合い、そして終盤に来て再度読み合いに戻った。メイが仕掛ける色が本当であるのか、偽物であるのか、それをジーマノイドが推理して見破るという流れだ。
「私はこれにしマース」
だがここに来て、ジーマノイドが先にカードを選択した。中盤以降、メイがカードを選択するのを確認してから自分のカードを選択していたが、それを止めたのだ。メイのカードの色を覗いたとしても、最早信用はならない。それならばそれ以外の情報、ここまでの流れやメイの性格や残り手札の情報を使って推測して見せる。それを乗り越えて勝利して見せなさいというジーマノイドからのメッセージだ。
メイはその意図を正確に読み取り、答えを返す。
「今更そんな殊勝な態度を取られても怪しさしか無いから。ということで私はこれにするから」
あくまでも相手のことは信じられない。
他に何かイカサマを仕掛けているのかもしれない。
そう言いながらメイは伏せて横に置いてあったカードを中央へと移動させる。
「ここでそれを使うデースか!」
「これなら情報が全く無いからね」
『黒 (ジョーカー)』であったもの。残りの手札の情報からするに、『赤 (グー)』『緑 (チョキ)』『青 (パー)』のいずれの可能性も残っているカード。それをメイは場に出した。
何故か。
相手のイカサマを気にしたからか。
不気味な行動で相手を牽制しているのか。
否、ここでこのカードを出せば盛り上がると考えたからだ。
『この嬢ちゃんすげええええ』などと言われるかもと考えたからだ。
欲望全開である。
ジーマノイドはメイの動きを見てもカードを変更しなかった。
そのバトルの結果……
『メーイ!メーイ!メーイ!メーイ!』
スタンディングオベーションからの『メイ』コール
メイは広い会場のど真ん中で、歓声を一身に受け、最高の気分を味わっている。
「(めっちゃ気持ち良い)」
ノリで右腕を力強く掲げたりなんかして、サービスを忘れない。
「メーイー!」
そんなメイの元に、観客席からセーラ達がやってくる。
「きゃっ!もうセーラったら」
思いっきり抱きしめようと飛び込んでくるセーラを立ったまま何とか受け止める。勝者が無様に倒れるわけにはいかないのである。
「凄かったぞ。良くあの流れで勝ったぞ」
「ママ格好良いー!」
「ふふん、私にかかればこんなもんだから」
ドヤ顔で自慢しまくるメイ。そのくらいのことは当然だと仲間達も苦笑いでメイを褒めたたえる。
この日の勝負は伝説として語り継がれることになる。
だが、人々は知らない。
メイの勝利は決して美しいものでは無かったのだということを。
メイは最初からジーマノイドの胸元に小さな力を滑り込ませ、そこに相手の手札を映し出して覗き見していたのだ。負ける要素など無く、どうすれば盛り上がるかだけを考えてプレイしていた。そのことを知ったら、多くの人がメイを白い目で見ること間違いない。
世の中には知らない方が良いことがあるのだ。




