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62. エセデュエルでも手を抜かない

『デュエル!』


 まずは準備としてお互いに山札から三枚のカードを引く。


 メイが引いたカードは『赤』『青』『青』


 ゲームの準備はこれだけ。この先、ターンの最初に山札から一枚を必ず引く。そして手持ちのカードから一枚を選び場に出し、相手のカードと比較して勝敗を決める。これを延々と繰り返すだけのゲームだ。


 そして最初のターン。


『ドロー』


 お互いに山札からカードを一枚引く。メイが引いたカードは『緑』。つまりメイは『赤』『緑』『青』『青』の四枚のカードの中から一枚を選択し、場に出さなければならない。


 そして肝心の勝敗を決める方法は『じゃんけん』方式である。


 『赤』は『緑』に勝つ。

 『緑』は『青』に勝つ。

 『青』は『赤』に勝つ。


 『赤』がグー、『緑』がチョキ、『青』がパーと考えると分かりやすい。この世界に召喚された人々は皆、召喚元の世界にじゃんけんと同様のゲームが存在する。ただし、指の形などが微妙に異なるため、公平を期すためにこのゲームでは色で判断させている。


「(バランス良く来たけど、ジョーカーは無しか)」


 そしてじゃんけんとは違うのは、それぞれの枚数に制限があることだ。どこかで聞いたことある設定とか思ってはならない。『赤』と『緑』と『青』はそれぞれ三枚ずつ。そしてジョーカーとして『黒』が一枚。『黒』は全ての色に勝つ最強のカードだ。


 これらの力関係に従って、先に三勝した方が勝利となる。


「(このゲーム、最初の一枚が難しいんだよね)」


 これが普通のじゃんけんであれば、最初の一枚は完全に運となる。どのカードを出せば良いか考えるきっかけとなる情報が全く無いからだ。このゲームではその運要素を少しでも排除するための工夫がなされていた。


 『赤 (グー)』『緑 (チョキ)』『青 (パー)』『黒 (ジョーカー)』の順番で、重みづけがされているのだ。この重みづけがどこで効いて来るかと言うと、どちらも三勝せずに引き分けとなった場合である。より重みが高い色で勝った回数が多い方が勝利となるルールになっている。例えばお互いが『赤 (グー)』『緑 (チョキ)』と『赤 (グー)』『赤 (グー)』で勝利した場合、重みが高い『赤 (グー)』で二回勝った方が勝利となる。


 この重みづけによってカードの価値が変わるため、初手であってもどのカードを出すべきか悩めるようになっているのだ。


「私はこのカードにするから」

「はっはー、案外悩まなかったデースね」

「いやいや、滅茶苦茶悩んだから」

「冗談が上手いデースね」


 これは単なる言い合いではない。相手から情報を引き出すための言葉を使った戦いでもある。相手のカードを読むための心理戦。それこそがこのゲームの本質なのだ。


 メイは情報を渡さないようにジーマノイドの言葉を軽く流してカードを場にセットする。ジーマノイドはそんなメイを見て、少し考えてから場にセットした。


 セットされたカードは台に吸い込まれ、機械で色が読み取られて自動的に巨大なスクリーンに色が表示されるという仕組みだ。


 スクリーンにカウントダウンが表示され、カウントゼロと同時にお互いの初手の色が表示される。


 最初のターン、メイが選んだ色は『赤 (グー)』、ジーマノイドが選んだ色は『赤 (グー)』。引き分けである。


「はっはー!『赤』を出すとはヤーリマースね」


 このゲームでの重要なポイントは、最も価値の高い『赤 (グー)』をどのタイミングで使うかである。『赤 (グー)』で勝てばお互い二勝止まりの時に有利になるため是非とも勝ちたいが、負けて失われるのは勿体ない。そして、相手に『赤 (グー)』で勝たせたくないとも思うのが人間の心理としては当然の流れだろう。


 ではその心理を踏まえて最初に何を出すか。

 まず候補に挙がるのは『価値』が低い『青 (パー)』である。


 お互いに差が無い最序盤では、カードを選択する明確な理由を考え辛い。例えばこれが終盤であれば、相手が『赤 (グー)』一枚、『緑 (チョキ)』三枚、『青 (パー)』零枚だから『緑 (チョキ)』が出て来る可能性が高い、といった推理が可能であるが、スタート時点ではそのような推理は不可能だ。

 特に理由が無いのに価値が高いものを出して負けるというのは勿体ない、と感じるのが人間のサガであろう。負けるならせめて考えが読まれて負けたい。ゆえに価値の低い『青 (パー)』であれば選択するのに心理的な抵抗が低いのである。


 次に候補に挙がるのが価値が『青 (パー)』より一段高い『緑 (チョキ)』だ。


 ここでプレイヤーは『緑 (チョキ)』と『青 (パー)』のどちらを出すべきか悩み、気付く。相手も同じことを考えているのであれば『緑 (チョキ)』を出せば負けは無いのではないか、と。カードの価値による心理的な抵抗を考えると『緑 (チョキ)』一択であると。


 ここまでは少々頭の回る人物であれば誰でも思い付くことである。問題は、この先。


 『緑 (チョキ)』一択であるならば、それこそ『赤 (グー)』を出せば勝つ可能性が高いのではないか。


 理屈で言えばその通りだろうが、心理的にはこれを選ぶのは簡単ではない。『赤 (グー)』は可能な限り勝率の高い状況で利用したいという想い、そして価値の低い『青 (パー)』を最初に候補として考えたため相手がそれを出してくる可能性があるのではないかという疑い。


 これらの想いと疑念により『赤 (グー)』を出すには大きな心理的抵抗を越えなければならない。


 もちろん、相手がこのように理屈立てて考えているとは限らない。何も考えずに運否天賦に任せて適当にカードを選択している可能性もある。だが、この勝負に限ってそれはない。ジーマノイドが希望したのは真っ当な『勝負』だ。相手の思考を読み策を巡らせ勝つために全力を尽くす相手と勝負したい。ゆえに、運のみを頼りに行動することなどありえない。


 結果、メイは心理的な抵抗を突破し、『赤 (グー)』を選択した。


「ここで『緑 (チョキ)』を出す人も多いのデースよ」

「ふ~ん、つまんない人だね」


 もちろん、偶然というわけではない。メイは事前にこのゲームを分析し、初手は『赤 (グー)』しかないと判断して勇気をもって選択した。メイは『緑 (チョキ)』の手をつまらないと評したことでジーマノイドに『赤 (グー)』を選んだのは偶然では無かったということを暗に伝えた。


「はっはー、面白くなってきましたデース!」


 次のターン。


『ドロー』


 お互いにカードを一枚補充する。メイが引いたカードは『緑 (チョキ)』。メイの手札はこれで『緑 (チョキ)』『緑 (チョキ)』『青 (パー)』『青 (パー)』であり、偏ってしまった。


 初手は決め打ちであったメイだが、ここからは随時考える。全てのパターンで決め打ちであれば、それまたジーマノイドの希望する相手のとの駆け引きを駆使した勝負とはかけ離れたものになってしまうからだ。


「(お互いに『赤 (グー)』を一枚消費。当然次は初手よりも更に『赤 (グー)』を出しにくくなったから『緑 (チョキ)』が最有力。だけどだからこそ『赤 (グー)』を出すチャンスとも言える)」


 だがメイの手札には『赤 (グー)』は無い。

 手札とジーマノイドを交互に確認し、悩みに悩んだ末、一枚を選択する。


「選び終わりましたデースか」

「うん、いいから」

「それでは勝負デース」


 カードが台に吸い込まれ、スクリーンにカウントダウンが表示される。二度目の勝負、その結果はメイが『青 (パー)』でジーマノイドが『赤 (グー)』、メイの勝利である。


『やったー!メイが勝ちましたー!』

『メイすごいぞー!』

『ママーその調子だよー!』


 観客席のセーラ達は大騒ぎだが、その周囲の人は喜びながらもどことなく渋い顔をしていた。


「まさか『青 (パー)』を出してくるとは驚きデース!」

「初手でお互い迷うことなく『赤 (グー)』を選んだから、今回も迷わないかなって思って『青 (パー)』で仕留めにいったから」


 メイはジーマノイドの雰囲気から『赤 (グー)』を出すのに抵抗は無さそうだと察していた。また、メイのように裏をかいて『青 (パー)』を出してくる可能性も考えていたが、どちらにしろ『青 (パー)』を出せば負けは無いと踏んでいた。


 これでメイが先手をとる形になった。

 観客席ではセーラ達がメイが優勢になったことを喜んでいる。


『これで勝てそうだぞ』

『そうなのですか?』

『このゲーム、先手を取った方が滅茶苦茶有利なんだぞ』

『ジョーカーで一勝は固いから、二勝したようなものなんだよねー』

『ソルテの言う通りだぞ。これで勝利にリーチがかかったようなものだぞ』


 しかもまだ一回は負けても良いという心理的なアドバンテージもある。まだ確定ではないが、非常に大きなリードを広げたと考えてもおかしくはない。

 しかしそんな楽観的なセーラ達に周囲の人々がクギを刺した。


『いや、そうとは限らないぞ』

『そうそう、この展開っていつもと同じなのね』

『どういうことでしょうか?』

『これまでの試合は挑戦者が先制して、逆転されるっていう流れがほとんどだったんだ』

『ここからジョーカーを引き分けで潰されてからの三連敗。あのお嬢ちゃんもそうならないと良いが』

『そんな……』


 どうやらまだ安心は出来ないようだ。むしろジーマノイドの想定通りの展開で進んでいるような雰囲気すらある。


「それでは次のターンを開始するデース」

『ドロー!』


 三ターン目、メイは引いたカードを確認する。


「ふふふ、どうやらジョーカーを引いたようデースね」


 ここで、ジーマノイドがメイを揺さぶりにかかった。


「どうして分かるの?」


 メイは変に焦ることもなく、普通に反応を返す。


「良いデースね。冷静に答えてマースね。ですが残念ながら引いた時のあなたの振る舞いから、ジョーカーを引いたことは明らかなのデース」

「私、何か特別なことをした覚えは無いから」


 メイはドローする時に何のカードが来ても同じ反応をするように細心の注意を払っていたのだ。


「確かにあなたの偽装はほぼ完ぺきデーシたが、私の目は誤魔化せまセーン。今のカードを引いたときに、ほんのわずかに呼吸が止まりマーシた」

「この距離でそんなのが分かるの?」

「もちろんデース。私は目が良いのデース」


 10メートル以上も離れているのに、相手の呼吸の僅かな違いを見分けられるなど、メイには信じられなかった。だが相手はジーマノイドであり人間とは違う何らかの能力を持っている可能性があり、サングラスも怪しい。また、メイを揺さぶるための嘘である可能性も考えられる。これらの考えを検討しながら、メイは軽く返答する。


「呼吸ってことは胸ばかり見てたんでしょ、変態」

「はっはー、これは一本取られましたデース」


 全く悪気を感じさせずに笑うジーマノイドを見ながらメイは考え決断する。ここが勝負のタイミングだと。メイも事前の調査でこのジーマノイドの異様な勝率を把握していた。おそらくここから先は普通に考え勝負したら間違いなく負ける。


「流石だね。その通りだよ」

「フワッツ!?」

「私が引いたのは確かにジョーカーだよ、ほら」


 なんとメイはあろうことか引いたばかりのカードをくるりと回転させ、相手に見せたのだ。そのカードの色は紛れもなくジョーカーである『黒』。ジーマノイドの推理が正しいかどうかはまだ確定していなかったため、隠し通そうとすることも出来たはずだが、メイはそうしなかった。


「バレちゃったなら仕方ないよね、これは使わないようにするよ」


 そしてそのカードを裏側にして伏せ、台の隅の方へ移動させた。


「どういうつもりデースか」

「さあてね。推理してみたら?」


 動揺するジーマノイドを前に不敵に笑うメイ。あまりの展開に会場も大きくざわついている。


『どういうことなのでしょうか?』

『メイのことだから意味があるとは思うけど、Meも分からないぞ』

『でもこれでジョーカーを使って引き分けには出来なくなったよね』


 相手が先にジョーカーを使ったらこちらもジョーカーを使うよ、という意思表示なのだろうか。その場の誰もが、その程度の理由しか考えられなかった。


「はっはー、面白いデースね。こういう相手を待ってましたデース」


 メイの手札は『緑 (チョキ)』『緑 (チョキ)』『青 (パー)』そして伏せられた『黒 (ジョーカー)』。しばらく悩んだのち、メイは一枚のカードを場に伏せる。


 その姿を見て、ジーマノイドは暗い笑みを浮かべ、一枚のカードを選択した。


『相手は『赤 (グー)』が残り一枚ですので、『緑 (チョキ)』を出せば負ける確率は低いのですよね?』

『普通に考えればそうだぞ。それに相手は山札の中に『赤 (グー)』があるかもしれないから、『緑 (チョキ)』は更に安全だぞ』

『それを予想して持ってたら『赤 (グー)』を出してくるかもしれないけどねー』


 セーラ達はメイの真後ろに座っているため、体が邪魔してメイが何のカードを持っているのか見えない。ゆえに、メイの考えを想像しながら展開を楽しんでいる。


「それでは勝負デース」


 セットされたカードが台座に吸い込まれてカウントダウン。

 スクリーンに表示されたカードは会場全体を驚愕に揺れさせたものであった。


 メイ、ジーマノイド、共に『黒 (ジョーカー)』

 引き分けだ。

いや、それは無いだろ。というツッコミはなしでお願いします。

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