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60. これは道場破りではない

「メイメイメイメイメイー!」

「たまこたまこたまこたまこー!」

「ソルティーユだもんソルティーユだもんソルティーグっ……メイのいじわるー!」


 メイが公園のベンチでジュースを飲みながら休憩していたらソルティーユがメイの名前を呼びながら走って来たので反射的に弄ってしまった。噛んだのがちょっと可愛いと思っているこの女、まるで反省していない。


 だがソルティーユは以前と違ってこの弄りも心底楽しそうに受け入れている。メイが女神の所に乗り込んでまで名前を変えてくれたことで好感度が爆上げしたからだ。それからずっとセーラ並にメイにベッタベタに甘えまくっている。


「これやってみてよー」

「漫画?」

「私がやりたいんだけど無理なんだー。でもメイなら出来るでしょ」


 ソルティーユが持って来た漫画はバトル系のもので、主人公と思われる人物がとある悪徳道場に殴り込みに行っていた。


「道場破り?」

「うん!ここって道場いっぱいあるしどうかなって」


 最近は疑似モンスターとの戦闘訓練ばかりで飽きが来ていたところだった。そのため案外面白そうかもとメイは思ってしまった。


「良いね、んじゃ早速やってみよう」

「わーい!」


 セーラとトモエにも声をかけて四人で道場が並ぶ一角へと向かう。剣や槍などの武器を扱う道場もあれば、魔法を扱う道場もあり、良く分からない名前の道場も多い。メイはその中からそこそこ大きくて分かりやすい名前の道場を選んだ。木製の小さな体育館のような建物だ。


「対ダンジョンモンスター道場」


 恐らくはダンジョンの敵と戦うためのノウハウを教えてくれる道場なのだろう。人気がありそうで大きいのも納得だ。


「たのもー!」


 とりあえず道場破りはこう言えば良いのかなと思い適当に突入する。中は広く床は板張りで、多くの人がばらけて組手のようなことをしていた。


「げっ!クラッシャー!」


 メイ一行のことを良く知っている人物がいるようだ。


「見たことある人がそこそこいるね」


 イベントやレストランなどで見かける人が数人。

 そして悪い意味で見たことのある人物もいた。


「あなたはセーラ達をここまで連れて来てくれた人!」

「ひいいいいいいいいっ来るなああああああああっ!」


 可哀想に。完全にトラウマになってしまっていた。


「あの時は迷惑かけちゃってごめんなさい。ほら、あなた達も謝って」

『ごめんなさーい』

「へ?」


 メイの愛の鞭により少しばかり成長したセーラ達は素直に謝った。これまでも謝罪に向かおうとしたけれども相手の居場所が分からなかったのだ。


「というわけで、今はもうきっと多分恐らく改心したと思いたいから僅かに安心してよ」

「全然安心出来ねーよ!」


 メイはまだセーラ達のことを信じていないのだ。安心してなどと口が裂けても言えない。


「まさかクラッシャー達もこの道場に入るのか?」


 別の男性がヒソヒソとそんな話をしているのがメイの耳に入ってくる。


「違うよ」

「ヒイッ」

「答えただけなのにその反応は傷つくなぁ」


 『まだ』メイは何もやっていないのだ。


「そ、それじゃあ何の用で!」

「近くに来たから何となく道場破りしよっかなって」

「何となくでやることじゃねええええええ!」

「えへへ」

「どこをどう聞いたら照れるって発想になるんだよ!」


 実際は明確な意思で道場破りに来たのだが、彼らにとってはどっちでも良い事だった。


「でも私、道場破りって初めてなんだよね。取り敢えず、ここにいる全員をぶっ飛ばせば良いのかな?」

『ヒィィィッ!』


 メイの目が少し細まり戦闘モードを醸し出すと、道場内の人達が後ずさる。


「何を騒いでいる!」


 すると、奥の方から筋肉ムキムキで竹刀を担いだおっさんがやってくる。


「グラス兄!」


 その場にいる人達のまとめ役なのか、訓練を止めて騒いでいた面々を強く叱責した。


「そいつが原因か。なんだ、ただの小娘じゃなぶっ!」


 無残、登場したばかりのグラス兄はお星様になってしまった。『小』娘と表現したのだからきっと彼が悪いのだろう。


「む、むごい……三十秒経たずに退場とか」

「せめて最初の話くらいは聞いてあげろよぅ!」

「だってほら、反射的にね」


 どうせふっとばすのだから問題無いと、割と本気で思っていた。


「う~ん、でもこれだと簡単に破れちゃうかなぁ」

「ふぉっふぉっふぉっ」


 メイが油断しかけていた時、後ろから突如声が聞こえて来た。


「いつの間に!」


 いつの間にも何も単に入口から入って来ただけである。


「道場破りなんて何年ぶりかのぅ」

「お爺さん誰?」

「ワシは通りすがりのただの爺じゃよ。それよりもお嬢さん、この道場がこれまで一度も道場破りされたことがないと知っているのかね?」

「ええ!?道場破りする人居たんですか!?」

『そっち!?』


 この道場地区は、道場破りが遊びとして認められている。破った数に応じてポイントが貰えて、バトルシミュレータのようにちょっとした景品がもらえるのだ。道場の面々はてっきりそれを知って攻めて来たのかと思っていた。


「知らずに殴り込みに来るとかクレイジーすぎんだろ」

「これがクラッシャーか……」

「とりあえず潰しとく」

『なんでぶしいいいいっ!』


 至極真っ当な感想を述べただけなのに吹き飛ばされてしまう男達。


「それよりもお爺さん、ここってそんなに強い人がいるんですか?」

「ふぉっふぉっふぉっ、それはワシの口からは言えんなぁ。知らない方が面白いだろう?」

「それもそっか、それじゃあバイバイ」

「へ?ぶしぃっ!」


 爺に対しても遠慮なくぶん殴る。

 爺は入口から外へと吹き飛ばされて退場した。


「おまっ!爺さんに対して遠慮なさすぎだろ!」

「悪魔か!?」

「いやぁ、だってあーいうお爺さんが案外強キャラだったりするじゃん?油断してる間に倒しちゃえーって思ってね」

「あれは無関係な一般人だよおおおお!」

「……道場破りの途中で入ってくるのが悪い!以上!」

「この人でなしいいいいいいいいふべぇっ!」


 爺は道場の雰囲気が好きで毎日近くを散歩している物好きな一般人。ただメイの言うように老人が強キャラというのは王道なので勘違いしてもおかしくはない。確認する前に吹っ飛ばしたのは明らかにおかしいが。


「さあーって、残りもちゃちゃっと片付けちゃおうか。私が初めてこの道場を破る人になるためにも……ね」

『ヒイイイッ』


 死の宣告ういんくが決まる。


「まてえええええい!」


 すると今度は再び道場の奥から真剣を構えた一人の男性が登場する。


「あれはまさか!」

「ハラスメント四天王の一人、パワハラのマサ!」

「何その最低の呼び名」


 マサはメイを見下すような目線で睨みつけながら歩いて来る。単にメイが小さいから見下しているのかもしれないが、パワハラと呼ばれている以上は精神的にも見下しているのだろう。


「きさま」

「えい」

「ぎゃあああああああああ!」

『マサああああああああ』

『ざまああああああああ』


 話を聞いたらイラっとしそうな気がしたので先制攻撃。星にはせずに上から力を叩きつけ、地面には人型の穴が空いている。道場内にちょっと嬉しそうな人がいるのはきっと彼の呼び名によるものだろう。


「まだどんなキャラなのかも分からないのに」

「せめて一言くらいは言わせても」

「でも正直スカっとした」

「わかる」


 何故かメイが正義の味方的な雰囲気になってしまった。この女、単に道場破りに来ただけなのだが。


「今喜んだやつ、後で」

「えい」

「ぎゃあああああああああ!」

『何が起こった!?』

『あそこにも穴が空いてるぞ!』


 なんかイラっとする声が聞こえたから反射的に力を振るってしまったメイ。


「俺の隣にいたモラハラのサトルが潰された!」

「なんだって!」

「いやっほぅうううううううう!」

「この道場大丈夫?」


 まともな道場だと思っていたのに、暗雲が立ち込めて来た。


「隙ありいいいいいいいい!」

「えい」

「ぎゃあああああああああ!」

『カスハラのカスミがああああああああ!』


 メイの虚をついて上空から仕掛けて来たが、その程度の奇襲ではメイを倒すことは出来ない。常に体は力で防御しているのだ。哀れそのまま地面に着くことも無く遥か彼方へと吹き飛ばされた。


「四天王のうち三人までもがこんなにもあっさりと」

「後はアルハラのグェンだけか」

「あいつ酒場に入り浸ってるから居ないよな」

「ええ……居ないとかってオチ酷くない?」


 とはいえこれで良く分からない四天王は撃破した。そろそろ道場主辺りが出てきてもおかしくない。


「ボスはまだかなー」

「ふふふ、主はそう簡単には出てこないわ」

「誰!?」


 メイに素早く近づく人物がいたが、防御の力に防がれる。反射的に力で殴りかかるがそいつは避けて取り巻きの中に消える。


「やぁ!」

「いや!」

「ちょっ!どこ触って!」

「きゃあ!」


 すると取り巻きの中から色っぽい声が次々と上がる。


「(どういうこと?隠れて攻撃してくるのかと思ったんだけど)」


 人を壁にして隠れ、素早い動きを駆使して相手を翻弄し、隙を見て攻撃してくるパターンの相手なのかとメイは思っていた。しかし自らを守るはずの人壁から奇妙な声が上がっている。


「そんなやり方が……良いこと思いついたぞ!」

「トモエ見えたの?」

「ぐへへへ」

「おいこら」


 トモエが反応するということ、そして色っぽい声。

 これらから分かること。


「まさか奴が来たのか!」

「セクハラ五人衆の一人、尻好きのカズ!」

「…………」


 メイへの突撃も攻撃では無く、尻を触ろうとしていたようだ。それが失敗となると取り巻きへの尻タッチへと移行した。強敵でもなんでもなかった。


「他にも……いるの?」

「胸好きのサトル、脚好きのユタカ、うなじ好きのケン、腰好きのレイ、そして尻好きのカズの五人だな。こいつらまともに訓練しないでセクハラばかりするから超うざいんだよ」

「そうそう、しかもそのくせ妙に動きだけは早いから中々捕まらないし」

「他にも転売セブンとクレーマーナインとマナー講師イレブンと……何が居たっけ?」


 この道場が過去に一度も破られていない理由。

 それは道場主に辿り着く前のネタキャラがあまりにも多く、殴り込んで来た人が辟易して帰ってしまうからだった。


「…………うん、分かったよ。真面目に対応しようとした私が間違ってたよ」

「あ」

『まずい、みんな逃げろおおおおおおおお!』

「潰れろおおおおおおおお!」


 メイ怒りの力大放出祭!

 道場がその力に耐えきれることは当然出来ず、見事に崩壊する。


 これは道場破りではない。道場破壊だ。


ネタキャラはジーマノイドです。

ガチの問題児はこの世界に御呼ばれしないので。


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