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59. すべての元凶を殴るしかない

「やっと終わったよー」


 青い海、白い砂浜、照りつける太陽。

 南国のビーチに立つ一人の女性。


 ポンコツ新米女神である。

 つい先ほど先生による長い長い説教が終わったところだ。


「全く、先生の話はいつも長すぎるんだよ」


 聞かれたら説教が追加されそうなセリフだが、今回ばかりはそう思っても仕方ないかもしれない。なにせ、メイとのアレコレがあったときから今の今まで延々と説教されていたのだ。時間の流れはメイが今いる世界と同じに設定されているこの場所で、だ。


 過去最長となった説教。


 その原因はポンコツ新米女神がメイに煽られてやらかそうとしたことが、世界単位で崩壊しかねない危険な内容だったということでもあるが、本人が全く反省の色を見せないことも理由の一つであった。


――――――――


「まったくお前という奴は、あれほど余計なことをするなと言っておいただろうが!」


 これはメイが異世界に押し込まれて直ぐの事。

 砂浜で正座をさせられながら先生に厳しい説教を受けていた。


「お前は自分が何をやろうとしていたのか分かってるのか!」

「……はい」

「本当か?本当に分かってるのか?だったら何が悪かったのか言ってみろ」

「……………………………………………………」


 それが分かるようだったらポンコツではない。


「呼び出した相手が悪かった、ですよね」

「お前が悪いんだよおおおおおおおお!」


 人の所為にする女神に先生激オコである。

 もちろんメイにも原因はあるが、ポンコツ新米女神の方が圧倒的に悪いのだ。


「分かった。今日という今日はもう許さん。お前が心の底から真女神になるまで説教するからな!」

「そんなぁ!」


 これまでの説教はあまりのポンコツ新米女神の出来の悪さに先生の方が折れてしまっていたが、今回はそういう訳にもいかない。せめて世界崩壊を引き起こすような愚かな真似だけはしないように躾ける必要があるのだ。


 そうして本格的な説教が始まろうとしていたその時。


「大体お前は昔からぷぎゃああああああああああああ」


 突如地面から噴き出してきた謎の力によって先生は激しく上空に噴き上げられ、驚いたあまり変な悲鳴を上げてしまった。


 メイが初心者ダンジョンで力を覚醒した際に生じた力の柱が、世界の壁を貫いて女神達のいる場所まで噴き上げて来たのだ。


「ぷっ……くすくすっ……ぷぎゃああだって!ぷぎゃああだって!あの先生がぷぎゃああだって!どうしました?苦手なお化けでも出ましたか?あひゃひゃひゃひゃひゃ」


 ポンコツ新米女神、煽る。

 正座など忘れて腹を押さえて地面を転がるように笑い転げる彼女の結末は、当然決まりきったものである。


「おーまーえーわーーーー!」


 地上に戻って来た先生の説教がより苛烈になったことは言うまでもない。


――――――――


 などと説教の合間に隙あらば先生を煽ろうとする性格の悪さが長くなった理由の大半だったりする。どうやらこのポンコツ新米女神、先生に対して女神という同じ立場になったのだから遠慮する必要は無いと思っている節がある。


 結局、いつものように先生側が折れて説教は終わり、ポンコツ新米女神は清々しい気分で伸びをしていた。


「そういえばこの場所どうしよっかな。良く出来てるし、消さないで毎回ここで出迎えるのも良いかも。でもでも他の景色もやってみたいしぃー」


 白い世界にしろと説教の中でも何度も言われていたが、当然そんなことは忘れて無視するポンコツ新米女神。


 これから先のことに思いを馳せていた彼女の元に、異常事態が発生する。


「え?揺れる?なんで?」


 彼女が何もしていないにも関わらず、大気が僅かに揺れている。ポンコツ新米女神とはいえ神様が作った世界。そこに干渉するなど同じ神様以外に考えられない。


「消そうとするなんて酷いよ先生!」


 先生が無理矢理この世界を消去しようとしているのだと考えた彼女は抗議すべく先生の元へと移動しようと思ったが、それが勘違いだったことにすぐに気付かされることになる。


 ドンッと重く響く音が一瞬だけ鳴る。


「みーつーけーたー!」


 海から飛び上がって出現したのはメイだった。


「あなたは!どうして!?」


 海水塗れで髪や服はぐしょぐしょ。

 頭には海藻を被っていて、目は血走っている。


 とはいえ先生とは違いお化けが怖くないポンコツ新米女神。単純にメイが彼女の世界にやってきたことに驚いていた。


「人間が世界の壁を越えて移動するなんてありえぶしいいいいいいい!」


 そんな驚く暇などメイは与えてはくれない。

 全力で練り上げた神にすらダメージを与えうる力の鉄槌をポンコツ新米女神に喰らわせたのだ。


 物凄い勢いで砂浜をバウンドして吹き飛ばされるポンコツ新米女神。

 メイは追撃する。


「オラオラオラオラァッ!」

「ひぃぶしっ、ちょぶしっつ、やめぶしっつ、もぅぶしっ、なんぶしっ、痛ぶしっ、ほんとぶしっ、助けぶしっ、ごめぶしっ、さいぶしっ」


 何かを言おうとするポンコツ新米女神を無視してひたすら顔面を連打しまくるメイ。

 これまでのストレスを全て発散させているかのようだ。いや、間違いなく発散させているのだ。


「あはははははははは!」

「誰か助けてええええええええぶしいいいいいいいい」


 神の力で防御しようにも、何故かメイの力はそれを突き破って来る。しかも一撃一撃が痛みを与えてくるのだ。先生の説教も苦にならないポンコツ新米女神が、初めて本気で助けを求めた瞬間である。


「おいっ!今度は何をやっ……!?」


 メイが世界の壁を突き破った異常を感知した先生が戻ってきた。そこで見たのは人間によってボコボコに殴られ泣きじゃくるポンコツ新米女神の姿。


「(な、なんだこれは。ありえねぇ!)」


 人間が神を圧倒している。そしてそれが偶然ではないことを先生は見破った。


「あれぇ?あなたも来たんだぁ」


 にちゃりと言う音が聞こえてきそうな狂った笑みを浮かべてメイは振り返る。

 最上級警戒モードに入った先生は怯えない。少し足が震えているかもしれないが気のせいということにしておこう。


「あなたにもぉ。借りがあったよねええええええええええええ!」


 今度は先生に向かって飛び掛かり力の拳で殴りかかる。


「ぐっ……これは!」


 メイの力は先生の防御すら突破し、右頬に一撃を与える。だが、先生はポンコツ新米女神とは違い対応力があった。防御出来ないのなら避ければ良いのだ。


「パイの恨みパイの恨みパイの恨みいいいいいい!そんなにパイが無いことを貶めたいのかよおおおおおおおおおおお!」


 異世界行きのトドメにパイ生地を顔面にぶち当てられたこと。それがメイの先生に対する怒りの源であった。何故かパイが違う意味のパイに置き換わっているが気にしてはならない。


「いい加減にしろ!」


 先生はメイの連打を避けながら、彼女を拘束するために神の力を振るう。


「防ぐだと!?」


 だが殴るような衝撃波も、包み込むような圧力も、全てメイの力が無効化する。メイの力は攻守において先生を圧倒していた。


――――――――


「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 先生は避けきれずに何度もダメージを喰らい、それでも倒れることは無かった。ここで自分が倒れたら今度はメイが神の世界へ殴り込みに行くかもしれない。そうなってしまったら大混乱だ。


 下手したらメイがイレギュラーとして存在を抹消されるかもしれない。


 女神として、その結末だけは避けなければならない。


 人を愛し育むこと。


 それこそが女神本来の在り方なのだから。


「(こうなったら彼女に与えた力を取り消すしかないか)」


 それはルール違反だ。

 もしそれをやってしまったら先生は女神としての活動を止めさせられるどころか、下手したら下界落ちで人間に転生させられるかもしれない。


 そうなったとしても、彼女を救えるのならば仕方ないこと。

 女神としての愛が先生にその覚悟を決めさせた。


 だがそれをやる前に聞かなければならないことがある。


「お前は……どうしてこんなことを!!」


 強大な力に魅せられたがゆえに、神へ戦いを挑みたかったのか。

 それとも力を持ったまま元の世界へと戻ろうとしているのか。

 最初に願ったように全てを無かったことにしたいのか。


「私をこんな目に合わせたあなた達をぶん殴りたかっただけだよ?」


 メイの目的は大層なものではなかった。

 ただムカツク女神をぶん殴るために力を鍛えてここまでやってきたのだ。


 あまりにも予想外な答えに先生は驚くが、同時に安心した。

 それならばこれ以上の被害は無く帰ってくれるかもしれない、と。


「だったらもう気が済んだだろ?まだ足りないというのなら私を好きなだけ殴りなさい」

「そうだねぇ。大分スッキリしたかも。ああでも、もう一つだけここに来た理由があるんだった」


 言葉通り、メイの目の狂気は大分収まっていた。

 だがまだ油断は出来ない。

 もう一つの理由次第では先ほど抱いた覚悟を捨てられなくなるからだ。


「ふふふ、あなたたちにねぇ。お願いがあるんだよ」


 不気味に笑いながらそう告げるメイ。


 神に対するお願い。

 力関係で圧倒的に有利であるメイからのお願いは半ば脅迫に近いものでもあるが、あくまでもお願いとして押し通す。


「それは聞けない。ヒトが神に願いを叶えてもらうにはルールがある。どうしても必要な願いならば、戻ってダンジョンをクリアすれば良い」


 このルールは女神が決めたものではない。女神をも管理する大いなる者によって定められたもの。女神であってもそのルールを破ることは出来ないようになっているのである。


 唯一の例外が、そのお願いが女神自身の願いと一致する場合だ。それならば女神は自身の望みを叶えるために力を振るうのであって、ヒトのために力を振るうわけでは無いとも言えるからだ。


 実際、メイは初めてここに来たときにポンコツ新米女神に対してソレをやった。

 すべてを無かったことにして欲しい、という自分の願いだったものを、先生を見返したいというポンコツ新米女神の望みを叶える方向に変えて実行させようとしたのだ。


「つれない答えだなぁ。でもね、これは本来はあなたたちがやるべきことなんだよ」


――――――――


「あいつまさか、あんなことのためにここまで来たっていうのか?」


 メイが帰った砂浜で、先生は呆然と立ち尽くしていた。

 後ろからは未だにポンコツ新米女神がシクシクと泣く声が聞こえて来る。

 幸いなことに、この一件によりポンコツ新米女神の行動が多少マシになったという。

 失敗したら痛い目を見る、と刷り込まれてしまったがゆえに。




 そして後日。異世界にて。


「そういえばたまこはポイントカード更新しないの?結構倒したよね」


 バトルフィールドでの訓練を終えたメイ一行。

 ポイントがどれだけ溜まったのか確認しようと専用の機械がある所へと向かっていた。


「たまこじゃなくてソルティーユだもん。このカード名前が書いてあるから嫌いだよー」

「う~ん、でもやっぱりポイントが勿体ないよ。たまには更新して今のポイントを見ようよ。私よりも少ないくらいだと思うけど、そろそろ面白そうなのと交換できると思うよ。安眠枕とか良さそうじゃん」


 ソルティーユにとってこのポイントカードは自分の名前がバレた忌まわしき存在。嫌な思い出しか無いため捨てようかとも思っていたのだ。でも確かにメイの言う通り勿体ない。ぐうたら過ごすために効果的な景品もありそうなのだ。


「じゃあ更新してみる」


 機械にカードを吸い込ませるとピロンと音が鳴って出て来る。


「おおー確かにこれだけあれば何か交換してもよさそう。ありがとうメイ」

「どういたしまして、ソルティーユ・・・・・・

「……?」


 最近はたまこたまこと弄られ続けていたのだが、何故か突然フルネームで呼んできた。不思議に思いなんとなくポイントカードを見る。




 名前の所が『ソルティーユ』に変更されていた。




 そういえば少し前にメイが神様のところに行くと騒ぎになっていた気がする。

 もしかしてそれは……


「メイいいいいいいいいありがとおおおおおおおお!」

「あらら、どうしちゃったのよ†たまこ†」

「ソルティーユだもんうわああああああああん!」


 ソルティーユの泣き笑いを見て、頑張って良かったと思う心優しきメイであった。


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