56. ネタばらしは引っ張らない
「うんうん、やっぱりこの店の焼売は美味しいよ。おかわり!」
「「「……」」」
上級世界の施設を一通り調べ終えたメイは、夕飯を食べるために行きつけの中華料理屋へと向かった。
初級世界にあるその店でご飯を食べれば、メイ嗅覚が鋭い三人に見つけられるのは時間の問題。席に座って料理を注文したら、怒涛の勢いで三人が来店した。
「「「メイ(ママ)!」」」
「うっすー昨日ぶりー」
自分たちは突然のことに困惑していたのに、いざ再会してみればいつも通りのメイの姿。あまりにも自然な姿に三人は詰め寄る気力が削がれてしまった。
「店員さーん!注文追加でお願いしまーす!三人ともいつもので良いよね?」
セーラ達は、メイが自分達を突然見捨てて上級世界へと旅立ったことに憤りを感じているが、そのことを申し訳ないと感じているそぶりすら見せないことを訝しむ。
その結果、何も言わずにご飯を食べるだけという、この四人としては奇妙な夕食風景になっていた。いつもはひたすら騒がしいのだ。
「ふぅ~食べた食べた。すいません、杏仁豆腐人数分お願いします」
「かしこまりましたー」
お腹一杯で大満足。宿は上級世界にあるから、初級世界で遊ばないのならこれでまたさようなら。
流石にそれはまずいとセーラが声をかけようとしたが……
「メイ、いったい」
「さて、何から聞きたい?」
メイに機先を制されてしまった。
「何もかもだぞ!何がどうなってるんだぞ!」
「何がって手紙で言った通りだよ。中級ダンジョンクリアしたから上級世界に拠点を移したの」
もちろんこんな説明で納得できるわけが無い。
「なんで勝手にこんなことしたのですか」
「なんでって……本気で聞いてるの?」
その言葉には心からの驚きのニュアンスがこめられていた。
どうしてそんなことすら分からないのか、と。
「だってみんな邪魔するでしょ」
中級ダンジョンを攻略したい。
メイがそう言ったらセーラ達はどう反応するだろうか。
もちろん賛成して着いてくるだろう。
でも、着いてくるからと言って本気で協力してくれるとは限らない。
「楽しく体験するだけならみんなと一緒でも良いんだけどね。本気で突破考えると、今のみんなと一緒じゃ無理だよ。無茶だよ」
メイがフォローできる範囲にも限りがある。相手を回復させ、全てのトラップを発動させ、自分たちすら吹き飛ばす爆発を起こす。
ぶっちゃけると、もうやってられっか!って感じだった。
「でもママ。話くらいしてくれても良かったんじゃ~」
「だ~か~ら~邪魔するでしょ?」
メイにべったりな彼女たちが、置いてかれないようにあの手この手を使ってメイの邪魔をする様子が容易に想像できた。
「というか、すでに毎日邪魔され続けてたようなもんだもんねぇ」
毎日必ず誰かがそばにいる。
メイが一人で行動させてもらえることはほとんど無かったのだ。ある意味監視に近い状態だった。
それを自覚していたセーラ達は、メイのジト目から目を逸らす。
「でもいつの間に……」
「ふふん、実は一回だけチャンスがあったんだよね」
ダンジョンクリアを目指すならば、一時間くらいでは全く足りない。まとまった時間が必要だが、メイをそんなに長く放置した覚えが無い。
「夜抜け出された……いいえ、それなら絶対わたくしが気付くはずです」
「それ何気に怖いから。マジで」
添い寝されているとはいえ、ぐっすり眠っているのに抜け出すと必ず気付くとか、恐怖でしかない。
「でもまぁ、正解ではあるね」
そう、メイが抜け出したのは一晩。
たった一晩の強行軍だけれども、辛うじてクリアすることが出来たのだ。
「……まさかあの時」
「およ、トモエが気付いたかな?」
「森の中?」
「正解~どんどんぱふぱふ~」
メイは中級ダンジョンを攻略し、セーラ達から逃げるタイミングをずっと考えていた。そしてあの長いイベントの中で、偶然条件が揃い、急遽計画を立てて実行したのだ。
「え?え?どういうことですか?」
「あのイベント、外に出ても良かったってことだぞ」
「えええええええ!?」
実はあの森の中で一晩過ごすというイベントは、無視して外に出ても構わなかったのだ。
「質問受け付けない上に一回しか説明しないから、きっと何か仕掛けがあるんだろうなって思ってじっくり聞いてたんだよ。そしたらさ、『森に入った後出て来てはならない』とは言ってなかったんだよね」
「はいぃ!?」
そう。運営は一言も、帰ってはならないとは言ってなかった。あくまでも『森の中に入り仲間と離れること』が条件であり、森に入った後に出ることを制限する言葉は無かったのである。
「なので試しに広場に戻って運営に帰りたいって言ったら、帰らせてくれたよ」
開いた口がふさがらない、とはこのことだろう。
この抜け道のやらしいところは、前日の夜にイベントで指定された会場での滞在を強制させられていたことだ。前日もそうなのだから今日もそうなのだろう。その思い込みを排除出来た者だけが気付けた。
「怪しいと思ったんだぞ!なんかあの後妙に元気なチームがあったから変だと思ったんだぞ!」
イベント終了時点でまったく疲労していない元気なチームがいくつかあり、どれだけ上手くやったのかとトモエは不思議に思っていた。しかし彼らは抜け道の存在に気付き、外でぐっすりと休んだだけである。
「それではメイはあの晩、通信機を持って外に出たのですか!」
「うん、これすごいよね。どんだけ離れてもクリアにつながるんだもん。こっちの変な音を拾わないようにするの苦労したよ」
森の中に相応しくない音が混じっていたら怪しまれてしまう。そうならないように、音がある場所では通信を切るようにしていたのだ。
「ママ、中級ダンジョンって簡単だったの?」
「どうして?」
「だって初見で一晩でクリア出来たんでしょ?」
「ふふふ、それもからくりがあるんだよね」
「「「??」」」
例えセーラ達を撒けたとしても、メイは限られた時間で中級ダンジョンを突破するという大問題が残されていた。せめて内容が想像出来れば良いのだが、前知識も無しにタイムアタックをするのは得策ではない。失敗したら何も得られず元の世界に強制送還なのだから。
「ぶっちゃけ、初級ダンジョンとは比べ物にならないほどむずかったよ。でもね、仲間を揃えて行ったから問題なかったんだよ」
メイは三つの幸運を味方につけた。
一つは、森の中イベントの抜け道を自分だけが気付き、セーラたちとまとまった時間離れられたこと。
もう一つは、イベント開始時に仲間を探している観客の存在を覚えていたこと。
『お、ついにお前も参加するのか?』
『違う違う。俺は観戦だよ。ダンジョン攻略を手伝ってくれそうな人が居ないか見に来たんだ』
『そりゃ残念。お前と一緒に遊んでみたかったんだけどな』
森の中から出たメイは観客席に向かい、この人を探した。話を聞いてみると、パーティーでダンジョンに挑戦中で、ボスを倒すための協力者を求めていたとのこと。自分に残された時間を説明し、短時間でのダンジョンアタックでも問題ないか聞いたら、大丈夫との回答があり同行することになったのだ。
そして最後の一つは、メグによる嫌がらせが無かったこと。
初級ダンジョンでの介入のように、メイが中級ダンジョンに挑戦するとしたら、メグが何かを仕掛けてくる可能性が高かった。例えば、ダンジョンに着いたら何故かセーラ達が呼ばれていた、なんてことすらあり得る
だがイベント開始時のいざこざにより、メグはイベント終了までメイに干渉しないと決めていた。そのため、メイが中級ダンジョン攻略パーティーに参加しても、ダンジョンに大きな変化は無かったのだ。
「頼りになる仲間って良いよ!協力してダンジョンを攻略するってあ~いうのを言うんだよ。楽しかったぁ」
恍惚とした表情をセーラ達に見せつけるメイ。
だがセーラ達がそれに文句を言うことは出来ない。。
ずっとメイに(意図的に)迷惑をかけ続けてきたのだから。
むしろこうやって話をしてくれていることが異例なのだ。上級世界にひきこもって完全に関係を断たれたとしてもおかしくないことを自分たちはやっていたのだから。
「まぁ、みんなとドタバタやってたのも楽しかったんだけどね」
これこそが、メイがセーラ達を捨てなかった最大の理由。腹が立つことも多かったけれども、なんだかんだ言って楽しんでいたのだ。
ただ、メイは願いを叶えてもらうために動き出した。
だからこそ、セーラ達と別れる道を選んだ。
「さて、そろそろ眠くなってきたから帰ろうかな」
「メイ……」
悲し気な表情でメイを見つめるしかないセーラ。
「最後に一つだけ」
これで話は終わりだと席を立つメイが、セーラ達に告げる。
「私は上級ダンジョンをクリアして、願いを叶えてもらうつもり。だから、もうみんなと会える時間はそう長くない」
上級ダンジョンのクリアは、すなわちこの世界を去ることを意味している。つまり、地球出身では無い彼女たちとの別れが近いということだ。
「それでもまだ、私と一緒に居たいって思ってくれるなら、私抜きで中級ダンジョンをクリアしてみせてよ」
お人好しのメイが、このまま非情な態度で彼女たちを見捨てることはあり得ない。
もしこのまま別れてしまうと、この先彼女達が自らの欠点のせいで苦労するかもしれないし、叶えたい願いを見つけた時にダンジョンをクリア出来なくて困ってしまうかもしれない。
だから、彼女たちを成長させたかった。
自分の力を頼らずに困難を乗り越えられるよう、努力して欲しかった。
ゆえにメイは伝えたのだ。
欠点を克服して堂々と仲間だって宣言して見せなさい、と。
「もちろん、こうやって時々ご飯食べに来るから、その時に話をする程度で良いって言うなら、それでも良いよ。それは任せる」
ただ、無理強いは出来ない。
上級ダンジョンを目指すのはあくまでもメイの希望であって、彼女たちがそれを望んでいるわけでは無いのだから。
もっとも、これらは全て後付けで、逃げた後に罪悪感が押し寄せて来てそれっぽい理由を考えただけなのだが。
「でも、来てくれたら、嬉しいな」
魔性の女のフリをするメイ。一種の煽りだ。
彼女たちのやる気を出すために、更に追撃する。
「それじゃ帰るね。バイバイ、またね」
この日から、セーラ達の中級ダンジョンアタックがはじまった。
めっちゃ伏線張ったのに回収が雑すぎー!




