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57. 誇りを持てない名前はつけてはならない

「んっ……んっ……ちょっと強いです!」

「ごめんごめんだぞ」

「わたくしはトモエみたいに柔らかく無いんです!」


 セーラはトモエに背中を押してもらって柔軟運動中。深くは曲がらないが、アレが大きすぎるので地面につきそうだ。


「あのくらい余裕だぞ」

「あれは変だよ~」


 トモエはタコみたいに体が柔らかく、正しい意味で胸までぺったりと地面につく。逆にソルティーユはカッチカチで真っすぐ伸ばした両手を地面につけることさえ苦労するくらいだ。


「ソルテはもう少し運動した方が良いぞ」

「やだ~」


 普段は漫画やアニメばかり見て引きこもっている上に、それ以外の時間も薬の研究に費やしている。せめて薬の素材を自分で採取に行けば多少なりとも運動にはなるのだが、もちろんそんな面倒なことはしない。




「おお、メイも中々柔らかいぞ」




 ソルテに背を押されるメイの体の硬さはセーラと同じくらい。ただ、某所のボリュームが乏しいため地面に着くことは無い。


 ここはバトルシミュレータの施設内。怪我をしないように訓練の前に柔軟体操をする四人・・


「……………………」


 メイは柔軟体操を終えるとバトルシミュレータを起動し、ひたすらに硬いだけのモンスター『サンドバッグゴーレム』を呼び出した。


「なんでこうなっちゃうのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 その名の通り、ゴーレムはメイの力によりサンドバッグにされてしまう。ストレス発散に人気の敵なのである。




 メイが中級世界でセーラ達にネタバラシをして、弱点克服を頑張れと発破をかけた二日後のこと。


 上級世界の宿に泊まっていたセーラは、フロントから来客があると呼び出された。


 ホールに向かうと待っていたのは、死んだ目をする男性四人とトモエだった。


「は?」

「…………」

「きちゃったぞ」


 何故トモエがいるのか、この男性は誰なのか、色々と聞きたいことがある。


「……あの?」

「…………」


 無言で立ち尽くす男性陣だが、メイの存在にようやく気付いたのか、徐々にその目に光を取り戻し始め、号泣した。


「うおおおおおおおおおおおおおおおん」

「おわったあああああああああああああ!」

「生ぎでるぅっ!俺だぢ生ぎでるよぅっ!」

「早くっ!早くこの悪魔をひきとってくれえええええ!」


 この男性たち、どうやらトモエと一緒に中級ダンジョンに挑んだらしい。


「(あ、察し)」


 何が起きたのかは言うまでもなく分かる。


 メイは彼らにお疲れ様と労う気持ちを抱いたが、逃げた。


「こおらああああああああ!逃げるなあああああああ!」

「嫌だああああああああ!あなたたちにあげるからあああああ!」

「逃がさん!逃がさんぞおぉ!」

「落とし穴の出番だぞ」

『ひいいいいいいいい』


 カオスな鬼ごっこの末に、トモエを押し付けられてしまった。


 トモエは弱点を克服することなく他パーティーに寄生した。


 トモエのトラップに関する実力はそれなりに噂になっていたので、被害者の男性達は喜んで彼女をパーティーに入れたのだ。見た目も標準以上に可愛いので、あわよくば仲良くなれれば、という下心もあった。


 だが、そんな目論見はすぐさま崩壊する。ダンジョン中のトラップを喜んで起動するトモエにより何度となく死にかけたのだ。


 当然、トモエをパーティーから追い出そうとする。


「中級ダンジョンクリアしてメイのとこに行くまで絶対パーティー抜けないぞ」


 だが満面の笑みで拒否されてしまった。


「これからずっとあなた達につき纏うぞ。ダンジョンに入る時にこっそり一緒に入ってトラップ起動するぞ。ダンジョン外でも歩いていたら突然落とし穴にひっかかるかもしれないぞ」


 最悪の粘着行為。

 このままでは中級ダンジョンを突破するどころか日常生活すらままならない。


 自分たちが絶対に関わってはならない相手に手を出してしまったのだと知り、絶望する。


 こうなったらなんとしても中級ダンジョンを突破させて仲間のところに届けるしか自分たちが助かる道はない。


 そうして地獄のような行程をなんとか乗り越え、彼らはトモエをメイの元に届けることが出来たのだ。


「さいあくだあああああああああああああ!」


 他人に迷惑をかけまくった上に欠点は治らずメイへ再寄生。トモエの仲間とみなされているメイに対する評判も悪化しており、パーティーを組んでくれる人が激減した可能性が高い。少なくともトモエが居るうちは一緒に上級ダンジョンにチャレンジしてくれる人は出てこないだろう。


 そして、それはトモエだけではなかった。


 その後、セーラとソルティーユもまた同様に、男性パーティーを騙し、脅迫し、精神を壊して中級ダンジョンを突破してきた。


「どうしてこうなったー!!」


 orz


 それはそれは美しい orz が見られたという。




「バトルシミュレータ面白いですね」

「色々な戦い方を試せるのが良いぞ」

「ニトロ安全に使えるのが良い~」


 ゴーレムをぶん殴っても気持ちが晴れず、隅の方で蹲ってシクシク泣いているメイをよそに、セーラ達はシミュレータを使ってバトルを満喫している。


 落とし穴にハメてニトロで自爆破してヒールで敵ごと回復。


 お約束の風景を見てしまったら、否応が無しに今まで通りの日常が戻ってきたことを実感させられてしまうため、決して前は見ない。体育座りで顔をふとももに押し付けてただ泣くのみ。


 アレが見えていてセーラがガン見しているが、気にしてはならないのだ。


 メイがそうやって悲しみに暮れていた時のこと。


 ソルティーユの爆発で吹き飛ばされたのか、カランカランとメイの目の前に何かが飛んできた。


「……カード?」


 それはバトルシミュレータの施設が発行しているポイントカード。同一敵の撃破回数、撃破した敵の種類、十秒以内に倒した回数、一度に倒した敵の数など、様々な条件を達成するとポイントが貰え、その数に応じてちょっとした景品がもらえるのだ。


 景品の内容はイベント賞品ほど豪華では無くておもちゃのようなものだが、ただ単にバトルを繰り返すよりもやる気は出る。また、この世界ではカードが無くても本人確認が出来るが、カードがあった方が集めている感があるからという強い要望があり発行している。


 そのカードが飛んできたということは、おそらくセーラ達の誰かが発行したものだろう。


 メイは特に考え無しにそのカードを拾い、名前欄を確認した。


「……?」


 そこには、三人の誰でもない名前が書かれていた。


「……ふっ……ふふっ……何これ」


 暗い闇の底に沈んでいた精神に光が刺す。このカードの持ち主には悪いが、あまりにも変な名前で笑ってしまったのだ。


「(でも誰のだろう?)」


 ここにはメイ達四人しか居ない。

 元々落ちていたのか、それとも三人の誰かが拾ったカードなのか。


 良く分からないが、三人がデュラハンを倒し、ヒールが間に合わなかったセーラが悔しがっているタイミングだったので声をかけることにした。


「誰かコレ落としたよー」


 カードを軽くヒラヒラと振りながらセーラ達に落としたと告げる。


 三人は自分の持ち物を確認する。


 セーラは持っている。

 トモエも持っている。

 ソルティーユは焦りだす。


「わああああああああああ!」


 どうやらこれはソルティーユのものらしい。


「これってソルテのなの?」

「ちちちちち、違う違う違う違うよー拾った、そう、拾ったの!後でとどけなきゃー!」


 誤魔化すのが下手過ぎてどう考えてもソルテのものとしか思えない。

 となると、名前が違うというのはどういうことか。


「そういえば……」


 最初に会った時に名前についてソルティーユが何か誤魔化そうとしていたような……


「まさかこれが本名だったりして、なーんちゃっ……」

「うわああああああああああ!」


 冗談っぽくカマをかけてみたら、慌ててカードを取り返しに走って来た。


「うっそ、ホントに?これソルテの本名なの!?あはははははは!」


 力でガードして取り返されないようにした上で笑い出すメイ。鬼畜の所業である。


「メイ、そういうのは良く無いと思いますよ」

「そうだぞ。返してやるんだぞ」


 思わずそんなメイを嗜めるセーラとトモエ。


「う~ん、それじゃ二人から返してあげてよ。ほらっ」


 ぽいっとカードをセーラ達に投げつける。


「えっえっ!」

「ダメえええええええええええ!」


 トモエが上手くキャッチし、反射的に見てしまう。

 ソルティーユはダメだと叫ぶが間に合わない。


「ぷっ……クスクスっ……これはっ……酷いぞ」

「笑っちゃっ……ダメなのにっ……くすくす」

「うわあああああああああああん!」


 無残にも、全員にソルティーユの秘密が知られてしまった。


 カードに書かれていたソルティーユの本名は、次の通りである。




「†たまこ†」




 もちろん†も名前の一部である。


「ダガーっ……ぷぷっ……」

「たまこ……素朴なのが……似合わなっ……」

「あはははははははは!たまこって!ダガーって!うひひひひひひ!」


 笑いを堪えているようでまったく堪えられないセーラとトモエ。

 爆笑しているメイ。


 最低な三人に天誅を。

 号泣した†たまこ†がニトロで全てを爆破するのも当然のオチだった。




「メイのせいですよ」

「え?私?」


 ショックで部屋に引きこもってしまった†たまこ†もといソルティーユ。

 しばらくそっとしてあげようということで、せっかくなのでメグに彼女の名前の由来を聞いてみた。


「メイがこの世界に来る前、新人女神に無茶させましたよね。あれの影響で名前がバグってしまったのです」

「私良い仕事した!」

「少しは反省の念とか無いのでしょうか」

「うん!」


 泣いているソルティーユが可哀想、自分のせいで重荷を背負わせた、お人好しのメイならそう考えてもおかしくなさそうだが、気持ちがダークに堕ちているメイにはざまぁ的な感想しか浮かばなかった。


「ソルテ、いえ、たまこ、いえ、†たまこ†みたいに、他の方も影響があったのでしょうか」

「彼女だけですのでご安心ください」

「それは良かったぞ。だまこじゃなく……だ、だまこっ!?くふっ……」

「ちょっトモエそれ卑怯だよ!だまこっ……あははははは」

「ダメですっ……笑ってしまって話がっ……ソルテにしましょう?」


 名前を呼ぶだけで笑いが止まらない鬼畜三人衆。


 みんなも子供にキラキラネームつけちゃダメだぞ†


入れるタイミングを逃してた名前ネタをようやく使えました。


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