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49. 海中遊泳に相応しい服装じゃない

「ふわぁ~!」

「きれいです……」

「すごいすごいぞー!」

「楽しー」


 透明度が高い海の中を、色鮮やかな熱帯魚や小魚が群れを成して泳いでいる。海底では大小さまざまな海藻がゆらゆらと揺れ、その根元には小さな甲殻類の姿が見え隠れする。まるで巨大なアクアリウムの中に居るようだ。


「逃げないの面白いなぁ」


 魚の真横に近づいても、それどころか指先で軽く突いても魚たちは逃げることをせず、むしろ興味深そうに体の近くに寄ってくる。


「これヤバいよ。ずっと遊んでたい」


 海中に入って一時間、メイたちは海岸からそう離れていない場所で海中探索を楽しんでいた。それはメイたちだけではなく、そう遠くないところで何組もの参加者が同じようにお魚たちと戯れている。


 海の中で息が出来る、綺麗な魚たちと触れ合える、水の中という不思議な景色を堪能できる。遊びたくなる理由は多々あるが、特に大きな理由が『海中で自由自在に動ける』ことだろう。


 海底を歩くことも、海中を好きなように泳ぐことも、海中でその場にとどまり続けることも可能だ。


 その自由度の高さがあまりにも楽しく、参加者たちは羽目を外して遊びまくっているのだ。


「とはいえ、そろそろ魚を捕まえに行こっか」

『はーい』


 今回のイベントの目的は『美味しい海産物』をゲットすること。海底に生えている昆布のような海藻ならばそこそこ味ポイントが貰えるかもしれないが、そこらを泳いでいる熱帯魚は見た目は綺麗だけれど美味しそうとは思えない。


「浜辺に近いところだし、この辺りで簡単に獲れるのはポイント低いと思うんだよ」

「わたくしもそう思います」

「もっと沖に出れば美味しそうな魚がいると思うぞ」

「遠くにある磯も良いと思う」


 出来れば磯も沖も巡って時間一杯楽しみ尽くしたいところだ。


「その前に確認しておきたいことがあるんだよ」


 メイは近くを泳いでいたピンクとブルーの縞模様の小さな熱帯魚をそっと両手で挟んだ。


『ミニカラフルギルをゲットしました』


 するとアナウンスが聞こえ、挟んでいた『ミニカラフルギル』が忽然と消えた。


『今後、ブレスレットの赤いボタンを押すことで獲得した海産物の一覧が表示されます。入れ替えたい場合はそちらを操作してください』


 慌ててブレスレットを見ると、それまでは無かった小さな赤いボタンが生まれていた。


「なるほど、一覧が宙に表示されてタップするとリリース出来るってことね。みんなはどう?」

「メイが捕まえた魚が載ってるのが見えました」

「パーティー共通ってことだぞ」

「私も試しに獲ってみよ~っと」


 ソルティーユがメイの真似をして、近くを泳いでいる半透明な蛇型の魚を捕まえた。


『シースルースネイクをゲットしました』


 メイの一覧に『シースルースネイク』の文字が追加される。


「魚じゃないのかい。ってそのツッコミは置いといて、二つともリリースっと」


 名前をタップしてリリースを選択すると、リストが空になり捕まえた魚が出現して泳ぎ去って行く。


「捕まえたってどうやって判断されるんだろ」

「動けなくするのが条件だったら大変だぞ」

「カジキマグロとかヤバイよ」

「カジキマグロですか?」

「うん、私の世界にいる巨大なお魚。お寿司で食べたことあるマグロの仲間」

「あれ好きー!」


 自分の体長よりも大きな魚の動きを封じるのは簡単ではない。それこそメイの力のような何らかのイレギュラーな方法を使う必要がある。


「一部の人だけが高いポイントの魚を狙えるってのも変だから、多分普通に捕まえられる魚の中にもポイントが高いのがいるはずだけど……まぁいっか、とりあえず沖に出てどんな魚がいるか見てこよ」


 熱帯魚の雰囲気からすると、どこの世界にも存在しない魚とはいえ、知っている魚に近しい雰囲気の魚が多そうだ。試しにどんな魚がいるか確認してから戦略を立てても遅くはない。


 沖に泳ぎ向かいながら今後の戦略について考える。


「そろそろポイントを稼ごうと思う」


 これまでは上位と大差がつかないようにする戦略で無理をせず確実にポイントを稼ごうとしていた。


「どうしてですか?」

「これは私の予想なんだけど、このイベントは次で終わると思う」

「ということは、今晩は課題は無いのでしょうか」

「この後、美味しいディナータイムって言ってたでしょ。だったらそのまま気持ち良く休ませてくれると思うよ。だってこのイベント、なんだかんだいって参加者に楽しんでもらいたい企画だから、水を差すようなことはしないと思う」


 唯一辛かったのが森の中で一晩を過ごすことだけれども、あれはあれでキャンプとホラーを混ぜた非日常感を楽しんでもらうための設定になっていた。ちょっと参加者がはっちゃけすぎてトラウマ抱えた人がいるだけで。


「そしてポイントの増え方が今回から変わると思うんだ」

「ポイントの増え方、ですか?」

「うん、これまでみたいに大差がつかない設定で効率的に最大ポイントを目指すってのも面白いけど、盛り上げるんだったらやっぱり大きくポイントを稼げる内容にして抜きつ抜かれつを楽しめるようにすると思うんだよ。でもそれが最後だけだったら、それまでやってたことは何だったんだってなっちゃうでしょ。だから一個前のこのイベントで事前に差がつくようにして最終日に盛り上げようとするんじゃないかな」

「なるほど……」


 メイとしては少なくとも中位~上位くらいの間で最終日を迎えられれば良いと考えていた。


「でもこの課題でポイント稼ぐの難しいぞ」

「運ゲーみたいなところあるよね」

「わたくしも、トモエやソルテの言う通りだと思います」


 何かを捕まえたとして、どの程度のポイントが貰えるのかは運だ。高いポイントと思われる海産物を浜辺に持ち帰り、それを鑑定してもらって本当に高ければそれを探して乱獲する。こんな理想的な展開は余程運が良くない限りはまず訪れないだろう。


「運ゲーだなんてとんでもない。ちゃんと高いポイントが稼げるルール設定になってるよ」

『え?』

「つまり……ってそろそろ良い感じのとこに着いたね。話は魚を獲ってからだ」


 いつの間にか辺りを泳いでいる魚の種類がガラっと変わっていた。

 熱帯魚だらけだった浅瀬とは違い、いわゆる『食べられそうな魚たち』が群れを成して泳いでいるのだ。


「魚の種類とか分からないけど、どれもこれもお刺身にしたら美味しそうだよ」

「お刺身すきー」


 鯵なのか鯖なのか何なのか全く分からないけれど、ふっくらとしたお魚たちはきっと捌いて食べたら美味しいに違いない。ソルティーユが大喜びで片っ端から魚を捕まえる。


「ちょっと速いけど、このくらいなら簡単だよーっと」


 熱帯魚たちとは違って泳ぐスピードが速くて捕まえる難易度が高い。


「(もしかして、難易度が高ければ美味しいのかな)」


 そう思わせておいて逆の可能性もあるし、レアな魚だからと言って『味』が良いとは限らない。


「(ひとまず思い込みはやめておこう)」


 判断するのはやっぱり一度鑑定してもらってからだ。


「大量大量~」

「って五十匹捕まえちゃったの」

「獲るの結構楽しかったです」

「落とし穴で捕まえられればもっと良かったぞ」


 どうやらセーラとトモエが一緒になって駆け回ったらあっという間に満杯まで捕まえてしまったらしい。


「さて、問題はどれを鑑定してもらうかだよ」

「もっと珍しい魚の方が良いのでしょうか」

「例えば?」

「深海魚とか?」


 メイは海底の方を見る。

 沖に出れば出る程、海は段々と深さを増している。このまま進めば深海と呼ばれる場所があるかもしれない。


「(潜れば潜るほど暗くなるかと思ったらそうでも無いんだよね。そういう海なのか、それともブレスレットの効果なのか……まぁいっか)」


 海は深くなればなるほど光が届かず暗くなる。しかしメイたちがどれだけ深く潜ったとしても周囲は明るいままだ。妙なところで異世界らしさを感じるなと思うメイであった。


 ちなみにメイは気付いていないが、海の綺麗さもまた普通ではない。

 大量の魚が泳いでいるということは、それなりにプランクトンがあるはずで濁っているとまではいかなくても透き通るような風景が延々と広がっているのはおかしい。


「深海魚はグロいの多いからちょっとねぇ……」


 などと思う人がいるのだ、綺麗で心洗われる風景しか見えないのは運営の心遣いなのだろう。


「あら、メイ達じゃない」

「おお、丁度良いところに」


 五十匹限界まで魚を獲ったメイ達のところにやってきたのはウェザーだった。


「うわぁ……」

「なによその反応」

「だって海の中で魔法少女服って……似合わなーい」

「う、うるさいわね!似合ってるわよ!私服よりマシでしょ!?」


 そう、実はメイ一行は『水着』ではないのだ。

 繰り返す、海に入っているのに『水着』ではないのだ!


 探索用の楽な服装のまま海に飛び込み、そのままである。


「だって水着用意してなかったもん」

「浜辺で水着の貸し出しやってたわよ?」

『え!?』


 だとすると水着に着替えるしかない!いや、でもやっぱり少し恥ずかしい。


「ってそうじゃなくて、ウェザーが来たから作戦会議だよ!」

「そんなことより水着です!」

「おいこら、無理矢理ひっぱろうとするな、分かった後で水着に着替えるから。だからコラ、ちょっと待ちなさい!」

「ぐへへへ」


 メイに水着を着せたがるセーラを何とか抑え、ウェザーと大事な話をする。


「ポイントを稼ぐ方法が分かったぞ!協力するんだぞ!」

「あら、まだ説明してなかったのかしら」

「うん、これからするつも……もう話を聞きなさいっ!」

「ぐへ……はい」


 逃がさないとでも言いたいのか、セーラは両腕でメイを抱え込む。頭部がふよふよと心地良いのはきっと海の中だからであり気にしてはならない。


「トモエは分かったみたいだけど、念のため説明するね。ウェザーと協力してポイント情報を少しでも多く手に入れるの。それで高いポイントの対象が分かったらそれを狙って獲る。そもそも二つ以上鑑定しないとポイントが高いか低いか分からないしね」

「本当はもっと協力相手が欲しいところだけど、有名人の難しいところよね」


 海産物を簡単に獲れることが分かった現状、このイベントでの最大の問題は対象のポイントが分からないことだ。具体的なポイントを知るためには時間消費というデメリットがあるため乱発はできない。それならば、複数のチームが協力してそれぞれバラバラの海産物を鑑定して、その中で一番高いものを集めれば良い。


 もちろん、優勝に近いと思われているチームや不人気のチームは協力してもらえる可能性が低くこの手は使えない。下位のチームが結束して上位に進出する大チャンスなのだ。


「ウェザーのチームメイトはどうしてるの?」

「分布を調べにいってるわ」

「ウチもそうしよっかな……って言いたいけど難しそうなの、ごめんね」

「別に良いわ。それに分布を知れたとしても、そもそも二チームだけじゃポイント情報も入手し辛いのよね……」


 今のメイたちが、バラバラになって行動することは難しい。昨晩のイベントのせいで(主にセーラが)メイから離れたがらないからだ。


「このイベントの本質は『情報戦』よ。そうと分かれば打つ手はいくらでもあるよ」

「あら、何かしら」

「例えば……」




 メイやウェザーが今後の戦略を立てている時、彼女たちをギリギリ視認できるくらい離れたところに数人の男女が集まっていた。


「準備は……」

「仲間が見つけたって連絡が……」

「なら俺たちは準備……」

「私はこのまま……」

「絶対に見つから……」

「大丈夫……」

「それじゃあ次の定時に……」


『絶対にあいつらに一泡吹かせる』


 彼らの血走った鋭い眼は、遠くで話をしているとある人物に注がれていた。


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