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48. 重大発表は最初にすべきではない

 狩る者と狩られる者、幸運にも無関係だった者。

 夜通し行われた耐久イベントの結果、彼らのポイントに大差は無かったが疲労度の点において明暗を分けることとなった。


 捕らえられ拘束された者たちは、森の中を蠢く虫や動物の音に怯えながら夜明けを待たなければならない。空気の動きによりカサリと微かな音がするだけでも体がびくりと反応してしまう。人体に危害は無いと分かっていても得体のしれない生物が徐々に近寄ってくるだけで恐怖を感じるには十分であり、動かせない体を這いまわるナニカの感触に悲鳴を挙げる。


 早く朝になってイベントが終わって欲しいと思うものの、そういう時に限って五分間が一時間にも感じられるもの。しかも陽がほとんど刺さない暗い森の中、朝になる兆候すら分からない状況ではこのまま永遠に地獄が続くのではないかと思えても不思議ではない。


 朝八時、しっかりと睡眠を取れた『勝ち組』達は心にゆとりをもったまま広い野原フィールドへと転送された。中には寝たまま転送された人もいる。苦痛でも何でもなかった人がかなり多かった。

 一方『負け組』たちはあまりの心労で、フィールド転送後に安堵のあまり気絶するように倒れる者が続出した。見せられないよ状態になっている人もいたため、そういう人はプライバシーが守られる別フィールドに飛ばされていた。

 彼ら『負け組』はこのままイベントを継続する体力やモチベーションを失っており、ほとんどが脱落となった。ちなみに、脱落者がトラウマを背負わないように、希望者は森の中での記憶を消去してもらえるようになっている。


「メイーーーー!」


 そんなこんなで飛ばされた先のフィールドにて一夜離れ離れになった仲間たちと合流。そこら中で無事を喜びあう姿が見られた。メイ達もまた、無事を喜びあっているのだが……


「みんな無事でよぐもぐ……」

「メイーー!メイーー!メイ――!」

「もがもぐもが……」

「メイーー!メイーー!メイ――!」

「も……が……」

「メイーー!メイーー!メイ――!」


 セーラによる全力の抱きしめ攻撃が中々終わらず動けないメイ。背中側からトモエも抱き着いてくるから拘束は完璧だ。

 ソルティーユ?

 眠そうにぼぉ~っとしている。夜遅くまでジャンクフードを食べながらアニメを見ていた影響だ。一人暮らしの学生か!


「うがーー!しつこーーい!」


 メイは流石にウザくなってきたので力を使って拘束を解除した。


「まだメイ成分が足りません!」

「来んな!」

「ぶっ!」


 再び突撃してきたので見えない防壁を張ってガードする。


「メイいいいいいいい!」


 壁をドンドンと殴り力業で突破しそうで怖い。ミシミシと防壁が軋む音が聞こえるのはきっと気のせいだと思い込むことにしたメイだった。血走った目でしばらく防壁を叩いていたセーラだったが、トモエが大量の水を上から被せることでどうにか冷静にすることができた。


 セーラをお着替えさせてから今度こそ再会の言葉を交わす時だ。


「まぁでも、みんな無事で良かったよ。トモエも大活躍だったみたいだね」

「Me大勝利だぞ!」

「あはは、楽しめたようで何よりだよ」


 メイと離れて悲しんでいたセーラは別として、好きなことを全力で堪能できたトモエとソルティーユは心からの気持ち良い笑顔を浮かべていた。どうせセーラはしばらく一緒に行動していれば満足するので気にしない。


「あれ?メイ、少し疲れてますか?」

「分かっちゃう?」

「確かにそう見えるぞ」

「誰か攻めてきたのー?」


 メイの顔を良く見ると目の周りが少しだけ覇気が無く、どことなく眠そうだ。誰かが攻めて来て寝る暇が無かったのではないかとセーラ達は不安になった。


「ううん、そうじゃないよ。どうもテントで寝るのが私には合わないみたいで、寝付けなかったんだよね。ふぁ~あ」


 心配かけるから黙っていようと思っていたが察せられたなら仕方ない、ということだろうか。メイは気を抜いて素直に疲れを表に出しあくびをした。


「少し寝ますか?」

「いや、別に大丈夫だよ」

「いやいや、今日も頑張るために少しでも寝ないとです」

「大丈夫だって」

「無理して怪我でも……しない世界ですが、したら嫌なので寝ましょう」

「なんじゃそれ」

「それにほら、全力で楽しむためには少しでも疲労を取るべきなので寝ましょう」

「それはそうだけど……しつこいねぇ」

「ぐへへへ、寝ましょうよぅ」


 セーラの寝ましょうには『一緒に』という言葉がついているので油断してはならない。それもあって丁重にお断りしていたメイだったが、運営から次のイベントまで二時間ほど休憩時間があると連絡があったため、仕方なく寝ることにした。


「んじゃセーラ、あそこの芝生のところで座って」

「え?早く宿に戻って仮眠しましょう」

「良いから良いから」


 戸惑うセーラの手をひっぱり、一面柔らかな芝生で覆われている場所に腰をおろした。


「それじゃお休み。時間になったらちゃんと起こしてね」


 メイは芝生に横たわると、すぐに眠りに落ちた。


 頭を、セーラのふとももの上に乗せて。


「ふぉおおおおおおおおおおおおお!」


 セーラにとっての二時間弱の至福の一時がはじまった。


――――――――


「お魚集め?」

「いえ魚だけではございません。様々な『海産物』を集めていただきます」


 休憩時間が終わり、次のイベントについての説明タイムだ。広いビーチに大量の参加者が集まり、目の前には広大な海が広がっている。白い砂浜だけでなく、離れたところには大きな磯がある。


「それぞれの『海産物』は種類ごとに味ポイントがついております。各チーム最大五十の海産物を収集し、その味ポイントの合計がそのまま皆様の総合ポイントに加算されます。五十の内訳は自由です。全て違う種類でも良いですし、全て同じ種類でも構いません。どの食材がどれくらいの味ポイントであるかは、終了時に公開されます」

「味ポイント?」

「はい。ですが味の良し悪しには好みがございますし調理方法によっても変わりますので、厳密にポイントをつけているわけではございません」

「それじゃあどうやって判断すれば良いの?」

「これから皆様が探索して頂く海には、いずれの世界にも存在しない海産物のみ生息しております。ですので、どの海産物がどのような味であるか『等しく』分かりません」


 だとすると、何を獲れば高いポイントが貰えるのかの基準が全く分からないということになる。元の世界のものと似ているかどうかを基準に考えるくらいしか方法は無いが、そもそも元の世界ですら見た目で区別できるかと言われると慣れていて知識が無いと難しい。


 となると、運を競い合うことになる。


「ただし全くの運のみで挑戦するのも面白くないでしょうから、ヒントとして私共のところに収穫したものを持ち込んで頂ければ、味ポイントをお伝え致します。ただしその場合、一種類につき三十分間、チーム全体が海に入ることが出来なくなります」

「(なるほど……ポイントを教えてもらって、それが高ければ同じものを狙って獲り続ければ良くて、低ければ追加で見てもらう。沢山の種類を見てもらえば高いポイントのものばかりを狙いやすくなるけど、そうすると獲りに行く時間が少なくなる。運要素が大きいから、それならいっそのこと無視して好き勝手に獲るのもアリかも。ギャンブルじゃなくてバランスよく獲るのが肝なのかな、う~んでも……)」


 ルールの説明が進むにつれて、各チームのブレイン達が戦略を考えはじめる。ある者はどうやって高いポイントを取得するか、ある者はどうやって有力チームの妨害をするか、ある者はどうやって守りを固めるか。


 そしてそのいずれの戦略を立てるにしても確認しておかなければならない大きな問題がこのイベントにはあった。


「釣竿とかボートの貸し出しはあるの?」


 それはどうやって海産物をゲットするかだ。


 磯に生息する生き物ならまだしも、海を泳いでいる魚を狙って獲ることなんて大半の人が出来るわけが無い。釣り場を変えれば釣れる魚が変わるかも、くらいのことしか考えられない。そのため、海に雷撃をぶち込んで強引に魚を仕留めよう、のような力業を考える人がかなり出てきており、結局激しいバトルイベントになるのではという雰囲気が漂いだしてきた。


「もちろんございます。ですが、それよりも効果的な道具を全員に配布いたします。是非ご活用ください」


 そうして全員に渡されたのはシルバーの細いブレスレット。手首に通すとブレスレットが収縮し、肌にぴったりとくっついた。食い込むことも無く肌触りも悪くない。


「このブレスレットはイベント終了時に外れますのでご安心ください」


 肝心のブレスレットの機能の説明が出てこない。勿体ぶっている理由は何なのだろうか。


「それでは、細かい質問はイベント中に受けるとして、そろそろイベントを開始します」

「あのっ……」


 ついには、説明なしでイベントがはじまろうとしていた。そのことに異議を唱えようとするものが出ようとしたが、それを無視して説明が続いてしまう。


「このブレスレットの機能について説明をした瞬間からスタートです。終了時間は午後五時までの七時間弱。夜にはみなさんが獲った海産物を使ってのディナーを用意しますのでお楽しみに」

「ちょっと待ってって!」

「まだ聞きたいことがあるんだよ!」


 ここに来て突然の強引な進行に、参加者から不満の声が噴出する。

 しかし運営はこの状況を何とも思わず、最後の説明を行いイベントを開始してしまった。




「このブレスレットをつけている間、海の中を自由に動けます」




 全員が全力で海に向かって走り出した。


 そりゃあこんなこと言われたら、一秒でも早く海に入りたくもなるだろう。


 この説明を最後に持って来た運営の判断は当然だったのである。


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