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46. ちょっとだけでは済みそうにない

―― セーラ Side


「はい、ご飯できたわよ」

「ありがとうございます」


 暗い暗い森の中。陽が沈み僅かに射しこんでいた光が完全に消えて無くなると、辺りは闇に包まれる。

 野営セットに多数入っている電子ランプをテント内外に設置することで、セーラ達の周囲は闇を跳ね除け明るさを保っている。明るさの代償に虫が寄ってくるが、ウェザーがキャンプに慣れているのか光源の位置や強さを調整して自分たちの近くには寄ってこないようにしている。

 ずっとテントの中にひきこもっていれば明るさ調整の必要は無いのだけれども、せっかく知り合いが居るのだからキャンプ的なことを少しはしないと勿体ない、とはウェザーの考えだ。


「あら、このカレー美味しいわね」

「ですね。街で食べるものと同じくらい美味しいです」

「キャンプ飯は不思議と美味しく感じるのよね……って言いたいけど、完全レトルトだからその風情はあまり無いかしら」


 お湯を作ってルゥを温めて……というレトルト食品では無く、不思議な陶器の箱に入っていてボタンを押して三分待つだけで完成するという異世界クオリティのレトルト料理だ。いわゆるキャンプ用品を使った夕飯も作れなくはないが、その場合はポイントを使って道具を購入して持ち込む必要があった。


「ウェザーさんのスープも美味しいです」

「でしょ?自信作なのよ」


 どうやって作ったのかは不明だが、ウェザーが作った野菜スープは出汁が効いていて絶品だ。その優しい温もりが体に染み渡り、寂しさを感じていたセーラの心がどことなく温まったようで柔らかな表情になっている。メイと別れてしょんぼりしていたセーラに対するウェザーの気遣いのスープなのだ。


 そして、心が温かくなれば自然と会話が弾むというもの。


「ウェザーさんのチームメンバーはどうしてますか?」

「あいつらは今頃強制……じゃなくて私の指示に従って他チームの偵察に行ってるわ」

「この暗闇の中でですか?」

「大丈夫大丈夫。それに多分、同じことやろうとしてるチームがあるわ。メイだって暴れるとか言ってたから、今ごろ偵察の準備でもしてるんじゃないかしら」


 ウェザーのチームは恒例の魔法少女軍団だ。相変わらず目が死んでいるウェザーの仲間たちは、ウェザーの『お願い』を喜んで引き受ける働き者たち。それ以上は気にしてはいけない。


「メイですか……」

「おっとメイの話題を出すの失敗だったかしら」

「い、いえそんなことは」

「ふふ、冗談よ。それにしても、本当にメイのことが好きなのね」

「大好きです!」

「どこが良いの?」

「小さくて可愛くて小さくて優しくて小さくて面白くて小さくて……」


 ディスってるわけでもツッコミ待ちでもない。セーラは本気で言っている。


「小さくて可愛いなら私でも良いじゃない」

「イロモノはちょっと……」

「なんですって!?」


 これに関してはセーラが正しい。ストレートに言い過ぎではあるが大正解だ。


「でも否定できない」


 ウェザー自身もそのことに気づいてはいる。元の世界でも常に魔法少女服というクレイジーな生活をしていたわけではないのだ。異世界に来て『ちょっとばかり』はっちゃけてしまっているだけである。


「それに、わたくしはやっぱりメイが良いです。メイじゃなきゃ嫌です。わたくしのことを最後まで見捨てずに諦めないで支えて下さったメイだからこそ良いんです」

「ふぅん、メイがセーラをねぇ」


 セーラの脳内では、メイが初級者ダンジョンを付きっ切りでサポートしてくれたものだと記憶が改ざんされている。セーラの立場から見ればアドバイス言い逃げされたようなもの、というより実際そうであるのに。


「だから絶対メイを妹にするんです!」

「うん、意味が分からない」

「ぐへへへ」

「ダメだこりゃ」


 妄想状態に入ったセーラを見て、まともな会話が出来そうに無いと踏んで食事に集中し始めるウェザー。傍から見ると奇妙な組み合わせだけれど、お互い特に居心地が悪いわけではない。むしろ自然体で接することが出来て相性抜群。コミュニケーションの機会が多ければ『友人』から『親友』になれそうな関係ではあるが、メイとウェザーの相性が最悪なのがどう影響するか。


「もしもーし、応答願うぞー」


 静かになった野外の食卓に、突如第三者の声が響いた。トモエが通信機を使って話しかけてきたのだ。


「セーラです。聞こえてます。これ凄いですね、本当に近くにトモエが居るみたいです」

「あら、あなた達もソレ買ったのね」

「おお、ウェザーさんの声も聞こえるぞ。さっきぶりだぞ」

「こんばんわ。お宅のセーラとは仲良くさせてもらってるわ」

「仲良くしてもらってます」


 目の前に相手がいない状態で会話すると、慣れるまで普段はやらない不思議な会話になるのは何故だろうか。


「メイとソルテの反応がないぞ」

「ソルテは遊んでいると思いますよ。メイはどうしたのでしょう?」

「ごめんごめん、反応遅れた。いるよー」

「何かあったのですか?」

「偵察の準備してたら通信機の置き場所が分からなくなっちゃって」

「私は外した方が良いかしら」

「その声はウェザーかな。大丈夫だよ、まだ特に何も漏らしちゃまずい情報無いし、そもそも同盟みたいなもんだしね」


 通信機から聞こえて来るメイの声を聞いてセーラの顔色が更に良くなった。どうやら通信機を購入した効果は大きいようだ。


「メイ、偵察に行くのですか?」

「もう少ししたらね。そのために暗闇に目を慣らしてるんだけど、まだ全然見えるようにならなくて自分の荷物の場所が分からなくなっちゃった」

「メイ無理しちゃダメだぞ」

「しないしない。夜中にじっとしてるのも勿体ないからちょっとばかり遊ぼうかなって思ってるくらいの感覚だよ。それでみんなは何してるの?」

「わたくしはウェザーさんと夕飯中です。ソルテは反応が無いのできっと遊んでいるのかと。そういえば最初に連絡をくれたのはトモエでしたね。何かありましたか?」

「それなんだけど、十分くらい待っててほしいぞ。ちょっと席外すぞ」


 話しかけてからの数分間。

 この間にとある出来事が発生したため、そちらの作業を優先することになったのだ。


―― トモエ Side


「見えるか?」

「ああ、間違いなくあそこに誰かいる。テントの近くを歩いているのが見えた」

「よし、相手に気付かれないように注意して進むぞ」


 暗い森の中を進む二名の男性。

 その片方の男性の顔に、大きなゴーグルが装着されている。


 暗視ゴーグル。


 暗闇の中でも前方を捉えることのできるゴーグルは、今回の条件下では非常に有効だ。ただしその分、購入に必要なポイントがかなり多いため上位を狙うには手が出し辛い。


「ついて来てるか?」

「ああ、問題ない。俺の動きは気にしなくて大丈夫だ。せっかくの好機、確実に潰せよ」


 この二人の目的は他の参加者の邪魔をすること。

 テントを壊してキャンプを出来なくするも良し、相手を捕まえて直接どこかに縛り付けて動けなくするもよし、どのような方法でも良いので少しでも多くの相手を行動不能にして可能であれば翌日の課題に影響が出るくらい疲弊させる。

 せめて多額のポイントを支払った暗視ゴーグルの元が取れるくらいには、だ。


「分かってる。でも足元には気をつけろよ」

「ああ」


 片方の男は暗視ゴーグルを使って進んでいる。

 そしてもう片方の男は自分の能力を使って先行するゴーグル男の後を追っている。ただし、この能力では足元のフォローが出来ないため木の根などに躓かないように注意が必要だ。


「待て」


 後ろの男が、ゴーグル男の動きを制止する。


「どうした?」

「どうやら厄介なヤツを見つけちまったらしい」

「分かるのか?」

「ああ、有名どころの『魔力の性質』は全部チェックしてある。あそこにいるのはトモエだ」


 男の能力はあらゆる魔力を感知すること。

 この世界の人間は全て神様から魔力を与えられており、その魔力を使って能力を発動している。その魔力の質、例えば色や形などは千差万別であり同じものは無い。男はこの能力を使ってゴーグル男の魔力を感知し、その魔力の後を追うように進んでいたのだ。

 また、男はこのイベントの参加者の中でめぼしい人の魔力を調べ、頭に叩き込んである。前方にいるらしき人物が魔力の感知範囲内に入ったため確認したところ、それが要注意人物としてマークしていたトモエのものだった。


「マジか。やべぇな」

「間違いなくトラップが仕掛けられてるはず」

「でもそれさえ見破れば大チャンスだぜ」

「ああ、先に動いて正解だったな。あいつを封じ込められるのは大きいぞ」

「ははっ、この暗闇の中でトラップ仕掛けられたらたまったもんじゃねーからな」


 メイと同じく、トモエも目を慣らしてから闇の中に突入し、いくつか落とし穴を仕掛けてくる予定であった。そのためテントの周囲にライトをつけていなかった。

 この男たちの役割は好戦的な参加者が闇に目を慣らして打って出てくる前に潰すこと。そのための暗視ゴーグルなのだ。まだ寝るには早い時間帯。この時間にライトをつけていないのは目を慣らして攻めの準備をしているのだと判断し、闇からの奇襲で潰して周っている。


 敵としてぶつかったら厄介なトモエを運良く見つけられたので、今のうちに無効化しておきたい。


「どうする?足元をつつきながら移動するか?」

「いや、もっと確実な方法でやる。あいつのトラップは魔法で作ったものだ。それなら仕掛けた場所に僅かでも魔力が付与されているはず……やはりな、うじゃうじゃあるぜ」

「うひゃーお前とセットで良かったぜ。一人だったら完全にやられてたわ」


 テントを囲うように、何か所も薄い魔力の円が地面を覆っている。魔力が無いところがトラップの無い安全地帯だ。


「もう少し右……止まれ。よし、後はここからテントまではトラップが無い」

「了解。ここなら走りやすそうな道だからお前も走って大丈夫だぜ」

「なら俺も行こう。ここからはお前のタイミングで突入するぞ」

「了解。丁度今、トモエがテントの中に入った。チャンスだ、行くぞ」


 男たちは意味も無く背を低くしてトモエのテントに向かって疾走する。闇の中を走るときは背を低くするものだと何となく思い込んでいるのだ。ターゲットはテントの中なので身を隠す必要が無いのだが。


「!?!?」

「ぬおおおおおお!」


 そこは安全な道のはずであった。

 魔力で地面を調査し、何も仕掛けられていないことを確認した。


 それなのに、二人は落とし穴に滑り落ちてしまった。


「ぎゃああああ、なんか落ちてくる!」

「埋まる!埋まるううう!」


 落ちた二人の頭上から大量の土砂が降り注いでくる。このままでは生き埋めになってしまう、とパニックに陥る。


 もちろんトモエは人の命を奪うようなトラップを作ったりはしない。

 落ちた深さは二メートルも無く、土砂が全て降って来たとしても下半身が動きづらくなる程度だ。


 そもそも『手作業で作った落とし穴』なのだ、短時間でそれほど大きな仕掛けを作ることは出来ない。


 落ち着いていれば脱出して逃げ出すことが出来ただろう。

 しかし闇の中で逆奇襲されたも同然な男達は、異変に気付いたトモエがやってくるまでに冷静さを取り戻すことは出来なかった。




「てなわけで、暗視ゴーグルゲットしたぞ」

「トモエ凄いです!」

「えっぐいわね。それにその道具、持たせちゃいけない人が手にしたような気がするわ」

「それでトモエ、そいつらどうしてる?」

「下半身が土に埋まって動けなくなってたから、罠魔法で土を固めて出られないようにしておいたぞ」


 これで彼らは朝の八時までずっとその場所で動けなくなる。トイレに行きたくなったら悲しいことになるが、危害を加えようとしていたのだから当然の報いだろう。


「ちょっとだけ攻めてみるって連絡するつもりだったけど、便利道具が手に入ったからめっちゃ楽しんでみることに決めたぞ」

「了解。そいつらみたいに組んでるチームがあるかもしれないから気をつけるんだよ」


 男たちが同じチームであるならば、朝になるまでずっと同じ場所で拘束されるのでポイントがマイナスになり続けるが、流石にその危険を犯してまで攻めてはこない。メイ達がウェザーのチームと協力しているように、彼らも別々のチーム同士が協力しているのだ。


 現在この森の中では、戦うために手を組む者や孤独を紛らわせるために手を組む者が大量にいる。つまり攻めるとなると相手が複数人の可能性が高いのだ。


「ふふふ、Meの力を見せてあげるぞ」


 恐怖の使者が森に解き放たれた。




―― ソルティーユ Side


「はぁ~面白かった。次は何見ようかな」


 テントの中で寝そべってジャンクフードをポリポリ食べながらアニメや漫画を堪能し続けるソルティーユ。イベントで頭を悩ませること無く快楽を貪り続けている彼女こそが、現状を一番楽しめているのかもしれない。

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