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45. 一人の夜は怖くない

説明回です。

 結局メイ達は宝箱を十個発見、八時間経過の千二百ポイントで課題を終えた。

 予定より百ポイント低いけれども、その分遊べたからそこそこ満足だ。むしろ十時間ギリギリまで映える場所を探してファッションショーをしたかったくらいには物足りなさも感じている。


「お疲れさまでした。ゴールした方々は配布した腕時計を回収した後、こちらの転移門で次の会場へと移動して下さい」


 告知されていた通り、ゴールするとすぐに次の課題に挑戦させられるようだ。


「森の中で一晩かぁ。考えるだけでも気が滅入るから」

「メイと離れるの嫌です」


 能力が与えられたとはいえ、普通の女の子が仲間と離れ離れになりながら森の中で一晩過ごす。これまでの課題とは違って肉体的にも精神的にも本格的に辛い内容である。


「そういえば細かいルール説明は無いの?」

「転移先で致しますので、まずはご移動お願いします」

「ほいほい」


 ということなので、視界が開けた景色に別れを惜しみつつ光の渦に触れて転移する。


「うわーやっぱり暗……くない?」

「空が見えますね」

「周りに森があるぞ」


 転移した先は森の中では無く、二百メートルトラックくらいの広さの平地だった。この平地を囲むようにして森が広がっている。


「まずはこちらで課題の説明を致します。なお、今回は質問を受け付けませんのでご理解ください」

「怪しいから」


 課題にはウラがあって、それを見つけ出す必要があるのか。それともそう思わせるための罠なのか。何にせよ、この課題だけ質問を受け付けないということには意味があるはずだ。


「今回の課題では千ポイントを付与致します。活動内容によってポイントが減点になりますのでご注意ください。ただし、減点は最大でも千ポイントまでになります」


 つまり手持ちのポイントは減らされず、今回加算される予定のポイントをいかに減らさず済ますかが試されるということになる。


「皆様にはこれから森の中に入って頂きます。森に入ってから一時間以内に、チームの各メンバーが一キロメートル以上離れてください。一キロメートル以内に近づいた時間によってポイントが減ります」


 千ポイントを狙うのであれば、一旦離れたらその場を動かなければ良いだけだ。問題は動かざるを得ないような仕掛けがあるかどうか、だろう。


「こちらの小型スピーカーをお渡ししておきます。減点範囲内に近づいた場合、赤ランプが点灯し、音が鳴りますので参考にしてください。減点しても問題ないから音を消したいという場合は鳴った後に赤いボタンを押してください」


 手のひらサイズのボタン付きスピーカーを渡される。 


「なお、こちらのスピーカーですが、青いボタンを押しながら『ギブアップ』と言うことで私どもが即座に駆け付けます。継続が難しいようであればご検討ください。この場合、ポイントは与えられません」


 森の中で夜を過ごすことがかなりの苦痛になる人がいるはずだ。そういう人は無理せずに諦めてくださいという運営からのメッセージなのだろう。当然の仕組みだ。


「なお、運営から見てこれ以上の継続は危険だと判断した場合も、介入させていただきます」

「そういうことか」

「メイ?」

「後で話すよ」


 メイは何かに気付いたが、ここにはメイ以外の参加者もチラホラいる。彼らに聞かれるわけにはいかないので、セーラ達に伝えるのはひとまず保留だ。


「森の中には野生生物が生息しておりますが、みなさまに危害を加えることはございません」

「危害……ねぇ」


 だから安心かと言えばそうでもない。

 危害を加えないだけで、寄ってこないとは言ってない。ウネウネカサカサバサバサ……


「終了時間は朝の八時。時間になりましたらお手持ちのスピーカーから通知が流れ、その後森の外へ自動的に転移致します」

「寝てたらその通知で起きなきゃだぞ」


 どこに転移されるかの情報は無いが、寝たまま人前に転移されたら恥ずかしい。


「そもそも眠れるのかなぁ」


 森の中で熟睡するとか、肝が据わりすぎている。


「最後に一つ。これから三十分以内に、ここで森の中に入る準備をしてください」


 スタッフがそう言うと、何も無かった閑散とした平地に大量の『モノ』が出現する。


「野営セットは人数分無償でお持ちください。それ以外はお手持ちのポイントを使用してご購入下さい」

「野営セットあるのかよ!」


 手ぶらでどうやって森の中で過ごせば良いのか悩んでいたメイは、思わずツッコんでしまった。


「テントや食料は野営セットに含まれております。見本を展示しておりますのでお好きなものをお持ちください。なお、リュックの中に入っており軽く運べるようになっておりますが、一度開封すると元に戻りませんのでご注意ください」

「一度テント開いたら移動させるの大変だから野営する場所は慎重に選べってことね」


 テントの設置も簡単に出来て丈夫そうだ。

 これならウネウネカサカサに怯えずに夜を過ごせるだろう。


「以上で説明は終了となります。それでは早速ですが課題を開始いたします。三十分以内にここで準備を整え、森に入ってから一時間以内にチームメンバーが距離を取るようにしてください。それではスタートします」

「なるほど……これで全部……ということは……あれ?」

「メイ?」

「…………ううん、なんでもない。時間も無いし、手分けして準備しよ」


 といっても、野営セットがあれば必要なものは殆ど揃っている。

 ポイントが必要なものは、森の中で過ごす時間をより快適にするためのモノになる。


 例えば耳栓。


 テントに入っているとはいえ、暗い暗い森の中。

 ゴソゴソガサガサホゥホゥと鳴り響く音を気味が悪いと感じるのであれば、必需品とも言えるだろう。


「ママと離れて一人で森の中……寂しいよぅ」

「そんなソルテのためにこれを買ってあげよう」

「タブレット?」

「漫画やアニメが大量に入ってるよ。これで暇つぶし出来るから」

「わーい!」


 そして大問題なのが、長い長い時間をどうやって過ごすかだ。図太い神経で延々と寝ていられるなら問題ないが、そうでないならば何らかの方法で気を紛らわせつつ時間を潰さなければならない。

 寂しがり屋のソルティーユには夢中になれるモノを購入してその問題を解決した。


「メイと長時間離れるのは嫌です。仕方ないのは分かっているのですが」

「それじゃあこれで我慢して。通信機」


 四人分の通信機。

 機械を通したとは思えないくらいクリアな音質で、まるですぐそばにその人がいるかのような感覚を味わえる、と商品説明に書いてある。


「分かりました。我慢するから、お話してくださいね」

「寝てるときは勘弁してよね」


 これでセーラも大丈夫だろう。

 後はトモエだが、サバイバル系は得意な気がする。


「デフォルトだけでも良いけど……余裕があればこれが欲しいぞ」

「ショベル?なんで?」


 柄が長く、穴を掘るための道具。

 罠魔法があるから不要なはずだ。


「時間があるから久しぶりに手作業で罠を作ってみようかなって思うぞ」

「う~ん、安いからOK」

「やったぞ」

「それに、トモエには大活躍してもらわないとだからね」

「??」


 これは先ほど課題の説明中にメイが気付いたことに関係する。


 必要なものを確保したメイ達は、リュックを背負い森の中に入った。袖や裾が長く肌を極力見せない森林散策用の服装も野営セットに含まれており、気分は森ガールだ。そんな気分も日が届かない真っ暗な森の奥に入ったら吹き飛ぶのだが。


「さて、歩きながら説明するよ。この課題ってサバイバル力が試されるわけじゃないんだ」

「だとすると何でしょう?」

「『肝試し』だよ」


 うっそうと茂る森の中で、様々な生物が蠢く音や鳥の声が散発的に響き渡る。そよ風が吹くだけでカサリと揺れる木々の音が聞こえるたびに、何か得体のしれないものが近づいてくるのではと恐怖感を煽られる。鉄壁のテントがあったからと言って、その恐怖が完全に消えるわけでは無い。そばに頼れる仲間は居ない。自分一人で闇と音と孤独を耐えきらなければならないのだ。


「怖いのに耐えるのはもちろんなんだけど、『肝試し』はそれだけじゃないから」

「他に何かありましたっけ?」

「『肝試し』はね、『試す側』と『試される側』があるんだ」

「Meが頑張るって意味が分かったぞ!」

「ふふふ、相手を怖がらせてギブアップさせる。きっとそれがこの課題での攻撃手段なんだ。足元が不安定なこの森の中での落とし穴、恐怖を煽るには最適でしょ」

「でもこの課題だと一度野営ポイント決めたら動かないよね」


 ソルティーユの言う通り、ポイントを稼ぐだけなら条件を満たした時点でそこで朝まで野営をすれば良い。動く必要が無いのだから落とし穴にはまる可能性は無い。


「多分そうならないと思う。『試す側』に回った参加者が様々な手段で相手を攻撃してくるはず。それから一時的に逃げたり迎撃したりと、案外動くんじゃないかな。ギブアップまで追い込まなくても、相手を疑心暗鬼にさせて休ませず、明日の課題に影響が出るようにする作戦もありだし」

「なるほど…………腕の見せ所だぞ!」

「うんうん、全力でやっちゃってー」


 ソルティーユは漫画やアニメに夢中だから攻撃されても気にしないだろう。直接被害があるなら薬品でドカンだから相手も手を出しにくい。


 問題なのは抵抗手段の無いセーラだが、手は打ってある。


「おいっすー」

「来たわね」


 前回の課題でウェザーと会った時に、森での合流地点を決めてあったのだ。転移方法が不明だったから正確に指定することは難しかったが、どうにか合流することが出来た。


「それじゃあセーラをよろしくね」

「ええ、任せておきなさい」

「よろしくお願いします」


 一人が辛いなら、仲間を探せば良い。

 参加者全てが敵というわけでは無いのだから。


 不思議とウェザーとセーラは交流があったので、それなら一緒に居てくれるようお願いしたのだ。一人で過ごすのが嫌だと思う人は多く至る所で協力関係が生まれていたりする。


「(こうやって新しい交友関係を作るのも運営の狙い?流石にそれは考え過ぎかな)」


 考え過ぎではない。

 同じ環境で長く過ごしていると新たな友人というものは作りにくかったりする。それを打破して人間関係をより豊かにして幸せ度を上昇させたいと運営は考えていた。


 残念ながらセーラは知り合いと組み、トモエはソロではっちゃけ、ソルティーユもソロでひきこもり、メイも誰かと組むつもりは無いので、彼女たちには効果が無かったが。


「メイはやっぱり暴れるのかしら?」

「見えない力って酷いよね」

「悪い顔してるぞ」

「ぐふふふ」


 視界の悪い森の中、安心だと思っていたテントの入り口が勝手に開き、頬に得体のしれない何かが触れ……

 この条件では最低最悪の能力と言って良いだろう。


「さて、それじゃあここで一旦お別れだね」

「通信待ってます」

「頑張るぞ」

「何から読もうかなぁ」

「ちゃんと赤ランプが消えるまで移動してからベースキャンプ作るんだよ」

『はーい』


 こうしてメイ一行は、別方向へと散って行った。


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