41. 大規模イベントに準備など必要ない
「聞いたわよ。暴れ回ったんでしょ」
「失礼な、私は全力を出しただけだよ」
「自分が一番得意なイベントで全力出すとか、大人げないのでは?」
「うっさい、負けたくなかったのよ」
言われてみれば、自分たちだけが慣れていて得意なイベントで念入りに準備をして勝ちに行くのは大人げない。特に賞品もかかっていないお楽しみイベントなのだから猶更だ。
「でもまぁ、あんたはそれじゃないと困るわ。私が目をつけたのだから、そのくらいはしてもらわなきゃ」
「一気に罪悪感が……考え方変えようかな」
「なんでよ!」
結局なんだったのか良く分からないメイの暇つぶしイベントが終わり、次は何をしようかとコロシアムで掲示されているイベントを眺めていたところ、ウェザーに声をかけられた。セーラたちと一緒に近くのカフェで甘いものを堪能しながら、近況報告および作戦会議だ。
「でもイベント開催は良かったと思うわ。参加者たちの頭のおかしさ、理解できたでしょう?」
「それはもう痛いくらいに」
会場を阿鼻叫喚の渦に巻き込んだクリスはもとより、他の参加者も普通では無い。殴る蹴るはもちろんのこと、目的のためには手段を選ばない人間たちがほとんどだったのだ。
「初っ端から全くの躊躇なしに見知らぬ相手に攻撃するってどうよ」
「何を当たり前のことを」
「そこまで好戦的な戦闘民族は漫画の中にしか居ないと思ってたんだけどなぁ」
「それだと負けた彼らは次回もっと強くなって襲ってくるぞ」
「もうやらないよ!?」
メイが代表として誰かと話をしているときは、基本的に他の三人は静かにしているのが彼女たちのスタンスだ。
今回のようにどうしてもツッコミたい場合だけは遠慮なく入ってくる。
漫画大好きトモエだから、ツッコミせざるを得なかったのだ。
「私から見ればあんたたちも戦闘民族だわ」
「あはは、冗談は服装だけにしてほしいから」
「あ!?」
「あ!?」
「なんでこの流れで煽りあってるのですか……」
ウェザーの指摘はもっともだ。
隙あらば落とし穴を仕掛け、薬品で爆破し、相手を回復させてそれらを繰り返し、極めつけは謎の力で会場ごと破壊する。
戦闘民族と評されてもなんらおかしくはないのである。
「はむはむ」
「ごめんごめん、ソルテ急いで食べなくても大丈夫だよ、今日はやらないから」
「ふぁい」
乱闘によるカフェ崩壊の危機を察したソルティーユが、慌てて目の前のチーズケーキを平らげようとする。今日は自重するつもりだったので、ゆっくり食べて良いよとメイが落ち着かせる。
「ほれへ、つひのひへんほは?」
「およ、ソルテやる気だね、珍しい」
「んっ……はぁおいし。やる気無いよー。しばらくイベント無いと良いなーと思って聞いたの」
ぐーたら大好きなソルティーユにとって、激しいイベント連戦は避けたいところ。ただ、みんなで一緒に遊ぶことが楽しくもあるから、イベントがあったとしても逃げたりはしない。
「ふふ、諦めなさい。狙い目のイベントが開催されることになったわ」
「ぐへー」
「ついに来ちゃったか―」
体の見た目を変化させる賞品があり、初見でも優勝の可能性があるイベント。ウェザーはそれにしか興味が無かったため、メイが企画したイベントにも参加していない。
「あれ、でもさっき掲示されてなかったよ」
「スタッフの人と話をしてたら教えてくれたのよ。今ごろ掲示されてるんじゃないかしら」
「スタッフと仲良いってまさか賄r」
「やっぱり一度シメようかしら」
「魔法少女はそんなこと言わないから!」
賞品を手に入れるためならなんでもする、ところまではまだ堕ちてはいない。そもそも賄賂を使おうとしても、この世界の住人は潔癖な人だらけだから効果が無い。
「まったく……前からイベントについて色々と聞いてたら自然と仲良くなっただけよ」
「ふぅん、それでどんなイベントなの?」
「フィールド探索型のイベントね。広大なフィールドにいくつかのチェックポイントがあって、そこで出される課題をクリアしながらゴールまで進む形式よ」
「ほうほう、それで最初にゴールした人が優勝ってことかな」
「いいえ、今回のイベントではタイムはあまり関係ないらしいわ」
「そうなの?」
オリエンテーリングのように、いかに素早くゴールを目指すかが問われるイベントでは無いとのこと。タイムを競うのかと思った時、某イベントの人間を止めた動きをしていた参加者を思い出し、白目になりそうなメイだった。
「アスレチックやクイズと組み合わせてタイムを競うオリエンテーリング形式のイベントは人気だからこれまで何度も開催されたことがあるわ。今回はそれらとは違ってじっくり課題を解くタイプみたい。むしろ急ぐとデメリットが生じる可能性もあるらしいわ」
「ふむ……となると課題の良し悪しで勝敗が決まるってとこかな」
「ええ、その通りよ。課題の内容次第だけど、これならベテラン勢が参加しても勝負になると思うのよ。初めて開催されるイベントだから慣れている人もいないでしょうし」
攻略方法が決まっているイベントでは無いのだから、誰にでも優勝のチャンスがあるということ。『新しいイベントへの挑戦に慣れている参加者』や『どんなタイプのイベントでも活躍できる手段を持っている参加者』が多少有利である程度か。クリスなんかは後者のタイプであろう。
「事前に準備しておくことってある?」
「特に無いわね。今回のイベントは完全新規だから練習することも無いし、持ち込みも禁止だからアイテムの用意も不要ね」
「持ち込みダメなの?」
「ええ、そうね」
「じゃあソルテの薬は……」
「それは大丈夫だと思うわ。持ち込み禁止のイベントは他にもあるけど、その人の能力に関係するものなら認められるのよ」
各々が持つ特殊能力をどのように活用して難関を突破するのかが見どころなので、それを防ぐことは推奨されていない。
ただし、この手のイベントは賞品を使って勝利を狙うクリス涙目である。
「そうそう、一つ言い忘れてたわ。今回のイベント、四日かかるそうよ」
「長っ!」
日を跨ぐイベントですら、これまで数えられるほどしか開催されていない。四日もかかるのは異常とも言える。
「長時間かかる課題もあるだろうから、心の準備だけは必要かもね」
「りょーかい」
「ううーめんどいー」
このイベントが終わったら全力でダラダラしようと誓うソルティーユであった。
「それじゃあ、私は登録しに行くわね」
「別チームで良いんだよね」
「ええ、仮に潰し合いになったとしても、そこは気にしなくても良いわ。ぶっちゃけ私もあなた達と戦ってみたいって思ってるから」
「勘弁勘弁。私たちはまったりやるよ」
「ふふふ、嘘ばっかり」
メイの軽口をいなしてウェザーはカフェから去って行く。
「さて、予想以上に大きなイベントが舞い込んできちゃったけど、どうしよっか」
「どうって……参加するのですよね?」
「もちろんするよ。ただ、どういう組み合わせで参加しようかなって」
「組み合わせ?」
「うん、四人一組で一チームか、二人一組で二チームか、とかね。ぶっちゃけ四人がソロで登録すれば四チーム参加になるから手数が増やせるんだよね」
二チームが登録すれば、片方がダメでももう片方が勝ち残るかもしれない。
もちろん実際はそんなに単純ではない。例えば回復メインのセーラを単独で参加させても優勝するのは難しいだろう。戦力バランスを考える必要があるし、一チームの人数が多ければやれることが多くなり有利になる可能性もある。
「一組何人で登録できるか聞いておけばよかったぞ」
「だねー失敗した。後で確認しないと」
「ひとまずみんな一緒で良いと思うよー」
「わたくしは絶対メイと一緒です」
「でもさ、トモエとかソルテは私と戦ってみたくない?」
『……』
料理争奪戦の時、セーラはメイそのものに執着していたが、トモエやソルテはメイと戦いたがっていた。敵対するのもまた一つの遊びの形である。
「そう言われると協力するのも戦うのも捨てがたいぞ」
「ママと遊べるならどっちでも良いかなー。あ、一人は嫌だけどね」
「わたくしは絶対メイと一緒です」
ぶれないセーラは別として、トモエやソルテはメイの言葉に揺れているようだ。
「直接戦えない可能性もあるから、Meもメイと一緒がいいかな」
「んじゃ私もー」
「あーそっか。別々の場所で課題に挑戦してたら戦ってる感が無いもんね……」
森の中で指定された薬草を十個集めなさい。
のような課題だったら、直接触れ合って争うことは無い。
トモエやソルテが望んでいるのは、もっと直接的にメイと触れ合って遊ぶことなのだ。
それこそ、料理奪い合いのように。
「んじゃ今回は四人で登録にしよっか」
『はーい』
イベント内容が漠然としている上に、持ち込み禁止となればウェザーが言うように準備が不要である。
「じゃあこれ食べたら登録しに行こう。その後はイベント開始まで都会エリアでまったりだ」
リラックスして料理バトルでの疲労を回復させつつ英気を養う。
そうしてメイ一行は初の公式イベントに参加することになった。
「聞いたか、メイが参加するらしいぞ」
「ええ知ってるわ。だからみんなを呼んだのよ」
「どういうことでござるか?」
「まさかチームを組みたいとでも?」
「流石の洞察力ね。その通りよ、この四人でチームを組まない?」
「おいおい、どういう風の吹き回しだ?」
「拙者はこの中でも弱い方でござるよ」
「それを言うなら私が一番役立たずですよ」
「今回のイベントは制約があるから、私だけだと分が悪いのよ。あなた達も単独で参加して優勝するのは難しいと思っているのでしょう?だったら手を組みましょうよ。きっとその方が『面白い』わよ」
「分が悪いも何も、制約のせいでお前は何も出来ないだろ。これまでもそうだったじゃねーか。俺たちに全てやらせて自分は何もしないとか、都合よすぎないか?」
「ふふふ。その制約、実は少しだけ誤魔化す手段があるのよ。ここぞという時のための秘策なんだけど、今回が使い時だと判断したわ。それに、あなただって苦しいでしょう?基礎能力が高いとはいえ、初イベントには弱いじゃない」
「うぐ……それはそうだが……」
「身体能力の高さ、強力な道具、神速剣の使い手、そして頭脳派。このチームなら楽しいイベントになると思うのだけれど、いかがかしら」
これは全て一人の少女を倒すための企み。
彼女のテリトリーでは完敗したが、自分たちのテリトリーで好き勝手やられるのは我慢ならない。
そのためなら、ライバルと手を組むことすら厭わない。
「なるほど、あなたの強さの秘訣が一つ分かった気がします。良いでしょう、チームに参加します。その方が『面白そう』だ」
「今回は様子見のつもりでござったが、あなたの執念に身を委ねるのも『面白い』かもしれないでござるな」
「……メイか。俺が知ってるあいつは取るに足らない相手なんだが、お前がそこまで言うなら噂通り相当ヤバイやつなんだろう。良いぜ、協力してやる。……いや、ちげぇな、メイを叩き潰して優勝するために手を組む。その方が『面白そう』だぜ」
「うふふ、みんなありがとう。それじゃあ新人さんに、この世界の厳しさをたっぷりと教えてあげましょう」




