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37. 得意の勝負では負けられない その二

「二品目はカボチャの冷製スープです」


 一品目のバトルを終えた面々は、一旦自席に戻り次の料理が運ばれてくるのを待つ。

 コース料理ということで、前菜の次はスープ料理だ。


「(カップ型の小さいスープ。スプーンは同時に一つしか入らなそうね)」


 平べったい皿ではなく、取っ手が二つ付いたカップ型の食器に入れられたスープ。

 量が少なく、一つのスープを多人数が飲むことは難しい。


「今回の料理は、およそスプーン一杯分を口にすることでポイントとなります。また、内側の壁に付着した残留物は対象としません」

「(なるほど、そうきたか)」


 今回の戦いでは、厳密なルールを決めておかなければ、あまりにも見た目が汚らしくなることが目に見えていた。


 例えば、スープに指を入れてそれを舐めとる。

 カップ内部の壁や底に僅かに残された部分を指あるいは直接舐めとる。


 多くの参加者が必死にスープを舐めとっている姿は、あまりにも見るに堪えないため、制限しているのだ。


「(一品目のトマトのようなことは出来ないってこと。純粋に奪い合う実力が問われるから)」


 奇策はイベントの花であるが、正道を貫くのもまた一興。


「(さっきは潰し合いでポイントが伸びなかった人が多かったから、今度は私の料理に殺到する人がさっきより減るはず。それに、トモエやソルテも私の後を追うのではなくて最初から私の動きに注目して戦いにもってこようとする。さて、どうする)」


 闘いにこだわれば点が伸びず、かといってリードしている人を放置するわけにもいかない。勝敗云々とは違う理屈で動いている人も居れば、場の状況を見ながら臨機応変に動いている人も居る。


「(セーラトレインを仕掛けながら、トモエとソルテをなんとか避けて進むしか無いか)」


 場の流れが読めないため、メイは基本方針をざっくりと決めてから状況に応じて対応することに決めた。


「それでは手を合わせてください」

『いただきます』


 開始の合図と共に、メイはスプーンで自分のスープを一口飲む。


「甘くて美味しい」


 カボチャの強い甘みが口の中に一気に広がるものの、べたつきは無く後味がスッキリしている。美味しさのあまり、思わず次の一口を飲もうとしてしまったが、気合を入れて誘惑を断ち切った。


「よし、出陣だ!」


 予想通りにメイの料理を狙う人は半分以下に減っていた。

 セーラが猛スピードで迫ってくるのも、トモエとソルテが距離を取りながらメイの動きを観察しているのも予想通りだ。




 だが、一つだけ大きな予想外が待ち受けていた。


「捕まえろー!」

「!?」


 三人の参加者が料理では無く移動中のメイに飛び掛かり、地面に押し倒したのだ。


「な、なんで!?」


 三人がかりで押し倒され、身動きが取れなくなるメイ。

 当然スープを飲むことが出来ない。


「道連れは無いでしょ!ちゃんと勝負しなさいよ!」


 スープを飲めないのはメイだけではない。押さえつけている三人もまた飲むことが出来ないのだ。それゆえ、メイは道連れの自爆技を仕掛けられたのだと思っていた。


「道連れなんかじゃないさ。勝つための一手だ!」

「ほらよっ!」

「なにぃっ!?」


 押さえつけていた三人の元に他の参加者がやってきて、スープを飲ませる。

 自爆技ではない。協力プレイだったのだ。


「いつの間に相談を……最初から仲間だった?いや、待てよ……?」


 現在の順位が表示されている電光掲示板を見る。

 下位の順位の参加者のポイントが次々と増えて行く。

 だが、上位のポイントの伸びはほとんど無い。


「そうか、二番手集団が上位を抑えることで下位にポイントを与えやすくして、その見返りにスープを貰ってるのね!」


 こうすることで、先頭集団はポイントが伸びず、二番手集団は先頭に追い付く程度にポイントを伸ばし、下位集団は実力者が抑えられているうちに大量ポイントをゲットできる。


「(下位としては上位同士で潰し合って欲しいから、二番手をフォローして得点を少しだけ与えているのか。即興でこんな連携が出来るなんて、やっぱりこの世界の人々はどこかおかしいから!)」


 とはいえ、このままやられっぱなしというのはあり得ない。彼らもそれは分かっているはず。


 街中で楽しそうに奪い合いバトルをしているメイ達のファンである彼らならば、メイの力を知っているのだから。


「ふーーきーーとーーべーー!」


 ギャグ力を身に纏い、高出力で上空に放つ。


『ぬわあああああ!』


 押さえつけていた三人が宙に吹き飛ばされ、メイの拘束は解除される。


「この程度でやられると思ったなら甘すぎるから!このスープを見習いなさい!」


 自由になったメイは、ギャグ力を駆使して各テーブルに群がる参加者を吹き飛ばし、スープをゲットする。


「(トップ集団はみんな押さえつけられたままか。このまま抜け出すよ!)」


 押さえつけられていたのはメイだけではない。

 トップを走っていた五人が、メイ同様に押さえつけられていたのだ。


「まずい!なんとしても抑えるんだ!」

「うおおおお!」

「邪魔だああああ!」


 他の人の押さえつけを解除し、メイを止めるべく群れとなって襲い掛かる。

 力によって吹き飛ばすことは出来るが、飛ばされても飛ばされても襲い掛かってくる彼らの対処に時間がかかり、思うようにスープにたどり着けない。


「あ、こら持ってくな!」


 しかも対処している間に、進行方向のスープを器ごと持ってかれる。メイ単体を抑えるために皆必死である。


「(セーラトレインも機能してない)」


 セーラの通る道を誰も塞がないため、潰し合いが起きていなかったのだ。


「(サトルにはポイントで追いついたけど、下がかなり迫って来てる。もう少し突き放しておきたいところなんだけど……よし、やるか)」


 自分が執拗に狙われた時の対処法を、メイは考えてあった。

 もう少し先に発動することになると思っていたが、予定変更で出し惜しみなく使うことにする。


「(狙うのは端のテーブル)」


 ライバルたちを吹き飛ばしながら、辛うじて端のテーブルにたどり着きスープを頂く。

 そして、メイを他のテーブルへと移動させまいと作られた人壁を前に……


「ここがチャンスだから!」




 見えない力を発動し、人壁に向かって駆け出し、その上を走り抜ける。




 ギャグ力は体から見えない力を発動させる能力だが、空を飛ぶことは出来ない。

 だが、地面の上にその力を柱のような形にして置くことで、上を歩いて渡ることが出来るのだ。

 メイは器用に力を階段状の形にし、天井付近を一気に駆け抜けて反対側の端のテーブルにたどり着いた。


 メイを抑えるために人が多く割かれていたため、こちらはまだ閑散としている。


 得点を伸ばす大チャンスだ。


「いっただきー!」


 作戦が上手くいった喜びを胸に、手にしたスプーンをカップに突っ込もうとした、その時。


「え?」


 ポロリと、スプーンの先端がスープの中に落ちた。


 替えのスプーンを手にしようとテーブル中央を見るが、そこのスプーンも全て先端が切り離され、スプーンが使い物にならなくなっていた。


「あれ?スプーンは?」

「こっちもダメだ!」


 会場のあちらこちらから、同じような疑問の声が聞こえて来る。

 どうやらメイがいるテーブルだけではなく、会場全体でスプーンが壊れてしまっているようだ。


「一体何が!」

「間に合ったでござる」


 その声が聞こえた瞬間、目の前に置いてあったスープが器ごと消える。


「やっぱり美味しいでござるな」


 侍の格好をした男性、『ゲンジロウ』が器に口をつけて直接スープを飲んでいた。


 その腰に刺さっている日本刀を見たメイは即座に理解した。

 スプーンを壊したのはこの男だと。


 メイに注目が集まっている間にスプーンを壊し、場が混乱している間にスープを直接飲んで周っていたのだ。


「まったく、面白すぎでしょ!」


 スープならではの特徴として、使えるカトラリーがスプーンだけというのがある。

 

 それが使えなくなった以上、残された手段は直接口にして飲む方法だ。


 この場合、器を手にして、持ち上げて、飲んで、降ろして、手を放す、一連の動作を一人が占有するため、奪い合いが激化することになる。


 最初からこの飲み方をする人は少なかった。

 激しい争いを避けたかったというのもあるが、器をテーブルに置いてから次の器へと手を移動させる手間が無駄だからだ。スプーンの場合、スープを口にした後、即座にそのスプーンを持った手を次の器へと伸ばすことが出来る。些細な差だが、テンポ良く得点を伸ばす方を選択した人の方が多かったのだ。


 だがここにきて、強制的に争わざるを得ない状況になってしまった。


 しかも厄介なのが、器に取っ手が二つあるところだ。


『もらった!』


 二人が同時に、別々の取っ手を手にする。

 これで膠着状態の完成だ。


 奪い合うにも力の入れ方次第ではバランスを崩してスープがぶちまけられる可能性がある。


 そのため、器を手にするより前に近くの相手を物理的に倒すことが優先され、その争いの隙を縫って器を手にしたものの、後から来た人に反対側の取っ手を掴まれて……などという混とんとした状況になってしまった。


 この状況下でメイが取った手段は。


「トモエもソルテも稼いでる?」


 特に頑張ろうとはせず、トモエたちに声をかけて雑談をすることだった。




 メイ、三十五ポイントで六位に後退。




「三品目は刺身の三点盛りです」


 洋風料理が続いた一、二品目とは違い、ここにきて和食が出て来る。

 マグロ、イカ、ブリの三点盛り。

 一切れで一ポイント。

 大根のツマ、大葉、ワサビはポイントにならない。


「(美味しそうだけど、一切れが結構大きいかな)」


 マグロとブリが二切ずつでサイズがやや大きめだ。

 イカは細切りで八本入っている。こちらは一本でも食べれば一ポイントとのこと。


「(一切れくらいは醤油で食べたいかな)」


 セーラトレインのために最初の一口は自分の料理を食べることにしているため、それだけはしっかりと味わうことが出来る。メイはお刺身が大好きなので、小皿に醤油を入れてワクワクしながら開始時間を待つ。


『いただきます』


 その合図と共に、箸でブリ刺をつまみ醤油につけてからワサビと一緒に口に入れる。脂の甘さと醤油の塩分が口の中で混ざり合い、強烈な旨味となる。後からワサビがその強さをサラっと流してくれて、飲み込むころには口の中は程良い爽快感が残っている。


「うん、美味しい。マグロは……時間が無いかな」


 流石に二切れ食べる余裕はない。

 マグロは他の人の皿から奪って堪能することに決めて席を立つ。


 順位が下がったメイへのマークは緩くなった。

 自由に動けるようになったからには、思う存分暴れ回ることも出来るはず。


 だが、メイはここで得点を稼ぐことをしなかった。

 トモエやソルテとバトルしたり、上位がポイントを稼ぎ過ぎないように邪魔をする。

 今回から脱落者が出るため、ボーダーラインギリギリで必死になっている人達を上位にぶつけるように誘導したり、どの皿の料理を食べたか分からなくするために皿をシャッフルする。


 自分はほとんど食べず、徹底して嫌がらせに走ったのだ。


 このイベント、実はリードして終盤を迎えるのが望ましい。

 何故ならば、自分のポイントが大きくマイナスにならない性質上、リードを広げた上で下位の参加者の邪魔をすることで食べずともリードをキープすることが出来るからだ。


 メイは最初はそれを狙っていたが、スープの途中から戦法を変えた。

 いや、それだけではない。


「はいどうぞ!」

「はむっ!?!?」


 自分から他人の口の中に刺身を放り込み、ポイントを与えているのだ。


「あなたもほらっ、あなたもどうぞ、みんなどんどんお食べー」


 皿を持ち、刺身を掴み、手当たり次第に口に放り込んで行く。


 その結果、三品目にてメイの順位は中位まで落ちてしまった。




「四品目は鮎の塩焼きです」

「めんどくさいの来た……」


 そして四品目、ここから大きな動きが生まれる。


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