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23. 怪しい扉は開かざるを得ない

「……、………合言葉…」

「…………。………悲願…叶う…」

「……ねぇ。……悪いやつ………。………気持ち良い……………………」

「いい……………。虐げ…………やつらを…………………なる……誰だって………………」

「分からん……………、革命……………企画…………お前……………………」

「……殺して、……………。最高……?」

「……いい、場所は………か?」

「……、東………墓地………奥………………」

「………。………………合言葉…聞いて…………、……メモ…………答え…」

「……、………そろそろ………」

「楽しんで………」


 ポカポカ陽気の中で微睡みを堪能していたメイの耳に、男性同士の会話が微かに耳に入って来た。

 片方はカフェのマスターの声で、もう一人は聞いたことのない声だ。メイ達が寝入った後に入店したと思われる。


 寝入っているメイ達に配慮したのか、声の大きさは低く抑えられ、辛うじて所々の単語が聞こえて来るだけだ。


 閉じていた目を薄っすらと開き、ぼんやりする景色の中で、茶色いコートを着た男性がカフェを後にする姿が印象に残った。




「てなことがあったんだけどさー」

「羨ましいぞ!それ絶対イベント的な何かだぞ!」


 カフェインの効果かスッキリと覚醒した一行は、カフェを後にして王都散策を続けている。

 起きる間際にメイが聞こえた会話についてセーラ達に伝えてみたが、誰も聞いて無かったと言う。


「羨ましいかなぁ。ここでのイベントって怪しさしか無いんだけど」


 フラグ管理がなってない王族遭遇イベントとか。


「どうせカフェで休んでたら毎回発生するとか、そういうオチでしょ」

「あのマスターって人間だから、フラグ管理に失敗して繰り返すことは無いと思うよ」

「人間だって、ソルテ分かるの?」

「うん」


 元々ジーマノイドだったからか、ソルティーユは相手がジーマノイドか人間なのか見分けがつくようだ。


「確かに人間がすでに絡んでるなら、多少はマシかもだけど……」

「わたくしが思うに、それがイベントだとして、わたくしたちとは無関係のイベントに偶然立ち会っただけではないでしょうか」

「メインはあのお客さんってことか。そうかもね」


 それならば、自分たちが首を突っ込んでしまったら邪魔になって迷惑に違いない。そう判断してこのことは忘れるべきだ。


 でもメイは、無視することが出来なかった。


 『虐げ』『殺して』『革命』などの不穏な単語に、この世界に来た当初抱いていた『世界に対する疑い』の感情が再浮上してきたからだ。


「Meは気になるぞ。行ってみたいぞ」

「えーめんどくさいよー」

「わたくしはメイに着いて行きます」


「うーん」


 どうすべきか、どうしたいかの答えが出ない。


「宿も東側だし、戻るついでに墓地に立ち寄る、程度にしようか」


 そもそも関わると言っても、どこで何をすべきか分からない。

 男性を探そうにも広い王都で闇雲に探すのは現実的では無いし、会話の中のヒントである『東』『墓地』『奥』という単語がつながっているとも限らない。仮に墓地が正しかったとして、『悲願』とまで言っていた男性が未だのんびりと墓地に残っているとも思えない。


 行ってみたけど、見つからなかったから諦めよう。

 そうなるだろうと、その時のメイは思っていた。


--------


「墓地なら東の大通りの一本北の通りにあるよ。かなり大きいからすぐに分かるはずさ」

「分かった。おばちゃんありがとー」


 近くの露店で東の墓地の場所を聞いたメイは、墓地に向かって出発しようとするが、露店のおばちゃんに呼び止められた。


「ちょっと待ちな。墓地の近くは最近スリの少年がいるから、気をつけるんだよ」

「スリ?」

「そうさ。大事なものを盗まれないように気をつけるんだよ」

「あはは、ありがとうね。行ってくる」


 これもまた、王族との出会いイベントと同じようにテンプレイベントの一種なのだろう。


「『スリの少年』は王道イベントだぞ」

「わたくしたち、お金を持ってないのですが、何を盗むのでしょう?」

「そういやそうだね」


 貨幣の無いこの世界で『スリの少年』イベントを発生させるのは無茶があるのではないか。


「でもアクセとか小物系を盗まれるかもだから、ちゃんとガードしておこう」


 価値があって盗まれそうな手持ちのモノと言ったら、そのくらいだろう。


「露店でアクセサリー買ったらスられるフラグが立つとかありそうだぞ」

「あるあるだね。んでそのアクセサリーが亡国の女王の形見とかだったりするんだよね」

「スリの少年がそこの王族なんだぞ」


 などと、異世界あるあるについてトモエと盛り上がっていたら、それっぽい少年が小走りでやってきた。


「(アクセ類はギャグ力で隠しガードしてるから盗めないよ。ごめんね、少年)」


 防御は完璧とばかりに、素知らぬ顔で歩き続けるメイ。

 少年は不幸にも、ターゲットをメイに定めてしまった。


「わっ」


 メイの腰の辺りにぶつかった少年は、謝りもせずに走り去る。

 『こらー!』って怒ってあげようかな、なんて余裕なメイだったが、その表情は徐々に焦りへと変わる。


「ひゃああああ!えっ、ちょっ、なんでっ!?」


 顔が真っ赤になり、スカートを両手で抑える。


「何か盗まれたのですか?」

「反応がエロいぞ」


 焦りもする、反応がエロくもなる。

 何故ならメイが盗まれたのは……


「お宝ゲットだぜー!」


 離れたところで少年は戦利品(白い布切れ)を空高く掲げていた。


「こおおらああああ!返せええええ!」


 小走りで少年の元へ走り出すメイだったが、少年は逃げようとせずに迎えうった。


「ウィンド!」

「ひああああ!やめろおおおお!」


 地面からの上昇気流がメイを襲う。

 慌ててふわりとまくれあがろうとするスカートを両手で抑え込む。

 周囲には男女問わず人が沢山歩いている。このままでは晒しものだ!


「少年、もう一回だぞ」

「わたくしもお手伝いいたしますわ」

「おいこらてめえら!放せ!」


 なんと、セーラとトモエがメイの腕を捕まえる。

 本気でやるつもりは無かった少年はドン引きだ。

 しかし発動した魔法は止められない。


 抑えを失ったスカートは今度こそ上昇気流にのってふわりとめくれ上がり……







『あーれー!』






 ギャグ力で抑えて羞恥プレイは回避。

 少年、セーラ、トモエはお空の星となった。


「ですよねー」


 唯一残ったソルティーユが、みんなの心を代弁した。


--------


「遅くなったぞ」

「誰のせいだ誰の」


 一旦宿に戻って着替えたため、墓地に着くのが遅れてしまった。

 墓地は郊外では無く街中にあったため宿からあまり離れてなかったが、宿に寄った遅れは大きく、陽はほとんど暮れかかっていて、周囲からは人気が無くなっていた。

 街灯の明かりはあるものの、すでに墓地は夜の不気味さを醸し出している。


「夜の墓地怖い人っていないんだね」

「墓地はトラップとの相性が良いんだぞ」

「この罰当たりが!」


 メイとセーラはお化けの類は小さいころから平気で、ソルティーユはジーマノイド出身ということもありお化けというものが良く分かってない。

 そしてトモエは、墓地に落とし穴を作り、中に自作の動く骸骨もどきを敷き詰めるという極悪非道なことを元の世界でやっていたくらいには得意分野だ。


 だだっ広い墓地を最奥まで進むと、そこには一人の男性がいた。


「(もしかして、カフェのあの人?)」


 おぼろげな記憶の後ろ姿と似ている気がする。

 驚きながらも、近くにあった太い樹に身を隠し、男性の様子をうかがう。


「よし、やるぞ」

「(この声……やっぱりそうかも)」


 男性は周囲に人が居ないことを念入りに確認した後、しゃがんで目の前の西洋風のお墓に手を触れた。


「おおっ」

「(わっ!)」


 すると、お墓から薄い白色の光が生み出され、子供くらいの大きさの人の形をとる。


『汝、何用で此処に来た』


 『声』が脳に直接語り掛けてくる。少し離れたメイたちにも聞こえるということは、お墓に触れた人間のみに聞こえる声というわけではなさそうだ。


「使命を果たすべく参りました」


 男性は、光に対して答える。


『よかろう、ならばそなたの心からの言葉を述べよ』

「(『合言葉』のこと?)」


 一言一句全てを聞き逃さないように、集中力をより研ぎ澄ませる。セーラたちも真剣な表情だ。







「あいあいあいあい愛してる。らぶらぶらぶらぶラブしてる。私とあなたは、両想い~(はあと」







「…………(なぁに、これ?)」


 男性がカフェを出てすぐにこの墓地に来なかった理由。


 それは、合言葉を人に聞かれるのが恥ずかしかったからである。


 せっかく逸る気持ちを抑えて人が居なくなる夕暮れ時まで待っていたというのに、メイたちに聞かれてしまった。かわいそうに。


『汝の心、しかと聞き届けたぞ』

「よしっ!」


 大きくガッツポーズをした男性は、光の中に吸い込まれていった。


--------


「よし、帰ろう」


 男性のためにも、今見たことはすべて忘れよう。嘘だ、全て忘れたかっただけだ。


「結局これもネタイベントじゃん!」

「せっかくだからMeも行ってみたいぞー」

「もう疲れたんだけど……」

「わたくしも行ってみたいです」

「その心は?」

「メイにあの恥ずか……合言葉を言ってもらいたいです」

「オイコラ、今恥ずかしいって言おうとしただろ!」


 恥ずかしいセリフなど言いたくない……とはあまり思っていない。

 何故なら、日ごろから恥ずかしいセリフを言わされ慣れているからだ。

 流石に今回の台詞はキツイので知り合い以外に聞かせたくはないが。


「でも面白そうだよね?」

「ソルテ?」

「だって、明らかに普通じゃないイベントだよ。面白い素材とか見つかるかも」


 確かにソルティーユの言う通り、これまで遭遇したイベントとは毛色が全く違う。


 異世界あるあるのパチモンや、召喚元の世界のイベントを『体験』するイベントには何度も遭遇したが、元ネタがはっきりとしない独自性のあるイベントを見たのは初めてだ。


「……ちょっと覗くくらいなら」


 新種のイベントへの不信感よりも興味の方が勝った瞬間だった。


『汝、何用で此処に来た』


 メイがお墓に触っても発生する現象は同じだ。人で区別しているわけでは無さそうだ。


「使命を果たすべく参りました」

『よかろう、ならばそなたの心からの言葉を述べよ』

「あいあいあいあい愛してる。らぶらぶらぶらぶラブしてる。私とあなたは、両想い~(はあと」

『心がこもっておらん、やり直し』

「くっ」


 男性のようにノリノリでやるのは少し恥ずかしかったので、棒読みで応えてみたけどダメだった。

 光はお墓の中に戻ってしまう。


「ダメに決まってるでしょう。もっと可愛くやらないと」

「そうだぞ。手を抜くのはダメだぞ」

「がんばえー」

「こいつら……」


 再チャレンジ。


「これまで沢山の無茶ぶりに答えて来た私を舐めないでもらおうか」


『よかろう、ならばそなたの心からの言葉を述べよ』


「あいあいあいあい愛してる。らぶらぶらぶらぶラブしてる。私とあなたは、両想い~(はあと」


 あざとさ全開ぶりっ子モードで応戦する。

 人前でやったら大きなお兄さんお姉さんにお持ち帰りされる危険性がある大技だ。


『動きが足りん、やり直し』

「なんでさー!」


 こうなったらもう意地だ。

 メイは男性の動きを思い出す。


「後ろからだから見えなかったけど、両手を胸の前に出して何かやってたよね……」

「最後は両手を広げてたぞ」

「言葉通りなら、やっぱりコレじゃないでしょうか」

「ハートがどっきんどっきん」


 両手でハートマークを作り、それを言葉のリズムに合わせて前後に動かす。

 最後はハグを求めるポーズでフィニッシュだ。


「あの人、どんな気持ちでコレやってたんだろう……」


 男性のことは触れてはならない。

 可哀想だから忘れてあげてください。


「よし、今度こそクリアしてやるんだから」


『よかろう、ならばそなたの心からの言葉を述べよ』


「あいあいあいあい愛してる。らぶらぶらぶらぶラブしてる。私とあなたは、両想い~(はあと」


『汝の心、しかと聞き届けたぞ』


「よっしゃああああ!」


 男性と同じように、メイも光の中に吸い込まれていった。


--------


「ここは……うわ、臭っ!」


 目を開けるよりも前に、尋常ではない臭いに顔を歪めてしまう。

 ケホケホとせき込みが落ち着くのを待ってから、改めて周囲を観察する。




 廃墟と呼べそうなほど崩れかけた多くの家屋、舗装どころか手入れすらされていない大通り、ボロボロの布切れを纏い生気なく歩く人々は皆ガリガリにやせ細っている。


「……………………スラム街?」

注:この作品はギャグ小説です。シリアスは登場しません

注:この作品はギャグ小説です。シリアスは登場しません



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