12. 私のモノを盗ませない
「パーティーを解散するにはどうすれば良いの?」
このままでは今朝の夢が現実になってしまう。
それを防ぐために彼女たちと何としても距離を置かなければならない。
トモエからメグの悪逆非道を聞いてすぐに、メイはホテルのフロントの人にパーティー解散の方法を尋ねた。
「冒険者ギルドか役所に申請してください」
「なるほど……ギルドは良いとして、役所ってのは?」
「元の世界への帰還手続き、パーティー設定、各種施設の管理や生活に関する相談受付など、皆様がこちらの世界で生活する上で必要な様々な業務を扱うところでございます。ダンジョンに関することは冒険者ギルドへ、それ以外のことは役所へ相談すると良いです」
「ふぅん、老人の溜まり場になってそうな場所だね」
メイの危険なセリフはノーコメントで。不必要に病院を占拠するの良くない!
「当ホテルの裏側に冒険者ギルドがございます。まずはそこで冒険者登録をして、必要であればパーティーの設定をお見直しください。登録後に初級世界へと移動が可能になります」
「ここはまだ初級世界じゃなかったんだ」
初心者ダンジョンのある世界と、初級ダンジョンのある世界。このホテルが建てられている土地はその間にある。メイはすぐにホテルに入ったため気付かなかったが、かなり小さい浮島となっている。冒険者ギルドの奥から再びエスカレーターで上昇することで、本来の初級世界に足を踏み入れることが出来る。
「んじゃ朝ごはん食べたら早速ギルドに行こうっと」
ホテルをチェックアウトしてギルドに向かおうとしたメイだったが、部屋に脱いだ服を放置したことを思い出した。
昨晩、寝る時に愛用のパジャマに着替え、朝方風呂に入った後は自室に仕舞ってあった新しい服に着替えたため、昨日着ていた服は部屋の中だ。自分の使用済みの服を部屋に放置してチェックアウトできるほどメイは恥知らずではない。
「と言ってもどうしよう。持ち歩くわけには行かないし……そもそも今着ている服、ホテル出たら消えたりしないよね」
ホテルから一歩出た瞬間に全裸、なんてことになったらご褒……大惨事だ。
「お客様がチェックアウトした後、あの部屋は丸ごと消去されますのでご安心ください。もし気になるようでしたら、こちらの外からは見えない袋にお入れください。お客様の目の前で焼却いたします」
「わーお、力業。それなら貰っておこうかな。朝ごはん食べたら一旦着替えてきてからチェックアウトするね」
「かしこまりました」
メイの今の格好は室内着用のラフな格好ではあるが、外に出ても問題ないレベルのものだ。でもメイは思春期真っ盛りの女の子。どうせ部屋に戻るなら少しばかりオシャレをして出かけたいという女心は当然持っている。
昨日と同じく食べたいと思っていた和朝食を平らげたメイは、出発の準備をするべく部屋に戻ることにした。
「ついてこないでよ」
「Meも昨日、一緒に寝てたんだぞ。今さらだぞ」
「あのベッド、四人で眠れるような広さじゃないんだけど……」
ロビーで寛いでいたトモエが一緒に着いてきた。
昨日すでに部屋に侵入されていたとのことだけど、だからといってメイが気にならないわけでは無い。
「それにしても、メイさんが百合モノが好きだったなんてびっくりだったぞ。Meも襲われちゃうかもしれないぞ」
「…………は?」
メイにはそういう趣味は無い。
繰り返すが、メイにはそういう趣味は無い。
残念に思われようが、メイにはそういう趣味は無い。
でもなぜかトモエはメイがその手の嗜好があるのだと勘違いしていた。
「ま……まさか……」
その理由として思い当たることが一つ。
メイの部屋には、とある漫画が置いてあった。濃厚な百合描写がウリの漫画が。
メイが友達に押し付けられた漫画なのだが、この世界に転移された時にメイの勉強机の上に置いてあった。
トモエはそれを読んだということになる。
「急げええええ!」
メイが慌てたのは、百合漫画を見られたためではない。
その程度であれば事実を説明すれば良いことだし、嗜好については強く否定しなければいずれ分かることだ。
問題は、昨晩三人が自分の部屋を漁っていたのではないかという予感。
そして、残っている二人は目を覚まして再び部屋を漁っているのではないかという不安。
見られたくないものが沢山あるのだ。
押し入れの奥底にしまってある、中学の頃に患っていたとある病に関するアレコレなど……
「待てよ……このままチェックアウトしたら、部屋ごとあの二人消えてくれないかな」
「なんか怖いこと言ってるぞー!」
「ごめんごめん、トモエが中に入ってからにするから」
「その流れで入る人はいないぞー!」
などとコントをしつつも全速力で部屋に戻る。
ちなみに、部屋ごと消えてくれないかなという言葉は半分くらい本気だったりする。
「お願いだからまだ寝ててっ!」
という期待を込めて部屋の扉を開ける。
『あ』
ベッドの下を除いていたソルティーユ。
タンスの中を物色しているセーラ。
メイが扉を開けた瞬間、二人はメイを見つけて言葉を発したが、そのまま元の作業へと戻った。
「ってこらああああ!何しれっと私をスルーして部屋漁ってるのよおおおお!」
謎の力を使い、二人を天井付近まで吹き飛ばす。
『ぐええええ!』
女性が出してはならない叫び声を上げた二人は、仲良くベッドの上に落っこちる。メイ絶妙のコントロール。
「あーんーたーらー!」
怒り心頭のメイが部屋の中を見渡すと、タンスは全段開かれ、クローゼットも開かれ、衣服が床に散らばり、棚に並んでいたはずの漫画類がばらまかれ、勉強机の引き出しも開かれていた。
「メイさん落ち着いて下さい」
「落ち着けるか!というか、なんでセーラは私の下着を握ってるの!」
「やった、呼び捨てで呼んでもらえた。うれしい」
「うれしい、じゃないからああああ!」
これで下着を被っていたら抹殺モノだったが、セーラからは邪な危険な視線を感じない。偶然下着を見ていたタイミングで吹き飛ばされただけなのだろうか。
ちなみに、メイはというか高橋家の一族は容姿が整っているため、邪な視線に晒されることが多く、察知するのに慣れている。もちろんそれには同性からの視線も大いに含む。
「ソルティーユは何をっ……ちょっ!なんでそれ読んでるのよ!」
「じ……人体の神秘でござるぅっ!」
「やめろおおおお!」
ソルティーユが持つ雑誌を大慌てで奪い去り、フロントからもらった袋の中にぶち込んだ。
「それかなり良かったぞ」
「トモエのせいかああああ!」
勉強机の鍵がかかった引き出しの中の二重底の下に隠してあった雑誌。
年齢制限付き、男性向け某雑誌をソルティーユは読んでいた。
メイだってお年頃。そういうのも気になるもの。
秘密のソレを見つけるのは、罠感知を持つトモエにとっては朝飯前だった。
「みんな出て行けええええ!」
部屋がぐちゃぐちゃになったのはこのままチェックアウトにて処分してもらうことにして、取り急ぎ全員を追い出す。これ以上部屋を漁られて、変なものを見られるのは勘弁だ。
「ちょっと待って」
仕方ないなぁ感で一杯な反省の見られない三人が、メイの剣幕に押されて部屋を出ようとしていたが、肝心のメイがその歩みを止めさせた。
「……私の下着をどこにやった」
「先ほどの下着でしたらお返ししましたよ」
メイに背を向けたまま、セーラが答える。
セーラが握っていた下着はメイにぶん取られている。
ここでメイが言っている下着は別のものだ。
「昨日私が着ていた服や下着をその隅に置いてあったはずなんだけど」
部屋の隅に畳んで置いてあった昨日の衣服類。
その場所には何もなく、床に散乱している衣服の中にも見当たらない。
「三人とも、こっち見なさい」
ゆっくりと振り向いた三人の顔は、メイの方を見ていない。
「視線を逸らさない」
視線を合わせ、ポーカーフェイスなのはセーラとトモエ。
一方、挙動不審なのはソルティーユ。
「(でもソルティーユはそんなことをするタイプなのかな)」
めんどくさがりなソルティーユが何かを隠し取るなんて手間をかけるとは思えなかった。メグ達に怒られても気にしなかったらしいし、堂々と持って行くタイプだろう。
「(となるとセーラかトモエが犯人で、ソルティーユが手伝わされてるのかな。怪しいのはさっき私の下着を握っていたセーラか……)」
ひとまずブツはソルティーユが持っていそうと判断し、彼女の元へ。
そしてぴっちり閉じられていた白衣を勢いよく開いた。
「わぁーお、これは予想外」
なんと、メイの服をソルティーユが着ていた。
サイズが違うからキツキツだ。
上から白衣を着て誤魔化していたのだろう。
「はい、弁明をどうぞ」
「マ、ママの温もりが欲しくて……」
「……」
ママと呼んだ。
弁明が気持ち悪い。
着てることも気持ち悪い。
スリーアウトでお仕置きが決定だ。
「とりあえず脱げええええ!」
「ら、乱暴はダメええええ!」
ソルティーユの服を脱がそうとメイが手をかけ、それに慌てたソルティーユが暴れだす。その結果引き起こされたのは……
『あ』
白衣の内ポケットに仕舞われていた危険物がポロリと落下し、辺りは閃光に包まれた。
「ケホケホ」
瓦礫の山から、頭が四つ飛び出す。
「うう……ひどい目にあった。でも建物が崩壊しても傷一つないとか異世界凄いわ」
ビジネスホテルだったものに埋もれていたメイ達であったが、不思議と簡単に脱出することが出来た。これも異世界マジックなのだろう。
「無事なのが信じられないぞ」
「楽しかったです」
「だるぅ」
同じ異世界転移者であるトモエはメイと同じく無事であることに驚き、
異世界の住人であるセーラはこの程度の衝撃には慣れっこのようで楽しみ、
ソルティーユはやる気無くだらけている。
「後でそれ脱いで返してもらうからね」
「はーい」
着替えの服が瓦礫の中に埋もれているであろう状況で脱げとは言わなかった。
ソルティーユも、ある人にお願いされたからメイの服を着ているわけであり、返すことになんら問題は無かったので、素直に返事をした。
「さて、逃げるか」
ビジネスホテルのスタッフや他の宿泊客に責められる前に逃げることを決断。瓦礫から抜け出し、隣にある冒険者ギルドへ急ぐ。
「で、ソルティーユを囮にしてまで入手した私の使用済下着をセーラは何に使うの?」
「それはもちろんコレクションに……あ」
ポンコツ、ここに極まれり。
愚かにもメイの罠にひっかかってしまった。
どうやらセーラは邪な気配を隠すことが得意らしい。
「下着ごと滅べええええええ!」
セーラが瓦礫の一部と化したことは言うまでもない。
叫んでばっかですね。




