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11. ポンコツ達からは逃げられない

「ぬおおおおおおおお!」

「ヴァルナー!」


 強力な一撃を受けて吹き飛ばされたのはヴァルナーと呼ばれるタンク(盾職)。


「俺に構うな!攻撃を続けろ!」


 立ちふさがるのは二本足で立つ体長三メートルほどある巨大な熊、ベヒモスだ。鋭く長い爪は敵の装甲を容易く貫き、分厚い皮膚は多くの攻撃を無効化する。


 盾でベヒモスの爪撃を受け止めたヴァルナーは、ダメージは負ってないものの大きく後ろに吹き飛ばされ、盾も半壊している。戦いが開始して間もないが、すでに盾はあと一回でも攻撃を喰らえば使い物にならない状況だ。


「刃が通らないっ!」


 動きが素早い剣士がベヒモスの隙をついて斬りかかるが、まるで金属を相手にしているかのように硬く、弾き返された。


「魔法ならどう!?ファイアーボール!」


 サッカーボール大の炎の球が三つ。ベヒモスの顔と胸と右足に直撃する。


「うそっ、これもほとんど効いてないの!?」


 炎属性の初級魔法ファイアーボール。初級と言えども訓練を続けてきた彼女のこの魔法は、鉄や鋼程度ならば軽く溶かせる威力がある。


「いや、そうでも無さそうだぜ」


 ファイアーボールを喰らってよろめいた隙を狙って駆け出したのは、槍使いの男。ベヒモスの右足のファイアーボールが直撃したところを狙う。


「斬るのは無理でも、力を一点集中させたらどうだぁ!?」


 加速力、腕力、体重など、あらゆる力を集約させた槍使いの必殺技。


「ぜんりょく突きいいいいいいい!」


 シンプルこそが一番。そう考える槍使いの技名は、全てありふれたものである。ただし、破壊力は異世界でもトップクラス。


 グオオオオオオオオ!


 槍先が突き刺さり、ベヒモスが苦悶の叫び声を上げる。


「チッ、これでも貫けねぇのかよ!」


 愛槍は抜けないと即座に判断し、刺さったままにして反撃を受ける前に退避する。


「マナぁ!まだかぁ!」

「丁度準備できた!いくわよ!」


 後方で長い詠唱を続けていたのは、バフ魔法使いのマナ。

 ベヒモスの防御力が高いことを事前調査で知っていたため、対策を練っていた。


「オールダウン!」


 マナが使用するバフ魔法の奥義の一つ。省略出来ない長い詠唱が必要ではあるが、相手のあらゆる能力を激減させるデバフ魔法。


「全力攻撃!」

『おおおおおおお!』


 魔法系と弓使いは遠距離からベヒモスの上半身に向けて攻撃を、近距離戦士系は下半身に攻撃を加える。バフの時間は三分間。その間にダメージを蓄積させ、可能であれば倒しきる。


 グオオオオオオオオ!


 激しい連続攻撃を受けるベヒモスは反撃することもままならない。デバフを受けて柔らかくなった皮膚は容易に攻撃を通してしまう。


「いいぞ、このまま倒しきるぞ!」


 誰かの叫びに全員が『いけるこのまま倒せる』と思ってしまい、更に前がかりになる。


 当初の予定とは違って。


「ば、バカ!前に出過ぎだ!下がれ!」


 どんな時でも相手の反撃の可能性を忘れてはならない。特に瀕死になった相手こそ注意しなければならない。戦闘前に何度も確認し合ったはずだが、戦闘の熱狂にあてられて、皆がそれを忘れてしまっていた。


 そして、それを狙っていたかのようなタイミングで、ベヒモスが反撃をする。


「エ、エリアディフェンス!」

『うわあああああああああ!』


 尻尾による回転攻撃。

 気付いた時にはもう遅い。

 全員が後方へ吹き飛ばされた。


「ルフェール!回復だ!」

「はい!エリアヒール!エリアヒール!エリアヒール!」


 回復魔法により九死に一生を得るが、前衛は体中がボロボロで体力も大きく減らされた。

 ベヒモスへのデバフが切れていたら、防御アップのバフが間に合わなかったら、ほとんどのメンバーが死んでいただろう。

 だがその代償として、本来詠唱が必要なバフ魔法を無理やり無詠唱で放ったマナは、しばらく魔法が使えない。


「くそっ、みんな逃げろ!」


 こちらが怯んだ隙を逃がしてくれるベヒモスではない。デバフが切れたベヒモスは、縦横無尽に暴れ回り、被弾したら即死亡の攻撃を繰り出してくる。


「少しだけ時間を稼いで!」


 炎の魔法使いの女性が、残り魔力の全てをこめた大魔法の詠唱に入る。発動を邪魔させないように、素早い動きが可能な前衛がベヒモスのヘイトを集めて時間を稼ぐ。爪撃乱舞と回転によるしっぽ攻撃の嵐の中をギリギリのところで避け続けるが、そう長くは保たない。


「みんな離れてええええ!」


 彼女の叫びに反応して、辛うじて躱しきった英雄たちが後ろに飛び退く。


「エクスフレイム!」


 その魔法は、全てを焼き尽くす青色の炎を生み出す。


 ファイアーボールでは軽いやけど程度のダメージしか通らなかったが、この青い炎で全身を焼かれたベヒモスの皮膚は確実に焼け爛れていく。


「こ、これでもこの程度のダメージだなんて」


 他のモンスターならばあっという間に蒸発する威力でも、まだ『ダメージを負っている』程度の反応しか得られないことに愕然とする炎魔法使い。


「だが、あいつもさっきの攻撃のダメージが残っているから耐えられないだろう」


 だからこれがトドメとなる。

 そう信じたかった。


 その期待は、希望は、無残にも打ち砕かれた。


 グオオオオオオオオ!


 青い炎が消えてもなお、ベヒモスの命は尽きていない。


「な、回復しているだと!?」


 しかも焼け爛れた皮膚が徐々に修復されようとしている。


 前衛は満身創痍。

 後衛の魔力もほぼ尽きている。

 回復されたらもう手の施しようがない。

 だが、今ここでトドメをさせるほどのダメージを与える余裕もない。




「……メイ!頼む!」

「はい!」


 


 ベヒモス討伐戦にメイも参加していた。

 見えない力を使って前衛に混じってベヒモスを殴り、ベヒモスが暴れ回っていた時は味方を守るために攻撃を反らす。ダメージソースとしても、死者を出さない立ち回りとしても陰ながら重要なポジションで頑張っていた。


 そしてここに来て頼まれたのは『最終手段』


「トモエ!」


 それは、ここまで苦難を共にしてきたメイの仲間たちのことである。


「任せられたぞ!」


 レベルアップすることで覚えた新たな魔法。


「罠設置:落とし穴!」


 ベヒモスの足元に大きな落とし穴が作られ、ベヒモスは足を取られて動きが止まった。


「ソルティーユ!」


 ぐうたらな彼女も参加していた。彼女こそが、ベヒモス討伐メンバーの切り札だった。


「ここはこれだ!間違いないっ!」


 白衣の内ポケットから取り出した謎の液体入り試験管をベヒモスに向かって投擲する。


「アルティメイト・ニトロ!」


 錬金術によって生み出された、青い炎すら上回る破壊のエネルギーが辺りを埋め尽くす直前、盾職の男性が鉄壁の守りを発動する。


「キングオブシールド!」


 初手で盾が半壊した後は後衛で状況を見守り指示に徹していた。すべてはこの盾魔法用に魔力を温存していたため。上級盾が壊れていても、魔力が足りなくても発動することが出来ない、究極の防御魔法。


 すべての仲間を守りのオーラが包み込み、暴虐なる破壊の力から辛うじて守り切る。


 閃光が収まった後、そこにはボロボロになって倒れ伏すベヒモスの姿があった。


 恐ろしいことにこれでもまだ辛うじて息があるようだ。


「これで終わりだから」


 全員が死力を尽くしてたどり着いたこの結末。

 メイは謎の力で宙に浮く見えない巨大な拳を作り出す。


 これを上空から振り下ろせば、ベヒモスは息絶える。

 そしてこの戦いに参加した全員が『願いを叶えてもらえる』のだ。


「さようなら、ベヒモス。さようなら、異世界」


 拳をベヒモスの上部に移動させ、それを全力で振りおろ







「フルヒール!」







 目の前でベヒモスが全快する様子を絶望して眺めるメイが後ろを振り返ると、そこには醜悪な笑みを浮かべる女がいた。


「ぐへへへ、簡単に死ねると思った?」




--------




「うわああああああああ!」


 勢いよく体を起こす。心臓が激しく脈動し、全身が汗でぐっしょりだ。


「はぁっ……はぁっ……ゆ、夢?」


 仲間たちの姿も、ベヒモスの姿も無く、そこは『見慣れた自室』だった。


「ちょーさいあくだから……」


 悪夢の内容を思い出したくも無かったので、さっさと頭を切り替えるために朝風呂に入ることにする。そのために布団から出ようとしたら気付いてしまった。


「うわぁ……マジそういうの止めてほしいから……」


 悪夢起きでローテンションなのに、そこに追い打ちをかけるかのように『温もり』が布団の両側に『一つずつ』あった。


 意を決してそれらを確認する。


「うわああああああああ!」


 そこに寝ていたのは、初心者ダンジョンに置いていったはずのセーラとソルティーユだった。


 メイの悪夢は終わらない。


--------


 一体何がどうなっているのか。

 ホテル備え付けの大浴場で汗だくの体を綺麗にしたメイは、湯舟に浸かりながら昨日のことを思い返した。




 メグと別れて扉を開くと、目の前には長い長いエスカレーターがあった。十分くらいかけて登りきると、目の前に十階建ての見慣れた建物が一件建っていた。


『異世界INN』


 メイの家の最寄り駅前にあるビジネスホテルにそっくりだ。


「泊まりたければどうぞってことだよね。疲れたし今日はもう休むかな」


 中に入り、フロントに話しかけてチェックインする。

 お金は不要で、大浴場もあるということで、お風呂好きなメイにはありがたかった。


「お食事会場はあちらの扉の先にあります」

「ご飯もタダなの?」

「はい、お代は頂いておりません」


 特に荷物があるわけでもないしお腹が減っていたので、部屋に向かう前に夕飯を食べることにした。


「夕飯は何かなぁ~っと」


 鼻歌混じりで扉を開けると、その先はカウンター形式のラーメン屋だった。


「うっそ、今食べたいって思ってたのがドンピシャで来たよ。まさかこれもダンジョンと同じ仕組み?」


 その人に合わせた内容の料理屋に通されるということなのだろう。


 好みの味のラーメンを食べられて満足したメイは至福の気分で部屋に向かう。


 入り口はカードも鍵も不要で、自動で認証して開けてくれるという日本よりも技術力が高いセキュリティーシステムだ。メイが日本に戻ってビジネスホテルを利用したときにがっかりしないか心配だ。


 扉を開けて部屋の中に入ると、そこは驚くことに『自分の部屋』だった。

 日本のメイの家の中にある、メイの部屋がそこにあった。


 驚いてフロントに確認したところ、一番リラックスできる環境をコピーした部屋になっているとのこと。


 てなことがあり、あとはお風呂に入って、自分のベッドで気持ち良く眠りについた。




「セーラたちが来るフラグどこにもないから……」


 ホテルに入ってご飯食べてお風呂に入って寝ただけ。それなのに、何故自分の部屋にあの二人が居たのか。セキュリティーはどうなっているのか。


 お風呂から出たメイは、フロントに文句を言いに一階へと降りた。


「おはようだぞ」

「……いると思ったから」


 ロビーでコーヒーを飲みながら寛いでいるトモエがそこにいた。

 これでポンコツ勢ぞろいだ。

 トモエに何か言うよりも、フロントへの文句が先。


「ちょっと、何で私の部屋に違う人が勝手に入れるのよ!」

「お客様はパーティーの設定が全て共有になっております。そのため、パーティーメンバーの方がご入室されました」

「へ?」

「パーティーの登録時に説明を受けませんでしたか?」

「……はい?」


 そもそもまだ誰ともパーティーを組んだことが無いし、登録もするわけがない。登録する必要があることすら知らない。


 意味が分からない状況を説明してくれたのは、トモエだった。




「私たちがここに来る前に、メグさんが登録してくれたぞ」

「メグうううううううううううううううう!」


最終回っぽいタイトルですが、普通にまだまだ続きます。

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