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手紙は読むものです、其の弐

天魔の情報は全てマザーにある。

情報には例外なくパスワードが存在し、その難易度は誰でも解ける簡単なものから解けるものなら解いてみろの気違いレベルまでピンキリ。高位の天魔である三人は、得手不得手はあろうと四大を拝命されるだけの高い能力を持ち得ているので、大抵の情報は閲覧できる。



はずなのに、手詰まりと問いではないリフォルドの言葉に三人そろって沈黙を返し、なおかつ情報特化のリフォルドが四大の手に余ると告げていることから、ボクの情報が随分難易度の高いパスワード設定になっていることが知れる。

それも四大の情報処理能力で手が出ない難易度ってことはそもそもの私、リトネウィアの名前に設定されているパスワード自体の難易度がかなり高いということで、それ即ち名が重いってことだ。


ああ、重いってのは表現です。情報量が多くて重たいのではなく、パスワードの難易度を重い軽いで表したことから難しいものを重いと言っているだけ。

まあものによっては本当に情報量が多くてと言う場合もあるだろうけれど。

正直、名が重いことにはあまり驚きませんよ。この世界がボクの綴った小説世界であるとわかった時点でそうだと思ってたもの。


名が重いとパスワードの難易度が高いだけではなくて、そこにアタックシールドが内包されている確率が高いことも示されている。

だからレイジェル様がリフォルドに調べると危険ですと言ったのも妥当で…レイジェル様がそれを存じ上げているのも妥当。天魔両王の御二方が詮索不要と調べることに制限をかけたのは恐らくこの為だ。

ついでに私としてはそうと予測していたから何を調べてんの保護者殿って感じでもある。

何となく程度ではあるが知れる己が情報に溜息を吐きたくなってくるところ、聞こえた言葉に遠い目をしそうになった。


「自分で言うのも何だが利用価値は高いぞ」


そりゃ高いだろうよ世界に名だたる山々より遥かに高く成層圏まで突き抜けるわ。

本人の能力の高さがまず異常なのに身内に魔王、もれなく横に天王と両王が並んでそこから伸びるのは皆それぞれに能力の高い配下、親交ある高位天魔の面々だよ。手を貸してと態々頼まなくても自発的に手伝ってくださるような御関係のね。最早リフォルドの存在自体が天魔の全てを左右すると言っても過言じゃない。

何だそのハイリスクにハイリターンの典型図式は。キミを非常事態に巻き込んで怪我なんかをさせてしまう危険性を考えたら後の報復が恐ろし過ぎて現状で死の物狂いで逃げ出すわ。

ただ、自分都合も多分に含まれているのだろうから絶対に退かないんだろうな、この御人。


「とはいえリトネウィアの情報は流石の俺でも少々骨が折れるが」


ん?ちょい待ち、聞き捨てならない恐い発言聞こえた。何だって?


「……ひ、開かれたんですかアレを?」


嘘でしょうと聞こえそうなイルファの引きつりまくった問いにリフォルドは奇妙な顔をする。


「どれのことだ?」


うん。できる人はできない人の何故何どうしてが理解できないよね。

そんなことより保護者殿、引きつるほど凄まじい難易度のものが普通にあるってことですよね。

何を調べようとしていたんですか?すごくすごく気になります。なので思わぬ問いだがありがとうリフォルド、グッジョブ。


心の中でサムズアップ。そんなボクの内心変化からか、ぱちりと瞬き納得いかない様子で両手を下ろしているリフォルドがいた。ボクの加護精霊さん忙しないですね。気分屋で申し訳ない。

なんてことを考えていると、ちらりと空色がボクを見た。何でしょうかと首を傾げたが返答はなく、視線がボクから外れたかと思えば向かう先はリフォルドへ。


「誰が引き取ったのかが調べられる範囲なのかを確認して四大が凍りついた」


そうしてディルの口から紡がれたのはリフォルドの問いへの返答でした。

やったね、何処まで聞かせて貰えるかわからないがボクの情報をどの程度知られているのかがわかる。

気になるのはディルの視線の意味なんですけれど、もしかして聞かせていい範囲かどうかを思案したのかな。

ガキらしくない発言が頭を横切るがこの際気にしない方向で。欲しい情報を話してくれると喜びます!

ふんっと密かに意気込み耳を澄ませるボクを置いて話は進む。

ディルの返答にああと納得の声を漏らしたリフォルドは何でもない調子で答える。


「あれは俺でも開かないぞ。ワード自体は問題ないがアタックシールドを越えるのがきついからな。そんなことに手間と危険をかけるくらいなら新生登録者と対応した担当の周辺を探る。どうにも名が重いリトネウィア自身をたどるのはきついが、ピンポイントのタイミングを外した周辺のその後をたどればいい。時系列をなぞってワードの難易度が急に跳ね上がってる奴がいれば当たりだ。居場所の特定は名が重い所為で実に分かり易い」


しれしれっとボクの引き取り先情報が結構まずい規模のアタックシールド内包物と知れました。

でもって名が重い発言どうも。確証はあったがこれで確定だ。

しかし、瞬いている様子を見るに思わぬ落とし穴、盲点って感じですね御三方。なまじ当人たちを知っているが故に失念していた調べ方だね。全く情報が無ければわかるところから近付くが、知っているとそこから始めようとする分ある意味視点が狭くなるものね。

あっちゃ~と分かり易いのはマリエルだけだが、私がイルファに引き取られていると知れるのはまずいのだろうか。


「それで下級位にイルファが保護者と知られていたわけか…。参ったな」


天を仰ぐほどのことなんですかそーですか。舌打ちのおまけがつかないだけましだと自分を慰めることにしますお師匠さん。


「下級位に知られてる理由はそっちじゃなくて正真正銘下級位が調べたからみたいだぞ」


驚きよりがっくりが冷めやらぬところにぽんっと放り込まれた意外な事実。

ボクも含めて四人できょとんとなりました。どういうことですか?


「え、何で?ディルが騒音扱いするくらいだったから確かに目立ってたけれど、調べる程の何かが下級位の子たちにある?文句でも言いたいの?」


……マリエル、キミこの場にボクが居ることを忘却してないか。そうでなければただの失言この野郎様になるんだが。何?文句を言いたくて居場所を調べられるってどれ程狭量な奴らなの下級位ってのは。

つーかその発想が出て来るってことは多少なりとも文句が言いたいとキミも思ったと解釈していいんだよねマリエル?ちゃんと覚えておくことにするよ。


「お前は下級位を何だと思ってるんだ馬鹿マリエル」


おっと、意見が一致してしまいましたねリフォルド。突っ込みは感謝する。


「あ、ちが、そういうことじゃなくて…えーっと」


「詳細はその内ナヴァが報告してくれるはずだ。別件で動いてるだろう?」


あわあわとなるマリエルを放置することにしたらしいリフォルドはディルへと視線を向けて問うが、これは問いではない。知った上での一応の確認だ。ディルもそれをわかって眉根を寄せる。


「暇なのかお前は」


「気になる点が多すぎるってだけで調べるに値する。これに関しては俺が話すまでもないから飛ばすが、他は何を調べようとしたんだ?一通り確認するだろう内容は、属性割合に耐性レベルの基礎能力値、特異性もあるからそれも…他にやるとするなら情報閲覧者の逆探知か?」


さらりとディルの皮肉を躱し、記憶をたどりながら指を折っていくリフォルドに傍らから小さいがぐぅっと呻く声がしているんですがこれ如何に。どうした保護者殿。リフォルドの発言に何か問題か?

なんて思って苦い顔しているイルファを見たが、頭上から舌打ちが聞こえて視線を上に戻すことにする。

…苦いどころか忌々しそうな顔になってますよお師匠さん。基本表情カームバーック。


「嫌味か?情報特化のお前と同じ場所に俺たちが立てるわけがないだろう」


意味するところはいまリフォルドが述べた情報は、四大が調べられる難易度ぶっちぎってるってことでいいでしょうかディル。

どうなっているのかが違う意味で気になってきた我が情報に遠い目になってしまったボクが見たのは腰に手をついて溜息を吐くリフォルドで、予測と違う。

てっきり可能性の話とか通常の話とかで何処までなら見れただろう?なんて会話になるかと思ったのに、息を吐いたことで下を向いた顔を持ち上げ見えた表情は…舌打ちしそうな苛立ち。

何故話題を振った貴方様がその表情なのですか。不吉ですからやめてください。

そんなボクの願いも空しく、深紅は鋭く細められている。


「ふざけろ、俺でも開けないものばかりだっての。馬鹿じゃないのかあの鬼畜仕様のアタックシールドは」


ああ、うん。なんか御免なさい。別に私は悪くないはずなんだけれど私のことだから一応心の中で謝っておきます。ですのでギスギスっとした苛立ちを早急に撤収してください。何だか耳鳴りみたいな音がするし、よくわからないけれどあちこち痛い。

ってか、え?どうしてこっちへ進んで来られますかその様子で。やめて恐い。


ひしっと反射的にイルファにしがみ付くとばさりと頭から布がかけられた。色と感触からイルファの上着っぽいが…不思議、痛いのがちょっと治まった。皮膚が火傷や熱に晒された時みたいなひりつく感覚に急に襲われたんだが、何でだ?火の気なんて何処にもないじゃないか。


「イルファ、机貸せ」


首下にしがみついて頭から上着で包まれているので姿は見えなくなったが、声音が低く機嫌が下向きなのが嫌でも伝わりますね。おっかないです。


「それは構いませんが、加護精を抑えてくださいますか?熱がリトに届きます」


席を立ち、自分のいた場所を譲るイルファだが、えらく刺々しい調子の言葉が聞こえて吃驚ですよ。

リフォルドへの接し方が、会話の半分以上が失礼もしくは暴言なディルと違って真っ当に自身よりも上位者である側近に対する丁寧さと緊張らしきものが窺えるものだったのに、どうして急に怒ったものに?

や、加護精に熱発言で一先ずひりひりする痛みが何処から来たのかはわかったけれど…まさかそれとか言わないでしょ?


「………ぁあ、悪い。ちょっと思い出したら腹が立って、平気か?」


ちょっと間が空いてギスッとではなく戸惑いに変化したリフォルドの声だが、音の発生源が近いですよ。

近いのは別の意味で嫌ですよ。保護者殿保護者殿、回避願う回避願う。そうでなければ抱っこから下ろしてください。情けなく見えてもふらふらバックして逃げますから。

そんな勝手すぎる思いでぎゅうっと更にしがみつくボクの願いは助け舟で叶います。


「イルファ、離れろ。リフォルドもその状態でこいつに近付くな」


不自然にイルファの体が傾いだのはきっとディルに押されたとか腕を引かれたとかではないだろうか。

その分ディルの声は近いが、本日の濃厚な時間が効いてますお師匠さん。意外に平気。


「基本の属性と耐性は何とか確認済みだ。加護精との接し方も制御の仕方もわかってない所為で耐性の低い火と闇は現時点で間違いなく生死に関わる。自分の力の大きさを忘れるな側近」


あらら、的確に効果のある呼び方を選びましたねディル。ボクでもその選択をします。

上位者が下位のものを悪戯に脅かすのはいけませんよ。それが故意はなくとも力の差が開けば開く程に影響は大きくなるのだから。力あるものはちゃんとそれを認識して行動する必要がある。

上手く生きて育つことが叶えばボクにも同じことが言えるのだけれど…断言できないところが世知辛い。


「…悪い」


今度はしょんぼりな感じですね。冷静にはなられたようでよござんす。苛立ちにつられて熱を放ったらしいリフォルドの加護精によるひりっと痛いも治まったので良しとしましょう。地味な後引きもそのうち治まると信じてます。

あ、はあってディルの溜息が聞こえる。何?まだ問題がありますのか?


「深呼吸でもして逃がせ、お前も火属性だイルファ」


おぅ、イルファのお怒りは継続中ですか。心配かけてゴメンよ保護者殿。しがみつく力を緩めてもう平気だよとお伝えしますのでお怒りを治めてくださいまし。どうやらディルの発言を聞く限りでは貴方様も同じひりっと効果をお持ちのようなので勘弁願いたく。抱っこ状態では逃げ場なんてないじゃない。

痛いのやです。


「意図してできないようなら一時的に俺が引き摺ってやるから床に下ろせ」


「引き摺るって何だよ。どう聞いてもいいイメージが湧かないぞそれ」


即答で異を唱えたイルファに同意する。どうやら逃げ道の提案をしてくれているようだけれど、お師匠さん。

通常引き摺ると言われたらその意味の通り地面をずるずるっとなる姿を想像しますから。

実際は後退しかできない為に仕方なしの前方への誘導行為なんだけれど、そっちを思い浮かべろってのは無理な話です。


しかし、ふと疑問。ひょっとしなくてもイルファ、キミはボクがディルの服の裾を掴み引っ張られることで前進していた所謂初めてのあんよ、を見ていないのか?

倒れそうになったのを捕獲はしてくれたので、ディルの服の裾を支えに立っていたという認識されているのだろうか。いや、別にもうちょっと驚いてくれてもいいよねとか勝手な希望ですからいいんですけれどね。

……くすん、自力歩行頑張る。


まだ怒ってます調子のイルファにこっそりビビっているボクが思考に逃避していると、たぶん軽く睨んでるんだろうなと想像できるディルの声がしていました。


「いいから黙ってその剣呑さを引っ込めろ。こいつの加護精は本人の感情に左右されて敵対行動はとれるが自己防衛は無意識にはできてないんだ。自身が火属性の熱に焼かれているのにも気が付けない程脆弱な幼子を守っているつもりで害する気か四大火天使」


ビリビリとはいかずとも発される低い声音に叱責の圧が多分に含まれており、それは耳を通して腹に響く感じがした。

ただ聞いているボクがそれと知れるお言葉に言われている本人が気付かない訳はなく、言葉にできず喉元で消えた音が近い所為で聞こえた。

それにしても、火属性の熱にってもしかして知らぬ間にピンチだったんですか?

え、じゃああのひりひりは正真正銘火傷してたってことなの?大丈夫なのかボク!


「保護者を名乗るなら自己の管理を為せ、できないなら忠告を聞け。次があれば問答無用でその腕からそいつを取り上げる。いいな?」


「…っちゅ、忠告はありがたく聞くが、リトはまだ四大にも慣れてな」


「反論できる所業だったと言えるのかいまのは」


イルファの発言をぶった切っての圧力発言が強烈ですお師匠さん。

言外の嫌って意思表示にぎゅうっとされたイルファの腕の中で背筋が寒い気がします。


「………………………………………………………ど、努力します」


消え入るようなお声ですねイルファ。返されたのは鼻息ですよ、頑張れ。流石に私も問答無用でひょいっと持ち上げられるのは勘弁願いたいのでマジで頼みます。命の危機はなおのこと無しの方向でお願い致したく。


そんな何とも言えない空気になった場に風の音がした。んー、笑いさざめくって感じ、かな。

軽やかな調子の風は気の所為でなければ場の空気を換えたようだ。

恐らくそれを成したのはこの場の風属性者。くすくすと笑う音と共に数歩分歩み寄ってくる足音がした。


「慣れ親しんだ相手ならイルファの方が世話焼きなのに盲目ってこういうことを言うんだね。ディルがお母さんみたいに見えるよ僕ぅぐ!」


…鈍い音が聞こえたよマリエル。これはいけないとボクが脳内デリートした単語をさらっと本人に向けるなんてキミはどれだけ自爆が好きなの?態々歩み寄って来てまで一撃貰うなんてМが付く残念な部分をお持ちなのかな?ボクはキミの認識を特殊な方向へと分類した方が良いのか悩んでます。


「ったく」


はあっとそろそろ聞き慣れてきた溜息が切ないですねディル。スマイル、大事よ?


「それで、四大、側近の火属性を面白おかしく振り回してる奴の情報の何がそんなに腹立たしかったって?」


へいお師匠さん、人聞き悪いでやんすよ。振り回した覚えはないでござる。


「…………ああ、その…見た方が早いんだよ。ちょっと待て」


やや呆けた調子のリフォルドだったが、カタカタ聞こえ始めたので譲られたイルファの机で何やら機器を操作中ですね。ボクも見たいですよ保護者殿。ぎゅうっとから解放プリーズ。

もぞもぞと蠢き出したら意図を察して貰えたのか腕の力を緩めてくれたイルファが頭からすっぽりにされた上着の中にいるボクを覗く、いや窺うかな。情けない御顔になっていましてよ保護者殿。


「ごめんなぁリト…」


しょんぼりって文字が背景に見える様子にいっそ笑いが込み上げてくるんですけれど、それをやると余計にしょんぼりしそうだよねイルファ。仕方ない、我慢致しましょう。


「おい、いつまで悶えてる空気。あの無自覚な被害者に念のため治癒を施せ」


「だっれの所為だと思ってんのさ馬鹿ぁっ!」


「失言吐いた自分の所為だろうが間抜け」


まさかの空気発言にぷちコント発生ですね。即座に繋がる意図せぬコントですが私は空気の意味が気になります。一体どういう意味合いを含んでいるのでしょうか。空気を読まない?それとも存在が空気扱い?

どちらにしてもひでぇなおい。


「無駄口叩いてないでさっさとしろ」


「っとにもう!イルファ、上着下ろして。それ水の防護が強すぎてリトネウィアの加護精に引き摺られて法が通らない可能性があるから」


言葉の殴打がすごいですね。そしてそれを「もう!」の一言で仕方ないと発散して無視できる貴方方の関係もすごいと思います。

それからちょっとわからなかったのが現在頭からすっぽりのイルファの上着。

普通のお洋服と違うのですか?水の防護が強いってことはこの上着には水属性に対する防御力があるってことなの?

…何そのRPG感漂う衣料品。滾る。

趣味全開な方向へと思考が流れて行こうとしているボクなど知らないイルファは言われるままに上着を剥ぎ取ってくださった。邪魔扱いでしたしね。


「予想外の情報有り難く。リトの加護精の影響力は大したものだな。今後の参考にしておく」


「防壁や守護の重ねには協力的なんだけれど。たぶんリトネウィアの向けてる信頼と信用に比例だと思うよ。僕そこまでの信用無いもの。治癒は直接本人に影響を及ぼすものだから下手すると攻撃と勘違いされかねないもの」


えーっと、ボクの加護精霊はというより基本的に加護精霊ってのは加護者にべた甘で超絶な過保護。

だからほんの少しでも加護者が相手に悪印象や警戒を抱いていると治療行為であろうが「私たちの可愛い子に何してくれようとしてんのよ!触んないで!あっち行って!」ってな反応をしてしまうってことかな。

でもって周囲にある使えそうなものを有効活用するので今回の場合は、水の同属性で強い防護性能を持っているイルファの上着を利用しようとしていた、かもしれないってことか。

イルファの大したもの発言から考えるにボクの加護精霊はたぶん精霊としての位が高い方なんだろうな。

そうでなきゃそんな言い方しないだろうから。


「じゃあ、いくよ」


上着が無くなって戻った視界に法を行使する為に翼を広げるマリエルが映る。

きゃー背中見たいっ特に翼の付け根をガン見したい!

欲望に忠実な残念極まりない思考が弾けているが、ふわりと光を灯された視界と耳に届く(エフ)の音に静まる。


「清き水よ、癒しの力となれ」


詠唱にあたるだろう言葉が括られると同時に光がボクを包み込む。シャボン玉のように儚い光の粒がぱちんぱちんと弾け、その度に感じる冷たさが肌に触れる。

冷たいのに温かいと感じる感覚に矛盾を覚えるが、体温に馴染む感覚に似ていて違和感より心地よいと思う。

何だろう…アレだ。大した怪我もしていないのに痛い痛いと泣く幼い子に痛いの痛いの飛んで行け~とまじないをかけて撫でてくれるやさしい人肌の温かさ。そんな感じ。

実際は治っている訳ではないのに元気になれてしまう感覚に似ている気がする。

尤も、こちらは正真正銘の魔法の領域なので実際に治りますよ。

ひりひりとした痛みはなくとも違和感や不快さを覚える程度はあった痛みがなくなりましたらね。


「これで大丈夫かな。すぐにイルファが上着で守ってディルが止めたから見た目でわかるものではなかったからね。もう大丈夫?痛かったら首振ってね」


翼を消しイルファに抱かれているボクを上体を傾けて覗きこむマリエル。

微笑みながら自分の首を横に振って方法を示し、返事を求めるので縦向きに首を振ります。


「よかった」


ほっとした顔をするあなたにこちらも告げなくてはね。声が出なくて申し訳ない。


「     」


ぱくぱくと大きく唇を動かして示したつもりだが、伝わっただろうか。

そう思ったボクにぱちりと瞬いたマリエルはえへへっと笑った。


「どういたしまして、治癒なら得意なんだよ僕。もしも怪我をしたら頼ってね。とはいえ怪我しないのが一番なんだけれどね」


無邪気な笑みという言葉を思い出す笑顔に子供らしくないと言われた己が哀しくなります。

ボクの笑顔にはさぞかし打算が見えることだろう。本当に子供らしくないわ。


「悪い、ありがとう」


「俺からも礼を言う、ありがとう。それから悪かったリトネウィア」


イルファ、リフォルドと続き、リフォルドはボクへの謝罪が付いてきたので視線を向ければ…、こちらもしょんぼりに反省してますって情けない顔だった。

別に命に関わる一大事でもなかったのだから良いですよ。

ふるふると平気だよの意味を込めて首を横に振ると苦笑された。何故?


「必要なら俺が代わりに罵ってやるぞ。遠慮するな、悪いのは幼子がいることを失念した馬鹿どもだ。正当性はお前にある」


いやいやえらくよろしい顔して罵ろうよ発言はやめてくださいなお師匠さん。つーかどうしてこのタイミングで笑顔なんですかやめましょうよ。普通の、嬉しい楽しい系のスマイルがいいです。

駄目ですよと否定を籠めてふるふるふるとディルに首を横振りすると、どうしてか楽しげに口角が持ち上がる。


「残念」


ごふっ。唐突に美麗な流し目スチル系ショットは勘弁してください。

不意打ちはいけないよ。真っ赤な汁が噴き出ちゃう。


「…確かに正当性はあるが、幼子理由にして上位者を罵ろうとするのはお前くらいだ。ほら、問われたえげつない情報様共だ」


見ろと示される言葉と同時に空中へと拡大投影される複数の画像。中央に表示されているのは聖魔殿で一度見たボクのパラメーター表で、属性の比率が一ヶ所異常な例の奴。

それ以外はパスワードの入力画面が映し出されているが…成程、複数形。


「「…」」


沈黙が落ちるのは当然だと思う。おどろおどろしい真っ赤な文字表記でこそないが、赤系統の所謂警戒色しかない。恐らく色が橙や黄色側に近い方が多少なりとも難易度が易しく、危険性もほんのり薄いのだろうが…。


「…っ」


じっと一つの画面を注視していると恐らくパスワードを読み取ろうとして無意識に何処かの感覚が開くのだろう。ぞくりと背筋に寒気が走る。見えない刃に喉元を掻き切られる、そんなイメージからふるふると頭を振って逃れる。

これは見続けると危ないわ。脳内で殺されるイメージしかできないから現実じゃなく精神が攻撃される感覚だ。

見てるだけでダメージ受けるってひどいなそれ。


首振り動作でボクが同じ理由で沈黙していたことに気が付いたのか、イルファがボクを抱き寄せて視界を阻んだ。ぽんぽんと背を叩かれて宥められることにほっとすると、息を詰めていたことに気が付いた。


「リフォルド様、閉じてください。どうも読み取れるみたいですから…危ない」


「っと、それはまずいな。リトネウィア、あまり見るな。自衛手段が確立されてないんだから最悪精神だけが死ぬぞ」


おっそろしいご忠告痛み入るが、そういう大事なことはもっと早くにおっしゃって頂きたかった。

幼いもち肌がチキン肌になっておりますよ。

告げるより手元の操作の方が速いのか開いていた複数のパスワード入力画面が全て消える。

何となく圧迫感がなくなった気がして安心するのは、意図せぬ読み取りが働かなくなるからかもしれない。


「アタックシールドがない条件でも開ける天魔は限られてくる代物なんだが…。読み取ろうとするってことは情報能力が高いのか、自身の情報だからなのか。そうでなければ必要なものとしてマザーから許可が下りてるのか、か。個人的には最後を押すが、どう思う?」


何をしているのかは見えないがカタカタと音をさせながら問うリフォルドに四大三名は互いの顔を見合わせていた。皆一様に渋い顔なんだが何故だろうか。


「先の二つも多少なりあるだろうが、最後が妥当だろう。むしろ自主的に調べろとプロテクトコードを大樹から聞かされていても不思議じゃない」


プロテクトコードって何ぞや?その言葉自体には覚えがあるが意味合いを忘れた。守られているものを解除する為のもの、それともアタックシールド内包物を解除する為のもの、的な?

自主的に調べろ、であれば確かにそれっぽいものなら聞いてますよ。

ただ、ひょっとするとトラウマものの内容だったりするんじゃないかと思っているので先送りにしたいところなのです。成長できるかどうかわからないけれど精神がもう少しましになるのを待ちたい所存。

なお、お伝えする気はありませんので悪しからず。


「それより…いまのは何の情報だったんだ。どれもこれもしくじった瞬間に終焉を迎えるものばかりか」


四大が死ねると告げられる危険物ならば、声の調子に引きつりが感じられるのも無理はないですね。

というか我が情報怖すぎです。


「生まれてから現在までの居場所特定と音声、映像記録その中でも難易度がやばいの厳選だからな」


この三日間の時系列、それを場所ごとに切り取った情報がアレですか。どいつもこいつも致死レベルなのはどういう仕様なんですか。根底にあるボクの難易度と場所やそこでのやり取りがわかるとなれば、最初に聞いた引き取り手の情報がもれなくついてくることで二つ分の難易度で計算されて総合的にあ、これないわ~なレベルに落ち着くってことなのか?


「一応易しいものもありはするが、通常の新生と比べれば笑える程高難度だ。司令じゃどれも命懸けになるな。因みに聖魔殿での謁見時と四大室での暴走未遂がほぼ同等で、まともに食らえば俺たちでも三回は死ねる」


オーバーキルにも程がある。笑って言うな、全然笑える内容じゃないからな。むしろ何処に笑える要素があるんだよ。それとも笑うしかないって事なんですか。


「全力で防いでも属性によっては貫通する可能性大だ。ここまで来るとマザーはリトネウィアの情報を他者に与える気がまるきりないと判断せざるを得ない」


あら、あらら。不服不満なご様子のところ悪いのですが、いまのは私的にものすごく朗報。

それってつまりは私の知られたくない情報が合法的に守られているってことではないか。

それも恐らく全天魔の中で頂点に君臨するであろう情報能力を持ったリフォルドがお手上げと情報閲覧を諦めざるを得ないえげつなさで。

つまりですよ、知っている者がうっかり口を滑らせたりしなければ、私の心配は取り越し苦労で終れるってことなんです。何処から知れて脅かされるかとびくびくしていなくてもいいってことなんですよ!

やったねひゃっほうバンザーイ!


「とはいえ、一般的な方法が駄目なら搦め手もしくはもっと単純な正攻法だ」


抱き寄せられた視界全てがイルファの状況で脳内きゃっきゃっとはしゃいでいたボクの耳に冷や水ぶっかける一言投下。気の所為でなければ深紅の目がこっちを向いていると思われる。あ、口角の上がった幻が脳内で想像されている。


「直接本人に確認するのが一番だろう?」


ですよねー。それが何より一番手っ取り早い。よくわかります。ただ御免被る。


「さぁて、交渉といこうじゃないか」


明るい響きに何処か狡猾な音が聞こえて、くっと唇を噛み抱き寄せてくれたイルファの腕を押し返す形で顔を上げ、我が想像とよく似た笑みを浮かべる深紅へと視線を合わせる。

竦むとわかっていても、視線を合わせない訳にはいかないじゃないか。

これは保護者であるイルファは勿論のこと、当人であるボク自身へと持ちかけられているものだから。

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