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とある王女の恋物語  作者: 藍田 恵
第六章 忠誠
82/111

7

 ワイルダー公国の騎士達は、ケイトの案に息を飲んだ。

「王子…」

 助けを求めるようにクレイを見た騎士達は、それが冗談であればいいのに、と本気で願っているようだった。

 しかしクレイは沈痛な面持ちで騎士達に告げる。

「既に王妃様からも許可をいただいている。これが一番平和なやり方であると、国王陛下も認められた。我々はあくまでも、ケイト達の護衛としてハーヴィス王国へ赴く。とりあえず商人のふりをして城へ出入りする手筈てはずまでは整えてある」

 リブシャ国王夫妻やケイト達には内緒にしていたが、クレイは先にハーヴィス王国へ赴いている騎士達と間諜達に命じ、拠点となる店の準備を終わらせていた。

 クレイがそう言った以上、騎士達は従うしかない。

 ケイトの案はこうだ。


 城は結婚前の娘達にとって格好の就職先である。良家の子女が箔をつける為に城の仕事に殺到するのは、どこの国でもよく見られる傾向だ。

 特に侍女の仕事は若い女性の行儀見習いのようなものである為、入れ替わりがすこぶる激しい。そのせいで城はいつでも侍女の紹介を受け入れている。

 紹介状は王妃様のつてで何とでもなるものらしいから、これを利用しない手はない。

 おさの娘達のうちの誰かが侍女としてハーヴィス王国城へ入り、エリーを見つけ出し、脱出の手引きをする。


 だから脱出するまで騎士達の出番は殆どない。

 うまくいけばエリーがリブシャ城から姿を消したのと同様、今度はハーヴィス王国の誰にも気付かれないうちにエリーがハーヴィス城から姿を消すのが可能になるかもしれない。

 この簡単な提案が今まで出なかったのは、そんな剛胆なことを考えつき、なおかつ認めさせる力量のある人物がいなかったからだ。

 その偉業を成し遂げたのは、他でもないケイトだった。

「お城へ入るのが簡単な代わりに、脱出するのはかなり困難だと思うの。その時に騎士の方々の力をお借りしたいのです」

 ケイトの説明をクレイが補足する。

「我々はそれまでの間、ハーヴィス王国の国情を出来る限り詳細に調べておきたい。ステファン王子がどのような国策で国を治めて行くつもりか知っておいても損は無いだろう」

 騎士達は渋々、といった様子でこの案を了承した。いざという場合は正面衝突は避けられない。だが、初めから戦をするつもりで敵陣に乗り込むことはどう考えても賢明ではない。

 リブシャ王国側が戦を仕掛けるつもりがないことは、騎士達にも良く解っていた。

 それならば、こうして自ら敵地に乗り込んでくれる長の娘の存在はとてもありがたい。

「…それで、ケイト。城へは誰が行くんだ?」

「ハーヴィス王国までは、みんなで一緒に行くわ。でも、お城に入るのはセレナひとりよ。私とジェスはお城に出入りする連絡係。マイリも一緒に連れていれば、誰も私達を怪しまないでしょう? ただ、サラはどうしても目立つから、お城の外で待機してもらおうと思うの」

 その言葉にクレイは頷く。

 本人達にあまり自覚は無いようだが、美人揃いの長の娘達は充分目立つ。その中にサラが加わると、注目を集めるどころではないだろう。あっという間に国中に噂が広まる。

 幸い、ケイト達は着飾った姿でしかステファン王子に会っていないから、見習い侍女のような地味な格好になればいくらか誤魔化しがきく。しかしサラのあの美しい金髪ではどんな格好でいても目立ってしまう。

 ケイトの冷静な選択にクレイは安心した。もしサラの意向を汲んでサラも城へ入らせるようなことがあれば、自分が止めないといけないと思っていたから尚更だ。

「それから、クレイ」

 ケイトは思い出したようにクレイを見ると、小声でクレイに囁いた。

「お城を脱出したら出来る限り早くリブシャ王国へ帰れるようにしたいの。エリーはまだ鞍のない馬に乗れないから、なるべく力が強くて足の速い馬を準備してくれないかしら」

 小声なのはエリーに対する配慮だろう。大国の王女が乗馬も出来ないのはいささか醜聞だからだ。

「僕の馬を使うといい」

 あっさりと言ったクレイにケイトは不機嫌な表情を見せた。

「クレイとデラ以外は振り落とされるんじゃなかったの? 二人ともステファン王子や臣下達に顔を知られているからエリーと一緒に馬に乗れないし、一体誰が…」

「あれはマイリが馬に近付いて怪我をしないよう、万が一の事を考えてついた嘘だ。あの馬は聞き分けがいい。君かセレナでも大丈夫だとは思うが、ジェスならきっと楽々と乗りこなせるだろう。誰が乗るにしろ、女性二人だったら鞍があっても速く走れる。後でデラにあの馬の扱い方を教えてもらうといい」

「だったらジェスに頼もうかしら。私達の馬は王様に頼むとして…。それからクレイ」

「まだ何か?」

 微笑むクレイにケイトは容赦なく言った。

「サラを馬に慣れさせて欲しいの。…と言うより、馬をサラに慣れさせて欲しいと言うのが正解かしら。馬はとても神経質ですものね。でも、今回は悠長に馬車を使う訳にはいかないから、サラもマイリも馬に乗って貰うことになるわ。マイリはそれほど怖がらないと思うけど、サラは少し心配なの。今となってはサラが馬を避けていたのは当然のことだと理解出来るんだけど…。こんなこと騎士の人達にはとても頼めないから、あなたかデラがサラの乗馬の手伝いをしてくれないかしら」


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