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エリーは幼い頃から、本当に綺麗だった。
太陽を思わせる黄金の髪に、いつまでも見つめていたい気持ちにさせる不思議な色合いの碧い瞳。その笑顔は蕾が花開く瞬間のように美しい。
大人だけでなく子供だったサラも魅了されるほどの美しさを、サラはずっと守りたかった。
やがて成長するにつれ、エリーの周りをうろうろするのは男の子達だけではなくなった。
当初サラは女の子達もサラのようにエリーに憧れているのだろうと思った。
しかしそれはサラの誤解だった。彼女達はどちらかと言うとサラの方に憧れていて、エリーには好意を抱いていないことが明らかだった。
エリーは全てを独り占めにしていると見られがちだ。その美しい容姿。長の娘という地位。家族に恵まれ、誰からも愛され大切にされている。
羨望を通り越すと憎悪が育つということを知ったサラは、エリーを心から愛し守る人が現れるまでは、自分がエリーを守ろうと決めた。
剣を習い始めたのは、そんな時だ。
最初、長は面白半分にサラの相手をしていたが、真剣に取り組むサラの姿を見て本気で稽古をつけてくれるようになった。
エリーはサラが稽古をしている時はマイリと一緒に見学し、稽古がない日は家か森かで一緒に過ごした。村を歩き回る時はいつも一緒。本当に、いつも一緒に過ごしてきた。
弛まぬ努力を続けて、村では他に敵う者がいなくなるほどサラは上達した。その頃にはもう、徒にエリーを傷付けようとする者はいなくなっていた。サラの真剣な鍛錬が功を奏し、エリーを傷付けることが何を意味するのか、村で知らない者はいなくなったからだ。
そしてエリーには今、クレイが現れた。王子様であるだけでなく、剣の腕も申し分ない。
これで安心してエリーを任せられる。
そう。これからはクレイがエリーを守るのだ。だから二人の為に少し離れた所で見守っていけばいい。
そう思っていたのに。
荷造りをしながら、これで何度目か…もう数え切れないほどの溜息を吐いて、サラは塞ぎ込んでいた。
「サラ。少しいいかしら?」
そっと肩に触れられて振り返ると、ジェスの優しい瞳と目が合った。
「荷物は全部まとまった?」
「ええ。…もともと、そんなに持って来ていなかったし」
実際、サラが村から持参したのは少しばかりの衣類と成人式のドレスだけだった。あとは王様から贈られたドレスとクレイから譲り受けた剣しかない。
その剣をぼんやりと見つめながら、サラは溜息を吐いていた。
「その剣…本当に綺麗ね。ずっと見てても飽きないみたいね」
ジェスにそう言われて初めて、サラは自分が剣を見つめたまま動いていなかったことに気が付いた。
「ええ。良い剣よ」
見蕩れるほどの美しさと言っても良いほどの剣を改めて見つめてサラは頷く。そんなサラにジェスはふと思い出したように尋ねた。
「…クレイって、父さんよりも強かった?」
「ええ。強かったわ」
「エリーを任せてもいいって思うくらい?」
「え?」
「あの試合…あなたらしくなかったから不思議だったの。だけど、本当は勝てたかもしれないけど、エリーの為に勝ちたくなかったのかも、って考えたら辻褄が合うわ。クレイがエリーに相応しい相手だと思いたかったんでしょう? 何故だか私にはそう思えて仕方ないの」
さらりと言われて、サラは驚いてジェスを見つめた。
「わ、私は…。あの時は剣が重くて…」
思わず吃るサラの気持ちを見透かすようにジェスは続ける。
「…あなたって、昔からエリーを守ることばかり。そのせいで自分の事が疎かになってしまうのよね。エリーはあなたのそんなところを心配していたわ」
「エリーが…?」
「ええ。あなたがエリーを守りたいと思うのと同じように、エリーもあなたを守りたいと思っているのよ。だから、必要以上に責任を感じなくてもいい。第一、エリーはあなたに責任を感じて欲しいなんて、そんなこと望んでいない」
「ジェス…」
「ワイルダー公国があれほどの警戒態勢を敷いていたのよ。あれは人間の力では及ばなかったことなの。サラ、あなたの責任じゃない。勿論クレイやデラの責任でも。それに、エリーは必ず助けるわ。みんなで最善の方法を考えましょう」
「…ありがとう、ジェス」
サラがやっとジェスに笑顔を見せた時、ケイトが二人を呼びに来た。
「荷物は準備出来た? そろそろお城へ向かうわよ」
「分かったわ。すぐ行く」
ジェスがそう答えるとケイトは頷く。
「早くいらっしゃい」
そう言って外に出てしまったケイトを追うように荷物を抱えたジェスに、サラはおずおずと言った。
「…あの、ジェス」
「うん?」
「クレイは本当に、父さんより強かったのよ。ただ…その、私にすごく遠慮して手加減しているのが分かったから、私も調子が狂ったと言うか…。今まで、誰にも…あんな風に手加減されたことなんてなかったから」
「クレイには内緒にしておくわ。エリーにもね」
悪戯っぽく笑うジェスに、サラは口を尖らせる。
「そんなに私らしくなかった?」
「少なくともマイリと私は騙せなかったわ。ケイトとセレナも、多分。でも、あなたもクレイもいつもの調子が出せていなかったみたいだし…おあいこと言えばおあいこなのかしら。私達はともかく、デラはきっと納得しないでしょうけど」
確かに…二人とも本気になれていなかったなんて、剣に対して忠実なデラには絶対に聞かせられない。
「マイリの名誉の為にも、いつか本気で剣を握るあなたの姿をデラに見せてあげないとね」
くすくすとジェスに笑われて、サラは耳まで真っ赤になった。




