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デラがクレイの着替えと乾いた布を持って湖に到着すると、その姿に気付いたクレイは湖から上がってきた。
クレイが体を拭いている間に馬に水を飲ませていたデラは、クレイがすっかり着替え終えたことに気付くと馬を木に繋ぎ、着替えと一緒に持って来ていた籠を差し出す。
「ジェスさんが差し入れを持たせて下さいました。甘い物が食べたいだろうと」
いつか城の土産でサラが持ち帰った菓子と似たようなものをジェスは作っていたようだった。
髪から滴る水を拭きながら、クレイはいくつかある種類の菓子から比較的甘そうで小さいものを選び取る。
クレイがそれを口に放り込むと、一緒に用意されていた温かいお茶をデラはクレイに手渡した。
「サラさんは善戦されましたね」
「うちの騎士団に欲しいぐらいだ」
「そんなことになったら、士気に影響が出ます。あんなに綺麗な女性を目の前にして、あの連中が訓練に集中なんか出来る筈がないでしょう」
「それもそうだな」
クレイは可笑しそうに笑うと、菓子をもう一つ取った。
「ジェスも城の料理人に招きたいぐらいだな。姉上達が大喜びしそうだ」
「リブシャ国王が許して下さるかどうか。それに、我が国では木苺は採れませんし」
「そうだな」
そう言って菓子を食べているクレイの横顔を見て、デラはふと尋ねた。
「…サラさんは強かったですか?」
「女性にしては強いと思った。だが、やはり女性だ」
「その割には苦戦なさってましたね」
「怪我をさせる訳にはいかないだろう」
そう言ってクレイはお茶を飲み干す。
「王子らしからぬ発言です。一度剣を握ったら、男も女も、大人も子供も関係ないと仰っていたではありませんか」
遊びで剣を握るなと常々言っているクレイの発言の矛盾にデラは心なしか憤慨を覚え、思わず言い募った。
「ここはワイルダー公国でも、戦場でもない。リブシャ王国の国王の領地内だ。そして、サラは王の賓客だ」
「…そうでした」
クレイの言い分の方が正しいことに改めて気付いたデラはしゅんとなる。
「お茶をくれ、デラ」
クレイはそう言って草の上に座った。それに合わせてデラも隣に座り、クレイが置いたカップにお茶を注ぐ。
「どうぞ」
カップを受け取ったクレイは、ゆっくりとその中身を喉に流し込んだ。その間、クレイの隣でデラは湖面が風に撫でられてきらきら輝くのを見つめていた。
「…僕の気紛れで色々心配をかけてすまなかった」
湖面が揺れるのを眺めて無心になっていたデラは、はっとしてクレイに振り向いた。
色々、の意味をデラが量りかねていると、クレイは吐息を洩らすように笑った。
「サラが剣士として、どういう性格なのか知りたかったんだ」
「そのお気持ちはお察しします。私も興味がありましたから」
「お前から見て、サラの剣はどうだった?」
「サラさんそのものですね。美しくて、強い女性だと思いました」
「僕もそう思った」
「王子…」
デラは思わずクレイを見つめた。クレイはただ自分の言葉に同意しただけなのに、まるでデラの発した言葉がクレイの心から出た言葉であるかのような錯覚をしてしまったからだ。
「王子はサラさんのことを…」
「僕の婚約者はエリーだ。それは今も変わらない。それよりもデラ、マイリにちゃんと話せたか?」
「はい。ですが、その時に妙な…と言うか、初めて聞いた事があったのですが」
「何だ?」
「王冠の契約、というものをご存知ですか? 王子」
汗を流してさっぱりとした気分になったサラは、食糧庫にある材料を確認した。
「今夜はサラが料理を作るの?」
背後からマイリの声がして、サラは振り向く。
「そうよ。…あら。花冠を編んだのね」
マイリの頭にちょこんと載った小さめの花冠を見て、サラは微笑んだ。
「デラが編んでくれたの」
「デラが? へぇ…上手ねぇ」
意外な作り手の名に、サラは改めて花冠を見つめた。恐らく初めて作っただろうに、綺麗に編まれた花冠にサラは感心する。
「大切にしないとね」
「エリーにも見せたいんだけど、戴冠式まで枯れないかなぁ」
サラがお風呂に入っていた間にみんなに見せて回っていたのだろう。今日エリーに見せられないことが、マイリには残念でたまらないようだった。
「大丈夫よ」
サラはそう言うと、そっと花冠に触れた。
「エリーにも見せられるわ」
サラの言葉に力付けられてマイリは嬉しそうに笑う。サラもその笑顔につられて微笑んだ。
「マイリも準備を手伝うよ」
「ありがとう。今夜はデラが教えてくれたワイルダー公国の料理にするの。干した果物を使う方のね。マイリはデラの国の料理で、どの料理が好きだった?」
「うーんとね。鳥のお肉の料理。クレイも好きだってデラが言ってた。でね、リブシャ王国の料理はどれも美味しいけど、ここに来たばかりの頃に作ってもらったお肉のシチューは何度でも食べたいってデラが言ってたよ。今度はサラが作ったシチューじゃない方のお肉料理も食べてみたいって」
「そう。…そう言えば、ここでは作っていないわね」
「それから摘みたての木苺も」
「考えてみたら、デラはいつも機会を逃しているわ」
サラはそう言ってくすりと笑う。
「ありがとう、マイリ。今夜の料理は大体決まったわ。材料はここに殆ど揃っているから、あとは木苺だけね。ジェスかセレナと一緒に取りに行ってくれる?」
「うん、いいよ!」
サラに頼み事をしてもらって嬉しいマイリは、喜び勇んで食堂に向かった。
サラは再び食糧庫を振り返る。
セレナがお昼に作ってくれたスープは母さんの料理の味がして、久し振りに村が恋しくなってしまった。マイリもそろそろ限界だろう。ケイトの話では父さんと母さんはお城に直接向かうことになってしまったから、せめて料理だけでもみんなの心を慰めることが出来れば。
肉料理は好きなだけ取り分けられるようにすれば、多めに作ったとしてもクレイ達の負担にはならないだろう。
献立が決まったサラは小さく頷くと、材料を調理場へ運び始めた。




