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昼食の時間も、マイリが知っている寓話のことで話題に事欠かなかった。
同じ村で育っていても、歳月が経つと動物や植物の名前が変わっていたり、主人公が女の子であったはずが男の子に変えられていたりと色々な発見があって、姉妹達は昔懐かしい話の変わりようにきゃあきゃあ騒いでいた。
時々話題についていけなくなるクレイとデラは半ば諦めた様子で、それでも楽しそうに姉妹達の話に耳を傾ける。
「サラ。サラは竜の話を知ってる?」
セレナが食器を下げると、マイリが食卓に身を乗り出してサラに尋ねた。
「崖に棲む竜の話?」
「そう。ハーヴィス王国の崖に棲んでいるの!」
「私が聞いた時はリブシャ王国とハーヴィス王国の間の崖じゃなくて、ハーヴィス王国をもうひとつ超えた向こうの国の崖だったわ」
その話題にクレイとデラは興味をそそられたらしく、お互い目配せした。
「ハーヴィス王国の立派な崖に竜か…。デラ、知っていたか?」
「初耳です」
「僕もだ。知っていたら、真っ先にハーヴィス王国に向かったのに」
「マイリ、その話もして下さい」
「いいよ。あのね、勇敢な騎士が竜の卵を取りに行く話でね。病気のお姫様が…」
「国王ではなかったかしら?」
ふと呟くジェスに話の腰を折られ、マイリは反論する。
「違うよ、ジェス。お姫様だよ」
「私が聞いた時も国王だったわ。ここでも話が変わっているわね」
ジェスの意見に賛同したサラを見て、マイリは急に不安な表情になった。
「10年も経つとこうも変わるものかしら。…あ。ごめんなさい、マイリ。最後まで聞くから続けて」
「…いいもん。もうやめる」
しょんぼりとマイリが肩を落とし、たたた、と駆けて食堂を出る。
「あっ、マイリ!」
慌てて立ち上がったサラを、クレイがそっと引き止めた。
「デラ」
「あ…はい!」
代わりにクレイに視線を向けられたデラが慌てて立ち上がり、マイリの後を追った。
「クレイ。どうして…」
クレイに促されて再び席に着いたサラが納得いかないといった瞳を向けると、クレイは静かに微笑む。
「竜の話を聞きたいのはデラだからだよ。登場人物は王様でもお姫様でも…誰でもいいんだ。マイリから話してもらうことの方が肝心だから」
「だからどうして」
リブシャ王国の伝承が知りたい訳ではなかったのか、とサラは心の中で訝る。
ますます訳が分からない、という表情のサラにクレイはとうとう笑い出した。
「分からないかな」
「分からないわよ」
自分とは正反対に仏頂面のサラを見て、クレイはこほん、と咳払いする。
「マイリはデラにとって、この国…いや、僕の城に来てから初めての友人だ。しかも女の子のね。女の子を慰める機会に恵まれることが滅多にない哀れな騎士見習いに、どうかその栄誉を譲って頂けないだろうか」
「それって、デラの為に?」
「僕達はもうすぐここを離れる。ケイトにしか言ってなかったけど、明後日の朝、戴冠式の準備の為にここを出るんだ。今までありがとう」
「ええっ?」
一人だけ声を上げたジェスは、驚いて周りを見た。
「みんな、知ってたの…?」
ショックを隠せないジェスに、セレナは申し訳なさそうに呟く。
「私も知ったのは今日…」
「私も…」
セレナとサラの告白にジェスは落胆し、クレイは失笑した。
「あなただけマイリと一緒だったから、つい言いそびれて…。ごめんなさい」
ばつが悪そうに、しかし肩の荷が半分下りてほっとしたケイトがジェスに謝り、そしてクレイを見る。
「…というわけで、約束を守れなくてごめんなさい、クレイ」
「もともと僕が無理な約束を強いたのですから謝らないで下さい、ケイト。負担をかけてすみませんでした」
クレイはそう言い、あっさりとケイトを許した。
「それに、マイリにはデラから話すと思います。その機会を作る為に追わせたようなものですから」
「マイリを慰めさせるんじゃなかったの?」
マイリが余計に悲しい思いをするのではないかと心配するサラに、クレイは優しい笑みを向けた。
「この話はデラから直接話した方がいいと思うんだ。それに、拗ねたり悲しんだりしている女性の機嫌を取るのは昔から男の役割なんだよ、サラ。どうかデラにその重要な役割を与えてやってくれないだろうか?」
「それは…。別に構わないけど…」
渋々納得しようとするサラを見て、クレイはふと真面目な表情になった。
「そこで君に提案なんだけど」
「え?」
「見ての通り、デラが行ってしまったから午後の予定が急に空いてしまった。僕は僕で、ここで心残りのないようにしておきたいと思う。マイリが君の剣の腕をあまりにも褒めちぎるものだから君と一度、剣の手合わせをしてみたいとずっと思っていたんだ。女性に申し出る類のことではないと分かっている。無礼だと思われても仕方がないとも。だが…君さえ良ければ、どうかこの申し出を受けてくれないだろうか?」




