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神酒鑑定師と鬼の王  作者: 蒼崎しんのすけ


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第一話 鬼封じの酒

今回は怪異ものになります

六月の京都


蒸し暑い風が古い町並みを吹き抜けていた。


利き酒師・天海真澄は、一枚の依頼書を見つめていた


「古酒の鑑定、ですか」


依頼主は京都北部の山奥にある小さな酒蔵


ただし妙な注意書きがあった


絶対に試飲は一口まで


真澄は眉をひそめた


「そんな注意書き初めて見たな……」


だが仕事は仕事である


彼は車を走らせ、山奥の酒蔵へ向かった。


酒蔵は築百年以上


黒ずんだ木壁と白い漆喰


しかし妙だった


人の気配がない


蔵人たちは皆どこか怯えた顔をしている


出迎えた蔵元の老人が頭を下げた


「遠いところをありがとうございます」


「問題の酒は?」


「こちらです」


案内されたのは地下蔵だった。


階段を降りるたび空気が冷たくなる


奥に一本だけ酒瓶が置かれていた


古びた縄が何重にも巻かれ、札が貼られている


真澄は思わず声を漏らした


「なんですか、この封印みたいな……」


老人は顔を青くした


「代々、開けるなと伝わる酒です」


「ならなぜ開けるんです?」


「先日、地震で封が割れてしまいました」


静寂


地下蔵の空気が重い


真澄は仕事として酒瓶を調べる


香りを確かめる


色を見る


驚くほど澄んでいた


千年以上前の酒とは思えない


むしろ生きているようだった


「少しだけ試飲します」


「お、お待ちください!」


老人が止める


だが遅かった


真澄は盃に一滴だけ注ぎ、口に含んだ


瞬間


世界が反転した


大量の炎


山


悲鳴


鬼


血


酒宴


そして巨大な影


五本の角


十五の眼


赤、青、黄、白、黒


異形の鬼が笑っていた


『酒はうまいか、人の子よ』


声が脳に響く


真澄は息を呑む


『長かったぞ』


鬼が笑う


『千年ぶりの乾杯だ』


バリン!!


酒瓶が砕け散った


地下蔵に突風が吹き荒れる


札が舞う


縄がちぎれる


老人が悲鳴を上げた


「封印が!」


真澄の身体から黒い霧が噴き出した


激しい頭痛


耳鳴り


視界が揺れる


そして霧が一箇所に集まり――


一人の少年になった。


赤い髪


黄金の瞳


白い肌


女と見間違えるほど美しい顔


だが額には小さな角


少年は大きく伸びをした。


「ふぁぁぁ……」


まるで昼寝から起きたようだった


「やっと出られたわ」


真澄も老人も固まる


少年は笑った


「久しいな、人の世」


そして自分の胸を指差す


「名乗っておこう」


その瞬間


地下蔵全体が震えた


「わしは酒呑童子」


空気が凍る


老人が失神した


その夜


真澄は酒蔵の座敷で事情を聞いていた


「つまり……あなたが酒呑童子?」


「そうじゃ」


「鬼の王?」


「そうじゃ」


「討伐された?」


「された」


「死んだんじゃ?」


「死なんかった」


酒呑童子はケラケラ笑った


真澄は頭を抱えた


伝説上の存在が目の前で煎餅を食べている


現実感がない


その時だった


庭の方から奇妙な音が聞こえた


ガリ

ガリ

ガリ


何かを噛み砕く音


酒呑童子の表情が変わる


「来たな」


「何が?」


「怪異じゃ」


障子が破れた


黒い影が飛び込む


人の形をしているが顔がない。い影が飛び込む



代わりに酒瓶が頭になっていた


「ひっ!」


真澄が後退する


酒呑童子は立ち上がった


「封印が解けた影響じゃな」


怪異は叫ぶ


人とも獣ともつかない声


酒蔵の酒樽が次々割れていく


酒が床に広がる


酒呑童子は転がっていた盃を拾った


そこへ酒を注ぐ


ぐいっと飲み干す


瞬間


金色の瞳が赤く輝いた


「久しぶりの酒じゃ」


ゴォッ!!


鬼気が噴き出した


怪異が怯む


酒呑童子は笑った


「さて」


次の瞬間には消えていた


ドゴォォン!!


怪異が壁ごと吹き飛ぶ


圧倒的な怪力


酒呑童子は片手で怪異を持ち上げた


「酒を粗末にする奴は嫌いでな」


怪異は悲鳴を上げる


そして――


握り潰された


黒い霧となって消滅する


静寂


真澄は呆然としていた


酒呑童子は何事もなかったように戻ってくる


「終わったぞ」


「終わったぞじゃない!」


真澄は叫んだ


「怪異ってなんなんですか!」


「おぬし見えるようになったじゃろ?」


「え?」


「呪いじゃ」


酒呑童子が指差す


真澄の右腕


そこには黒い紋様が浮かんでいた


「その印が全身に広がったら、おぬし鬼になる」


真澄の顔が青ざめる


「治るんですか?」


「たぶん」


「たぶん!?」


「神酒を集めればなんとかなるじゃろ」


酒呑童子は笑う


真澄は絶望した


だが酒呑童子は不思議な顔をした


「そんな顔をするな」


「しますよ!」


「面白そうじゃないか」


鬼は月を見上げる


「千年ぶりの旅じゃ」


そして真澄を見る


「おぬしも付き合え」


「拒否権は?」


「ない」


即答だった


こうして


呪われた利き酒師・天海真澄と、


復活した鬼の王・酒呑童子の旅が始まった。


全国の酒蔵


神酒


怪異


そして千年前の真実を巡る物語が――

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