### 第1話 # 「ただいまが聞こえる家」
### 第1話
# 「ただいまが聞こえる家」
春の風が、窓を少しだけ揺らしていた。
夕方。
僕は仕事を終えて、家の前に立っていた。
今日も疲れた。
電車は混むし、上司には呼び止められるし、お昼に買ったコーヒーは机の上で冷めるし。
だけど。
玄関のドアを開ける瞬間だけは、少しだけ足取りが軽くなる。
ガチャ。
「ただいまー」
すると。
ドドドドドドッ!
すごい音がした。
嫌な予感。
次の瞬間――
「ぱぱぁぁぁーーー!!」
結愛がミサイルみたいに飛んできた。
「うおっ!?」
なんとか受け止める。
危ない。
毎回危ない。
結愛は僕の首にしがみつきながら笑った。
「おかえりー!」
「ただいま」
「きょうね!」
「うん」
「ぺんぎん描いた!」
「そうなんだ」
「ぞうさんも描いた!」
「うん」
「ぷりんも描いた!」
「なんで?」
結愛は胸を張る。
「すきだから!」
理由になってない。
でも可愛い。
リビングへ行くと。
ソファで本を読んでいた優月が顔を上げた。
「おかえり」
「ただいま」
優月は少し笑う。
「今日は結愛が朝からうるさかったよ」
「うるさくないもん!」
「うるさいよ」
「うるさくないもん!」
即ケンカ。
僕は笑った。
こういう光景を見ると、不思議と疲れが消える。
その時。
キッチンから唯ちゃんが顔を出した。
「おかえりなさい」
「ただいま」
唯ちゃんは柔らかく笑う。
「今日はハンバーグだよ」
結愛が飛び跳ねた。
「やったぁぁぁ!」
優月も嬉しそうだ。
僕も嬉しい。
実は家族全員、ハンバーグが好きだった。
夕飯の時間。
みんなでテーブルを囲む。
結愛は待ちきれない。
「いただきますまだ?」
「まだ」
「まだ?」
「まだ」
「まだ?」
「まだ」
優月が吹き出した。
唯ちゃんも笑う。
そして。
「いただきます」
全員で手を合わせる。
結愛は一口食べて叫んだ。
「おいしー!」
「よかった」
唯ちゃんが微笑む。
僕も食べる。
うまい。
本当にうまい。
高級レストランじゃない。
でも。
どこで食べるかより、誰と食べるかの方が大事なんだと思う。
食後。
優月が宿題を広げた。
結愛はお絵描き。
唯ちゃんは食器洗い。
僕は洗濯物を畳む。
どこにでもある夜。
特別なことなんてない。
だけど。
こういう時間が、きっと幸せなんだろう。
その時だった。
優月が鉛筆を止める。
「ねえ、ぱぱ」
「ん?」
優月は少し考えてから聞いた。
「家族って、いつから家族になるのかな」
僕は手を止めた。
難しい質問だった。
結愛は横でプリンのフタを頭に乗せている。
自由すぎる。
僕は少し笑って答えた。
「一緒にいたいって思った時かな」
「一緒にいたい?」
「うん」
優月は静かに聞いている。
僕は続けた。
「血がつながってるだけじゃなくてさ」
「うん」
「笑ったり、泣いたり、ケンカしたり」
「うん」
「それでも帰りたい場所になったら、家族なんじゃないかな」
優月はしばらく黙っていた。
そして。
小さく笑った。
「じゃあ、うち最強だね」
僕と唯ちゃんは吹き出した。
結愛もよく分からないまま叫ぶ。
「さいきょー!」
家の中が笑い声でいっぱいになる。
僕は思う。
豪華な家じゃない。
お金持ちでもない。
だけど。
この場所には、ちゃんと幸せがある。
笑い声があって。
「おかえり」があって。
「ただいま」が返ってくる。
それだけで十分だ。
窓の外では、春の夜風が静かに吹いていた。
そして僕は、今日も心の中でつぶやく。
**――なんとかなるさ。**
だって。
帰る場所があるのだから。
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### 次回予告
**第2話「結愛、初めてのおつかい」**
「ひとりでいく!」
突然宣言した結愛。
心配する家族。
張り切る本人。
果たして結愛は無事に牛乳を買って帰れるのか!?
笑いあり、ドキドキありの家族物語、続きます。




