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普通で当たり前の異常な日々  作者: 黒兎
日常の終わりと始まり
17/17

普通で当たり前の異常な日々

仁村かなで


怖かった。勢いに任せて行動しすぎた。部屋に入り、橘さんと消え入りそうな女の霊を見た時、何か行動しなければと勢いに任せて突撃したはいいものの、正直なにをしたらいいかわからずとにかく思った事をぶつけることしか出来なかった。


結果、女の霊は消えていったが首に手を伸ばされた時は本気でビビった。


あそこで動じなかったのは単純に頭が真っ白で自分が何をしているかわかってなかったからだと思う。


「あなたなんで…」

私の肩に橘さんの手が置かれた瞬間、先ほどまでの私の勢いは消え去り恐怖がまた戻ってくる。


「こ、こわかったぁ…」

思わず私がそうこぼすと橘さんは困惑した様子で私を私を見ている。しかしそれもわずかな間で眉をしかめ厳しい表情を作った。


「あなたいったいどういうつもり?今回はたまたま上手くいっただけ。下手したらあなた死んでたわよ」

「うん、そうだね…」


私自身どうして助かったのかもわかっていない。

私の言葉に橘さんはよりいっそう表情を険しくする。


「ふざけてるの?だいたい何しに来たのよ。あなたがわざわざここまで来る必要もなかったでしょ」


橘さんの語気は強く怒っているようだ。そのことが私が今ここにやってきたことが間違いではなかったと改めて確信し、思わず口元に笑みが浮かぶ。そんな私を見て橘さんは益々怒気を強めた。


「なに笑ってるの!いい加減に…!」

「ごめん、違うんだ。やっぱり橘さんは優しいなって」


私の言葉に橘さんは虚をつかれたように固まる。

ああ、怖かった。今日これまでの体験は本当に怖かったし、今思い出しても身震いする。それでも、橘さんが助けてくれたから私は今こうやって無事でいられる。


「なにを言って…」

「ありがとう助けてくれて。橘さん達がいてくれたからこうして私は無事でいられる」


「それはたまたま成り行きで…いえ、違うわ。私が聞きたいのはそういうことじゃなくて、なんであんな危ない事をしたのかと聞いているのよ」


「なんでだろ?自分でもよくわからないや。でも何もしなかったら本当に無くなっちゃう気がしたから」


「え…?」

「幽霊とか、なんかよくわからない影とか、本当に怖かった。でも橘さん達とこれで終わりってのも嫌だったから、気付いたら無我夢中で体が動いてた」


「あ、あなた本当に馬鹿なの!?わ、私といればきっとまた同じような目にあうのよ!?」

「そうかもしれないけど…でもその時は橘さんに助けてーってお願いすればいいかなって」


「はぁ!?」

「私そういうの全然わからないから橘さんに頼りっぱなしになっちゃうと思うけど…」


「そう言うことじゃなくて!そもそも私と関わらなきゃいい話じゃない!」


橘さんの言葉に私は思わず苦笑いする。正論だ、橘さんの周りにはきっと今みたいなよくわからない物や幽霊なんかが当たり前にある。


だからきっと一緒にいればまた危ない目に会うのかもしれない。だけど、私の心は決まってしまっている。


「だって橘さんと友達になりたいと思っちゃったから」

「は?友達…?何を言ってるの?」


私の言葉に橘さんは一歩後ろに後ずさる。その表情はまるで何かにおびえているようだった。


そんな橘さんから視線をそらさず、まっすぐ橘さんを見つめる。


「私は橘さんと友達になりたい。だからここで何もしなかったらきっと本当に終わっちゃうと思ったらそれが嫌で、だから何かしなきゃって、そしたら体がかってに動いてて…」


「わ、訳が分からないわ。だってあなた言ってたじゃない…普通の青春がしたいって…」

「うん、そうだね」


「なら、やっぱり私と関わるべきじゃない。わかってるでしょ?あなたが言う普通とは私は違うわ」


「それでいいんだよ。ううん、もう普通とかどうでもいいかな」


「どうでもいいことないでしょ…あなたはまだ引き返せる」

「私が引き返すつもりがないから。だからいいの」


憧れていたのは普通の日常。友達がいて放課後、買い食いやカラオケになんかいったりして、大きな事件なんてなくてそれでも楽しいそんな青春を目指してた。


でも今の私が生きたいのは、生きたいと思ったなのは、おかしなこともあるけどそれでも優しい友人たちと笑い合えるそんな日常だ。私の中でもうその日常の中に橘さんは入ってしまっている。


「ははははは!いや、そうなるか!いやー仁村さんを舐めてた!」


今まで事のなりゆきを黙ってみていた八島君が急にお腹を押さえて笑い出した。


「いやー詩織、これはお前の負けだよ」

「負けって…何を言ってるの!勝ち負けとか言う問題じゃ……」


「だって仁村さんはもう何を言っても退かないぜ?あとは詩織が折れるしかないだろ?」

「……」


八島君の言葉に橘さんは黙る。別に私としても勝ち負けという話ではなく、ただ思った事を言っただけなので八島君の反応には戸惑ってしまう。


「詩織は橘さんとは絶対友達になりたくない!ってわけじゃないんだろ?もしそうならそれは仕方ないけどな」


そういって八島君は肩を竦める。八島君のそのにやにやとした仕草にイラっとしたのか橘さんは舌打ちをする。私もちょっとイラっとした。


橘さんは八島君を睨みつけそして私に視線を移す。その表情は怒っているような、悩んでいるようななんとも言い難い表情をしている。


そして大きくため息をつくと私を睨みつけながら

「好きにすればいいわ」

そういって部屋の入口に向かって歩き出した。


「えっと…?」

好きにすればいい、これはどう捉えればいいのだろうか?橘さんの背中を眺めながらぼんやりとそんなことを考えていると


「つまりこれから友達ってことでよろしくだってさ。ようこそこちら側へ、これからよろしくな」

八島君が私にそんなことを言ってきた。


「別に八島君とは友達になりたいって言ってないんだけど…?」


「うわ!ひでぇ!まぁ俺のことは別にいいんだけどな」

何が楽しいのか私の辛辣な言葉にも八島君は笑顔を崩さず答える。


「冗談だよ?八島君にも助けてもらったし。えっとこれから友達ってことで。橘さんも友達でいいのかな…?」


「否定しないってことはいいんだよ。ほら詩織の奴素直じゃないから」

「うるさいわよ!好き勝手言って!」


私達がそんな会話をしていると部屋から出ていったはずの橘さんが戻ってきた。どうやら私達の会話はしっかり聞いていたらしい。


その様子がなんだかおかしくて八島君と顔を見合わせ、思わず笑ってしまう。そんな私たちの様子をみて橘さんが不機嫌そうに顔を歪ませる。


「…いいから行くわよ。いつまで死体がある空間にいるつもり」


「あ、ちょっと待って橘さん!1つ聞いてもいい!?」

「……なによ?」


「これから橘さんのこと名前で呼んでもいいかな?…詩織って」


私の言葉に橘さんは驚いた表情を浮かべる。橘さんの言う通り、すぐそこに遺体があるこんな空間で話している場合ではないのはだけど聞いておきたかった。私の感覚もだいぶマヒしてしまったのかもしれない。


「……好きにすればいいわ」

「うん!ありがとう詩織!あっ!私の事もかなででいいから」


「…あなたそんな図太い性格だったの?…まぁいいわ。いいからさっさと帰るわよ……かなで」


最後の名前の部分はささやくように小さかったけど確かに橘さん、いや詩織は私の名前を呼んでくれた。


それがうれしくて私は笑顔で詩織の後を追いかける。

その後ろから八島君も笑いながらついてきた。


この数日間、本当に濃い日々だった。そのほとんどが怖い思いだったし、ずっと不安だった。


けれどそんなとても怖い思いをしたこの場所で私には新しい友達が出来た。


これがいい事なのか悪い事なのかはまだわからない。少なくとも私が憧れた普通で何気ない日常や青春にはもう戻れないのだろう。


それでもいいのだ。少なくとも私は今この瞬間、この選択を後悔なんてしてないのだから。


後日談というか、その後のお話。


あれから廃墟を出て、入口で待機していた御厨さんに遺体の事を説明するとそのまま御厨さんの車で家まで送ってもらった。


御厨さんはそのまま廃墟に戻り警察に通報するらしい。建物の管理点検に来た際に遺体を発見した、というていで話を進めるの為に私達がいないほうがいいという判断だった。


家に送り届けてもらい、私はそのままベットに倒れこんで熟睡。その後起きたら夕方で、学校をさぼり連絡がつかなかった私に舞と圭子からたくさんのメッセージと着信が届いており、

私は慌てて2人に連絡して謝罪とすべて解決したことを説明した。


その後、八島君経由であの遺体がどうなったかを聞いた。

私は気づかなかったが、部屋にあの女の人のかばんが落ちていたらしく、身元はわりとすぐに判明したようだ。


彼女の親戚が遺骨を引き取り、葬儀が行われて埋葬されたらしい。私にとって、あの女の霊は恐怖でしかなかったが、彼女の生涯には同情してしまう。


だからすべてが終わった今、穏やかに眠ってほしいというのが正直な気持ちだ。


「もうすぐ夏休みだね!」

もう6月も終わり、7月。気温もどんどん上がり、うだるような暑さの毎日。


放課後の教室で私と舞と圭子の三人は教室で私の机に集まり雑談をしていた。圭子が言うように7月の終盤に入れば夏休みがやってくる。


「気が早いんじゃない?まだ2週間以上先の話だし」

「もう後2週間だよ!計画は早めに立てておかないとね!」


「そうだね、行く場所によっては予約とかも必要だろうし」

何気ない会話。ついこの間まで当たり前だった日々。


「海は行きたいよね。体絞らないと!」

「今から体絞っても間に合わないでしょ。それに私焼きたくないんだよね」


「うーん私も、泳げないし海はなぁ。あ!そろそろ行かなきゃ!」


「あ、そうか部活だっけ。いってらっしゃーい」

「うん。またね!」

私はかばんを持ち教室の出口へと向かう。


「かなで」

「ん?なに?」


舞の呼びかけに振り返ると舞は少し考えるような仕草をしていった。


「なんていうか…部活、楽しい?」

「うん!楽しいよ!」


「そっか、ならいいんだ。いってらっしゃい」

そう言うと舞は笑って手を振った。


私はそれに手を振り返し、部室棟へ向かう。冷房の効いた教室から廊下に出るとむわっとした暑さを肌で感じる。


そんな暑さに眉をひそめながらあの時、走って逃げ込んだ部室へとゆっくりと、いや暑さに急かされて気持ち速足で向かっていく。


そして私はボードゲーム部と書かれた部室の前にたどり着いた。


「こんにちわー」

挨拶をしながら部室の扉を開けば椅子に座って本を読んでいた詩織がこちらを向く。


「また来たの?あなたも大概暇ね」

「いや、暇じゃなくて部活だから来るよ」


詩織の言葉に苦笑いしながら私はカバンを置く。

あれから私はこのボードゲーム部に所属した。部活といっても部員は八島君と詩織、そして新たに私を加えて3人だけ。


部活の必要人数を満たしておらず、3人でぎりぎり同好会として認められている。


じゃあ私が入るまでなぜこの部が存在していたのかと言えば、勝手に空いてる部室を使っていたらしい。


とは言えごまかしにも限界がきていたらしく、八島君に頼まれて私はこのボードゲーム部に入部することになった。


毎週3回、しっかり活動しないといけないらしくこうして私は部活の日に顔を出している。


「そういばもうすぐ夏休みだけど詩織はどうするの?」

「どうもしないわ。むしろ学校に来る手間がなくなったぶん、家からでなくて済むと思えば待ち遠しいわね」


そう言ってほほ笑む詩織は本当に嬉しそうだ。あれからわかった事だが詩織は基本的に授業に出ていないし、ほとんどをこの部室で過ごしている。なんなら学校に来ないことすらあるというのだから驚きだ。


「ダメだよ、少しは外出ないと健康に悪いよ?」

「ここ最近の暑さを考えたら外に出るほうが健康に悪いわよ」


「そうだけど…そういえば今日八島君は?」

「今日は生徒会らしいわ。また下校時刻前に顔を出すでしょ」


八島君はほぼ毎日とても忙しそうだ。生徒会の手伝いや部活の助っ人、それにバイトなんかもしてるらしい。


「そっか。じゃあ今日は2人用だね。無難にリバーシとかにする?」

「なんでそうなるのよ」


「え?だって部活なんだから部活しないと」

「なんちゃってだから別にいいのよ」


「やらないの?」

「……やるけど」


詩織はそういうと読んでいた本をカバンに収める。わたしはリバーシの盤と駒を用意して詩織の対面に座る。


なんだかんだ文句を言いながらしっかりと遊ぶのだからボードゲーム自体は好きなのかもしれない。ただ…とても弱いけど。


「えっと…もう1回やる?」

ほぼ黒で染まった盤面を眺めながらそう言うと詩織は並べてあるコマを片付け私に渡してくる。


どうやらもう1回ということらしい。これも最近わかったことだが詩織はとても負けず嫌いのようだ。


ただ、私も特別強いわけではないはずなのに詩織に負けたことはない。


結局、その後八島君がやってくるまで勝負は続き、詩織が勝つことは一回もなかった。


そうして放課後の時間もあっという間に過ぎ下校時間。

八島君はバイトがあるらしく先に帰っていった。


詩織と二人で家路につく。部活があった日はこうして一緒に下校するようになった。


ふらふらと右へ左へ動く詩織に注意を払いながら帰り道を進む。なぜこんな動きをするのか、詩織に聞くと、どうやら詩織の目にはそこに人がいるように見えるから避けているらしい。


道路や道に染み付いた人の残留思念。ただそこを歩いていた人達の影でぶつかったところで特に問題があるわけではないみたいだけど、たまに本物に人がいてぶつかってしまうので全部避けているらしい。


見えすぎてしまうのというのも大変だ。なので下校時は詩織の腕をつかんで私が先導して歩く。本当は手を繋ぐかと聞いてみたのだがそれは嫌らしい。色々と理由をつけていたが、ようは恥ずかしいのだろう。


腕をつかんで引っ張って歩く姿もそれはそれで恥ずかしい気もするのだが、それはまぁ詩織なりのこだわりなんだろう。


何気ない会話をしながら夕日に染まった道を歩く。

ほとんど私が話しかけて、それに詩織が返事をするという形だけど、それでも穏やかな時間。


視線が道路わきにあるガードレールに向いた時、私は立ち止まり、短く息を飲んだ。黒い人型の影。それがガードレールのそばに立っていた。


「ああ、それが視えるのね」

私の隣に立った詩織がそう言って私の隣に立つ。


「うん、なんだか黒い影だけだけど」

「そ、まぁ視えないほうがいい部類のものよ」


最近こういった影がふいに視えることがある。どうやらあの廃墟でのことがきっかけで私にも軽い霊感のようなものが身についたらしい。


「私と一緒にいるからかもね」

そう言って詩織は先に歩き出す。霊感の強い人間の傍にいると霊感が身につく。そんな説があったりするらしいけど実際のところはよくわからない。


私はなるべく影のほうを見ないようにしながら詩織の後を追いかける。


「…今からでも私から離れれば元の生活に戻れるかもしれないわよ?」

「またその話?今更だよ」


こうしてあれから何度も詩織は私にこう言って私を遠ざけようとする。今ならわかる、詩織は巻き込みたくないのだ。


自分の視えている世界は普通の人と違うことを自覚して、巻き込まないように人を遠ざける。


口調が強いのもそうだし、極力人との関わりを避けるのもそうなんだろう。


人とは違う世界を見ながら、それでいて他人を気遣うことが出来る詩織はやっぱり優しい人なんだと思う。


「…物好きね」

「そうだね。私は物好きなんだよ」


実際私は物好きなんだろう。とても怖い思いをした。

それにあの時詩織から噴き出したあの影、そのことについて私はまだ何も聞けていない。


普通ならすべてを忘れて元の生活に戻った方がいいんだろう。

でも私はそれをしなかった。普通の日常に憧れていたばずなのに…私は隣を歩く詩織の顔を見る。


「…何よ?」

「ううん、なんでもない」

でも不思議とそれを選べなかった。


今思えばあの女の霊に会った時点でもう普通の日常には戻れないと感じていたのかもしれない。


結局、自分でも上手く説明できないけど、私の隣を歩く不器用で優しい人間を1人にしたくなかった。その気持ちが怖さを上回ったのだ。


「ね、夏休みやっぱりどこか遊びに行かない?」

「いやよ。私暑いの嫌いなの」


「じゃあ暑くないとこならいい?」

「外に出る時点で暑いじゃない。……まぁ、考えておくわ」


なんだかんだ理由を考えても答えは出ない。でも私はこの選択肢を後悔していない。


あこがれの高校生活を始めて3か月、私の目指していた普通の青春は消えてなくなった。


これからは今隣を歩く少し変わった友人と異常で普通な当たり前でそれが日々を過ごしていく。


「それより休みの間、詩織とどう連絡を取るかが問題だよね」

「大概家にいるから用があるならそっちから来てもらうしかないわね」


「うーんそうだよねぇ…あ!またお泊りとかもいいかも!今度は詩織がうちに来てもいいし!」

「別にかまわないけど…」

「よし!決まり!」


これからどうなるかはわからない。でも今はもうすぐ始まる夏休みを詩織と楽しむことを考えようと思うのだ。

これにて1章完結です!

ここまで読んで頂きありがとうございます!


2章は現在執筆中です。

2章が完成し次第、また更新を再開させていきます!

拙い作品ですが、またお付き合い頂けると幸いです!

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