策士の企図、見透かす瞳
風見鶏を出た登夢は、ヘルメットの中で、あの店での「出来事」を反芻していた。
(……燃の奴、明らかに動揺していた)
かれんが”昭おばさま”と言った時、登夢自身も動揺を隠せなかった。
そして、燃の様子がおかしい。
(杠葉家に転がり込んだが、もう「かれんさん」個人に首を突っ込み始めている)
燃が風見鶏で最後に言った言葉。
「(ツーリングは)週末かあ……ちょっと無理っぽいなあ」
(……間違いない)
登夢は確信する。
(……あいつ、一人で「何か」をする気だ)
燃は、一度火が付いたら誰も止められない**「巻き込まれ体質」だ。
そしてその好奇心は、かれんに向かっている。
(……あの燃を、一人で「渦中」に行かせるわけにはいかない!)
登夢は、バイクを路肩に停めた。
静かな夜の闇の中、ヘルメットの中で吐息を漏らす。
(……仕方がない。**「巻き込む」**か)
登夢は、バイクのエンジンを再始動させる。
こうなれば、**「ツーリング」という「大義名分」で、燃が追跡する先に、こちらが「先回り」**して布陣を敷くのが最善だ。
登夢は、まずシャケの店へと向かう。
「……シャケ、週末ツーリングに行くぞ」
「はあ?無理だよ、俺、店の仕入れが……」
登夢は、無駄な説明を省き、草薙家の力で道を空ける。
「……親父さんには、うちから話を通させる」
「ありがとう!持つべきは強い友だ。よろしくたのむ!」
シャケは手を振った。
次に、登夢は雷の元へ向かう。
「雷、週末ツーリングだ。シャケも来る」
「急だな。何企んでる、登夢」
雷の視線は鋭い。
「……兄さんと行く予定が、ドタキャンされた。和歌山のお前の別荘あたりがちょうどいい」
雷は、一瞬静かに考える。
雷家の別荘は、ちょうど和歌山にある。
「ふーん。
まあ、確かに。
秋にクラスで行く計画がある。
下見にはちょうどいい。
シャケも来るなら、いいだろう、乗った。」
(……よし、食いついた!)
登夢は、二人を完璧に「誘導」できたことに安堵する。
登夢がバイクで去っていく後ろ姿を見ながら、雷は静かにつぶやく。
「相変わらず不器用だな。世話の焼けるやつだ」
雷は、登夢が何か隠していることに気付いていた。
**「兄と行く予定」などという口実も、燃の「週末無理っぽい」という返事も、すべてが「燃を守るため」**の不器用な芝居だと見抜いていた。
しかし、雷はあえてその理由を問わない。
それが、友への最大の協力だと知っているからだ。
登夢は、夜の道を駆ける。
(……本当に、厄介なことに巻き込まれたな)
その厄介ごとは、最も放っておけない友人だった。




