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第九話 覚醒

「そんな、半年間も薬物を投与し続けたというのに、まだ拒絶反応を起こすか……」

「こうなってしまっては、獣や魔物と変わらない、みんなに退避命令を」

「フェルナードさんが重傷だ、早く手当を」

「だめだ、止められない」

「くそ、俺たちに残された最後の希望だったっていうのに」


ガチャ


『お前たち、やはりカインを使って何か企んでいたんだな?』

「ガイさん!違うんだ、これは村を救う為に」

『何が村を救う為だ!

治療の為だと言って、あの聖騎士がカインを連れ去った時からずっと嫌な予感はしていたんだ。

お前たちは、村を救う為に仲間を化け物にした!』

「ちがう!俺たちも知らなかったんだ」

「そうだ、あの薬を半年投与し続ければ、《訴追の右腕》の適格者になれるって、フェルナードさんが」

『意識のない男に勝手に薬を打ち込むのがお前たちの正義なのか!』

「ガイさん、話なら後で聞く。今は一緒に逃げよう!

今のカインは、魔物より危ない!」

『馬鹿言うな。あいつは俺の息子みたいなもんなんだ。

あいつは、俺が止める!』

「無茶だ。ガイ、戻れ!」












目の前が真っ暗だ。

暗闇の奥の、ずっと遠くの方で男たちの声が聞こえる。

何か、予定外のことが起こって慌てているようだ。

目の前の暗闇の奥に、小さな、とても小さな光が見える。

その光りは、時々赤色に染まる。

鉄の匂いが鼻に付く。

俺の名を呼ぶ声が聞こえる。

いや、まて、“俺の名”?

俺は一体、誰なんだ?

分からない。


「憎イ……、殺ス」


殺す?一体誰を。

疑問を抱いた瞬間、二度と思い出したくない、が忘れることが出来ない男の顔が脳裏に浮かんだ。


「テンセイシャヲ、殺ス」


それは、俺の意思なのか。

それとも、別の何かの意思なのか。

はたまた、その両方の意思なのか。

それは、分からない。

けれど、わかる必要はなかった。


「カイン!俺だガイだ!

正気を取り戻してくれ!」


誰かが目の前で手を広げて立っている。


「ジャマダ」


右手を振るあげて目の前を払った。

また目の前が赤く染まった。

俺の目の前を遮るものはいなくなった。

俺は行かなければならない。

あの男を殺すために。


「カイン、ダメだ待ってくれ」


誰かが俺の足を掴んだ。

さっきの男が、俺に腹を切り裂かれ血まみれになった男がそこにいた。

周りにいた他の男たちは、もうこの場から逃げている。


「お前の右手、それは【訴追者の右腕】という遺物だ。

かつて、聖騎士団最強にして数多くの転生者を殺した英雄の右腕のミイラだ。

資格あるものが引き継げば、強大な正義の力を手にすることができる。だが、そうでない者は、右腕に込められた訴追者の転生者への恨みに呑まれてしまう」


俺の足を掴んだ男が何かを叫ぶ。

耳障りだ、と思ったが何故かその手を振り払うことができない。

重傷を負った男の手には、もうほとんど力が込められていないと言うのに。


「フェルナードがお前の体に何か細工をしていたらしいが、そんな事はもう知らない。

こうなってしまった以上、あとはお前の力を信じるしかない。

恨みに呑まれるな。お前が村を救いたいという気持ちは、よく分かる。

だが、恨みの感情に支配されてしまえば大事なものまで傷つけてしまう。

お前は獣や魔物とは違うんだから」


足を掴んでいた手から力が抜けた。

男の体から気配がなくなった。


「ガイ……サン」


頬に暖かい何かが流れた。

目の前がぼやけて赤く染まっていた景色が流されてる。


何故こんなにも胸がしめつけられそうになるのか分からないまま、俺は歩き始めた。

まだ半分夢の中にいるような感覚だが、さっきよりも体の感覚が自分のものであると認識できる。


「タスケナイト」


転生者を殺してやるという気持ちはもちろんある。

だが、さっきとは少しだけ違うか気持ちを抱えて俺はイザカ村へと足を向けた。










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