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第二話 シャチクのタナカ

俺たちは、村長の家に男を連れ帰り、男が何者なのか尋ねた。


男はタナカ・ケンジと名乗った。

格好だけじゃなく、名前まで風変わりだなと思った矢先、タナカはとんでも無いことを言い出した。



『私は、別の世界からやってきたみたいだ』



タナカの故郷は、ニホンという国のトーキョーという場所らしい。

イザカの周りにそんな国や街は当然無い。

嘘をついているという可能性もあるが、見たことのない格好に、聞いたことがない『シャチク』や『ザンキョウ』などという呪文のような言葉を発するタナカは異邦人というよりも異世界人であると言われた方が納得できる。


ではなぜ、別の世界に生きていたタナカが、神聖アルベア皇国のイザカ村の俺の畑で寝ていたのか?



『それはきっと、転生したから……

あ、この場合は転移になるのかな?』



タナカが言うには、自分はデンシャというタナカの世界の乗り物に轢かれて死んだのだという。



『自殺したんだ』



自虐的にタナカが言う。



「それはまた、なぜだ?」


村長が問うた。


『仕事に疲れたから』


「それは妙な話だ。仕事に疲れたのなら休めばいいではないか」


『あんたらみたいにお気楽なしごとならね』



俺たちを見て、タナカはそう言った。

農家というのもなかなか大変な仕事だとは思うが、たしかに死にたいと思うほど疲れることはない。


どうやら、タナカはよほど過酷な仕事に就いていたようだ。

目の下のクマや、痩せ細った身体、剃られていない髭を見るに、相当に大変な環境であったことは想像できる。

だが、それは答えになっていない。


「人が死ねば、善人なら天上界へ登り永久の幸せに、悪人なら悪鬼の谷に落ちて人外へと成り果てるはず。

なのになぜ、タナカは死しての世界へやってきたのだ」


『それは私にも分からない。』


タナカは困惑しているようだった。

だけど、1つだけ思い当たる節があるとタナカは言った。



『電車に轢かれる直前、私は声を聞いた。

神様だって名乗った奴は、何かを謝っていた。

私に試練を与えすぎたとか、今度はもっと高い能力を持たせてやるとか』



それは、畑で呟いていた独り言と同じ内容だった。

タナカの言葉を信じるなら、タナカは前の世界の神様の力でこの世界に蘇ったと言う事になる。




「そんなお伽話みたいなことが本当に起こるのか?」

『そんなラノベみたいなことが本当に起こるのか?』




つい口をついた俺の独り言とタナカの呟きが被った。

お伽話のところでタナカは別の言葉を発した気がしたが、なんと言ったのかは聞き取れなかった。

だが、タナカも俺たちと同様にこの自体を飲み込めていないようだった。


それも当然だ。

もし俺がタナカの立場だったならきっと発狂していただろう。

もちろん、俺は仕事に疲れたなら休むし、デンシャとか言う乗り物に飛び込んで自ら命を絶ったりはしない。

けれど、何かの拍子で突然死んでしまい、天上界や悪鬼の谷ではなく、タナカの暮らしていたニホンと言うところに飛ばされたのだとしたら、とても冷静ではいられない。

タナカの話では、タナカがこの世界にやってきたのは神様な償いのようだった。

だが、家族や友達もいない見知らぬ土地に飛ばすことのどこが償いか。



いや違うか。

タナカの話では、もう一つ償いの話をしていた。


能力……畑ではステータスと言っていたか。

前の世界で試練を与えすぎたため、見返りにこの世界では能力を高くする。

意味不明な理論ではあるが、その言葉が事実なら、タナカには何か特別な力が宿っているのか?


タナカの見た目はさっきも言ったように、痩せ型で猫背なハゲかけの中年だ。

着ている服が向こうの世界のものだとするなら、その姿もおそらく向こうの世界のままなのだろう。

一目見ただけで頼りないと分かるこの男のどこに能力が宿っていると言うのか。

俺は首を傾げた。




しかし、その疑問は直後に解消される。




「ま、魔物が攻めてきたぞ」


村の見張り台にいた当番の男の声が、村中に響き渡った。








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