第三話 季節外れの魔物
魔物とは、悪鬼の谷に住むモノである。
悪鬼の谷とは、生前に悪事を働いたり理から外れた生き物の魂が行き着く場所である。
この世の闇は全て悪鬼の谷に繋がっていると言われる。
悪鬼の谷は死した魂が行き着く場所。だからそこに住む魔物が生き物なのかそれともそれ以外の何かなのかはハッキリとしない。
一つ確かなのは、魔物は闇そのもののような色をしていて、その形は動物でもましてや人とも違うという事。
およそ、この世のものとは思えない姿をしているということだ。
魔物は普段、悪鬼の谷にいるのだが、たまに人の住む村や街に現れ人を襲ったり畑の作物を荒らす。
だが、奴らは腹を空かせているから人を襲ったり作物を荒らすのではない。
ただ、襲い。ただ、荒らすのだ。
だからこそ、同じように畑を荒らし人を襲う野生の動物よりもタチが悪いのだ。
とは言っても、年がら年中襲ってくるわけではない。
奴らが現れるのは、いつも作物の収穫が始まる秋。
だからその時期は、特に厳重に警戒する。
逆にこの時期に魔物が現れることは滅多にない。
ーーーはずだったのだが。
「魔物が現れたぞ」
叫びの声とともに警報の鐘がなる。
今日の見張り当番は、カインの父と同世代。
何度も魔物とやりあっている彼なら、見間違えという可能性も低い。
村長の家に集まっていた面々に緊張が走る。
「お前達は女子供達を避難させろ。いつもの丘の上にな。
お前達は隣町に知らせに走れ。もし手がかりれそうなら男手を借りてこい。それと、聖騎士の要請。
お前達は畑に先回りして警戒を。種を植える前だが、今畑を荒らされては一年の計画に綻びが生じる」
村長が集まっていた大人の男達に指令を飛ばす。
そこには、長くイザカ村を守ってきた者の風格がある。
村長は、まだ数人を指名すると、それぞれに細かい指令を与えた。
そしてその目がカインを捉えた。
「お前達は武器を持ちわしと共に魔物の方へ。助けが来る前に片付けるぞ」
俺たちは先陣に立つ村長の後に続く。
今、手元には武器はないが、俺の畑の土を取るために皆手にはスコップを持っている。
これだけあれば、俺たちには十分だ。
『あの、私はどうすれば』
困惑するタナカの声は無視して、俺たちは家を出た。
村長の家を出ると、すぐ目の前の道に魔物は立っていた。
猪の三倍はあろうかという巨体に、首が三つついている。
太い足が四本と背中に棘のような突起がある。
大きさ、風貌共にいつもやってくる魔物よりも迫力があるその姿に、誰かが息を飲む。
「あんなの倒せる訳がない」
誰かが呟いた。
俺も同じことを考えていたので、一瞬自分が言ったのかと思った。
俺たちがいつも追い出している魔物は精々大きな犬くらいの大きさ。
それでも、大人が数人がかりでようやく追い払える程度だ。
今目の前にいる魔物は、明らかに俺たちが相手をできるレベルではない。
聖騎士の担当する領域だ。
しかし、聖騎士が到着するまでまだしばらくかかるだろう。
魔物は道の真ん中に立ち、その三つの首を動かし何かを探すように落ち着かなくあたりを伺っている。
いつもは手当たり次第に人や作物に襲いかかるので、その姿に違和感を覚えた。
が、今はそんな違和感は関係ない。
巨大な魔物と言えども足が止まっているのは、俺たちにはとっては絶好の好機である。
「三手に分かれて囲い込め。
それで仕留められたならよし。仕留め損ねても、囲いのない村の外へ追い出せればよしじゃ」
村長の指示で俺たちは魔物の左右に回り込んだ。
魔物は、俺たちのことなど御構い無しといった風に、まだ何かを探している。
魔物を取り囲んだのは、俺を含めて八人。
この程度なら脅威でないと判断しているのだろうか。
「今じゃ!かかれ!」
村長の合図に合わせ、俺たちは魔物めがけて一気に飛びかかった。
それでも魔物は動かない。
「死ね!」
いち早く魔物に取り付いた俺は、手に持っていたスコップを振り上げて魔物に飛びかかろうとした。
すると、次の瞬間魔物は思いがけない動きをした。
魔物の首の一つが雄叫びをあげたのだ。
雄叫びをあげた首は、村長の家を睨みつけていた。
魔物は胴体をそちらに向けると、村長の家をめがけて猛然と走り始めたのである。
飛びかかっていた俺たちの攻撃は空を切る。
何人かが魔物の前に立ち塞がったが、相手にされずに弾き飛ばされた。
「まずい!村長の家が!」
村長の家には、この村で蒔くための種籾が保管されている。それをやられたら、今年一年何もできなくなる。
だが、もう魔物を止めることはできない。
絶望する俺たちはそこで信じられないものを見た。
『うわわわわわわわわわわわわわ!』
村長の家の前に立つ、タナカの姿だった。




