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第四十五話 自分の尻拭いは自分でしないといけなくて無双できない

 

 現在、貴也の周りは少々騒がしいことになっている。

 貴也が流した情報の所為か設備管理部の課長さんは人事異動だそうだ。

 なんでも遠方の町役場のトップに就任したらしい。

 役職が上がり、給料も上がる。

 都市外の役場での勤務は領都で働くエリートが必ず通る道なのでこれが栄転なのか左遷なのかは誰にもわからない。


 ただ、行く場所で大体戻ってこれるか戻ってこれないかはわかる。

 彼の場合は言わずもがなである。


 今回の件で調査が入ると、出るわ、出るわ。

 不正と呼べないレベルの小さな不祥事がとんでもない量で出てきた。


 設備管理部は民間の外部業者との接点が多い。

 備品の購入や設備補修、保守点検など多岐にわたる。

 それに専任業者を作ると色々問題が起こるので一つの業務をいくつかの業者に分けて発注している。


 その為、取引企業が膨大な数になる。


 彼がスゴイのはその膨大な企業から問題にならない額の金銭を受け取っていたことにある。

 一回の取引に数千ギル~数万ギル。

 個人でもどうにかなる額で高級店で接待をするより安い。


 会社を通していたものもあるし、自分の評価のために自腹を切るものもいただろう。

 一件当たりはそんな微々たる額だが、計算してみるととんでもない額になっていた。


 年間で数千万ギル。

 課長になって五年なので総額は億を軽く超えている。


 それが今まで気づかれなかったのだから驚きだ。


 今回発覚したのはメアリーの上司が成績のためとはいえ、身銭を切るのが耐えられなくなったことに端を発する。

 あまりにも空気を読まないメアリーの対応と自分の娘くらいの事務員にはっきりと金銭を要求できなかったことも要因だろう。

 だから、思わず預かりものないかと言ってしまった。


 メアリーに聞くと何度か封筒を届けたこともあったらしい。

 多分、それが賄賂だったのだろう。


 と言うわけでめでたく彼は左遷となりました。

 もちろん、お金は徴収済みです。

 逮捕されなかっただけありがたいと思っていただけなければいけません。


 まあ、実際には立件するのが大変だったというのがあるのですが、ここは黙っておきましょう。

 膨大の数の案件をいちいち裏取りするのは大変すぎます。

 本人も担当者も額が少ないので覚えてないことも多いですから。


 でも、総額が総額なので無罪放免には出来ません。

 法的には一件で裁かれるのでなく、総額で刑が決まります。

 普通に裁かれていれば額が額なので執行猶予なしの懲役刑。

 下手すると死刑です。

 この国の法律は権力者ほど罪が重くなるように出来ているのです。


 うん。すばらしい。

 でも、それがちゃんと機能してればですが……。


 と言うことでこの件は一件落着です。

 家政婦は見たではなく、掃除夫は見た! 


 で、現在人事異動の季節ではないのに人事異動が連発されています。

 流石、エリート集団なので業務が滞るようなことはありませんが絶賛混乱中でみんな疲労困憊のご様子です。


「うん。オレの所為じゃないよ。クロードさんが一辺に出さずに小出しにして問題解決すればこんな大事にならなかったんだから……」


 現実逃避するように一人語ちる貴也だった。



 と言うわけで、現在、貴也はとある辺鄙な村に来ていた。

 貴也がやらかしたせいで監査部の手が足りなくなり駆り出されているのだ。


 こういう仕事はやったことないんだけど、と言ってみたが、自分が調べてきたんだろう。

 自分のやったことに責任もて! と怒られた。


 監査部の面々は殺気だっています。

 マジ怖い。


 皆さん。ここのところ徹夜続きらしい。

 これと同様に検察系の方々もご立腹のようだ。


 悪いのは犯罪者であってそれを探してきた貴也に罪はないのにと思うものの、仕事を増やしたのは紛れもない貴也の所業だ。

 人間、目に見える相手に敵意を向けるものである。


 と言うわけで、当分、検察部署にはいけない。

 応援に駆り出されている法務部署にも近寄らない方がいいだろう。

 今回の事件は内部の事件なので警察関係の人間には迷惑がいってないのが唯一の救いである。


 それで辺鄙な村に着て何をやっているかと言うと……


「えっと、何をすればいいのでしょうか?」


 貴也は途方に暮れていた。


 今回の査察の目的はカタリナの上司が起こした贈収賄の調査である。

 すでに、金銭の授受があったことは判明している。

 ただ、何のためにお金が渡ったのかが分からない。


 今回、大手土建会社が請け負っている事業はニッケル男爵領とタイタニウム公爵領の間にそびえ立つレイダー山脈にトンネルを掘る工事だ。

 かなりの巨額な公共工事である。


 レイダー山脈は五千メートル級の山々が貫く山脈だ。

 低いところでも三千メートルを超える。

 だから、陸路で突っ切るのは難しい。

 一応、山岳列車がえっちら、こっちら、昇っているが、正直、輸送手段としては心もとない。

 観光で使われる程度だろう。


 現状、真っ直ぐに突っ切ればタイタニウムとニッケル領の領都は一日もかからない距離だが、大回りして三日かかっている。

 こうなると隣にいるメリットは薄くなる。

 その所為でニッケル領とタイタニウム領の交易は盛んではない。


 それを打破するのが今回の公共工事だ。


 だから、領内で一、二を争う土建業者が乗り出してくるのはわかる。

 多分、受注の際にも大金が飛び交っているのだろう。

 そこは別の人が調べている。


 今回、貴也が任されたのは山岳環境部なんてマイナー部署になんで金が流れてきたかだ。

 簡単に考えれば、親戚の旦那さんについでに裏金を回して自分の懐にも入れようとした単なる横領だ。

 バレても表ざたにできない金なので告発はされないだろう。

 首を斬られて追い出されるくらいで大金が残ってウハウハってところか。


 でも、本当にそれだけだろうか?


 大手企業なら支出はしっかりしているだろう。

 交際費で落とすのも限界があるはずだ。

 一部長の権限でそんなに簡単にお金を捻出できるのか。


 でも、山岳環境部だぞ。

 今回はトンネル工事だから山岳環境部の調査は入るだろう。

 だが、この辺りは殆ど手の入ってない原生林だ。

 周辺に町や村、大きな川もない。

 だから、水資源問題や農業、林業に対する影響はほぼないと思われる。

 余程、珍しい動物が見つかるか、手出しできないような伝説級の魔物がいない限り工事が中止になるようなことはない。

 この世界は魔物がいるので野生生物の保護と言う思想は非常に希薄なのだ。


 では、なんで山岳環境部に裏金が……


 山岳環境部の調査は課長自ら出張って実施されている。

 工事期間中に行われる査察も課長が行う予定だった。


 これは非常に珍しいことだ。

 あの課長なら間違いなく部下に丸投げするような仕事なのに。


 調査資料に一通り目を通したがおかしなことは出てこなかった。

 改竄するならどこかに違和感が出てきそうなものだが、素人には判別できないものだった。


 う~ん、現地に来れば何かわかるかもしれないと思ってきたが、やはり思い付きで行動するものではなかったと半ば後悔していた時だった。


「あれ? 貴也君。こんなところで何やってるの?」


「カタリナさんこそ、なんでこんなところにいるんですか?」


 突然、声を掛けられて貴也は驚いていた。

 調査対象の部下が突然現れたのだ。

 もしかして、カタリナも今回の件の関係者なのか?


 貴也は警戒レベルを一段階上げた。


「わたし、わたしは課長のバカの尻拭いよ。信じられる。あのバカ、トンネル工事の環境調査が入ってるのに急に国際環境フォーラムに行きやがったのよ! あんなの眠いだけで出席する価値なんかないなんて言ってたのに! きっと、また、不倫旅行だわ!」


 余程腹に据えかねたのか、スゴイ剣幕で怒鳴っていた。

 どうやら、課長が参加するはずだった環境調査にカタリナが代理で出席することになったらしい。

 貴也は本当のことを知っているので思わずフォローしてやりたくなったが、余計なことを言ってこっちに矛先が向くのが怖くて黙っていた。


 現在、課長は身柄を拘束され監査部の特殊施設で取り調べを受けている。

 課長が捕まったことを知られると証拠隠滅に相手が動くかもしれないので現在出張で国外に出ていることにしたのだ。

 都合のいいことに国際環境フォーラムがあったので利用させてもらったというわけである。


 そんなことを考えているとカタリナは怒りが収まったのか、興味が貴也に向かった。


「で、貴也君はなんでこんなところにいるの? 言っちゃ悪いけど何もないところよ」


 貴也は答えに詰まっていた。

 もちろん、トンネル工事の不正調査に来ましたなんて言えない。

 貴也は頭をフル稼働させる。


「今回、この近くでトンネル工事が行われるじゃないですか。うちの会社って掃除業務以外にも産廃の仕事もしてるんですよ。トンネル工事自体にはもう噛めないですが、ここに街道が通れば町が出来るかもしれないし、周辺の山にも開発が入るかもしれないじゃないですか。その時一枚噛めればってね」


 咄嗟に思いついたにしてはなかなかな嘘のような気がする。

 貴也はカタリナの表情を伺った。

 カタリナが白と確定していないので怪しまれるわけにはいかないのだ。


 結果は


「なんで、ただの清掃員の貴也君がそんなことするの?」


 しまった。

 カタリナにとって貴也は掃除業者に勤める一清掃員だったのだ。

 ただの清掃員が現地調査とか根回しだとかするのはおかしいだろう。


 貴也が冷や汗を垂らしていると何を勘違いしたのかカタリナが一人納得しだした。


「へえ、やっぱり。貴也君の年代の人が清掃員しているのはおかしいと思ってたのよね」


 ジトリとした目でこちらを見るカタリナ。

 非常に居心地が悪い。


「普通、清掃員って学生アルバイトとか新人研修の若い子とか、お年寄りやおばさんなのよね」


 カタリナがにじり寄ってくる。

 貴也は一歩後退る。


「最初はよっぽど仕事ができない人が左遷されてきたのかとも思ったんだけど、貴也君は要領が

良いし話も面白いしどうもしっくりこなかったのよね」


 カタリナの手が貴也の胸に伸びている。

 どうやら逃げ場はなさそうだ。


「貴也君って、もしかしてあの会社の御曹司とか? 今まで別の会社で働いていたけど親の会社を継ぐために戻ってきて現場からスタートした。ね。図星でしょ!」


 喜々としてカタリナは話してきた。

 見当違いの推理に貴也は戸惑い何も話せないでいる。

 そんな貴也にカタリナはにっこり笑いかけた。


「いいのよ。言えないこともあるわよね。このことはお姉さんの胸に仕舞っておいてあげる。だから……」


 カタリナはペロリと唇を舐めた。

 その仕草は妖艶で非常に魅力的だった。

 現在の貴也は肉食獣を前にした草食獣だ。

 固まって、ただ食べられるのを待つのみ状態。

 どんな要求をされるかわからないが断ることが出来そうにないことだけはわかっていた。

 貴也は緊張しながらもゴクリと唾を飲み込む。

 そんな貴也にカタリナは優しい笑みを浮かべながら


「合コンしよ!」


「え?」


「だから、合コン。貴也君、小さな会社でも御曹司なら優良物件持ってるでしょ。お金持ちの子供集めて合コンよ。レッツ、玉の輿!」


 言い方になんか歳を感じるが、それを言ったらどんなひどい目に遭うかわからない。

 貴也は何も言えずに了承させられた。


 こんなところまでやって来たのに何の成果もないどころか、合コンをセッティングしなければならなくなるなんて踏んだり蹴ったりである。


 貴也の災難はまだまだ終わりそうになかった。




最近PVやブックマークが増えたり減ったりで一喜一憂しています。

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