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こてつ物語6  作者: 貫雪
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 次の日、久しぶりに会長に呼び出された土間、礼似、御子の三人は、会長から街の中に暗躍しているであろう、クスリのルートを探り当てるように、指令を受けていた。


「……それぞれの組は勿論、この街のあらゆるルートをお前達に探って欲しい。裏、表、堅気を問わずにだ。これは組織の総点検の様なものになる。心してかかってくれ」


「前から堅気の間に出回っている噂はありましたよね。とっかかりになるのはその噂と、真柴のシマの店の女くらいですね。その女はどうなったの? 御子?」

 礼似が御子に聞いた。


「勿論、現行犯で連行されたわよ。本人のバッグの中から出て来たんだから。でもね、ちょっと事態がややこしい事になっているの」

 御子が軽いため息をつきながら事情を説明した。


 クスリを所持していた女には、一人娘がいた。彼女が女手一つで育てている、高校受験を控えた中学生だ。


 娘の進学費用を稼ぎだそうと、彼女は夜の世界に入った。それが真柴組のシマの店だった。


 慣れない世界に疲れも溜まる。つい、甘い物が欲しくなる。その日も彼女はいつものように、娘の机の上のチョコレートの箱に手を伸ばした。


「これ、もらっていい?」


「いいよ。箱ごとあげる。食べかけだけど。友達にもらったけど、別のを買ってあるの」

 娘は問題集から視線も外さずに返事をした。


 女はそのチョコレートを一粒口にすると、箱をそのまま自分のバッグにしまい込んだ。そして店へとやってきた。


 その箱の中からクスリは発見されたのだ。


「連行された女は呆然として、取り調べにもそれ以上答えようがないみたいだし、娘の方は半狂乱。娘の友人はやせて、疲れも取れるから、と他の友人から譲られた事を白状してる。怖くなってチョコレートの箱に隠して、女の娘に渡しちゃったらしいの」


「じゃあ、年端もいかない、中学生に蔓延してるって言うの?」


 部屋の中には、重苦しい、嫌な空気が流れた。


「でも、いきなり店に捜索が入ったのはどういうこと?その女がクスリを持っていたのは偶然だったんでしょ?」

 当然の質問を土間は御子に聞いてきた。


「それもたまたまだ。子供の間にクスリが広がりつつある事は警察も把握していた。その子供達の入手先を探ろうと、周辺の大人を調べて夜の女に行きあたった。その手の商売の親達は、皆、マークされていたんだろう。しかし今回は空振りだ。だから、堅気を問わず、綿密に調べてほしいのだ」

 土間の質問に御子ではなく、会長が答えた。


 では、連行された女とその娘は、偏見がもとでまるっきり、とばっちりを受けた事になる。そんな偶然でさえ、これほどの事態に発展するなら、クスリは相当蔓延してしまっているのだろうか?


 本当に蔓延してしまっているなら、これは元を探り出すのは厄介だ。今時は子供達が不特定多数の大人と隠れて接触するのも容易になっている。


「でも、子供に手を出して、それで売買が成り立つのかしら?」

 御子は不思議そうに聞くが、礼似が答える。


「成り立つわよ、十分。好奇心が強いからどんな事でもハードルがさがりやすいし、最近はサプリメントとかあるから、薬品への抵抗も薄いしね。成長途中だから依存し易いし、ハマりやすい。そうなれば身体が欲して、何としても金の用立てもするでしょ? 買った子供が次の売人代わりになってるかもしれないわ。大の大人がどうにもできなくなるんだから、子供はイチコロよ。それに……」


「それに?」


「金の出所は親。受験期の子供に泣きつかれると、弱い親も結構多いの。あやしげなものでも、ろくに話も聞かずにバカみたいに金を出すからね。学習能力が上がるブレスレッドとか、睡眠学習のCDとか……」


 ヤケに詳しいな、と聞きながら思い当たる。礼似は元、詐欺師だったっけ。その手の事にも手を染めていそうだ。


 全員の冷ややかな視線に気づき、礼似は話を切り上げた。


「と……とにかく、子供に人生賭けている親ほど、いいカモはいないってわけ。だから堅気を調べようっていうなら、経済的にある程度余裕があって、志望校のレベルが高い子をあたってみるのがいいと思う。最初はそういう子がプレッシャーから手を染めたかもしれないから」


 確かに何も分からないまま、雲をつかむように元を探すのは効率が悪すぎる。礼似の予想も的外れとは言えないようだ。


「成程。今度の件は礼似が中心に動いてもらうのが良さそうだな。何とかしてルートを探り出してくれ」


 会長のこの一言で、方向性は決まった。三人が部屋を出ようとして、礼似は会長に呼び止められた。


「まだ何か?」


「この件で、真柴や、華風の誰を使ってもかまわない。しかし、香は使うな。彼女も組に入って間もない。日が浅い者はかかわらせたくない」


「……香でさえも信用するなと?」

 礼似の片眉が上がった。


「香だけではない。一樹もだ。彼らは堅気に近い所にいた。誰とどんなかかわりを持っていたとも限らない。堅気の事に首を突っ込む時はそのくらいの慎重さが必要だ。分かったな?」


「一樹は私とは関係ありませんよ。香は……本人は嫌がるでしょうが、この件からは外しましょう。会長が、そう、おっしゃるのなら」


 ……不満が顔に少し出たかもしれない。そう思いながら礼似は会長室をあとにした。



「会長が? 私を外せって?」やはり香は不服そうな顔をした。


「あんたがそう言うのは分かっていたわ。私があんたでも不満だろうし。でも、これは会長の命令よ。組にいたかったら従うしかないの。あんた、しばらく倉田さんの所にいて頂戴」

礼似は淡々と伝えた。


「倉田さんの所にって……この部屋にもいるなって言うんですか?」


「いれば当然、事の推移が気になるでしょ? 悪い事は言わないから行きなさい。あんたが首を突っ込んでもすぐバレる。会長の命令は絶対よ。解ったわね? 倉田さんにも話しは通っているらしいから」


「倉田さんは私のお目付け役か。倉田さんが会長に逆らうはずもないし、私が組に入ってから知り合った、唯一の堅気の人だし。見張らせるには絶好のポジションって訳ね」

香はふくれっ面のまま、部屋を出されてしまった。


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