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「ええ? 何かの間違いじゃないの?」
御子は思わず声をあげた。
勿論真柴組では、違法な薬品は御法度だ。こういう事が起こらないようにするための見回りなのだが、その見回りの者からこんな報告を受けるとは思ってもみなかった。
「間違いようがありませんよ。女が連行されるのをこの目で見たんですから。近くだし、混乱した場所からの電話より、直接知らせた方がいいと思って……」
知らせに来た者は、まだ息が切れていた。
「組が関与していないか疑われるな。こういう時の警察は容赦ないぞ。御子、書類と帳簿を用意しておきなさい。ただし、関係先にご迷惑のかからないように気をつけて出すんだ。解っているな?」
組長が促した。
「は……はい。すぐに用意します」
御子が慌てて戸棚に飛びついた。
「ハルオ、見回りに出ている者を、全て組に呼び戻すんだ。全員だ。一人も漏れてはいけない。大至急連絡を取れ」
「わ、分かり、ま、ました」
ハルオも急いで電話をかける。
「良平も、うちがかかわる関係先に全て連絡を取ってくれ、動揺を避けたい」
「分かりました。何とお伝えしましょうか?」
良平も電話を片手に聞く。
「ご心配をおかけしますが、大丈夫だと。それだけ伝えればいい。他の者は組中、何処を見られても良いように扉を全て開けて置きなさい。個人の持ち物もだ。トイレから台所、物入れや風呂場も含めて、全てだ」
組長に指示され、真柴組は蜂の巣をつついたように大騒ぎになった。香は唖然としていた。
「香さん。悪いが今日は一人で帰ってくれないかね?立て込んでいるので」
「はい……」
香は組長に言われて、あっけに取られながらも、礼似の部屋へと帰って行った。
「真柴組が? まさか?」
礼似は思わず目を丸くした。
帰って来た香の様子がおかしいので、どうかしたのかと尋ねたところ、さっきの事態を香に聞いたのだ。
正直、多少のインチキ商売や、脅し、喧嘩沙汰なら、真柴組といえども十分にあり得た。しかし事が違法な薬となると、これはちょっと考えにくい。こういう事は真柴組長が一番嫌う事だろう。当然こんな事態を避けるために、そうとう目も光らせていそうな物だが……。
「やっぱり、礼似さんもおかしいと思います? 私も不自然に思えるんですけど」
香も不審がって聞く。
「おかしいも何も、この手の事に今まで一番縁遠かったのが真柴組よ。最近、嫌にクスリの噂がこの街にも流れてていて会長も警戒していたけれど、よりによって真柴だなんて……あり得ない」
「誰かに落しいれられたのかも……大丈夫でしょうか?」
香は心配そうだ。
「たとえハメられたにしても、御子達がそれほどヘマをするとは思えないわ。大丈夫よ、きっと」
「土間さんも、心配するだろうなあ」
「そうね。でも、人の心配ばかりしている場合じゃないわ。真柴でさえそんな事があったなら、華風やこてつ組にだって、クスリが紛れ込んでいないとは限らない。特にこてつ組は大所帯。ヤクがらみの罠は前にもあったし、どこかの派閥がそういうルートを持ったとしてもおかしくないんだから」
そう、香に説明しながらも、礼似もこてつ会長が次の手をどう打って来るだろうかと考えを巡らせていた。会長と真柴組長は付き合いの深い仲。今度の事はいち早く会長の耳に届いているはずだから。
「会長も何か言ってくるはずだから、私達は指示を待ちましょ。クスリって堅気にも迷惑がかかる事が多いしね……」
やはりこてつ会長の元にも、良平からの連絡が真っ先に入っていた。
「成程。一応警察の知り合い達に手は回すが、さすがに時間が無い。おそらく、捜索は免れないだろう。真柴さんの事だ、お前達がきちんと指示に従ってさえいれば問題はないだろう。私も街のルートを洗って見るからと、真柴さんに伝えてくれ」
さすがに会長は落ち着いたものだ。真柴組長もうろたえた様子はなかった。良平は安心した。
「分かりました。伝えておきます。ご迷惑をおかけします」
良平の声の調子をきいて、会長もホッとした。これなら真柴は大丈夫だろう。しかし……
あれだけ細やかで用心深い、しかも飛びぬけて結束の固い真柴組のシマの店に、クスリが紛れ込むとは、このヤクのルートは、かなりしたたかで強力な物らしい。明らかにうちも危ない。
あの、組の分裂危機以来、幹部達の見直しも行ったし、彼らの地位の維持にも気を配っている。と、同時に目も一層光らせるようにしている。しかし末端までは分からない。ヤクは堅気が巻き込まれる事も多い。
「組織内の点検が必要だな」
会長は机の上の電話に手を伸ばした。




