74 新しい朝が来た!
家に帰ってきたらケンちゃんが熱を出した。
そりゃそうだろう、だって、色々ありすぎた。
「ほらほら、ベッドで横になって!今すぐ!!」
「いえ、本当に大丈夫で……」
「大丈夫じゃない人が言う台詞ナンバーワンがそれだから。有無を言わさずベッド送りです!!」
ケンちゃんをベッドに押し込んで、おでこに手を当ててみる。
「熱っ!!これは完全に熱があります!!」
おかめがそっと近づいてきた。
「癒しの魔法をかけてあげるわ。でも、あれだけの魔力を使ったんだもの。体が休息を求めてるの。魔法より、ゆっくり眠るのが一番よ」
「そのとおりだよ。わかった?ケンちゃん、ちゃんと寝ててね。何か体に優しいもの作ってくるから」
「師匠、そんな、申し訳ないです......」
「何も申し訳なくないし。具合が悪いときは甘えて良いんだよ。それに子どもの看病は慣れてるから任せて!!」
ケンちゃんがふっと小さく笑った。
「……子ども扱いですか」
「あら、だって私に比べたらまだまだ子どもでしょ?」
「……それはそうですね」
素直に目を閉じた。
タオルを濡らしてきて、おでこにそっと乗せてあげる。
ケンちゃんはぐっすり眠っていて気がつかなかった。
水差しに水を汲んで枕元に置いておく。
キッチンに戻りパン粥を作り始めた。
「慣れてるな」
みとがぼそっと言った。
「もともとお母さんでしたからね。味見する?」
冷ましてみんなにもわけてあげた。
しばらくして、ベッド脇に座ってケンちゃんの様子を見ていた。
長いまつ毛だなぁ。マスカラ要らずって羨ましいなぁ、そんな事を思っていたら、瞼がピクピクッと動き、目を開けた。
「師匠……」
「なあに?起きて大丈夫?水飲む?」
寝ぼけているのかな?なんだかぼーっとしている。
「……あの」
「うん?」
ケンちゃんはまたしばらく黙ってから、熱でとろんとした目のまま言った。
「……呪われていると、ずっと思っていました」
「うん」
「でも、違ったんですね」
「うん、違ったね」
「師匠がいなかったら、僕は……ずっとそう思ったまま、生きていたか、もしくは」
「もしくは、なんて考えなくていいんじゃない?」
私は優しく遮る。
「今、こうしてここにいるんだから。それだけで十分だよ」
ケンちゃんは黙ったまま静かに頷いた。
「……師匠」
「なあに?」
「……ありがとうございます」
熱でふわっとした声だった。
でも、その言葉は私の胸に響いてきた。
「うん、どういたしまして」
そのままケンちゃんはまた目を閉じてしまった。
次に目を覚ましたら、パン粥を食べさせてあげようかな。
そう思いながら、頭のタオルを変えてあげた。
翌朝、ケンちゃんはすっかり熱が下がり元気になっていた。
「師匠、おはようございます。昨日はご迷惑をおかけしました」
「迷惑なんてかかってないけど、それよりもう起きて大丈夫なの?まだゆっくり寝ていてもいいんじゃない?それともごはん食べる?食べれそう?」
「はい。むしろ、とてもお腹が空いています」
「よかった!!さすが若いだけある!じゃあいっぱい作るね!!」
「......あの、師匠」
「なあに?」
ケンちゃんが少しだけ照れたように言った。
「昨夜、僕、何か恥ずかしいこと言ったような気がするのですが......」
「ああ!うんうん!"師匠に会えて良かった"とか、"師匠大好き"とか、"師匠の魔法カッコいい"とか色々言ってたよ!」
ちょっと盛った気もするけど、そんな感じだったよね。
「え?......そうでしたか?僕の記憶と少々違うような。少なくとも最後のは違うような.......いえ、師匠の魔法は未知数だとは思っていますが、かっこいいかと言われますと、齟齬が生じると言いますか......」
「よし!ケンちゃん、すっかり復活したみたいだから、ごはんにしよう!準備するからこれ、並べてくれる?」
おのれ正直者め!
食い気味に話題を変えてやったわ。
いつもと変わらない朝だった。
でも、どこかが確かに変わっていた。
わかる。カッコ良くはないよね。




