表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/54

49 へとへとの森

走るぬりかべがストーンバットを追い回すのをやめて、

森に再び静けさが戻った......かのように思えたが。


ガサガサッ......!


「ひっ、まだ来るの!?いくらなんでも初回からハードモード過ぎない!?」

悲鳴をあげる私に、みとが淡々と告げる。

「下級魔物は群れで出ることが多いからな。ちょうど良い訓練になるじゃないか」

「麻美、ケンちゃん。腕試しにはちょうどいいぜ」

あおさが、ニヤっと笑った。


そう言った直後、地面から粘土質のモグラ(クレイモール)の魔物が飛び出した。


「ひぎゃあああああ!!なんか出た!なにこいつ粘土でできた......モ、モグラ!?

え?なにそれ!そんなのまでいるの!?」


ケンちゃんがすかさず呪文を放つ。


「”カパン・トプラク(大地よ閉じろ)”」


ズバンッ!

地面が閉じてクレイモールを挟み込み、閉じ込め、穴ごと塞いでいく。

幾度となく現れても、ケンちゃんが素早く撃退してしまった。

もはやモグラ叩き状態だ。

これがゲームならかなりの高得点間違いないだろう。


両手を叩いて喜んだのも束の間、木の陰から、砂を全身にまとったトカゲの魔物(サンドリザード)が飛び出してきた。見た目はエリマキトカゲっぽいけど、これまたデカい!そして振った首から砂が四方に飛び散ってくる。


「え、なんで砂?ちょっ、砂飛ばしながらこっち来るなぁぁぁ!!うえっ口に、目に入る!!」


砂が目に入らないよう、反射的に顔に手をかざして叫ぶ。


「ぬりかべアタック!!」


ドゴォォン!!

声に応えて壁が出現し、サンドリザードを跳ね返す。


そして――

ズズズズズッ......!!

壁がまた追いかけ始めた。


「ちょっと待って!?なんで追うの!?

トカゲ追いかけてどうするの!?

戻ってきてぇぇぇ!!」


「ぬりかべ、ストーーップ!!」


ピタッ。


「「止まった。」」


みんなの声がまた揃った。

何このお決まりパターンみたいなやつ。

そしてぬりかべは静かに土に戻っていった。


これでやっとひと息つけるか、と思ったのに、森の奥から、

ずるん......ずるん......

と、湿った音が近づいてきた。


みとが声を低くして言う。


「......マッドスライムだ。

下級だが、油断すれば飲み込まれるぞ」


木々の間から現れたそれは、

黒土の塊が生きているように蠢く、不定形の影のようでもあり。

表面が波打ち、時々触手のようなものが伸びては地面を掴む。


あまりの気色悪さに一気にパニックになる。


なにあれ!なにあれ!

使い終わった揚げ油みたいな色......

気持ち悪い......!スライムってもっとこう、ぷるんってしてて、透き通ってて、かわいいんじゃないの!?

なんであんなドロドロで黒いの!?

誰があれをスライムって呼んだんだ!!


スライムは、

ずるん......ずるん......

と這い寄り、地面の草をじゅわ〜っと溶かしていく。


「ケンちゃん!アイツには近づかないで!!」


そう注意してから頭をフル回転させて考える。


やばい......あれに触れられたら絶対にヤバい!

でも......どうする......?考えろ考えろ!

ドロドロの液体なんだから......蒸発させるとか?

ううん、固めてしまえばよくない?

そうだ......固める......固める......あれか......

あれしかない......!


私は使用済み揚げ油をイメージしながらマッドスライムに向かって手を突き出し、叫んだ。


「固めてテンプル!!!」


白い光がマッドスライムに降り注いだ瞬間、


カチィィィィィィン!!!!


マッドスライムが、一瞬で石像になった。

伸びかけていた触手も、波打つ表面も、そのままの形で凍りつく。

なんかちょっと胡麻豆腐にも見えなくもない。

全然美味しくはなさそうだけどね!


「「固まったぁぁぁぁぁぁ!!?」」


またみんなの声が揃った。

そして、みとがぼそっと呟いたのが聞こえた。

「......麻美。

お前の魔法、やはり常識の外側を走っているな」


あおさが、はっと我に返りツッコむ。

「麻美、“テンプル”って何だよ!!

それが何属性の魔法かもわかんねぇ。

意味わかんねぇのに効果だけ完璧じゃねぇか!!」


とろ豆もこつぶも激しく同意するように、うんうん、と首を縦に振っている。


ケンちゃんは目を丸くして言った。


「師匠......すごいです......!

スライムを固める、素晴らしい発想力です......!」


みんなから褒められて、まんざらでもない私は、

フフン、ちょっと鼻を膨らませてしまった。

元の世界の生活便利品にイメージが全フリしてますけどね。


なんだかんだで、現れた敵を一掃したあと、森がようやく静かになった。


おかめが周囲を見渡しながら言う。


「この辺りは薬草が多いわね。

ケンちゃん、いつもの薬学書の知識を試すチャンスじゃない?」


ケンちゃんの目がぱっと輝く。

そして、あたりを見渡すと、


「はい!そうですね!

この森には《青根草》と《癒し苔》があるはずです。

どちらも回復系の薬草でして、実はぜひ採取して帰りたいと思ってました」


「えっ、そんなの知ってるの!?

いつも熱心に薬学書読んでると思ってたけど、やっぱりケンちゃんはすごいね!

私も協力するからどれか教えて!」


ケンちゃんは少し照れながら、

では、よろしくお願いしますと薬草を探して歩き出す。


そして、ある草の前でケンちゃんはしゃがみ込み、

柔らかい土をそっと指で払った。


「これが《青根草》です。

根の色が青く、折ると薬効が弱まるので......

こうして、土ごと優しく掘り起こします」


今気がついたけど、ケンちゃんはスコップと小さなカゴバッグを腰に巻き付けていた。

用意周到なことこの上ない。


「へぇぇぇ......すご......

なんかもう、ケンちゃんの方が頼りになりすぎて、どっちが師匠なんだかわからないな」


そして、癒し苔も無事に採取し、いつになくホクホク顔をした足取り軽いケンちゃんと、疲労度マックスのヨボヨボした私は森を後にした。




「ねえ、あおさ!後で全身全霊で毛繕いするからさ、変身して背中に乗せて帰ってよ!」


帰り道、私の渾身のお願いは、もちろんスルーされた。


ひどい......

年寄りは労わるもんだっつーの!!




聖獣を馬扱いしてはいけません

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ