49 へとへとの森
走るぬりかべがストーンバットを追い回すのをやめて、
森に再び静けさが戻った......かのように思えたが。
ガサガサッ......!
「ひっ、まだ来るの!?いくらなんでも初回からハードモード過ぎない!?」
悲鳴をあげる私に、みとが淡々と告げる。
「下級魔物は群れで出ることが多いからな。ちょうど良い訓練になるじゃないか」
「麻美、ケンちゃん。腕試しにはちょうどいいぜ」
あおさが、ニヤっと笑った。
そう言った直後、地面から粘土質のモグラの魔物が飛び出した。
「ひぎゃあああああ!!なんか出た!なにこいつ粘土でできた......モ、モグラ!?
え?なにそれ!そんなのまでいるの!?」
ケンちゃんがすかさず呪文を放つ。
「”カパン・トプラク(大地よ閉じろ)”」
ズバンッ!
地面が閉じてクレイモールを挟み込み、閉じ込め、穴ごと塞いでいく。
幾度となく現れても、ケンちゃんが素早く撃退してしまった。
もはやモグラ叩き状態だ。
これがゲームならかなりの高得点間違いないだろう。
両手を叩いて喜んだのも束の間、木の陰から、砂を全身にまとったトカゲの魔物が飛び出してきた。見た目はエリマキトカゲっぽいけど、これまたデカい!そして振った首から砂が四方に飛び散ってくる。
「え、なんで砂?ちょっ、砂飛ばしながらこっち来るなぁぁぁ!!うえっ口に、目に入る!!」
砂が目に入らないよう、反射的に顔に手をかざして叫ぶ。
「ぬりかべアタック!!」
ドゴォォン!!
声に応えて壁が出現し、サンドリザードを跳ね返す。
そして――
ズズズズズッ......!!
壁がまた追いかけ始めた。
「ちょっと待って!?なんで追うの!?
トカゲ追いかけてどうするの!?
戻ってきてぇぇぇ!!」
「ぬりかべ、ストーーップ!!」
ピタッ。
「「止まった。」」
みんなの声がまた揃った。
何このお決まりパターンみたいなやつ。
そしてぬりかべは静かに土に戻っていった。
これでやっとひと息つけるか、と思ったのに、森の奥から、
ずるん......ずるん......
と、湿った音が近づいてきた。
みとが声を低くして言う。
「......マッドスライムだ。
下級だが、油断すれば飲み込まれるぞ」
木々の間から現れたそれは、
黒土の塊が生きているように蠢く、不定形の影のようでもあり。
表面が波打ち、時々触手のようなものが伸びては地面を掴む。
あまりの気色悪さに一気にパニックになる。
なにあれ!なにあれ!
使い終わった揚げ油みたいな色......
気持ち悪い......!スライムってもっとこう、ぷるんってしてて、透き通ってて、かわいいんじゃないの!?
なんであんなドロドロで黒いの!?
誰があれをスライムって呼んだんだ!!
スライムは、
ずるん......ずるん......
と這い寄り、地面の草をじゅわ〜っと溶かしていく。
「ケンちゃん!アイツには近づかないで!!」
そう注意してから頭をフル回転させて考える。
やばい......あれに触れられたら絶対にヤバい!
でも......どうする......?考えろ考えろ!
ドロドロの液体なんだから......蒸発させるとか?
ううん、固めてしまえばよくない?
そうだ......固める......固める......あれか......
あれしかない......!
私は使用済み揚げ油をイメージしながらマッドスライムに向かって手を突き出し、叫んだ。
「固めてテンプル!!!」
白い光がマッドスライムに降り注いだ瞬間、
カチィィィィィィン!!!!
マッドスライムが、一瞬で石像になった。
伸びかけていた触手も、波打つ表面も、そのままの形で凍りつく。
なんかちょっと胡麻豆腐にも見えなくもない。
全然美味しくはなさそうだけどね!
「「固まったぁぁぁぁぁぁ!!?」」
またみんなの声が揃った。
そして、みとがぼそっと呟いたのが聞こえた。
「......麻美。
お前の魔法、やはり常識の外側を走っているな」
あおさが、はっと我に返りツッコむ。
「麻美、“テンプル”って何だよ!!
それが何属性の魔法かもわかんねぇ。
意味わかんねぇのに効果だけ完璧じゃねぇか!!」
とろ豆もこつぶも激しく同意するように、うんうん、と首を縦に振っている。
ケンちゃんは目を丸くして言った。
「師匠......すごいです......!
スライムを固める、素晴らしい発想力です......!」
みんなから褒められて、まんざらでもない私は、
フフン、ちょっと鼻を膨らませてしまった。
元の世界の生活便利品にイメージが全フリしてますけどね。
なんだかんだで、現れた敵を一掃したあと、森がようやく静かになった。
おかめが周囲を見渡しながら言う。
「この辺りは薬草が多いわね。
ケンちゃん、いつもの薬学書の知識を試すチャンスじゃない?」
ケンちゃんの目がぱっと輝く。
そして、あたりを見渡すと、
「はい!そうですね!
この森には《青根草》と《癒し苔》があるはずです。
どちらも回復系の薬草でして、実はぜひ採取して帰りたいと思ってました」
「えっ、そんなの知ってるの!?
いつも熱心に薬学書読んでると思ってたけど、やっぱりケンちゃんはすごいね!
私も協力するからどれか教えて!」
ケンちゃんは少し照れながら、
では、よろしくお願いしますと薬草を探して歩き出す。
そして、ある草の前でケンちゃんはしゃがみ込み、
柔らかい土をそっと指で払った。
「これが《青根草》です。
根の色が青く、折ると薬効が弱まるので......
こうして、土ごと優しく掘り起こします」
今気がついたけど、ケンちゃんはスコップと小さなカゴバッグを腰に巻き付けていた。
用意周到なことこの上ない。
「へぇぇぇ......すご......
なんかもう、ケンちゃんの方が頼りになりすぎて、どっちが師匠なんだかわからないな」
そして、癒し苔も無事に採取し、いつになくホクホク顔をした足取り軽いケンちゃんと、疲労度マックスのヨボヨボした私は森を後にした。
「ねえ、あおさ!後で全身全霊で毛繕いするからさ、変身して背中に乗せて帰ってよ!」
帰り道、私の渾身のお願いは、もちろんスルーされた。
ひどい......
年寄りは労わるもんだっつーの!!
聖獣を馬扱いしてはいけません




